錆色の街は案外やかましい
慣れ親しんだ街を離れて早一週間。やっとそれらしい街に着く。都市部に住んでいたのでそこを離れて、街を探すのはそれなりに労力が必要になるもので時間がかかった。いずれどこかで足を調達しなければならないだろう。軽トラは街を直前にして壊れた。人がいなくなってどれくらいが経ったかは知らないが、街の大半は崩れるか植物に覆われてかろうじて道路やらビルに巻き付いたツタっぽい何かの隙間から人工物であることをうかがうことができる。人がいない街と言うのはここまで静かになるものなのか。幼いころに気まぐれで夜中に街を出歩いたことを思い出す。だがあの時よりもずっとずっと静かだ。人がいないだけでここまで街は音が無くなるものなのか。いや、人がいないというよりも人の営みがない、か。とにかくこの街に暮らしていた人は皆出ていくか息絶えるかしたのだろう。ここ最近は歩きっぱなしだったので足がパンパンになっている。生まれてこの方インドアを貫いて生きてきた身としては辛いばかりだ。いずれ、ではなく早急に足が欲しい。できればこの街にいる間に。
マンガやアニメでは人間のいなくなった街は植物と動物の住処になっている描写をよく見るがあれは事実だったらしい。少なくともこの街はビルは木の代わりと言わんばかりに蔦、たぶん蔦が巻き付いているし、鹿やらよくわからん動物が散歩していた。襲われなかったのは運が良かった。まぁ刺激さえ与えなければ大丈夫のような気がするが。ただがっつりと目が合うのはかなり怖かったのでもう会いたくはない。あの「生きてます」と濃いマジックペンで書いてあるような目や全身からその身一つで生きていると主張されるのは非常に精神的によろしくない。彼らはそんなこと考えずに生きているのかもしれないが視界にいるだけで自尊心がやすりで削られていく音が脳内に反響する・・・気がする。
ともかく街の中に生活空間を見つけられたのはかなり大きい。前に住んでいた場所に比べれば少し機能は劣るが十分に過ごせる。今日は街に来ただけで時間を使い切ってしまったので探索というか散歩は明日にまわそう。野生動物に襲われないことを星にでも祈っておこう。
あの人のまねをして日記を書いてみたがうまく書けただろうか。誰が見るかもわからないが。そもそも読まれるかもわからないが。
人がいなくとも街は静かではなかった。動物、風、植物、建物、存在するあらゆる物質が音を立てている。身も蓋もないことを言えば非常にうるさい。そのうち慣れるとは思うが。