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プロローグ

誤字脱字あるかと思いますが、お楽しみいただければ幸いです。


『圧倒的に足りてない!!』


 机に突っ伏し、心の中で声を大にして叫ぶ。


(ああ……早く帰りたい……早く帰って休みたい……足りなさすぎるのよ! 私の休息が!!)


 睡眠不足と手入れする時間もないせいで、パサパサになってしまった髪。以前は真っ黒で艶があり、自分の中では自慢だった髪も今は見る影もない。

 平凡な容姿でも化粧をすればそれなりに綺麗に見えた顔も、今やクマが常にあり、それを何とか化粧で目立たなくさせている状態だ。


 この会社に勤めて五年。

 必死に働いて、毎日の平均睡眠時間は約四時間。

 休みも取れず、やっと一仕事終わり、休めると思うと、振られる仕事……そして仕事で埋め尽くされていく予定。


 何度休みを取ろうとしても、その度に言われる一言。


「あの案件やっと終わったんだ。まあ、もっと早く終わってもいい仕事だったんだけど、幸神(さいのかみ)さんだから仕方ないよね。この案件もさっさと終わらしてね」


 こちらの顔も見ず、携帯を触りながらファイルだけ机に投げつけてくる上司にブチギレそうになる。



(……くそっ……)


 だが私は社会人。この理不尽にも何とか震える手を握りしめて必死に耐える。

 顔は無理矢理作り込んだ笑顔で、ひくつく頬をなんとかこらえながら、平静をよそおいつつ、心の中で毒づくのだ。



(じゃあお前がやれ! お前は一体なんの仕事してんだよ! いつも定時で帰るうえに常に業務中はケータイばっか触りやがって。お前のPCどこにあるんだよ。PC無しでどうやって仕事進めてんだよ! そのバーコード頭の黒い縦ライン全部刈ってやろうか!)



 キーンコーン


 無常にも就業終わりの鐘がなる。

 そしてそれと同時に立ち上がる上司。


「じゃあ僕帰るから。明日の朝一でその案件の資料使うから、今日中にまとめといてね」



(…………)


 ひくつきながらもなんとか頑張って張り付けていた笑顔が消える。

 席に戻るとドスっと腰をおろした。



(はぁぁぁぁーーー。ふざけるな!! いつもこうだよ!)


 そして先ほど渡された資料に目を落とし、ため息をつく。


 こうして私は今日も終電に間に合わず、タクシーで家に帰ることになるのだった。





 なんとか仕事を終え、自宅の前に着くとポストの中のものを取り出す。

 鍵を開け、中に入って郵便物を確認する。


「あれ? 実家から?」


 大きめの封筒の中には幸神優希(さいのかみゆうき)様と大きく書かれた友人からの結婚式の招待状と実家に届いた私宛の郵便物。

 そして母から一筆添えられていた。


『前に家に届いてたの忘れてて、優希に送るの遅くなっちゃった! 仕事忙しいのはわかるけど、たまには京都に帰っておいでよ』


「お母さん、これだいぶ前じゃん……」



 私はため息を吐きつつ机の上に招待状を置いた。


 実家を出て一人暮らしをしてみようと、京都から離れたところで就職した。そのせいもあり、連休を取らなければ実家に帰れない。しかし、連休が取れないためずっと帰れていないのだ。


 二年目まではまだよかった。とても頼りになる優しい先輩がいたのだ。

 だがその先輩が寿退社をしてからが大変だった。とても優秀な人だったので、あの仕事量をさばききれていたのだ。

 そしてあの上司が異動してきて、より状況が最悪になった。

 結果、今の残業地獄だ……



「はぁ……」


 私は一つため息をつくと、着替えるために奥の部屋に向かおうとして、一度足を止める。そして(きびす)を返すと机の上の母からの手紙をもう一度手に取る。


 何となく母からの『帰っておいで』という一文をじっと見つめた。



(…………うん……)


 私は一つ頷くと、決意して顔を上げる。


「そうだ、京都へ行こう!」



 某テレビCMのごとく呟くと、私は早速自分の荷物をキャリーケースに詰め始めた。


 きっとこの時、私は疲れでおかしくなっていたのだろう。

 そしてこの時はまだ、あんな不思議なことに巻き込まれていくなんて想像もできなかった。


 翌朝、会社に電話で辞めるとだけ告げるとすぐさま電話を切り、私は新幹線で京都の実家に向かったのだった。



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