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里に立って言えば千の口(短編集)  作者: 碧衣 奈美


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シンデレラ 其の二

 唯一残されたガラスの靴を手掛かりに、王子はシンデレラを捜し出すように侍従長に命令しました。

 侍従長はガラスの靴を持って、娘のいる家を一軒一軒回りました。

 そして、シンデレラのいる家にもとうとう侍従長がやって来ました。


「この家にも、娘さんはいたよね」

「ああ、私の娘が二人いる」

 偉そうな態度の継母は、自分の二人の娘を呼びました。

 シンデレラは呼ばれなかったので、仕方なく部屋の外からその様子を見守っていました。

「よし、あたしから試す」

 姉がまずガラスの靴に挑戦しました。ですが、サイズが合いません。

「ねぇ、お姉さん。これって、もしかして外反母趾(がいはんぼし)じゃないの?」

 足の親指の付け根が出っ張っているのに気付いた侍従長が、それを差しながら言いました。

 サイズも合いませんが、その出た部分があるためにますます靴に入らないのです。

「足に合わない靴ばっかりはいてるんでしょ。ダメだよ、ちゃんとシューフィッターさんがいる店で買わないと」

「うるさいなっ。余計なお世話だよ!」


 次に妹が試そうと、足を出しました。

「ちょっ、ちょっと待って。あんたの足じゃ、絶対に合わないよ」

 靴に対して、明らかに足のサイズが上回っているのを見て、侍従長は妹が靴をはこうとするのを止めました。

「え、そうかな。でも、試してみないとわからないよ。わたしは結構、はきやせするタイプだしね」

「着やせって言うのは聞いたことあるけど……はきやせ?」

「まぁ、いいじゃないか。娘が言う通り、ものは試しだよ」

 継母の迫力に負け、侍従長は妹が靴をはくのを許可しました。

「じゃ、はくね」

 そう言って妹が足を靴に入れた途端、パキッという音がしました。

「……」

 沈黙がおり、妹がそっと足を抜くと、ガラスの靴は粉々に割れてしまいました。

「あ、ごめんね。やっぱり駄目だったみたい」

 妹は笑いながら謝りました。


「残念だったねぇ。うまくいけば、王妃になれるチャンスだったのに」

「あの靴、ちっさすぎんのよ。入っても、歩けっこないわ」

「それに、片方じゃねぇ」

 三人はそんなことを言いながら、家の奥へと入って行きました。


 後には、粉々になったガラスの靴を見て泣いている侍従長と、自分の物だと発表しそこねて泣いているシンデレラが残ったのでした。

 めでたしめでたし。

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