負の連鎖
優しかったあいつはやはり己の優しさのせいで死んだ。
困っている人を見殺しに出来ないと言って大荷物を持ったご老体がそこにいれば駆けつけて荷物を持ってやったりしていたし、転んで膝を擦りむいた子供がいれば治癒魔法を使って治してやったりしていた。
なんでそんな無意味なことをするんだ?と俺が聞けばあいつは無意味なんかじゃないと少しだけ憤慨したように俺に言った。
『優しさが伝われば優しさが返ってくる!だから私は困ってる人がいたら助けたいんだ!』
偽善者の言い分に反吐が出そうになった。
どうせ、俺達が何をしてやったところで俺達は化け物であいつらは俺達を迫害するだけだというのに。意味がわからなかった。
『大丈夫!いつかルカにも分かる時が来るさ!』
そう笑顔で言ったアイツだったが、結局人間達は俺達を化け物として扱った。
ただただ人よりも長生きで、魔術なんていう物が使えるだけだというのに人間は魔族だ何だのといって俺達を殺しにかかってきた。
殺しにかかってきた人間の中にはアイツが助けてやっていた人間の姿もあって、やはりアイツが行ってきた事は無意味だったんだと思うと何故か胸の奥が痛かった。
『ルカ!逃げて!』
一瞬の隙を見せた俺は人間が放つ矢に気がつかなかった。
そして、矢にいち早く気が付いたアイツは俺を押しのけるとその矢によって心臓を貫かれて死んだ。
呆気なく、本当に呆気なく230年と生きたアイツは死んだのだ。
矢を放った奴は転んで膝を擦りむいて泣いていた小僧だった。その目には憎しみしかなかった。
アイツの優しさは人間に何にも伝わらなかったのだと思い知らされた瞬間だった。
「だから言っただろう!人間なんて信用するなって!優しくしたところでアイツらにとって俺達は魔族で化け物なんだって!」
なにも言わなくなったアイツの亡骸を腕に抱きながら俺は天に吠えた。
おしゃべりだったアイツはもう何も語らない。
お節介だったアイツはもう何も俺に助言しない。
幸せにしてやりたかったアイツは………俺の代わりに死んでしまった。
苦しくて悲しくて辛くて仕方がなかった。
諦めていた筈だったのに人間と仲良く出来やしないって諦めていた筈だったのに、底抜けに優しいアイツがあんな事を言うから少しだけ期待してしまった。
その結果がこれだ。
愛した人は二度と目を覚さない。
俺を取り囲む人間達は俺達を憎々しげに見て武器を構えている。
俺達がお前達に一体何をしたと言うんだ!
俺はともかくアイツはお前達の助けになっていた筈だろうが!!
何でこんな目に遭わなきゃならないんだ!
理不尽な扱いに俺は無意識のうちに魔力を放出していた。
それによって青々としていた空にどんよりとした雲が集まり、ポツリポツリと雨が降り出した。
そうだ、この悲しみは雨によって流してしまえばいいのだ、原因となった奴ら諸共。
「人間よ!滅びてしまえ!!」
突如降り出した大雨によってそこそこ大きかった村は土石流に巻き込まれて地図上から消えた。
そして、それを皮切りに人間と魔族との戦いが激しくなり、愛していた人を失った青年魔族は魔王となって人間達を滅ぼすために立ち塞がるのであった。
愛する者を失い心を壊してしまった魔王は気が付かない。
己もあの人間達と同じ事をしているということに。
罪のない人間を手に掛けているということに魔王となった青年は勇者によって倒されるまで気がつく事はなかった………。