ゴーストタウンならぬゴーストビレッジか。どっちでもいいな
また幾日かバイクを走らせる。特に地図を見たりせずに調子に乗ってバイクを走らせていたので何もない集落に辿り着く。本当に何もない。自動車も家政婦もなければ料理を作るアレもない。科学が届かなかったわけではなく、科学を拒んでいる人が一定層いるという話は聞いたことがあるが、実際にその痕跡を見るのは初めてだ。一体どうやってここに住んでいたであろう人が暮らしていたのか想像がつかない。少し気になるのでいろいろ見て回ることにする。
家の造りからしてもう古い。教科書でしか見たことのない古風な一軒家が立ち並んでいた。造りのことなどは学生時代に学んだことがある気がするのだがさっぱり思い出せない。二重窓構造とか言ったか、急な寒冷化に対応してそんな技術が生み出されたと聞いた気がする。ちょっと怪しい、授業など寝ていた記憶しかない。恐らく並木街道であったそれなど不合理の極みだ。既に植物に代わる酸素生成器は開発されており植物など一部のもの好きな学者しか所有していない。観葉としての役割はARに変わった。既に本物の植物は人間世界には必要ないと判断されて久しい。別に失くそうというわけではなく、なにはともあれこれらが古い技術であることは事実であり、好奇心がだいぶそそられた。
これは一軒家というやつか。始めて見た。今では一軒家など本当にごく一部の金持ちしか住めない代物だ。一国の総理や大統領などでは到底手の届かないものだといえば理解できるだろうか。ここまで何もない田舎であれば住めたということか、ただ家以外の全てを諦めなければとてもとても住めない。電波が通じるのかすら怪しいこの場所ではどこにも繋がれない。どこにも繋がれないということはすなわち世界との別れであり、文字通り「死」に等しい。大多数の人間はそうでありそんな状況に耐えるのは一日が限度だ。人嫌いを自覚している僕でさえ三日が限度だった。世界がこんな状況になって五年以上、さすがに慣れたがはじめのころは本当に発狂するかと思った。
初めて入った一軒家は恐ろしく広く、庭に部屋が計五つもあり度肝を抜かれた。多くてもリビングを除いて二部屋が限度だったというのにこの解放感は確かに多くのものを捧げる人間がいても不思議ではない。
周回遅れの生活スタイルに気を引かれて碌に街の中を見ていない。明日で良いか。
街か?ここ。どれだけの人数が住んでいるのか想像がつかないのでよくわからない。そんなに大きい場所でもないし、街でいいか。いや、町か。
・・・どうでもいいな。寝よ。