最近
「最近、ちょっと太ってきたわ」
「最近、ちょっと飲みすぎかな」
両親のその言葉を聞きながら、いや、最近じゃねーだろ!
とツッコミを入れたい気持ちを抑える。
母さんはずっと前から太ってるし、父さんはいつも飲みすぎて、テーブルの上で寝るじゃねーか。
最近じゃねーから!
「やっぱりダイエットしようかしら。今日から1日林檎だけ」
「今日から禁酒するぞ!」
これこれ、また言っている。
っていうか、そう言いながら夜になると普通に飯食ってる母さんに、父さんは翌日には今日は疲れたからって、ビール飲んでるよな?
「……智樹、帰ってこないわね」
「どこ行ったんだろうな」
だったら、警察に捜索願いを出してくれ。
俺の死体はまだ山の中なんだって。
けれども今日も俺の言葉は届かない。
家の飼いネコのタマだけが、にゃーと泣いて俺を慰めてくれる。
『あの、そろそろ成仏されては?』
『は?俺の死体がちゃんと供養さえるまで、あの世に行かねぇっていってるだろう?』
『ですが、いつになるか……』
『ああ、わかんねぇなあ』
死神は残念そうに溜息をついている。
俺は一年前に山で遭難して死んでしまった。自殺じゃねーぞ。
魂だけの存在で、幽霊って奴なんだけど、成仏する前に両親を見てみたいと言ったら、死神の野郎が連れてきてくれた。
んで、この両親見てると、飽きねーの。
だから、俺は両親が俺の体を見つけてくれるまで、成仏しないことにした。
『本当、成仏してください!』
死神は細い顔をしたサラリーマン風の男で、泣きそうに俺に頼み込む。
『やだね!』
今日も俺はそう答えて、家に居座る。
「あ、今日は特売の日だったわ」
いや、母さん。それ昨日だった。
本当うちの両親おもしれー。
(おしまい)