けっかん
血管 欠陥
今更かもですがグロ注意です。
あ私は鉄格子越しにそのヒトを見上げた。
パッと見人間だけれど、額から伸びる二本の角が人間ではないことが分かる。
筋骨隆々で獣の毛皮を雑に縫い合わせて作ったような服を纏ったその姿はまさに鬼。
昔話で悪とされることの多い者。
鬼が叫ぶ。
「殺しちまったかと思うほど痛めつけてやったんだぞ!?」
・・・実際、死んだんだけど。
殺されて、死んで生き返った。
私はそう確信していた。
そして釣り上がった目を丸くする鬼を静かに見つめ返す。
恐怖や怯えは押し殺す。
死なないんだから怯える必要は無いと自分に言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫。
私は子供じゃない。
それに前世の記憶っていう強力なアドバンテージも持ってるんだから。
落ち着いて、鬼の言葉に耳を傾ける。
「人間、なのか・・・?」
それは私も思う。
死んでも死なないって人間なのかな?って。
でも、人間として生きた記憶の続きとして私は存在してる訳だし一応は人間なんだと考えてるんだけど。
まぁ、人間だと言うことにしておこう。
なにはともあれ、こうして生きている訳で。
「・・・ねぇ、私は誰なの?」
私はこてん、と頚を傾げて聞いてみた。
私として生きている以上、それが気になるもの。
物語のあらすじ程度の情報量しかないこの世界での記憶の欠片を少しでも増やしたい。
「しゃ・・・喋ったァ!?」
「人間なんだから話せるよ」
「だってお前、さっきまで虚ろな目で、呻くだけで」
「正気を取り戻したの」
驚く鬼と、自分でも確信出来ていないことを答えとして返す私。
・・・うん、これなら答えてくれるかな?
「それでどうなの?私は何処の誰?」
「・・・知らねぇ。お前は仲間がどっからか攫ってきた小娘だからな」
「その仲間は何処?」
「魔王のトコに行ってる」
「魔王」
それは多くの物語で悪とされる者。
勇者や英雄と相反する者。
「お前は魔王に献上するために捕らえたんだ」
最近の物語だと魔王が良い存在として描かれている物も多いけど献上するって言葉が出るあたり・・・。
アウト。
ドン底が待ってそう。
うん。逃げよう。
私がそう決意したと同時。
「ってなんで奴隷なんかの質問に答えなきゃなんねーんだよっ!?」
鬼が鉄格子を蹴った。
ガシャン!!という音から少し遅れて振動が伝わってくる。
まだ聞きたいことあったのに。
「・・・そうだ、動くなら今度は言うこと聞くように躾だよなぁ」
今度は下卑た笑み。
鬼が檻の鍵を開けると同時、私はビタン!と床に叩きつけられた。
「っぁ!」
息が止まる。
動けない。
枷が床にへばりつき、仰向けで大の字になる形で体が固定された。
・・・魔法だ。
磁石のような仕掛けの魔法。
私は枷と床に浮かび上がる術式を見て理解する。
他にもこの枷にはサイズ調整の魔法が付与されているらしい。
まぁ、理解してもその魔法を解除する事は出来ないんだけど。
だから・・・仕方がない。
「ふぬぬ・・・っ!!」
力技で枷から手足を引き抜こうとしてみる。
「無駄無駄、もう一度分からせてやる」
「ん〜!」
檻の中に入ってきた鬼が真上から見下ろしてくるけど気にしない。
キィキィと枷と床が擦れる音を響かせる。
「お前は!奴隷なんだよ!」
私は手足でガードすることも出来ずに鬼の暴力に再び晒される。
血を吐く。
それも気にしない。
「が、ふっ、ぁああああ」
痛い。
痛い。
痛い・・・なぁ。
漠然と感じるそれも私は無視して。
さらに手足に力をこめる。
・・・人というのは痛みで自分の力をセーブするらしい。
そして私はその安全装置たる痛みを無視した。
「あああっ!」
「は?」
呆然とする鬼の足元でブチブチと音をたてるのは枷、だったらどんなに良かったか。
・・・私の体だった。
肉が、血管が引きちぎれる音。
血がさらに流れる。
それでも力は緩めない。
「あぁあああ・・・!」
ちょっぴり動いた枷だったが血が触れた瞬間、強まった磁力でまたガッチリと固定される。
枷の締付けも強くなる。
鬼が何かしたわけじゃない。
これは私の力。
血が触れた魔法を強化増幅する力。
私はそのまま渾身の力で・・・ぶちっと。
「とれた」
手首ごと、枷が。
やった・・・!
出来た!
あぁ、でも、血を止めなきゃ折角逃れられたのに貧血で倒れてまた捕まる。
止血、しなくちゃ。
そう思えば、吹き出す血は草木へと形を変え、傷口を苗床に伸びてゆく。
枝先に咲き誇るのは花。
数滴、赤い雫が床へと落ちる。
その結果。
私は体の節々から真っ赤な草木を生やした異形へと成り果てた。
「・・・ヒイッ!」
そして、私に怯えた鬼が、死にものぐるいでとどめを刺そうと金棒を振り下ろして来て。
ゴジュッ。
頭部を跡形もなく潰されての即死だった。
何度目か分からない死。
だから、知ってる。
どうなるか。
頭を潰されたから見えないし聞こえないし感じないけれど分かる。
飛び散った肉片、血痕・・・力を失った体が。
ボロボロ崩れて、否、はらはらと散って逝くのが。
ザァ、と花吹雪。
そして次の瞬間には。
「・・・殺してくれてありがとう」
収束した花弁が形作った、片目のみ欠損した私が立っている。
痛みは一欠片も残っていない。
これが、私の力。
不死。
全てを無かったことにするリセットではなく、
自分自身だけを完全な状態に回復するコンテニュー。
・・・まぁ完全とか言いつつ、なぜか目だけは戻ってくれないんだけど。
それにしても死ぬ前に枷全部取ること出来て良かった。
喰われたとか全身跡形もなく潰されるとかしない限り、身に着けてた物はそのままで復活しちゃうみたいなのよね。
自分の不死性を再確認しながら、尻餅をついた鬼を見下ろす。
「ばっバケモノ!!!」
何を今更。
散々私を殺したくせに。
次見に来たときは無傷で無様に転がっているのを見ていただろうに。
というか、私から見ればお前達の方が化物だよ。
鬼さん。
・・・さて、これからどうしよう。
私は考えを巡らせながら、馬鹿みたいに長い白銀の髪を三つ編みにする。
震えて何も出来ないらしい鬼は放置。
逃げるのは容易そうなんだけど・・・檻の鍵開きっぱなしだし。
問題はその先なんだよなぁ。
「はぁぁぁ・・・」
ため息をつきながら、ひしゃげたプレートのついたリボンで毛先に結んで留める。
このリボンは檻の中に転がっていた物で軽く巻くとピッタリサイズに締まるという枷と同じ系統の魔法が付与されたもの。
私は一目見てそう理解したが、ただのリボンとしてそれを使った。
なぜなら私は自分自身で魔力の発動が出来ないらしいのだ。
魔法陣や術式を見れば魔法が分かる・・・知識はあるのに実行する力がないってのは本当にもどかしい。
ちなみにひしゃげたプレートにも何か魔法が付与されていたらしいけど・・・折れ曲がりすぎて術式ががめちゃくちゃ。
魔物、従・・・登録・・・絆?と、断片的にしか分からない。
「なんでこんなことになるかなぁ」
編み上げた髪を引きずらないように腰に巻きつけながら眉間に皺を寄せる。
つまらない人生を歩んだ罰?
普通に生きてただけなんだけどな。
死に様がだめだったのかな。
トラックに轢かれるとか、雷に撃たれるとか、過労死とかだったら良かったのかな。
同じ通り魔に刺されるでも誰かを庇ってとかなら、違った展開になったかな。
「はぁ」
王道や特に面白かった転生譚を思い出しながら再びため息。
・・・まず、死にたくなかったのだけどね。
未練らしい未練は思い当たらないとはいえもっと生きていたかった。
まぁ百歩譲って死んだのは仕方ないとして・・・夢見てたファンタジーな異世界に来れたのは良かったし・・・。
でもさぁ。
奴隷は・・・ないわー。
転生って言ったら貴族が王道なのにその逆。
底辺も底辺。
死なないからってハードモードやめてほしい。
チート能力ください。
・・・いや、うん、不死も十分チートだとは思うけどさ?
本当に死なないだけなんて。
痛覚無効無いし。
その上、自分で魔法使えないなんて酷くない?
折角魔法の世界に来れたのに。
魔法を増幅する力があったって発動してる魔法が無ければ何も出来ない。
しかも血を使うから痛いしグロいし。
花になるってのは綺麗だけども。
言うなればチート能力じゃなくてチートにする能力。
・・・なんの冗談だろう。
しかも奴隷という立場に忌み嫌われる容姿じゃ、私のために魔法を使ってくれるヒトなんて居なさそうなんだけど。
多少自分の意思で操れるとはいえ、増幅だけなら血さえあればいいからそれを狙われる可能性もある。
もしこの力がバレて捕まったら血を抜き取られ続けそう。
死なないから、それはもう、永遠に。
「〜っ!!」
ゾッとした。
不死で痛みも苦しみも無視できるとはいえ、嫌なものは嫌だ。
なるべくなら、怪我もしたくないし死にたくないに決まってる。
だから、そう、とりあえず。
「逃げ、なきゃっ」
私は檻、さらにその外へと飛び出した。
幼女じゃないから引きちぎれるねやったね(正気?)




