きらきらと。
目の前に広がるのは広大な海。
きらきらと海辺が太陽の光を反射して輝いている。
「こんなところまできちゃったかあ」
彼はそうつぶやいたが、それに答える声はない。
「さて、この海をどう渡るか。それとも諦めるか」
彼はひたすら歩いていた。
前に前に。
一応食料として食パンとペットボトルの水をリュックにいれてきており、ここ三日、どうにかそれでしのいできた。
けれども、道の途中で店があるわけもなく、追加の食料も水も買うことはできていない。
この辺で諦めるか、と彼は腰を下ろした。
潮風が彼を無いでいく。
「なんか、ねっちょりしている風だなあ」
そういえば海に来たのは初めてだったかもしれない。
彼はそう思って、この崖を降りて海を堪能しようかと思い始める。
「まあ、でもどうやって降りるかな」
彼は崖の端っこまでいって、眼下を覗き込んだ。
すると風が吹いて、彼を海に誘い込もうとする。
「あ、ぶねぇえ!」
どうにか踏みとどまって、彼はぼんやりと空を見上げた。
「面倒くせぇな。全部」
そのままごろんと横になって、流れていく雲を見る。
いつの間にか、太陽が見えなくなっていた。白い雲の中に、たくさんの灰色の雲が混じっている。
「雨降るかなあ」
雨具など持ち合わせているわけもなく、雨を凌ぐ建物すら周りには見当たらない。
ぼんやりとしていると、やはり雨が降り始めた。
ぽつぽつと振ってきた水滴は、あっという間に集合体と化す。
体全部を打ち付けるように雨が落ちて、さすがに彼も飛び起きた。
「とりあえず木の陰に」
それしか名案が浮かばず、彼は木陰に走る。
それで少しは雨が凌げるが、雨は止む気配はない。
「雷が出てきたらアウトだな」
彼の声が呼び水になったようで、ごろごろと嫌な音が聞こえ始めた。
「まじか。うわ、俺の運もここで尽きたか」
そんなことを言っているが、彼は運がいいほうではない。
そもそも、運がいい男なら、こんなところで食料も水も底をついて、雨宿りなどしていない。
「死ぬか、生きるか、運試し。やっぱり死んだほうがいいのかな」
旅の目的はそれだった。
仕事も首になって、家賃も払えず家を追い出された。
両親は健在だが、健在というだけで、生きるのに精一杯という感じだ。
だから、実家に帰るわけにもいかない。
彼は自分が死んだほうがいいか、生きたほうがいいか、賭けに出た。
「まあ、どうせ。こうなるとは思っていたけど」
雷に打たれて死ぬのか。
「楽に死ねたらいいな」
雷が雨宿りをする木に落ちるのを彼は待ってみる。
しかし、雷は音を鳴らすだけ、しかもどんどん遠いのいく。
そのうち雨も止んでしまった。
「おーい!あんた!」
急に呼ばれて、彼はびくっと体を揺らす。ゆっくりと声がした方向を見ると、おじさんがいた。
彼の親戚のおじさんではない。
二日前、道を歩いていると彼は軽トラックとすれ違った。
トラックに道を譲るため、道の端っこによけた彼を運転手のおじさんが心配そうに見ていたのを覚えている。
「いてよかったよ!うちの母ちゃんが、多分自殺する人かもしれないから岬に行って来いっていうもんだから、来たけど。よかった!あんた、ずぶ濡れじゃないか。風呂貸すからうちに来なんせ」
話したこともない、ただすれ違っただけのおじさんにそう言われ、気がついたら彼は大きな涙を流していた。
「泣くんやない。あんた男じゃろう。さあ、タオルで髪拭いて」
おじさんはタオルを彼の頭にのせると、停まっている軽トラへ歩いていく。
「ほら。来なんせ。またきっと雨降り始めるから」
「はい」
しょっぱい味が口の中に広がる。
彼はタオルで涙を拭って、おじさんの後を追った。




