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どうやら危険なこともあるようです【2】

 私は店の外にclosedのプレートをかけ、扉を閉じるとコーヒーの準備をする。

 二郎くんは先程迫られたのが怖かったのか、店の奥の厨房側に逃げてしまった。



「悪縁を断ち切りたいとおっしゃいましたが、最近何か悪いことが起こっているのですか?」


「そうなんですよ〜わたし男運が悪いんですけど〜なんか最近、仲のいい友達が事故にあったり、悪いことが起こりやすっていうか……そしたら友達が変な男の人に好かれて周りの人呪ってるんじゃないとか言い出だして、それでここの噂を聞いて来たんです」


 可愛らしく上目遣いで真人さんを見つめるが、話した内容自体は全く可愛らしくない。



「男運が悪いというのは?」


「付き合った人がストーカーになったり、破産しちゃったり、仕事クビになっちゃったり、まあ色々ですね」


 そんなことがあったにしては明るい表情で全く困っているようには見えない。そして彼女にというより被害は男性のほうに多い。

 よく見ると前之さんの服や持ち物、装飾品は全て質が良い。



(あれってブランド品なんじゃ……大学生ぐらいの子が持つにしては高級すぎない? 多分バッグも服もアクセサリーも靴も、

どれもブランド品だよね。というか普通に何かして恨まれてる感じなんじゃ……)



 私は表情に出さないよう気をつけながら、準備したコーヒーをテーブルに運び、さっさとカウンターの中に戻る。



「悪いことが起き出したのは最近ですか?」


「う〜んそうですね……二、三ヶ月前からですかね?」


「そうですか…何かバックやアクセサリーなど、この物を貰ってからとか思い当たる物ってありますか?」


「私結構たくさん人から、いろいろ貰ったりするんで、これっていうのは思い浮かばないんですよね……」



 前之さんは思い出すように首を傾げ、しばらく悩んだあと、やっぱりわからないと首を振る。



(たくさんの人からいろいろって……普通そんな日常的にたくさんの人からプレゼント貰うことないでしょう。誕生日でもないのに…)


 盗み聞きはどうかとも思うのだが、この距離では勝手に話が聞こえてしまう。私はその会話に不信感を募らせる。そちらには視線を向けず、聞こえていないという体を装い、カウンターを布巾で拭きあげる。



「そうですか。一度あなたの持ち物を確認させてもらってもいいですか? 人への執着などは物にも宿りますから。他にも誰かから貰ったものとかあれば見せてもらいたいのですが」


「それなら他にもたくさんあるんで、家まで見に来てもらえます?」



(……今日初めて会った人に家の場所教えるんだ……確かに断ち切り屋さんっていう仕事ではあるし、真人さんかっこいいけど、どんな人かなんてすぐにはわからないのに……防犯意識低すぎじゃない? 普通若い女の子なら自分から自宅の場所とかあまり言いたくないものでしょうに……)



 私は心の中でそんなことを思いつつ、バレないようにチラッと視線を向ける。


「そういうことであれば前之さんの住所と連絡先教えていただけますか?」


 彼女はニヤッとしてもちろんと真人さんが差し出した紙に住所と連絡先を書き始めた。



「いつでも連絡待っていますね!」


 前之さんは可愛らしくにっこり笑いながら、真人さんに両手で紙を差し出す。


「個人情報ですし、悪縁が断ち切れた後はしっかり廃棄しますのでご安心ください」


 真人さんはにっこり微笑みながら、はっきりと前之さんのお誘いを断った。



(さすが真人さん! 可愛らしい人に誘われてもまったくなびかないなんて……それだけいろいろな人から誘いを受けてるってことかしら……?)


 前之さんは不満そうに顔を一瞬歪めたが、すぐ気を取り直し、「それじゃあお願いしますね!」と可愛らしく微笑んだ。




「それではまた後日、前之さんのお宅に伺いますのでよろしくお願いします」


「こちらこそ!」


 前之さんは帰り際に私のほうを軽く睨みつけて帰っていった。



(えっ? 何? 私何かしましたか?)


 確かにここにはずっといたが、会話に割り込んだわけでも、何かしたりもしていない。

 それに最初に真人さんがカフェの店員は片付けもありますし、今回の相談のことも秘密は守るので、ここで作業してもいいかと了承はもらっていたはずだ。

 私がきょとんとしながら見送っていると、真人さんが苦笑を浮かべ近づいて来た。



「優希さん助かりました」


「え? 私何もしてないですけど……?」


「みんながみんなそうとは言いませんが……実はああいうタイプのかたは二人きりになるとアプローチがすごくなることが多くて……女性の優希さんが近くにいてくださって助かりました」



(な、なるほど! そういうことか……それでも結構アプローチされてたように見えたけど、やっぱり人がいるとやりにくいということか。でもただ片付けしてただけなのに理不尽な……)


 私は大ききなため息をついた。

 すると厨房と奥の扉のほうから、そろりと二郎くんと鞍馬さんが顔を出す。



「帰ったか?」


 真人さんが頷くと二人ともふーと息を吐き出しこちらに戻って来た。



(かっこいい人はかっこいい人で大変なんだな……)


 私は苦笑を浮かべ、店の片付けを再開した。




 バイトを終え、家に帰りながら考える。


(断ち切り屋さん。人や物についた悪縁を切る仕事か……やっぱり真人さんのお仕事ってなんかあやし……いやいや! 今は様子見! 様子見よ!)


 頭を振り頬をパチパチ叩く。


「明日もバイト頑張ろう!」


 私は勢い良く拳を振り上げると、早足で家に帰った。

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