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どうやら守ってくれているようです【3】

「あの……先輩の物が無くなる原因について心あたりがあるんです」


「え?」


 先輩はきょとんとしてこちらを見つめる。

 私はリビングにある写真立てに目を向ける。そこにはあの犬が写っていた。


「この犬って先輩の飼ってた犬ですよね?」


「うん。大福(だいふく)って名前なんだけど、それが何か関係あるの?」


 先輩は怪訝(けげん)な様子でこちらを見つめる。私は先輩の足元にいる犬に目を向けた。


「大福くんって言うんですね……その……信じてもらえないかもしれないのですが……先輩の近くにいつもこの大福くんがいるんです」


「え?……それって……本当? 優希ちゃんはその……そういうのが視えるの?」


「はい……あの……信じられないかもですが本当なんです。大福くんが先輩の無くなったものを咥えていて、前回のハンカチも今回のファンデーションも実は大福くんから預かったんです……」


 こんな突拍子もない話、普通信じてもらえないだろう。私が逆の立場なら(いぶか)しんで話半分に聞くはずだ。きっと変な人だと思われるだろう。私は先輩の顔がまっすぐ見れずに俯く。




「そっか……そうなんだ! ねえ、大福はいつもどんな感じ?」


 私はハッとして視線を先輩に向ける。


「先輩……信じてくれるんですか?」


 香先輩は嬉しそうににっこり笑うと目をキラキラとさせた。その表情は全く私の言ったことを疑っているようには見えない。


「そりゃね〜だって私優希ちゃんには大福の写真見せたことないはずなのに犬種や特徴までバッチリ当てちゃうし、いつも話ながらチラチラ違うとこ見てるし。優希ちゃんは嘘つく子じゃないでしょう?」


 先輩は私の手を取ると優しげに笑う。


「それと実は……さっき優希ちゃんが手を差し出したところにどこからともなく私のファンデーションが出現したところ見ちゃったんだよね……さっきはびっくりして怖くなっちゃったけど、なんか大福がしてるって思うと怖くなくなっちゃった!」


「そうだったんですね……」


 どうやら自分では隠しているつもりだったが、だいぶ不審な行動をしていたらしい。

 しかし、純粋に先輩が信じてくれたことは嬉しかった。


「大福くんはいつも先輩の足元近くにいるんです。たぶん先輩のもの隠しているのは大福くんだと思います。大福くんが咥えている間は普通の人には見えないようで、どこかに置くと見えるみたいです。でも大福くんからは嫌な感じしないですし、むしろそれを誇らしげにしている感じで……先輩何か大福くんがするイタズラに心あたりあります?」


「はは! なるほどね〜イタズラか〜あっ! もしかしたらあれかも!?」


「何か心当たりがあるんですね?」


「うん。大福は寂しがり屋さんでね、私がどこかに行こうとすると私のものを隠して、自分の側から離れないようにしちゃうの。普段は良い子なんだけど、そうなると気がすむまでなかなか返してくれなくて大変だったな……」


 先輩は昔を思い出し懐かしむように優しい微笑を浮かべる。本当に可愛がっていたんだろう。



「そっか優希ちゃんには見えるんだ……私も見えたら良いんだけど……もう亡くなってるのにこんなこと聞くの変だけど、元気そう?」


 先輩は寂しそうに顔を曇らせ、そして心配そうに私に問いかける。


「はい。いつも嬉しそうな感じで先輩の近くにいますよ。イタズラはしちゃうけど、きっと先輩のことを守ろうとしてるんだと思うんです。大福くん周りの空気は綺麗ですから」


 先輩は安心したように微笑んだ。

 しかし、謎なのは何故他の人がいる時はものを隠さないのかということだ。今も先輩足元で寝そべってのんびりしている。


(先輩が一人の時は独り占めしたいってことなのかな?)


「でも先輩も度々物がなくなると困っちゃいますよね……何か良い方法ないかな?」


「そうだね〜でもいつもは誰かに迷惑かけるようなことには基本的にならないんだよね。不思議なんだよね〜私今パートで事務の仕事してるんだけど、いつも私は早めに準備して彼より先に家を出るんだけど、物が無くなると、結局彼が見つけてくれて一緒に出勤することがあるの。そういう時も何とかギリギリの電車には乗れて会社に遅れたこともないし。会社内で物がなくなって探していても約束の時間にはギリギリ間に合うぐらいには見つかるし。こっちはヒヤヒヤするけどね……」


 そういえば先輩はいつも時間にきっちりした人でどんな人との約束であっても必ず時間前には準備して待ってくれている人だった。後輩である私にもいつもそうで私はいつも待たせてしまったことを謝っていた。すると先輩は「私が勝手に早く来てるんだから気にいないで!」と優しく笑ってくれていた。


「そういえば、さっきが初めてかも?」


「何がですか?」


「優希ちゃんが来る前に多分宅急便の人だと思うんだけど誰か来たのよ。最近置き配とかもあるから、宅急便の人なら管理人さんがエントランスのドアだけ開けるの。エントランスのインターフォン鳴らなかったけど、この部屋の外のインターフォン鳴ったから多分宅急便かなって。ちょうど私が化粧してる時で、せめてファンデーションだけ塗ろうって思ったらファンデーションが無くなったの……仕方なしにこのまま出ようと思ったら今度は洗面所の扉が開かなくて……」


「そうだったんですか……そういえば私宅急便の人とエントランスですれ違いました」


 せっかく来たのに出てこなかったからイライラしていたのだろうか?

 私は先程のことを思い出して、完璧に八つ当たりだなとため息をつく。そしてふと思い出して尋ねる。



「でも先輩私が来た時はファンデーションされてましたよね?」


「あー結局洗面所の扉から出れたときには部屋の前には誰もいなくなってたし、その後すぐ優希ちゃんが来たから、咄嗟に試供品でもらったのを使ったのよ…」


 先輩が苦笑をもらし、その慌てっぷりを想像して大変だったんだろうなと私も苦笑いを浮かべる。



「でもねこういう誰かに迷惑かける感じのことは初めてだなって……いつも誰かと会う前には返してくれたり、今までは宅急便の人が来て出られないなんてことなかったのに」


「そうなんですか?」


「そうなの! 会社から帰る時やちょっと外出するときにも無くなっちゃうことはあったけど、外出の時はちょうど外回りに出ようとしてる社員の人が見つけてくれて一緒に営業車に乗せて行ってくれたり、帰る時は一緒の駅に向かう後輩がちょうど通りかかって見つけてくれて一緒に帰ったり、何だか私が一人にならないように見守ってくれてるのかしら?」


 先輩は首を傾げ困ったという表情になる。私も大福くんの意図がわからず、先輩の足元に目を向けるが、今は気持ちよさそうに伸びをするだけで、理由はわからなかった。


(でも流石にそういうことが続くと困っちゃうよね……私の時は出れたみたいだし……いったい何の差なんだろ?…………迷惑はかけたく無かったけど……やっぱり聞いてみるしかないかな……?)



「先輩、こういうことに私より詳しい人を知ってるんで話を聞いてみますね。もうしばらくはこのまま様子を見てもらえますか?」


「本当!? ありがとう! お願いします!」


 先輩が困っているのに放っておくことは出来ないし、このままでは手詰まりだ。私は申し訳ないと思いつつも結局真人さんの言葉に甘えることにした。


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