勇敢な。
ファンタジー
勇敢な。
勇者は勇敢なものだ。
けれども、それは最初からではない。
ここにある勇者の話をしよう。
彼は、伝説の宝剣「カリバー」を抜いて勇者に認定された少年だった。
ひょろっとした体つきは頼りなく、勇気のかけらも何もない。
そんな普通以下の少年だった。
けれどもカリバーを抜いてから、彼の人生は変わった。
環境が人を変える。
まさにその通りだと思う。
意識もだ。
少年は自分に自信がなかった。
けれども、周りにおだてられ、またカリバーがとてつもなく強い剣であったため、彼はどんどんモンスターを倒して強くなっていった。
いや、彼自身は実際には何も変わっていない。
意識だけが膨張していったのだ。
そんなある日、彼は剣を盗まれてしまう。
少年は青年に成長しており、女遊びも知るようになってしまった。
ハーレムパーティまで築くようになってしまって、そのうちの一人のハーレム要員が彼を裏切り、剣を盗んだのだ。
正直、剣を抜いたのは彼であったが、誰にも扱える剣だった。
なので、剣の新たな所有者になった男が今度は勇者として敬われるようになった。
その入手手段はとても言えたものではないのだが。
けれども人というのは本当に無情なもので、彼がいくら盗まれた主張しても誰も信じてくれなかった。
彼の周りのハーレム要員もどんどんいなくなり、ただ一人だけになってしまった。
それは彼の村から一緒についてきた、最初の仲間で、幼馴染の女の子だった。
「ユージン。もう帰ろ。勇者なんてどうでもいいじゃない。魔王は彼が倒してくれるんだから」
彼ーーユージンは最後の仲間に説得され、村に戻ることにした。
ところが、その途中で彼らは不幸にも魔王に会ってしまう。
「これは、これは本物の勇者様じゃねーか。宝剣を盗まれるなんで馬鹿だねぇ。っていうか人間も腐ったものよ」
魔王は笑いながら立ちふさがる。
「剣は持っていないが、お前が本物の勇者だ。あのカリバーは強いが本物が使わないと、俺を倒せないのさ。馬鹿者だなあ。あの偽物は本当に愚かだった」
「愚か……だった?」
「おお、いいところに気が付いたな。偽物は俺が葬った。剣は捨てちまったよ。お前のような弱っちいものを倒すの気がすすまねーが、面倒なことになると嫌だからな」
魔王は黒い剣を構えると、ユージンを断ち切ろうと振り上げる。
「ユージン。ここは私が。あなたはあの剣をどうにか探してきて。お願い。あなたじゃないと魔王は倒せないのでしょう?」
呆然とするユージンの前に幼馴染の少女が立った。
「行って!お願い」
けれどもユージンは行かなかった。
「僕は勇者になんてならなくていい。君を犠牲にするくらいなら、ここで死ぬ」
幼馴染の少女を突き飛ばし、勇敢にもユージンは魔王の前に出る。
「死ねや!」
鼻で笑うと魔王は剣を振り下ろした。
「な、なぜだ?」
魔王の剣はどこからともなく現れた剣によって受け止めれていた。
「くそおお。宝剣が、こいつを主をして認めたのか!」
『ワタシを使え!ユージン』
その時、彼の耳に初めて声が響いた。
一緒に旅をしてきたとき、一度も聞こえなかった声だ。
『今、この時、君を勇者として認める。そして君がワタシの主だ』
「ありがとう!」
ユージンはカリバーの柄を握りしめると、魔王に向かって行った。
こうして、魔王は倒されて、世界は平和になった。
彼は、勇敢な心を持って初めて勇者になり、魔王に勝つことができた。
そうしてユージンは幼馴染と一緒に村に戻り、家庭を持って末永く暮らした。
(おしまい)




