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どうやら神様同士の関係もなかなか複雑なようです【3】

「咲耶姫は花をつかさどる神でこの時期は京都中の桜の花を咲かせるため、至る所をまわっている。そして先日、もう少しで全ての桜を周り終えるからあとしばらくすれば帰ると連絡があったそうだ」


「いつもは連絡が来てから三日とたたないうちに帰ってくるのに、今回は最後に連絡がきてからもう二週間になる。あの子は真面目でしっかりした子だし、どこかに寄ったり、時間がかかりそうなら必ず連絡をくれる。それが今回は全く連絡がなくて……それで心配で相談に来たのに……とっとと帰れって言うんだ! ひどいでしょう?」


 またぼたぼたと涙を流しながら、もう一方の神をジト目で非難する。

 対して相手の神も迷惑そうに眉間に皺を寄せ、ため息をつく。


「お前がずっとグダグダ言ってここで酒を飲みながら居座るからだろう。うちに献上された中でも良い酒を引っ張り出しやがって。とりあえず神使には探しに行かせてるが、まだ見つかったという報告はない。俺たちが自ら探しに行くとその土地に与える影響が大きいからな。それでお前たちを呼んだんだ。お前は縁が見えるのだろう? それで辿れないかと思ってな」


 神様が真人さんに視線を向けるが、真人さん動じた風もなく落ち着いた様子で返す。


「確かに縁は見えますが、捜索できるほど遠い位置までの繋がりを辿れるわけではありません。今回はお役には立てないかと……私のほうはともかく彼女を呼んだ理由は何ですか?」


「それも捜索のためだ」


「ですから、彼女は視る力はありますが、そのような特殊な力は無いと……」


「まあ、聞け」


 真人さん相手に食ってかかると真人さんを宥めるように神様が手をあげて制する。



「どうやらその娘はある神使に手を貸し、恩義を感じたその神使が力を貸すという約束をしたようだな」



(……ん? 神使……? あっ! それってもしかして大福くんのこと?)


「その表情だと思い当たることがあるのだろう? 噂で聞いた。しかもその神使は犬の神使らしいな」


(そっか……そういえば大福くん探し物が得意って言ってたな……なるほど……それで私も呼ばれたわけね)


 私はやっと自分が呼ばれた理由がわかり少しほっとする。


 大福くんは基本的には先輩のところにいると言っていたはずだ。

 先輩は大福くんの姿は見えないので、電話で先輩に大福くんに伝えてもらうことはできない。ということは大福くんを呼ぶにはまず先輩と会って直接伝える他ないだろう。

 私はそのことを伝えようと口を開きかけた時、この土地の神様がわかっているというように手を上げた。



「その神使の名前を知っているか?」


「はい。それは知っておりますが……」


「それであればこの場でここに来いと名前を呼べばいい。お前に力を貸す約束をしているのであれば、おそらく声は届くはずだ」


(えっ!! そんなことできるの!?)


 私は驚きつつも本当なのだろうかと真人さんを窺うと、真人さんも優しげに微笑んで頷いてくれた。


(とりあえずものは試しよね。どのくらいの声で呼べばいいのかしら……大きな声のほうが届く?)


「あの……優希さ……」



 私は足を開きお腹に力を入れると深呼吸をし、響き渡るほど大きな声で叫んだ。

 何だか途中で真人さんの声が聞こえた気がしたが、遮るように叫んでしまった。



「大福くーん!!! 力を貸してくださーい!!!」


 私の突然の大声にその場の全員がビクッと体を震わし、驚いたように私を凝視する。


(え? 何で? 何でみんな驚いたようにこっちを見るの? 呼んだらいいんだよね? だから精一杯呼んだのに……)



「ふっ……っ……」


「クックック……」


 私の隣から真人さんと鞍馬さんの笑いを堪えた声が聞こえ、二人ともこちらに背を向け、口を押さえて堪えている。

 正面にいた神様たちも驚いて大きく目を見開いていたが、酔っ払っている神様が盛大に笑い出した。もう一方の神様もふっと軽く笑っているように見える。


「アハハハ!!!! 君そんな大声出さなくても届くって。約束があるなら心の中で強く願うだけでも届くのに。びっくりしちゃったよ……すごい響いてたね。さっきまで震えるほど緊張しててすごく静かだったのにそんな大きな声出せるんだ。人間って面白いな」


「え……? そうなんですか?」


 私は恥ずかしさに一気に顔を赤くして両隣にいる二人に視線を向ける。

 真人さんはやっと回復したようで、私の視線を受けて頷いている。鞍馬さんはまだおさまらないのか笑いを堪えたまま背を向けている。

 私は二人をジト目で見つめると口を尖らせて小さく文句を言う。


「知っていたなら教えてくださればいいのに………」


「私が言う前に優希さんが大きな声で叫んでしまったので……」


 真人さんは困ったように笑う。確かに確認する前に勝手に叫んでしまったのは私なので何も言えない。

 私が「うっ………」と詰まっていると今度は鞍馬さんが口を開く。



「いや、叫ぶ前にわからなきゃ普通確認するだろ? でもあんな大声、神の前で出せるなんて度胸あるじゃねーか……最初はビビってあんな震えてたのに……くっ……」


 また笑い出した鞍馬さんにジト目を向けながら、私は諦めてため息をつく。


(だって神様に呼べって言われたら気合入れて呼ぼうと思うじゃない……それをみんなあんなに笑わなくても……でも本当に来てくれるのかな?)



『ワン!』


(あれ? この声……大福くんの声?)


 私がキョロキョロと周囲を見回すと背後から眩しい光が差し込み、光が収まるとそこには大福くんがいた。


「あ! 本当に来てくれた!」


『だ、大丈夫か? 呼ばれたから来たけど、こんな神域と人界の間に呼ばれるとは……いったいどうしたんだ?』


「来たか?」


 神様の声に大福くんがビクッと姿勢をただす。



『お、お、お初にお目にかかる。私は京都に古くからある北の神の神使です。西の神とお見受けしますが、私に何か御用でしょうか?』


(なんと! 大福くんこんな話し方もできるんだ!!)


 私が小さく驚いていると、この地の神様が頷いた。


「まあ、そんなに畏まらなくてもよい。少し探し物を頼みたくてな。詳細はその娘たちから聞け。おい、お前も捜索の手配はしたのだ。自分の社に帰れ!」


「え〜……わかったよ……」


「咲耶姫が見つかればそいつに直接伝えてくれ。こちらに報告はいらん。依頼をしたからなこれをやる。あとはそっちで適当に頼んだぞ」


 そう言うとこの地の神が私に徳利を手渡し、朱色の屋敷の中に入っていってしまった。

 そして瞬きをした一瞬、気づくと先程までの森の中の風景が消え、元の神社に戻っていた。

 その不思議な感覚に呆然としていると、残されたもう一方の神様が私の目の前に顔を出し、驚きで意識が戻る。



「へー意外だな……西の神が直接人間の女の子に物を渡すなんて……まぁ、それじゃあ私も自分の社に戻るから、後は頼むね! 私の社はこの神社から出て橋を渡ってしばらく行った先にあるから。それと私のことは大神(おおかみ)と呼んでくれればいいよ。あ! あと咲耶姫の気配が辿れるようにこれを渡しておこう」


 手渡されたのはとても綺麗な桜の花が施された髪飾りだった。まるで本物の桜の花びらのような質感でとても上品で美しい。返事をしようと顔を上げるとそこにはもう大神様はいなかった。


「は〜……変なことに巻き込まれちまったな……」


「仕方ないですよ。なんと言っても相手は神様ですからね。こちらの事情なんて考えませんよ。優希さんが受け取った徳利見せてもらえますか?」


「あ、はい」


「まぁでも、こりゃさすがだな」


「そうですね…」


 二人がそう言ってまじまじと徳利を見つめるが、私は何がなんだか分からず首を傾げる。



「先ほどの神様たちは酒造を代表する神様たちです。その神様から直接頂いたお酒となると最上級のお神酒(みき)というところでしょうか?」


「ああ。すごい純度の力がこもったお神酒だな。こんなもんなかなか手に入れられるもんじゃないだろうな」


「そうなんですね……」



『おい!! お前たちだけで話を進めず、そろそろ僕にも教えてくれないか?』


「「「あ」」」


 不機嫌そうにムスッとした大福くんに見つめられ、大福くんのことを思い出した私たちは今回の経緯について大福に話し出した。

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