似たモノ同じモノ
やっと明るくなってまいりましたでしょうか
緑色の肌にボロ布を巻き付け粗末な武器を振り回すゴブリン。
「ガギャッ!」
そして武器が振り上げられて。
「ひっ」
間一髪、避けられた。小さい体で良かった・・・っ!
って私幼くなってる!?
あれ?そういえば私は誰だっけ?
ここはどこだっけ?
「ギ、ギギギ」
ゴブリンが土にめり込んだ斧を引き抜こうと呻く声でそれどころじゃないと気がつく。
逃げ、なきゃ・・・!
私はとてとてと走り出す。
裸足で木の根やら石を踏みつけ泣きべそかきつつ必死に走る。
頭が痛くて何度も転ぶ。痛い痛い。
ただそう感じる。痛くてたまらない。
それでも足は止まらないで動いてくれる。
振り向けば。
「ガキャギャッ」
「プルリュン」
ゴブリンだけじゃない、スライムまで加わっていた。
1匹だけじゃない、2匹3匹、数える度に増えてゆく。
大群がどんどん距離を縮めて来る。
止まったら殺される。溶かされる。
嫌だ。痛いのは嫌だ。誰か助けてっ!!
・・・その願いが届いたのか。
「レイ」
誰かが現れた。誰かが私を抱き止めた。
「レイ、大丈夫。」
あぁ・・・そうだ。私はもう大丈夫。
もう一人じゃないんだ。
温かい。大きな手がそっと頭を撫でている。
「大丈夫、大丈夫だよ」
大丈夫。もう、大丈夫。
何度も言い聞かせる。
・・・あぁ、そうだ、これは
「君は夢を見ているんだよ」
夢だ。
私はもう、一人で怯えなくていいんだ。
目を開けると優しい茶色の瞳をみつけた。
イヴさん、じゃない父さんだ。
「目は覚めたかい?」
私はぐしぐしと顔を拭った。
「うん・・・」
「酷く魘されていたようだけど」
まだ少し魔物に襲われたことが堪えているらしい。
体が縮こまる。
もう無いはずの傷跡が痛い。
ただの幻痛、というか今となっては実際の痛みさえ無視して動こうと思えば動けるのに。
「大丈夫かい?」
大丈夫。これは心の問題。過ぎたこと。
ただの記憶。体は何ともないんだ。
「だいじょぶ」
自分に言い聞かせる。
それに体が大丈夫じゃなかったとしたって。
私は死なないんだ。
万が一もなにもない。
あぁそうだよ、痛みってたしか。
体を守るための危険信号って言うじゃないか。
なら別に守らなくたって死なないんだから無視して良いじゃない。
だから・・・そう、だから
「だいじょうぶ」
痛みを無視する。
ましてや今回、実際に傷があるわけじゃないんだ。
うん、大丈夫。私は痛みなんかに邪魔されない。
「うん、だいじょうぶ。」
私はにこっと笑ってみせた。
これ以上無駄な苦しみも心配かけさせる事も必要ない。
「そうか。・・・おはよう、レイ」
「とーさん、おはよう」
私は可愛らしいデザインの子供用ベットから起き上がる。
「おいで、朝ごはんにしよう」
こくん、とうなずく。
そしてベットから降りようと・・・し・・・
うっ、四方に柵あるんだった。
流石、子供用ベット、寝相悪い子供が落ちないように対策は完璧。
子供が夜中に抜け出さないようにしてる。
「・・・」
私は無言でだっこ、と、手を伸ばした。
痛みと同じように羞恥心も無視をし続けよう。
リビングのイスに座らされた私は改めて部屋の中を見回す。
父さんはじっとしている様に私に言うとキッチンへと消えていった。
暖炉に火はない。
その上には、あのイザベラさんとレイラちゃんの写真が変わらずに立てかけられていた。
供えられた花は、昨日とは違ったモノになっている。
スイートピーモドキから桜によく似た花に。
体感的にも視覚的にも春らしい。
ここに四季があるのか分からないのだけど春ということにしておこう。
家電は1つも見当たらない。
この世界には魔法があるからだろう。
あるのは見たこともないはずなのにどんなものか分かるモノだ。
あのタペストリーは室内の温度や湿度を調整する魔道具。
あっちの水晶は通信の魔法が組み込まれている。
具体的に使い道が分かる。
エアコンと電話に代わるものだ。
どうやら私は魔法陣やその役割を担うものを見ることでそれがどんな魔法か理解できるらしい。
ただ理解できるのは魔法単体。
魔法が理解できても具体的に使いみちの分からない魔道具もいくつかある。
例えばミニ竜巻を起こす魔法陣が刻まれた石版。
畳半分ぐらいのサイズで窓際の隅に置かれている。
まさか防犯?
悪い人が入ってきたら吹き飛ばして追い返す?
いや、踏んだら発動とかじゃなさそうだしそんなトラップじみたものじゃないな。
うん、分からないな
もう一つ目についた分からない魔道具は。
硝子のような球体。
表面には数字が0から9を意味するものまで等間隔に刻まれたオブジェ。
中心から長針と短針らしいものがそれぞれ2本ずつ、別々の文字に向かって伸びている。
組み込まれた魔法は連動して動かす、かな。
なんだろうあれ。
・・・もしかして時計?
そうだとしたら、だいぶ元の世界と時間というものが違う気がする。
1日は果たして24時間なのか、1時間は60分なのか。
一応、日とか時間、分、を意味するらしい言葉はあるから概念自体はあると思うんだけど。
後で父さんに聞いてみよう。
まぁ何はともあれ魔道具がいっぱいあるのだ。ワクワクする。
というか、今になって思い返してみれば。
昨日お風呂に入れられたときに魔道具いろいろ使われていたような気がする。
ドライヤーとか蛇口に魔法陣ついてなかったっけ?
乾燥させる、お湯が出る。
一目見てそう認識したけれど。
あれは別に元の世界で同じ形状で同じ役割を持っていたものを知っていたから理解したんじゃなくて。
魔法を見てドライヤーだな、蛇口だなって思ったんじゃない?
うわぁ私、初めての魔法スルーしてたよ。
「お待たせ・・・って頭を抱えてどうしたんだい?」
いつの間にか戻ってきていた父さんが心配そうに見下ろしていた。
誤魔化すようにぐーっとお腹が鳴った。
「とりあえず、食べようか」
「うん・・・」
腹が減っては戦は出来ぬ。
いろいろ気になること聞きたいこと知りたいことあるけれど今はご飯を食べよう。
コーンポタージュモドキのスープ。
煎餅のようなパンのようなもの。
レタスによく似たものの上にフレンチドレッシングモドキがかかっているサラダ。
・・・いやもう、よく似たとかモドキとかいちいちつけなくていいや。
得体のしれないものとかって考えると、食欲無くしそうになる。
他のものもめんどくさいし、よっぽど変わってなきゃ元の世界の物に当てはめて考えちゃおう。
なにはともあれこれが異世界3食目とメニューだった。
多分昨日とほぼ同じ。
うつらつうらしながらだったから記憶曖昧だけど。
「代わり映えしなくてごめんね」
「ううん、ありがと」
私を拾ってくれてバタバタだったのだ。
料理している暇なんてなかっただろう。
とりあえずそんな言葉が出るってことはずっとこれ!ってことではないだろうし安心しておこう。
「いただきます」
「いたら・・・いただきます」
スープを一口。
うん、やっぱり美味しい。
メシマズ異世界じゃなくて良かった。
食事お粗末異世界なら現代料理チート無双ってものが思い至るけど。
この体じゃ料理ロクな出来ないし。
そんなことを考えながらスープでふやかしたパンを頬張った。
父さんはそんな私と目が合うと微笑んだ。