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どうやらお家に帰れなくなったようです【4】

カランカラン


「「いらっしゃいませ」」


「あっ! 優希さんお疲れ様!」


「優希さんお疲れ様です」


 真人さんと二郎くんの声に緊張がほぐれてくる。


「お疲れさん」


 真人さんや二郎くんがいるのは勿論だが、鞍馬さんも店に来ていたようだ。

 私がカフェに入るとこちらを振り返り、ほっとしたような表情でみんなが迎えてくれた。


(最近鞍馬さん店員並みに店にずっといるよね…)


 私がそう思いながら鞍馬さんを見つめると、鞍馬さんは「なんだ?」というようにこちらを見つめ返してくる。




「ところで葵の家の様子はどうだったよ?」


 真人さんにカウンターに座るよう促され、私は鞍馬さんの隣のカウンター席に腰を下ろした。

 すぐに二郎くんが「どうぞ」とコーヒーを出してくれた。



「ありがとう!」


 二郎くんの可愛らしい笑顔と温かいコーヒーに癒され、ふーっと息を吐く。


 今日は説明を受けただけで何もしていないが、やはり気疲れしていたようだ。私は一息つくと見聞きしたことを話す。



「そうですね。とりあえずとても大きな家でしたね……お二人の様子ですが、晶子さんは少し疲れているようでしたが、透くんは今日は元気そうでした。ただ喘息で保育園を休む時は様子を見てほしいと最初に言われるぐらいですから、体調を崩すことは頻繁(ひんぱん)にあるのかもしれません……」


「やはりか……」


 私は突然背後から聞こえてきた少女の声に驚き、パッと振り返る。



「ざ、座敷わらしさん!? いつからいらしたんですか?」


「あー今日お主が葵の家に行くと聞いていたので、朝からこの店にいたのじゃ。ただこの歳の子供が一人でずっとカフェにいるのも他の客から見たら不審じゃろうから、今まで姿を隠しておったのじゃ! 今はちょうど客がおらんからな!」


「そうなんですか……」


 そういえば以前、人の目に見えるように力を操作出来るとは聞いていたが、実際に突然現れるとドキッとしてしまう。


 私はふーっと息を吐き出し、疲れからか(だる)く感じる肩を回す。

 するとチラリと私を見た座敷わらしさんが「よいしょ!」と必死に私の隣のカウンター席に登ろうとする。

 私が体を支えて座るのを手伝うと、「すまんのう」と何とか席に座り終えた座敷わらしさんが一息ついた。

 そして私の肩に手を当てポンポンと埃でも払うような仕草をする。


 私は首を傾げ座敷わらしさんを見つめる。

 そしてあれ?っと肩をさすった。怠かった肩が急に楽になっている。

 びっくりして座敷わらしさんを見つめると、彼女はにっこり笑う。



「楽になったじゃろ?」


「はい……でもどうして……?」


「穢れを祓ったのじゃ。と言っても薄く(まと)っていた程度じゃから、それぐらいで済んでいたのじゃがな」


 座敷わらしさんは険しい顔で俯く。

 きっと晶子さんと透くんをとても心配しているのだろう。一時家に入っただけでこれなら、あの家に住んでいる二人はやはり相当体に負担がかかっているはずだ。



「ありがとうございます。私、葵さんの家の様子、しっかり調べますね!」


 座敷わらしさんに宣言すると彼女はきょとんとした後、ふっと笑った。


「お主には迷惑をかけてしまったな。だがお主のお陰で二人の様子を知ることができる。わらわは中にも入れんからな……ありがとう。そうじゃ! お主の名前まだ直接聞いておらんかったな」


「そういえばそうですね。私の名前は幸神優希と申します」


「うむ、優希か……よし、覚えたぞ! では優希、そなたにこれをやろう」



 座敷わらしさんは目を閉じると両手をそっと合わせた。すると合わせた手の中から光が溢れ出す。座敷わらしさんが手を開くと、そこには5cmほどの小さな人形が乗っていた。

 人形と言っても精巧(せいこう)なものではなく、布の切れ端で作ったような手作り感溢れるもので、そこが味があって可愛いらしい。



「ふふ! 可愛らしいですね。ありがとうございます!」


 私がにっこり笑い受け取ると、鞍馬さんが口を開く。


「なんだ気前がいいじゃねーか。そんな手の込んだもんやるなんて」


 手の込んだもの…確かに手作りっぽくはあるがそんな作り込んでいるという印象は受けない。自分の手の平に乗せてじっと見ていると、鞍馬さんが人形を手に取ろうとして、座敷わらしさんに手を叩かれた。



「いてっ! 何すんだよ!」


「それは優希にやったものじゃ! お前が手に持てば形が変わるじゃろ!」


(え! そんな脆いの!?)



 私は先程指で握ってみたがどこかが崩れたりしなかっただろうか?

 私が必死に人形が大丈夫か確認していると、私の困惑が伝わったのか、真人さんが笑い出した。


「優希さん、大丈夫ですよ。優希さんが持っても簡単に壊れたりするわけじゃないですから。その人形には座敷わらしさんの力が込められていて、特に力があるような人が触るとその力の形変わってしまうという意味なんです」


「そ、そうなんですね……」


 私は安心してふーっと息を吐き出す。流石に貰ったものをすぐ壊したというのは相手に失礼だ。

 手が込んいるというのは、そういうことなのかと納得する。


(力が込められているって言ってたけど、どんな力なんだろ?)


 するとまるで私の心を読んだように座敷わらしさんが説明してくれる。


「その人形には穢れを寄せ付けぬ力を込めてある。これから葵の家に行く時は身につけていけば、体が怠くなることもないじゃろう」


「ありがとうございます!」


 私がお礼を言うと「うむ。」と少し得意げな顔で座敷わらしさんが頷いた。




「そういえば……今日お宅を案内してもらって気になる部屋があったんです。」


 私が話を戻すと、みんなが真剣な顔に変わる。


「気になる部屋とは?」


「その部屋だけは絶対に入らないでと言われました。ですので中を見てはいないんですけど、何ていうか嫌な感じがしたんです……こう背中がゾクっとするような……」


「そうですか……優希さんには『()る』力があるようですし、気のせいというわけではないでしょう。そこに何かがあるのかもしれないですね……座敷わらしさんは思い当たる部屋などありますか?」


「いや。わらわはが住んでいた時は家の中はまだ大丈夫だったからな。わらわがいる場所は多少浄化されるし、どちらかというと庭の方から感じていたがな……ちょくちょく様子を見に行くだけになってからは目的の部屋にしか寄らなんだし……」


「そんなら原因となるものが家の中に移動したのか……それか突然家に入れなくなったことを考えると中と外、それぞれに何かあるのかもしれねーな」



 鞍馬さんと真人さんが悩ましげな表情で考え込む。

 不謹慎だがその表情は艶めかしく、目を惹きつけられる。

 ぼーっと見つめていると、ふと顔を上げた真人さんと視線が重なる。真人さんの首を傾げ優しく微笑む表情に、私はパッと目を逸らす。


(いやいや! 今そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!)



「そ、そういえば、外といえば葵さんのお宅のお庭すっごく綺麗なんですよ。業者さんを一月に一回は呼んで、整えてもらってるそうなんです。来週がちょうど業者さんが来られる日みたいで、対応を頼まれました」


 私は気恥ずかしさを隠すようにお庭について話し出すと、鞍馬さんと真人さんがはっとしたようにお互いの顔を見合わせた。

 そしてニヤッと笑い合うと今度は私に視線を向ける。


「早速良い情報掴んでんじゃねーか!」


「これはありがたい情報ですね!」


 私は二人の反応に戸惑いながら、いい笑顔を向けてくるイケメン達にドキドキしながら、顔に出ないようにそっと深呼吸するのだった。

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