どうやらずっと側にいられるようです【2】
「なっ! 優希さん!? 何で?」
「私の力の効力が消えているだと?」
切り取った魂を手にこちらに近づいて来ていた真人さんの腕を私はぎゅっと掴むと、自身の魂の中に眠っている力を呼び覚ますように強く願う。
「お願い! 縁を繋いで!!」
その瞬間私の体と真人さんの体が光に包まれる。そして胸のあたりに暖かな光強い光が集まり、二人の魂と切り離された魂を繋ぐように赤い綺麗な糸が現れる。さらに咲耶姫様からもらった手首に結んだ珠が眩しく光出す。
「優希さん何を!?」
真人さんの驚いた表情にむっと頬を膨らます。私は先程のことを許してはいない。
乙女の心を利用してあんなふうに眠らされるとは思っていなかった。何かを感じ取ったのか体を引こうとする真人さんにより強く縁を繋ぐ力をかけていく。
そして私は真人さんの襟首を掴むとぎゅっとこちらに引っ張った。
「今度は私の番です!」
そのまま私はぐっと真人さんに口付けをする。真人さんは驚いて目を見開くが、ふっと優しい表情になると私の腰に腕を回して受け入れるように抱き寄せた。
そして光が収まったころゆっくり唇を離すとじっと向き合う。
しばらくの間沈黙が流れたが、それは第三者の盛大な笑い声によって破られた。
「ふふっ……あはははは!! その娘……本当に予想外のことをする。私の力を破り、自分から仕掛けるとはやるな! しかも自分と真人の魂を縁の糸で繋ぎ、運命共同体とするとは」
「運命共同体? まさか優希さん……」
「はい。私と真人さんの魂を繋がせてもらいました。これで私たちはどちらかが亡くなれば、すぐもう片方も亡くなることになります。魂も同じです。どちかの魂が破損すればもう片方が補完する。だからこそ崩壊する時も一緒です。片方が崩壊すればもう片方も崩壊する。真人さんが先に勝手に決めちゃったんですから、私も勝手にさせてもらいました」
そうは言ってもやはり私と運命共同体だなんて本当は嫌だったかもしれない。そう思うと真人さんを直視できず、視線を逸らしつつ答えると、真人さんにもう一度抱きつかれた。
「まったくあなたと言う人は……」
「やっぱり嫌でしたか……?」
「まさか! 嬉しいに決まっているではないですか。これでずっと優希さんと一緒にいられるのですから。あんなふうに格好をつけて言いましたが、私も本当はあなたとずっと一緒に生きたかった。本当にあなたのためを思うなら、今すぐにでも魂が縁の糸に馴染む前に切ってしまうのがいいのでしょう。ですがもうそれはできませんよ。本当に覚悟はいいんですね?」
真人さんのニヤッと笑ったその顔に私もにっこり笑って返す。
「もちろんです!」
そうして私たちはもう一度口付けをした。
今度はお互いがずっと一緒にいようと笑顔で誓いあって。
カランカラン
「「「いらっしゃいませ」」」
「あっ! 智風くん、久しぶりです!」
智風くんは私と真人さんを見ると一瞬安堵の表情を浮かべた後、むっとした表情に変わる。
「久しぶりですじゃねーよ! 心配したんだからな! 優希はなかなか体調良くならねーし、やっと真人から体調良くなったって連絡きたと思ったら今度は真人から今後のことをよろしくお願いしますとか縁起でもない連絡くるし!」
私がその言葉に苦笑し、智風くん前に水を置く。
「ごめんなさい。心配かけちゃったね……」
「まぁ、何ともないなら別にいーよ」
そう言って優しげに笑うと、私頭に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「ちょっと! 智風くん!?」
智風くんが私の表情にニヤッと笑って頭を撫で続けていると、後ろから覆い被さるようにして体を引っ張られる。
「智風くん近いです。やめてください。私の優希にあまり馴れ馴れしく触れないでください」
そのあまりにストレートな言葉に智風くんが固まり、私は顔を真っ赤にする。
「ちょっと真人さん!!」
「あれ? またさん付けに戻っていますよ、優希。これはお仕置きが必要ですかね?」
後ろから抱き込まれた体勢からクルッと体を回転させられ、眼前に顔が迫る。私は咄嗟に両手で真人の口を塞ぎ、押し返す。
「真人! 真人! これで大丈夫ですよね!? それに今はバイト中です! 控えてください!!」
私の言葉にふっと笑うとゆっくり体を離していく。
あの日から数日、真人の私への態度はどんどん甘いものとなり、今ではこちらが恥ずかしがるのもお構い無しで距離を縮めてくる。
名前の呼び方もその一つだ。さん付けを外してくれと言われ、まだ慣れずにさんを付けてしまうとお仕置きだ何だと言ってこちらに迫ってくる。
もはや気が休まる時が無く、常にドキドキさせられている。
「ちょっと待て! 俺が少しいない間に何があったんだ? しかもよく見たら……優希と真人の魂。それ一体どうなっているんだ!?」
智風くんの驚いたような焦ったような疑問に先日のことをかいつまんで報告する。すると智風くんは大きなため息をつく。
「もう展開が怒涛すぎてついていけねーよ……真人の大江山の神の話は妖の中でも長い時を生きているものには有名な話だ。しかしまさかそれがこんな結末を迎えるとはな……だが二人が幸せなら、それでよかったよ……」
智風くんの優しげな表情に本当に心配してくれていたのが伝わって、とても温かい気持ちになる。
「ありがとうございます」
私の言葉にふっと笑うと、智風くんは挑戦的な顔で真人に話しかける。
「だが真人、もし優希を泣かすことがあれば俺が貰っちまうからな。覚悟しとけよ!」
その予想外な言葉に目が点になり見つめていると、真人もニヤリと笑う。
「望むところです。取れるもんなら取ってみてください。きっと優希は私を選ぶでしょうけど!」
そんな言葉に顔を真っ赤にして言葉を失っていると今度は腕を引っ張られる。
「もうみんな何言ってるの! 何かあれば僕が優希さんをもらうんだよ!」
「いや、無理だろ」
「流石に二郎くんには無理でしょうね」
「えっ!? 何で!?」
そんな二郎くんのあたふたとした可愛らしい様子にみんなが笑顔になる。
結局穢れの問題はまだ解決してはいない。私と真人が一緒にいる限りあれはまた現れるのだろう。でも私たちにはこんなに優しい仲間がいる。これから先、何かあってもまたみんなで立ち向かえばきっと何とかなるはずだ。
その時、突然腕を引かれ、気付いた時には真人の腕の中でキスされていた。
「あーーー!」
「おい!!」
二人の不満げな声が響く中、真人が蕩けるような笑顔で微笑む。
「これからはずっと一緒にいてくださいね、優希」
私はみんなに見られたという恥ずかしさに顔を赤くさせ「もう!」と怒りつつも、真人の優しく愛おしげな笑顔に何も文句が言えなくなる。
そして私はにっと笑って答えた。
「こちらこそずっと一緒にいてくださいね!」
古都京都のとある場所の細い路地を抜けた先には昭和レトロ感漂う小さな喫茶店がある。
その喫茶店の名前は《カフェenishi》
そこには様々な縁にまつわる問題を解決してくれる断ち切り屋さんがある。
あなたももし何か縁にまつわる問題があればそのカフェを訪ねてみてはいかがでしょうか?
きっとあなたの問題に真摯に対応してくれる仲睦まじい夫婦が優しく迎え入れてくれるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
楽しんでいただけましたなら幸いです。




