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どうやら神様同士の関係もなかなか複雑なようです【4】

『そういうことか……でもいきなりあんなところに呼ばれて本当にびっくりしたんだぞ!』


「あははは……ごめんね。でもどうしてわざわざ私を呼んでまで大福くんを呼んだんだろ? そんなことしなくても直接大福くん呼んだらいいのに。だってあれだけ大福がかしこまっていたってことはとっても偉い神様なんでしょう?」


「それはできないだろ」


「そうですね。大福くんは北の神の神使ですから。本来であれば北の神に了承をもらわなければいけません。しかし今回は大福くんの意思で事前に『優希さんの力になる』という約束がありましたから。神様に依頼するより優希さんを通したほうが楽だと考えたのでしょう。まったく……」


 真人さんは疲れたように頭を抱える。


(なるほどね……暗黙の了解っていうか、侵しちゃいけない線引きが神様の間にもあるんですね……)


 確かに神様同士で話し合うより、人間を呼んで動かすほうが楽そうだ。私は納得しつつも、巻き込まれた感に小さくため息をついた。




「早速で申し訳ありませんが、大福くん。こちらの髪飾りの気配を探せますか?」


『ん? どれどれ?』


 大福くんは私が差し出した髪飾りをクンクンと小さく鼻を動かして匂いを嗅ぐと、うーんと眉間に皺を寄せる。


「辿れそうかな?」


『うん。いろんなところに気配は散らばってるけど……多分大丈夫だ! 一番濃いところが最後に寄ったところだろうな。ここから少し北に行ったところだな! よし! 案内するぞ!』


「よかった!! ありがとう!」



 私たちは真人さんの車に戻り、大福くんが指し示す方向へ車で走り出す。

 大福くんはどうやら元々犬ということで匂いをたどることも得意なようだが、神様や妖など力のあるものなら気配も辿れるらしい。探し物が得意と言っていたが、本当に素晴らしい能力だ。


 しばらく北の方に車を走らせると、どんどん車や人が増えてくる。



「うーん……すごい人ですね。ここからは車を止めて徒歩で向かったほうがよさそうですね」


「そうだな。観光地だし、仕方ねーな」



 私たちは近くのパーキングに車を止めた。

 そうここは京都でも一、二を競う観光地、嵐山だ。桜の時期は観光客がどっと増える。歩いて進むのもなかなか大変なほどに。

 大福くんはチラッとこちらを見上げると、『こっちだ』と歩き出す。

 トテトテと軽快に歩いて行く大福くんの後に続いて行くと、途中で止まるとチラリと振り返る。


『もう近いぞ』


 大福くんから離れないように歩いて行くと、進むにつれてざわざわと嫌な感覚に肌があわだっていく。



(なんだろう? この感じ……気持ち悪い……)


 私は自分の腕をさすりながら無理やり足を前に動かす。

 その時そっと肩に手が置かれた。



「優希さん大丈夫ですか?」


 心配気な表情の真人さんがこちらを覗き込んでくる。


「えっと……大丈夫です」


 なんとか笑顔を取り繕ったが、私の無理は見透かされていたようで真人さんがさらに心配そうな表情になる。


「無理はしないでください。駐車場で待っていても大丈夫ですよ」


「そうだな。無理はするもんじゃねえぞ。まあ、あんたが体調悪くなるのもわかる。この感じ……普通じゃねえ」


「いえ、大丈夫です。私にお願いされたものですし、私も行きます!」



 真人さんや鞍馬さんも嫌な気配をひしひしと感じているようだ。それなのに自分だけ安全な場所に戻るなんてできない。大福くんだって私のために力を貸してくれているのだ。二人と大福くんだけに任せるわけにはいかない。

 真人さんは心配そうな顔をしながらも仕方ないというように頷いた。


「わかりました。優希さんのことは私が必ずお守りします。ですので私たちより前には行かないでくださいね」


「はい」


 私は真人さんの後に続き歩みを進める。

 そして小さな橋を渡り、開けた場所に出た時それが見えた。


 私はゾッとして全身を震わせる。


 そこにはたくさんの満開の桜があった。そしてその中に一際大きな桜の木が見える。しかしその大きな木だけが異様な気配を纏っていた。

 普通の人には大きな美しい桜としか見えないのかもしれない。現にたくさんの人が綺麗だと見つめながら写真を撮っている。

 しかし私の目には禍々しいほどに立ち上る黒い靄で、もはや桜の花びらも見えないほどに黒い塊と化していた。



(あんな禍々しいのに……他の人には影響ないの?)


「ありゃひでーな……」


「ええ……ですがあれが今回のことに関係しているのは間違いないでしょう」


「あの……他の人に影響はないのでしょうか?」


「それは大丈夫だと思います。今はあの桜だけですから。この穢れがこの地一帯に広がれば問題も出るかと思いますが……普通の人であれば今は多少体が怠くなるといったぐらいでしょう」


「ああ。それに勘が鋭いやつらはあの桜避けているようだしな」



 確かに言われてみるとほとんどの人が大きな桜を囲んでいる中、一部の人たちはあの桜を避けるように歩いている人もいる。


「感覚が敏感なやつは体調を崩すこともあるだろうが、そういうやつはだいたい危険なものから遠ざけるよう体が無意識に動くもんなんだよ。だからまぁ今は大丈夫だ」


「そうですか。それならよかったです。そういえばさっき真人さんがこの桜が今回のことに関係してるのは間違いないって言われてましたけど、何か黒い靄以外に見えるのですか? 私にはもう黒い塊としか見えないのですが……」


「そうですね。今回の穢れはすごいですから……ですが優希さんの目であればじっと凝らせば見えるのではないでしょうか? あの桜の木の幹の中心を見てください」


 私は真人さんにそう言われ、改めてじっと目を凝らして桜の幹の中心を見続ける。すると黒い靄がゆるりと揺れた隙間から小さな光が見えた気がした。


「光………?」


「そうです。おそらくあの桜の中に咲耶姫が閉じ込められているのだと思います」


『あの桜からその髪飾りと同じ気配がするのは間違いねーぞ! だいぶ力が弱くなっているがな……』


「そんな……大丈夫なんでしょうか? でもどうして桜の中に?」


「神はそんなに柔じゃねえ。まだ大丈夫だ。神様っていうのは大きな力を持っているからな。その神が穢れで黒く染まってしまえば災禍(さいか)に見舞われるのは必須だ。閉じ込めて穢して、誰かがその力を利用しようとしているのかもな……」


「いったい誰がそんなことを……? それよりもどうやって助けたらいいんでしょうか?」


「誰が仕組んでいるのかはわかりませんが、おそらく桜の木の根のところに何か埋められているのではないかと思います。よく目を凝らして見てください。靄が一番濃くなっているのは桜の根の部分ですから……」


 確かに言われてみると根の部分が最も靄がきつく感じる。

 あそこを掘れば何かあるのだろうか?しかしここは観光地で人がたくさんいる。そんな中そんな不審な行動をすれば警察沙汰にもなりかねない。



「あの……でも、今掘り返すのは……」


「そうですね……とりあえず今は一旦戻りましょう。諸々揃えなければならないものもありますし。深夜なら人がいなくなっているはずですから。優希さんはここまでにしてください」


「でも……」


「何が起こるかわからない事に付き合わすわけにはいきません。場所がわかっただけで十分です。さあ、店に戻りましょうか」





 それから私たちは一度店に戻ってきた。


『僕ができるのは探すことまでだ。あまり無理はするなよ』


 私がお礼を言うと、大福くんは心配気にそれだけ言うと帰って行った。



カランカラン


「お帰りなさい!」


「あれ? お店閉まってたからもう帰ってるかと思ってたよ」


 店の鍵を開けて中に入ると二郎くんが中で待っていた。


「だって優希さんが心配だったんだもん!」


「俺たちへの心配はないのか?」


「ちーくんや真人さんは慣れてるでしょう?」


 そんな二人の軽口に自然と笑顔になる。


「それでどうだったの?」


 私は二郎くんに簡単に今回の経緯を話した。


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