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母なる海はすべてを見ている。見ているだけだが。

バイクをひたすらに海まで走らせる。海までは一直線らしく、遠くに海の青い輝きが見て取れる。実は生まれてこのかた海というものを見たことがない。本物はもちろん仮想の海すら見たことがない。なので海は青いという噂と魚が住んでいたという歴史しか知らない。

百年ほど前の話らしいが、大きな世界規模の戦争があったらしい。その時に海に有害物質が海にばら撒かれたらしい。その影響で海は完全に生物の住める環境ではなくなった。そして今は、というか以前だが、海に入ることどころか近づくことさえ禁止されていた。違反すれば一発で刑務所行き。酌量も罰金も猶予もない。追加するならば年齢すら関係ないと来る。海は完全な禁則地であった。別にアンタッチャブルなわけではないが、変に興味を持たないようするためなのか公の場所で語られることはない。たまにアングラなサイトや番組でその話題が示唆される程度だ。余談だが刑務所に入った連中の五割は海に近づいたからだという噂がある。本当かは知らないが。馬鹿はそこまでいないと思うのでさすがにデマだと思いたい。

だが今はもうそんなことはない。守る理由も管理にあたる警察もいない。たしか全ての生物は海から生まれてきたらしい。それなのに産んだ人間に毒を撒かれ、何も住めないようにされるとはずいぶん哀れな話だが。

どういうルートを通ろうとも必ず海に寄る予定だった。刑務所がひどすぎて少し予定を早めたので少し急がなければいけない。


 遠くに海が見えるとは言っても、いったいここからどれだけの時間を掛けなければいけないのかさっぱり見当もつかない。遠すぎたり大きすぎると遠近感が狂うというが海は地球の半分以上を占めるという話だ。仮にそれが本当ならば実はここから海まであと一日かかるという可能性もある。途中でガス欠を起こしたら本当に本気で泣いてしまうかもしれない。だが正直気持ちが逸ってしょうがない。ここまで来て最大のイベントともいえる海の前で事故など起こしてはたまらない。しかもこの先は工場跡があるらしい。大事をとって今日は早めに休むことにした。


 明朝、いつもよりも早く起きる。・・・いや時間はわからないが。いつもより太陽の位置が低い、ような気がするのでたぶん早いのだろう。たぶん、きっと。手早く食事を済ませ、すぐに出る。

快調にバイクをとばす。最大限急ぎつつも安全運転を心がける。安全も何も対向車線も歩行者も信号もないのだが。しばらく走ると工場跡に差し掛かる。思ったよりも道路は片付いていて、そこで調子に乗ってスピードを出した。


 次の瞬間、大きな衝撃が走る。どういう因果か思い切り空中を舞う。余程飛んだのか海が見える。そこには真っ青な海が見えた。今まで見たどんな絵画や映画よりもずっと美しい光景がそこには広がっていた。海の想像なら何度もしたことがある。だが想像をはるかに超える美しい光景だった。百聞は一見に如かずという諺は本当だったらしい。でも残念ながら時間切れだ。人間に空は飛べない、空中に放り出されたということはその後に自由落下が待っている。もう一度強い衝撃を感じる。さっきよりもずっと強いやつでしかも次は車体ではなく、自分の身体だ。よもや都市伝説だと思っていた紐なしバンジーを体験することになるとは。

特に身体は痛くない、正確に言うならば何も感じない。落ちた時にそこかしこに残っていた、工場の残骸。その中でもひと際大きい鉄骨からすれば人間の身体など豆腐同然だろう。自分の胸から生えた鉄骨と痛々しい傷が自分にはもう時間がないことを教えてくれていた。ここまで来て、ほとんどゴール目前と言っていい地点で退場とは笑える。

あの人と同じように旅をして日記を書いた。ただ一つ違う点があるとすれば自分の後がいないことだ。誰にも会わなかった。隣に誰かいるわけでもない、これだけの大きな音が響いてだれかが来るわけでもない。あの人ほどいろいろ回れたわけではないが自分的にはまぁ及第点だ。


・・・とてつもなく眠い、寝るか。もう夜更かしは終わりだ

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