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どうやら神様同士の関係もなかなか複雑なようです【5】

「そっか……それで今夜真人さんとちーくんがもう一度そこに行くんだね。僕も真人さんに賛成だよ。後は二人に任せたら大丈夫だと思う」


 二郎くんも私をそう説得するが、私はこのまま二人に任すという事に納得出来ず、縋るように真人さんを見つめる。


「あの……私も連れて行ってもらえませんか?」


「ダメです」

「ダメだ」


 私がおずおずとそう言うと、二人にすぐに断られてしまった。

 確かに私は役に立たないし、足手まといになるかもしれない。しかし今回私が呼ばれたことは何か意味がある気がしてならない。



「お願いします! 危ないと思ったらそれ以上近づきませんから!」


 二人は困ったように顔を見合わせる。


「えらくこだわるな。なんか理由があるのか?」


「なんとなく行かなくちゃダメな気がするんです……お願いします」


 私が何度もお願いすると真人さんが仕方ないというようにため息をついた。


「わかりました……それでは私が危険だと思ったら、それ以上近づかないと約束していただけますか?」


 真人さんがこれだけは譲れないというようにじっとこちらを見つめる。


「わかりました。約束します。ありがとうございます!」


 私が頭を下げると、真人さんと鞍馬さんがやれやれという困ったような笑みを浮かべた。





 深夜の嵐山はあれほど賑わっていたのが嘘のように人がいない。おかげで私たちは桜の木の近くに車を止めることができた。


(依頼達成のお手伝いと穢れが人に影響しないようにするため頑張らないと!)


 私は心の中でそう唱えながら、真人さんと鞍馬さんの後に続き問題の桜の方に歩いて行く。



 夜風が頬を撫でるが、その風も湿っていて体を重くさせるような気がする。いつもは人で混み合っているのに深夜で人がいないことが余計に不安を掻き立てる。


 一歩近づくごとに昼間のあの嫌な感じが強くなる。私は真人さんが「念のため持っていきましょう。」と準備していた神様からいただいた徳利を強く握り締める。

 真人さんと鞍馬さんは地面を掘るための装備を持っていたのでせめて徳利だけでもと私が預かったのだ。


(なんだか昼間よりも空気が重い気がする……)



「優希さん大丈夫ですか?」


「はい。なんとか」


「やっぱり昼間よりひどい状態になってるな」


「そうですね……やはりああいったものは夜のほうが力が増しますからね」


 やっぱり気のせいではなかったらしい。

 あの桜に近づいてきた時、ふと違和感気づく。


(昼間よりも黒い靄がさらに大きくなってる?……あれ……何か動いてる……?)


 暗いので遠くから見た時は気づかなかったが、地面に近い部分の黒い塊が昼間に来た時よりさらに大きくなり、まるで意志でも持っているかのようにウネウネと動いている。


(うわ……気持ち悪い……)


 その様子にゾッとしていると、ある一定の場所から黒い靄が薄く地面一帯に根をはり広がっていることに気づく。


「優希さんはここで待っていてください。」


 その一歩手前で真人さんに声をかけられ、私は頷き立ち止まる。

 二人はさらに桜の近くへと進んで行く。

 二人の足元には黒い靄が広がっている状態だ。何ともないのだろうかと見守っていると、真人さんと鞍馬さんがついに桜の真下に着いた。


「智風くん、それではお願いします」


「おう」


 シャランシャラン


(? この音どこから?……あれ? 鞍馬さんいつの間に!?)



 その音に鞍馬さんのほうに目を向けると、いつの間に持っていたのか、鞍馬さんは錫杖のようなものを手に握っていた。

 そして器用に錫杖をクルクル回すとドンっと地面に錫杖をついた。それと同時にすごい風が吹き荒れる。あまりの強さに私は目をぎゅっと閉じて風がおさまるのを待った。

 しばらくして風がおさまり、ゆっくり目を開けると先ほどまであたりに広がっていた靄が晴れ、桜の木についていた靄も心なしか小さくなっている気がした。



「さすが智風くんですね」


「まあこれくらいなら大したことねーな」


 少し誇らしげに鞍馬さんがふっと笑う。


(………今何が起こったの……? もしかしてあれが鞍馬さんの力なの?)


 私が呆然とそんなことを考えていると、真人さんがこちらに目を向け、私の様子を見ると困ったように笑った。


「とりあえず今はこちらを早くどうにかしなければいけません。智風くんがはらってくれた今のうちに地面を掘ってしまいましょう。優希さんはまだそちらで待っていてください」


 真人さんの言葉に頷くと、真人さんは桜の木の根元をシャベルで掘り出した。鞍馬さんもシャベルを持って真人さんの近くに歩いて行った時だった、桜の地面付近の黒い塊のようになった靄が(うごめ)き、数本の蔓のように形を変えると二人に向かって伸びていく。

 私は咄嗟に二人に向かって叫んだ。



「真人さん!! 鞍馬さん!!」


「「!!!」」


 二人ははっとしてその蔓を避ける。


「たくっ!! そう簡単に地面を掘らせねえってか?」


「どうやらそのようですね。私たちに掘らせたくないようです……」


「真人、あっちの黒い蔓は俺が防ぐから、お前は掘ることに集中しろ!」


「わかりました。お願いします!」



 真人さんはすぐに地面を掘るのを再開する。鞍馬さんは先ほどの錫杖を構えると伸びてくる蔓を弾き返していく。

 私は自分ができることはないかと考えるが、今私が近付いても足手まといになるだけだと二人が無事戻るように祈るしかなかった。


 あれからしばらく経ったがなかなか地面の中に埋められたものが見つからないようだ。真人さんが汗を拭いながら必死に地面を掘り、探っている。

 先程から蔓の動きが少しずつ速くなってきているように見える。

 鞍馬さんも汗を流しながら何とか蔓を弾いている状態だ。


「真人まだか!?」


「もう少し待ってください!」


 緊迫したその様子に早く見つかってと私は祈り続ける。

 その時鞍馬さんの足元がふらつき、ついに膝を折ってしまった。


「智風くん!? 大丈夫ですか?」


 そう言って鞍馬さんに近づこうとした真人さんもふらっと体が傾き地面に膝をついた。


「真人さん、鞍馬さん大丈夫ですか!?」


「優希さんは来てはいけません!」


 私は駆け寄ろうとしたが、真人さんの静止の声にビクッとしてその場で足を止める。よく見ると先ほどの鞍馬さんがはらったはずの薄い靄がまた地面一帯に広がってきていた。


「ちっ! この靄……力を吸うのか……」


「そのようですね……ぬかりました……」


 二人が動けないでいると黒い蔓がまるで喜んでこんいるかのようにゆらゆらと揺れる。果たしてあの蔓に意志があるかもわからないが……

 そしてゆっくり二人に向かって伸びていく。



(どうしよう……どうにかしなくちゃ……でもどうしたら……向こうに行ったら私まで動けなくなるかも。そうなったら助けも呼べなくなっちゃう……)


 その時ポケットの中が熱くなり、私ははっとする。以前座敷わらしさんからもらったお人形のお守りが熱くなっていたのだ。


(そうだ……私は大丈夫。それにここまで何のために来たのよ!)


 私は二人に向かって駆け出した。そして同時に持っていた徳利の蓋を開け、持ってきていた水筒の蓋にお神酒を注ぐ。


「優希さん! 何をしているんです! 戻ってください!」


「こっちに来るんじゃねえ!」


 二人にそう言われても私は必死に二人の元まで走ると、二人と蔓、そして周囲の薄い靄に向かってお神酒をふりかけた。二人は唖然としてその様子を見ていたが、お神酒をふりかけると、お互い驚いたというように顔を見合わせ、ゆっくり立ち上がった。


「このお神酒やっぱ凄え……」


「ええ……力が戻ってきました」


 私がそれでも必死にお神酒をふりかけていると、真人さんが私の手をそっと取る。私がはっとして振り返ると真人さんが優しげに微笑んだ。


「優希さん、ありがとうございます。もう大丈夫です」


「無茶するなよ! って言いたいとこだが、助かった。ありがとな!」


(よかった……!)


 私はふっと安堵の息を吐いた。


「優希さんが振りかけてくださったお神酒のおかげで力が戻ってきました。今のうちにさっさと終わらせてしまいましょう」


「おう! じゃあ俺は引き続きあの蔓の相手をするから、あんたはまたあの靄が広がってきたらお神酒を振りかけてくれ」


「わかりました!」


 私は力強く頷くと徳利を抱え直した。

 鞍馬さんは肩をコキコキと回すとニヤッと笑う。


「今度はさっきみたいにはなんねーぞ!」


 

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