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トレジャー・フィンガー~全取の盗賊  作者: 桐谷瑞浪
トレジャー2 偽りと破綻の司
22/24

22ゲット アトラスとの戦い(10)

南の右は黄金。

 俺が『シンギュラの盗賊』について話していると、自信ある組がいる辺りがまたしてもざわざわした空気になった。


「そういえば、今はあちらのリーダーは誰なんです?」


 俺がテッドさんに聞くと、テッドさんはなぜか気まずそうに後頭部に手をやった。


「いや、何。俺がやろうとは思ったんだぜ?」

「別にそんなことは聞いてませんけど」


 何気なく俺がそう指摘すると、テッドさんはなぜか更にバツが悪そうな感じになった。


「ははは。実はな、今のあっちのリーダーは、――新顔だ」

「しんがお……」

「要はアレだ。その、……仮面野郎たちをしょっぴいたヤツらに取って代わられた」


 自信ある組の中で捕まらなかった人たちも、アザロルの都で事情を聞かれることになっている。

 事情とは、アトラスという魔物を解き放ってしまった経緯らしかった。


「連中からすると、アトラスを世に放ったのは俺たち。特に『シンギュラ』が主犯格と見なされた」

「そっ、そんな……」

「現にああして暴れてる、あのデカブツこそが証拠ってこった。そう言われちゃあ、このテッド=フェイトといえどもってな」


 話題に出てきた『シンギュラ』とは『シンギュラの山賊』のことだ。

 すると話を聞いていたザインさんが、ある事に気付いた。


「俺たちは?」

「ん、なんだザイン」

「疑われてんのは俺たちなんだよな。でも俺たちは俺たちでも自信ない組にいる、この俺たち。こっちには、連行したがりのヤツらは全然絡んでこない。それって、もしかして……」

「あ、ああ。まあ、なんだ。ザインが考えてる通りさ」


 もはや申し訳ないといった表情になりながら、テッドさんはそう苦々しく説明した。


「相手にされてないんだ。俺たちだけ」

「そういうこった」

「ど、どういうことです。テッドさん、ザインさん」

「イアロ。そしてみんな、すまねえ。お前たちはこの国に侮られた」

「国……!?」


 この国とは、トリマックの国以外に考えられない。

 つまりテッドさんは、自信ない組だけがなぜかトリマック国に見下された、と言っているのだ。


「ほんの少し、自信ある組から距離を開けて移動していたから。理由はそれだけだ」

「なっ、……!?」

「仮面のアイツ。盗賊ランキング上位トップクラスのゲッシュ=トマキャス。アイツに付かなかったという意思表示、およびアトラスに対する戦意喪失または制御放棄というのが大義名分だ」

「待ってください。話が急すぎて、何がなんだか」


 冒険者のエミーさんがテッドさんに声を上げた。


「私たちが、山賊に付いただの付かなかっただのと言う話になったのですか?」

「なった」

「理由は何ですか?」

「それは、ある程度は説明したつもりだ。簡単に言うと自信ある組を今、仕切ってんのはトリマックの連中。議員とその用心棒たちだ」

「議員、ですって?」

「ああ」


 テッドさんの話にまごまごするエミーさんをよそに、俺には話が飲み込めてきた。

 トリマック国は先鋭民主主義と呼ばれる過激左派が政治の最大勢力だ。

 そして行動からして、どうやらその勢力――最大与党『緋色の友の党』――が自信ある組に介入してきたようだ。

 噂には聞いていたが、あの党はそこまですることは有名だ。


「お前たちの名前は議員たちには知られていない。ただ、逆に言えば……まあ、それが連中が見逃す条件らしい」

「見逃すなんて、人聞きが悪いね。テッド、ちゃんと言うべきことを言わなきゃ!」

「ベニリオ。ベニ、落ち着け。サヒアルの存在はバレてねえんだ。力がある人間はなるべく助けねえと」


 テッドさんとベニリオさんが話し込み始めたところに結界を、もはや張りっ放しにしているサヒアルさんが言葉で割って入った。


「私のことは、お気になさらず。いずれこの遠距離攻撃が収まったなら、なんとなれば私が皆さんの無実を主張しても構いませんよ」

「そうなのか?」

「ええ。私は由緒ある正神聖会という宗教組織に所属しています。私の言葉であれば、国政を妨げない限りは権力者たちにもそれなりには届くはずです」


 サヒアルさんはみんなに、にっこりと笑いかけた。魔力ポーションはわずかしか残っていなかった。

 かと言って、先ほどの行商人のところに戻るのは、あまり意味がなかった。――テッドさんが彼らからほとんどのポーションを買い占めていたからだ。


「なんだか、シェナニガン・コアどころじゃなくなってるッスね」

「はい。マシューさん、お気を確かに」

「えっ。へ、へへ。リーダー。別に気持ちはしっかりしてるッスよ」


 シェナニガン・コアのために集まった色んな人たちなのに、斜め上の展開で俺たちは砂氷山からさえ離れてしまった。


「マシュー。シェナニガン・コアは不吉な財宝。アトラスが来たっつうことは、もしかしたらアレを手にするのは俺たちの中の誰かかも分からんぜ」

「兄貴……!」


 テッドさんやマシューさんの瞳は、こんな状況なのにキラキラ輝き始めた。

 シェナニガン・コア。偽りと破綻の司。

 もしかしたら『シンギュラ』の面々がトリマックの議員たちに捕らえられたのも、テッドさんがいう「アレを手にする誰か」が俺た

 ちの中から現れる暗示なのかもしれない。

 なぜなら不吉とシェナニガン・コアは一心同体のはずだからだ。


「みなさん、アトラスがいるほうから何か来ます!」


 サヒアルさんが叫んだ。

 そして俺たちにもそれが見えるように、部分的に結界を弱めて視野を確保してくれた。


「な、なんだあれ」

「人間、にしては奇妙な装備だ」

「うん。なんだかあんな肌の生き物みたい」


 アトラスは未だに飛翔体を発射していたが、更に未知の人型生物が俺たちのいるほうに走ってきていた。

 武器のようなモノも持っている。

 どうやらサーベルのような細身の剣のようだ。


「ゴォオオオオオ!」

「ゴォオオオオオ!」

「ゴォオオオオオ!」


 アトラスが発するような轟音。

 それが幾つも聞こえてきた。

 山びこでないなら、側面から迫り来るあの生物たちが出している音のようだった。


「ウソ。まさか、あの人間みたいなのもアトラス!」

「なんなんだよ、俺たちが何したってんだ」

「罰当たりな財宝を追って大凶引いた。そう考えると……ああああ」


 何人かが発狂しかけていた。

 並みの冒険では中々やってこない極限の環境。そんな様子が続けば無理もなかった。


「リーダーくん。あなたの技でなんとかなる?」

「えっ」

「えっ、じゃなく!」


 ベニリオさんに促され、なんとなく俺がなんとかしないとならない雰囲気になった。


「体力ポーションはまだ幾らかある。腕試しのつもりでバチンと決めてこい」

「てっ、テッドさんまで」

「さあ、行け全取見習い」

「全取……見習い。はあ」


 本体の巨大なアトラスよりは、なんとかなりそうな見た目ではある。

 それに味方はいるのだから、危機が来ても集まりに戻ればいいだけだ。


「イアロ=レム。勝ってきます」


 俺は単身、アトラス人間たちに戦いを挑みに飛び出した。

 飛翔体が来たら危ないのは確かだ。

 だけど小さなアトラスに爆発が当たれば、本体にもまずい影響があるなら飛翔体はそろそろ撃って来なくなるのではないか、と俺は予想していた。


「おおおお」


 魔法の笛から呼び出した、加速板を強く蹴り押した。

 加速板。それは魔力で走る板だ。

 込める魔力次第では、世界一周を2時間でやってのけるほどの潜在性があると俺は、じいやから聞いたことがあった。


「覚悟!」


 俺はトレパクールを実行した。

 ちょうど110コの品。

 逆に言えば、110コあればトレパクールはどんな品でも盗み去る。


「ゲットぉ」


 サーベルをいただき、俺のすぐ背後ではなく自信ない組の集まりの元に送り込んだ。


「ゴォオオオオオ!」

「丸殴る」


 俺は丸殴る理力にしたパクールで、7体いたアトラス人間を一網打尽にした。

 丸く大きくした理力を水平に凪いだのだ。

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