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どうやら月見は大事な行事のようです【6】

 それから私たちはすぐ大神様の社に向かった。

 いつもなら二郎くんはお留守番だが相当心配させてしまったのか自分も一緒に行くと言い張り、結局店を閉めてみんなで行くことになった。


「へ〜ここがこの前話してくれた大神様の社か〜」


「うん。この前はすぐ出てきてくれたけど、今日は全然出てきてくれないね……」


 少し境内を歩き回ってみるが、全く大神様が出てきてくる気配がない。


「やっぱりあっちか?」


「おそらくそうでしょうね。」


「あっちとはどういうことですか?」


 私が尋ねると真人さんが苦笑し、智風くんが呆れたようなため息をつく。


「おそらく大神様はまた西の神の社に行かれているのではないかと……」


「気配がここにねぇーんだよ。西の社のほうから何となくだが気配がする」


 ということはまた西の神のところに呑みに行ったのだろうか。私も思わず苦笑いしてしまう。


 そうこうしていると境内の中心に光の珠が現れ、徐々にその光が大きくなる。そして光がおさまると見覚えのある人物が姿を現す。


「皆さん先日ぶりでございますね。こんにちは」


「こんにちは」


「どうも」


「あっ! この前の!」



 そこには西の神の亀の神使が立っていた。私と真人さん二郎くんが挨拶を返すと神使はまたも申し訳無さそうな表情で話し出す。


「えっと……主が西の社に来るように呼んでおりまして……こちらの社の神を連れて帰って欲しいと……」


 もはやデジャブである。

 その表情で全てを察して、みんなで顔を合わせてため息を吐いた。




 私達が案内されるまま神域と人界との間に着くと先日と同じようにベロンベロンに酔った大神様が西の神に腕を巻き付けて絡んでいた。西の神の額には先日と同じように青筋が浮かんでいる。


 その光景に苦笑を浮かべる。

 西の神はこちらに気づくと歓迎するように手招いた。


「よく来た。さぁとっととこいつを連れて帰ってくれ」


「えー……何でそんなこと言うの〜咲耶姫が帰っちゃって寂しいんだよ〜もう少しみんなで一緒にのも〜よ〜」


 大神様が甘えるようにぐりぐりと頭を西の神に擦り付けると、西の神は無表情で大神様の襟を両手でぐいっと掴む。そしてそのまま力いっぱい後方に吹っ飛ばした。

 これまた先日と全く同じ光景で大神様は顔から砂利に突っ込んだ。


「今のうちに連れて帰ってくれ」


 とても疲れた顔で西の神はそう言うが、私達がここにきた目的は大神様に盃のことを聞くためだ。しかし今の大神様に質問をしたところでしっかりとした答えが返ってくるかあやしい……みんなもそのように感じているのか冷めた視線で大神様を見つめている。

 特に真人さんと智風くんは蔑みを含んだ目で砂利に突っ込んだまま動かない大神様を見つめていた。


 私は苦笑を浮かべながら、気を取り直して西の神に問いかけた。


「あの少し質問させてもらってもよろしいでしょうか?」


「なんだ? 手短にしてくれ」


 西の神はため息をつくと仕方ないというようにこちらを見つめる。


「神が気に入りそうな盃を探している。何かいいものはないか? どこにいったらそういうものが手に入るかも聞かせてもらいたい」


 西の神は智風くんの言葉に少し考える素振りを見せる。


「……そうだな。ちょっと待っておけ」


 西の神はそのまま朱色の建物に入って行き、しばらくすると手に何かを持って出てきた。そしてその手に持ったものを私に差し出す。私がそれを両手で受け取ると、みんなが私の手元を覗き込んだ。

 それは紺色の風呂敷に包まれており、風呂敷を開くと綺麗な朱色の盃が入っていた。金色の花の細工が施されており、とても繊細で美しい。


「それを持っていけ」


「こんな美しいものをいただいてよろしいのですか?」


 私がそう言うとまだ地面に突っ伏している大神様を顎でさす。


「あいつをしっかり連れて帰ってくれるなら、それをやる。と言ってもそれは以前どっかの土産にあいつが持ってきたものだがな」


「えっ!? 大神様からのお土産をいただいて本当に良いのですか?」


「あいつは土産と言って様々な盃や酒を持ってきてはここに入り浸るんだ。そのような盃は山のようにある。ここに飲みに来る口実に持ってきてるだけだから気にせず持っていけ。その代わりしっかりあいつを連れ帰ってくれ。ああ、そうだこれを」


 そう言って西の神は自らの神使に何かをとりに行かせると私にそれを差し出した。


(……縄だよね……?)


 受け取った縄をまじまじと見つめていつと私の表情から戸惑いを感じとったのか、西の神が話し出す。


「あいつは一度自分の社に戻ってもすぐにこちらに戻ってくるだろう。だから酔いが覚めるまであいつの社の柱にこの縄であいつを縛りつけておくんだ。酔いが覚めた頃に私の神使に解きに行かせる。大丈夫だ。この縄は私の力が込められているからあいつもそう簡単に解けまい。それにお前達の中には力自慢の奴がいるだろ? 私の神使では力が足りんがお前達ならできるだろ」


(…………いやいや! 何が大丈夫なの? というかできるかどうかの心配はしておりませんよ!?)


 私は何とか心の中だけでその絶叫を留め、頬をひくつかせる。西の神は普通のことのように話しているが、神様を縄で縛りつけるなんて、そんな罰当たりなことをしても本当に大丈夫なのだろうか?

 私が不安そうな顔で三人の方を向くと三人とも微妙な顔をしていた。みんなの顔を見た西の神がこちらが不安に思っていることを察したのか小さくため息をつく。


「罰当たりだなどと思っているのかもしれんが、普通その地の神がホイホイと自分の社を離れるものではないのだ。俺が責任を持つから心配はするな」


 私達は顔を見合わせて頷く。今は盃の問題もある。西の神の言う通りに行動すれば盃も手に入る。

 思うところはあるものの西の神の言葉に従う他に道もない。


 私達が大神様を引きずりながら西の神の社を出ると、とても晴れやかな表情をした西の神に送り出された。

 そして大神様には大変申し訳ないが、彼の社の柱に嫌だ嫌だと暴れている大神様を智風くんが押さえつけている間にみんなで縛りつける。


「人でなし〜!!!」


「俺は人じゃないからな」


 大神様がボロボロと涙をこぼしながら泣き叫ぶと智風くんがケロリとそう返す。


「優希ちゃん〜」


「……す、すみません!」


 いつの間にやら名前で呼ばれ、縋るように見つめられたが背に腹は変えられない。私がぱっと視線を背けると、大神様が「そんな〜……」と悲痛な叫びをあげる。

 流石に可哀想になりどうしようかと思っていると真人さんにそっと肩を抱かれ回れ右させられる。


「これは仕方のないことです。優希さんが気にされることではありません。西の神からの依頼ですし、報酬として盃もいただいてますからね」


「そもそもあいつがいつも酔っ払って入り浸るのが悪いんだ。お前が気にすることじゃない」


「仕方ないよ。今は。盃のこともあるしさ。さぁ行こう優希さん」


 みんなはぱっぱと切り替えると歩き出す。

 私もみんなに促され、申し訳ないと思いながらも歩き出した。

 こうして私たちは大神様の大号泣が響きわたる中、大神様の社を後にした。




 その後、私達はその足で北の神の社に向かった。

 北の社は古くからある社で、その歴史はとても長い。道中聞いた話によると歴史が古いだけのこともあり、その神の力も絶大なものらしい。


「この盃と取り替えてくれるでしょうか……?」


「おそらく我々を招くためにやったことでしょうから、代わりを持って行けば交換してくれると思いますよ。ですが本当に優希さんも一緒に行かれるのですか? できれば優希さんには北の神と関わって欲しくないのですよ。本当に厄介な神なんです……」


 真人さんは疲れたようにそう言うとため息をつく。心配してくれるのは嬉しいがやはり途中で投げ出すのは嫌だ。


「すみません。でもやっぱり私も最後まで見届けたいんです」


「優希も意外と頑固だよな〜言い出したら聞かねーし、仕方ねーだろ」


 智風くんが諦めろと言うように真人さんの肩を叩くと真人さんは困った表情でこちらを見る。


「仕方がないですね……では優希さんは私の後ろにいてください。決して自分から北の神に近づいてはいけませんよ」


「わかりました」


 そしてそれからしばらく歩くと北の神の社に着いた。


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