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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

デスゲームでプレイヤーキルが無くならない理由

「ぐ……ああ……」

 悲鳴が漏れていく。

 そんな自分の声を聞きながら、男は絶望に苛まれていた。

「な……ん……」

 なんでこうなる?

 どうしてこうなる?

 俺がいったいなにをした?

 ……そう言いたいが声も出ない。



 意識投影型体感ゲーム。

 脳とネットワークを接続する機器を使ったVRゲーム。

 それを遊んでる最中に起こった事件。

 離脱不可能になってゲーム内にとらわれる。

 ゲーム内での死亡と同時に肉体も過電流によって死亡。

 断線などによる強制的な離脱も同様に死亡。

 解放条件は一つ。

 ゲームの攻略のみ。

 そんなデスゲームに多くの者がとらわれた。

 その一人が冒頭の彼である。



 今、彼は今まさに死のうとしていた。

 HPはゼロになり、生き返る事は不可能。

 規定時間内に蘇生魔法や回復物品を使用すれば助かるのだが。

 そんな事をしてくれる者はいない。

 ここにいるのは彼一人。

 他にも仲間はいたが、それらもとっくに殺されている。

 彼が最後の一人だった。



 助けが来る事も期待できない。

 他にもプレイヤーはいるだろうが、それらから切り離されるように追い込まれた。

 そういう風に動いていた敵は、相当になれてるのだろう。

 言いたくは無いがさすがである。

「この……」

 出来る事と言えば、悪態をつくくらい。

「PKプレイヤーが……」

 PKプレイヤー。

 プレイヤー・キル・プレイヤー。

 ゲームで用意された敵ではなく、プレイヤーを殺すことを狙ってるプレイヤー。

 そんな奴らに追い込まれ、追い詰められ、今、殺されている。



「なんで……」

 どうしても納得がいかなかった。

 こうなった事はもう取り返しがつかないが、それでも知りたかった。

 なんでこんな目にあうのか?

 どうしてこんな事をするのか?

 疑問が口からもれる。

 答えが聞けるとは思ってない。

 だが、どうしても聞きたかった。

 聞けなくても言わずにおれなかった。



 彼はこのデスゲームにおいては中堅といった位置にいた。

 攻略組と呼ばれるゲーム攻略の最前線で戦えるほど強くは無い。

 生産組と呼ばれる、装備や消耗品を作れる者達の中でも上位にいるわけではない。

 人を率いたりまとめたり、作戦を考えたりも出来ない。

 そういったものの上位に入れるほど能力を成長させる事は出来なかった。

 何もしないで怠けてるわけではないが、攻略に貢献は出来てない。

 だが、普通に活動して普通に生きてはいた。

 こうして殺される程の事はしてない。

 彼自身はそう思っていた。

 彼の隣人や知人などもそう言うだろう。

 殺されるような悪いことはしてないと。



 だから彼は、自分を殺したのは理不尽なPKプレイヤーだと思っていた。

 人をいたぶるのが好きな。

 人をけなすのが好きな。

 人を傷つけるのが好きな。

 そういう性質をもって生まれてきた人間。

 そういう奴が殺しに来てるのだと思った。

 明確な理由や原因など無く。

 彼自身の落ち度が原因でもなく。

 ただ殺すのが好きな、生まれついての殺人鬼がやってきたのだと。



 そういう人間は確かにいる。

 他者を貶め、けなし、踏みにじるのが好きな人間が。

 境遇や環境によってそうなったわけではない。

 そういう人間性を生まれ持ってきた。

 そういう人間は確かにいる。

 PKプレイヤーというのは、そういう連中なのだろうと言われていた。



(こいつらも……)

 おそらくそうなのだろうと思った。

 自分を殺しに来たのに理由は無い。

 ただ、そこに狙える奴がいたから。

 殺す事の意味も、ただ自分たちが面白いから。

 それだけがこんな事をする理由なのだと。

 だから、

「本当にふざけた奴だ」

 そう言われて驚いた。

「最後まで自分が正しいと思ってるんだろうさ」

 その場にいた別のPKプレイヤーの言葉にも。

 それはまるで、殺された方に問題があると言ってるように聞こえた。



「こいつ、自分が何してんのか分かってないんだろうよ」

「だろうな。

 でなけりゃあんな事言えないわな」

 地面に転がる殺した相手に、そんな言葉を吐きかける。

 実に忌々しそうに。

 その声に殺された方が疑問を抱いた。

(なんで……?)

 どうしてそんな風に言われるのかが分からない。

 そんな被害者に加害者の方は言葉を投げ続ける。

「まあ、偽善者ならそんなもんだけど」

「共犯者はこれだからなあ」

 それは何かしらの悪事に協力してるという事だった。

 だが、被害者にそんな過去は無い。

 少なくとも彼は自発的に悪事に荷担した事は無い。

 だから余計に混乱した。

(勘違いなのか?)

 そうも思う。



 だが、続く加害者達の言葉はそれを裏切っていく。

「こいつらのせいで悪党扱いだったからなあ」

「誰のおかげでまともに生きてられるのか分からねえんだろうよ」

「それなのになあ」

 どうも間違って追いかけてきたわけではないようだった。

 口ぶりから相手の事をしっかりと把握してるのが窺える。

 だとすれば、いったい何をしたというのか?

 それがさっぱり分からない。

「まあ、PKされてないからなんだろうけど」

「かもな。

 だからPKをかばったんだろうし」

 彼らの言葉は続く。

「おい、おぼえてるか?」

「お前らが文句を言ったPKプレイヤー殺し」

 それは被害者への糾弾だった。

「危険なPK野郎どもを殺したら、お前らなんて言った?」

「俺らを危険な奴らとか言ってたよな」

 それが被害者の罪を明確にしていく。

「PKにおびえていたのによ。

 それを倒したら悪党かよ」

「冗談じゃねえ。

 いつ殺しに来るかわからねえ奴らを殺したのに」

「それで人殺し扱いされちゃたまらねえ」

「そんな連中まで助けてやるほど、俺たちは狂っちゃいねえんだよ」



 その言葉で思い出す。

 かつてあった出来事を。



 PKプレイヤーに対処するために、何人かのプレイヤーが立ち上がった。

 彼らはPKプレイヤーを見つけ出し、それらを始末していった。

 最初は逮捕して投獄。

 それでどうにかしようとしていた。

 だが、すぐにそれもしなくなった。

 見つけたらすぐに殺すように。



 それだけの理由もあった。

 まず、殺さずに捕らえるのは難しいということ。

 生け捕りというのはそれなりの技術がいる。

 それをするには、PKプレイヤーは手強すぎた。

 伊達に人を殺してるわけではない。

 対人戦闘の技術はかなりのものだった。

 それらを捕らえるとなると、相手以上の技術が求められる。

 有志達には残念ながらそこまでの力は無かった。

 ゲーム上での能力はあっても、対人戦の技術が備わってるわけではない。

 それにはプレイヤー自身の能力や技術が必要になる。

 そこが欠けていた。



 このため捕らえる為に何人かのプレイヤーが犠牲になってしまっていた。

 さすがにそれは無視できるものではなかった。

 PKプレイヤー一人を捕らえるのに一人二人の命が失われる。

 得られる成果に対して損失が大きすぎた。



 それで捕らえたとしても、今度は拘束する術が無い。

 身柄を拘束しても、隔離しておく施設がない。

 一応、違反プレイヤーを一時的に拘束しておく施設はある。

 ただ、それらはシステム側が運用してるものだ。

 プレイヤーの意思でどうにかなるものではない。

 しかも、一定時間で釈放される。

 その期間はさほど長くは無い。

 数時間からせいぜい数日。

 その程度の拘束期間など、悪さをする者達にとってたいしたものではない。



 それをプレイヤーが用意するとしても、やはり問題は出てくる。

 なんらかの施設を購入すれば、確かに監禁なども可能にはある。

 購入した人物が入退場などの設定を自由に出来るからだ。

 この機能を使って刑務所のような隔離施設にする事も出来る。

 だが、これも抜け穴があり、万全とはいえない。



 結局、捕らえても隔離し続けるのが大変なのだ。

 不可能とまでいかないまでも、手間がかかりすぎる。

 その為、PKプレイヤーの脅威から他の者を守る方法は一つだけになってしまう。

 二度と行動が出来ないようにすること。

 このゲームにおいてそれは、死亡以外になかった。



 その為、PKに対抗していた者達はPKプレイヤーに容赦をしなくなった。

 見つけ次第に殲滅。

 降伏勧告なども行わない。

 そんな事をしてる間に逃げられるか攻撃される。

 そんな危険をおかしてまで相手に配慮する理由が無い。



 そうした容赦の無い行動の結果、PKプレイヤーの多くが消滅した。

 それに応じて被害者も激減した。

 PKによる死亡がどれだけ猛威を振るってたのかがよく分かる。

 多くの者達がこの結果を喜んだ……とはならなかった。



 何でもそうだが、異を唱える輩というのはいるものだ。

 その良否はともかくとして。

 PKプレイヤーの殺処分も同じだった。

 これを非難する者達もあらわれた。

 曰く、そこまでする必要があったのか。

 曰く、彼らも人間だ。

 曰く、PKプレイヤーを殺した者も同じだ。



 こういった非難が出てきた。

 PKに怯える事がなくなったというのに。

 また、PKプレイヤーを処分した者達が狙ったのはPKプレイヤーだけである。

 無辜の一般プレイヤーではない。

 だが、そんな区別もなにもなく、プレイヤーを殺したから殺人者という短絡的な思考を発揮した。

 それに同調する者もあらわれた。



 PK対処に励んでた者達からすれば寝耳に水どころではない。

 他の誰でも無い、プレイヤー達が余計な事で命を落とさないよう努めていたのだ。

 なのに、そうして守った者達から非難をされる。

 それに対して説明もしたが話を聞く者はいない。

 あれこれと屁理屈をつけて反発してくる。

 文字通り、お話にならなかった。



「PKプレイヤーは確かに許せない」

 そうは言う。

 だが、これを次の言葉で即座に否定する。

「しかし、彼らも人間だった」

 それはそうだろう。

 しかし、重要な事項を省いている。

 処分したのはPKプレイヤーである。

 一般人ではない。

「そんな人間を殺した者をどうして許せるのか?」

 許すも何も、そうしてなければもっと多くの死者が出た。

 だからやるしかなかった。

 その事がそっくり抜けている。

 意図的に省いている。



「PKプレイヤーを殺した彼らも、PKプレイヤーだ」

 暴論も出てくる。

 PKプレイヤーは無辜のプレイヤーを殺す。

 対向した者達は、PKプレイヤーだけを殺す。

 この両者のどこが同じなのか?

 更には、

「彼らはPKプレイヤーと同レベルだ」

とのたまう者まで出てくる。

 何が同じなのか?

 対抗する為に、殺すしか無かった。

 それのどこが同等なのか?



 こういった発言には共通点がある。

 最も重要な部分が抜け落ちてる。

 意図的にそれを抜いている。

 都合の良いところだけを出している。

 彼らは決してこれを語らない。

「では、有効な手段は?

 どうやれば良かったのか?」

 代案である。

 彼らの発言にこれはない。



 そんな発言に、対向者達も嫌気がさした。

 危険を冒した結果が、非難である。

 やってられるわけがない。

 PKプレイヤーに対抗していた者達は、それらから手を引いた。

 おかげでPKはその後も続くようになった。

 あと少しで根絶というところまできて。



 幸いな事に、PKプレイヤーの多くが死亡していた。

 その為、PKそのものの数は減った。

 だが、取り締まる者はもういない。

 被害者の数自体は減ったが、その後も継続的に発生するようになった。



 その被害者に、PKプレイヤー処分に反対した者達が名を連ねていく事になる。



「まあ、自分が何をしたのか、少しは理解して欲しいけど」

「無理だろうな」

 加害者達の声が被害者の耳に入る。

 消えそうになる意識の中に。

「こいつら、自分が正しいって最後まで思ってるだろうさ」

 その通り。

 被害者は、かつてPKプレイヤー処分に異を唱えた者は今も自分が正しい思っていた。

 どんな理由があれ、人殺しは良くないと。

 人を殺したら、人殺しと同じところにおちると。

 だからPKプレイヤーの処分に反対した。

 人として、それだけは踏み越えてはならない一線だと。

「だから馬鹿なんだよ」

「そうだな」

 その声が胸を突く。

 自分の全てを否定されて。



「やらなきゃ自分らもやられるってのに」

「分かってないんだろ、こいつら」

「やっちゃいけないって、じゃあどうしろってんだか」

「そんな事考えてないんだろうよ。

 こいつら、自分らの夢の中で生きてるから」

「現実見てないのは確かだよな」

 その声はもう倒れた者に届かなくなっている。

 HPゼロから本当の死に至るまでの猶予が消えてきていた。

「そこまで言うんだから、殺されても文句はないんだろうけど」

「でも、こういう連中って往生際が悪いんだよね、不思議と」

「死にたいっていってるのに、死にたくないって態度だからな」

「何がしたいんだろうね、本当に」

「分からん」

 ため息が出る。

「こいつらが何をしたいのか、本当にわからん」

 何より一番分からないのが、

「そもそも、どうやって対処しろってんだろうな?」

「本当にそこなんだよな」

 これについては一切何も言いはしない。

 最も重要なところなのに。



 そんな彼らの前で、かつての加害者は消えていく。

 かつて不当な非難を浴びせた相手によって。

 それはゲーム内のあちこちで繰り広げられていく。

 かつてPKの脅威を取り除いてくれた者達によって。

 そんな彼らを非難した者達が次々と。

 それは決して止まること無く実行されていく。

 最後の一人が倒れるまで。



 それが終わったのは、ゲーム攻略によりプレイヤーが解放される数ヶ月前になる。

 だが、それとは別に、PKプレイヤーによるPKはゲーム終了による解放直前まで行われていた。

 もし、非難が無ければ、もっと早くPKが消えていたかもしれない。

 その機会や可能性は、一部のプレイヤーによって潰された。

 その償いを、代償を多くのプレイヤーはゲーム終了直前まで支払い続ける事になった。

 PKの恐怖におびえながら。

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