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シンデレラ 其の一

 シンデレラは継母と二人の姉がお城の舞踏会へ行くのを見送り、ため息をつきました。

「いいなぁ。あたしも舞踏会、行きたかったなぁ」

 ですが、シンデレラにはきれいなドレスも、お城へ行くための馬車もありません。

 着ているのは、汚れてしまった粗末な服。はいているのは木でできた重い靴。

 こんな格好では、乗合馬車だって乗車拒否をするでしょう。


「おいらにまっかせなさ~い」

 いきなりどこからか声がしました。

 シンデレラが見回すと、庭先に見たことのない人がいます。

「誰、あんた? 勝手によそン()の庭に入って来ないでよね」

「おいらは魔法使いだよ。いつもがんばってるきみに、ごほーびとしてお城へ行けるようにしてあげちゃおうっ」

 魔法使いは、自信たっぷりに持っている杖を振り回します。

「あぶないな、もう。お城にって……本当?」

「もっちろん。ささっ、そこに立って」

 シンデレラは魔法使いの言うとおりにしました。

「んじゃ、行くよん。アブラカダブラ! シンデレラにドレスを!」

 魔法使いの呪文が終わると、シンデレラの周りに白い煙が立ちこめ、シンデレラはその煙にむせて咳き込みました。

 その煙がようやくおさまり、シンデレラは自分の格好を見ました。

「魔法使いさん、これは……ドレスとは言えないんじゃ」

「あり?」

 シンデレラの着ている服は、どう見てもジャージでした。

 紫のジャージで、横にはピンクのラインが入っています。シンデレラの長い髪はポニーテールになっていて、額には金色のバンダナが巻かれていました。

「しかも、趣味わる~」

「あはは、ちょっと失敗したかな。呪文、間違えたし。ま、たまにはこんなこともあるってばさ」

 魔法使いはわざとらしい咳払いをしました。


「んじゃ、気を取り直して。エロイムエッサイム! シンデレラにドレスを!」

 またシンデレラの周りに煙が立ちこめました。

 今度はむせないよう、シンデレラは息を止めていました。

「あのさ……仮装パーティじゃないんだけど」

 自分の格好を見て、シンデレラは少しあきれた目で魔法使いを見ました。

「ありぃ? おかしいな」

 シンデレラは、うさぎの耳とシッポを付けたバニーガールの姿になっていました。

 もちろん、ハイレグに網タイツです。

「まぁ、あたしの脚線美で王子を悩殺するってのも、一つの手かも知れないけどさ。やっぱり舞踏会にこれはね。周囲の目ってもんもあるし」

「だよね~。ごめんごめん」

 魔法使いの口調は、悪いと思っているようには聞こえませんでした。


「今度こそ。ビビデバビデブー! シンデレラにドレスを!」

 しつこく、シンデレラの周りに煙が立ちこめました。

「魔法使い! いい加減にしろよ」

 自分の姿を見たシンデレラは、たまりかねて怒りました。

 煙がおさまって自分の姿を見れば、最初の汚い服に戻っていたのです。

「あんた、本当にあたしを舞踏会へ行けるようにしようと思ってんの? 冷やかしならごめんだね。さっさと帰って」

「いや、あの……今度こそ」

「もういいよっ」

 シンデレラはそう言って、家の中へ入ってしまいました。

「おっかしいなぁ」

 魔法使いは、家の外に置かれていたカボチャに魔法をかけてみました。

 予定では馬車になるはずでしたが、ハロウィーンのランプになってしまいました。

「あっれぇ? どうしてだろ。家に帰って練習しなおそ」

 魔法使いは頭をかきながら、自分の家へ帰って行ったのでした。

 めでたしめでたし。

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