喚ぶ
主人公と一緒にわけ分からんと大混乱してください。
壇上には玉座が一つ、ステンドグラスから差し込む光に照らされてキラキラと輝いていた。
その上には下々に高貴な顔を見せぬようにとかいう建前で、顔を布で隠した王。
気絶したままそこそこ時間が経っているのに、目覚める様子は無い。
まあ、好都合だしこのままでいてくれて構わないのだけど。
また女神だとか崇められ救いを求められても面倒だから。
エルおじさんはその横に立ち、駆けつけてきた者達に王の代弁者を装い指示を飛ばしている。
その指示に従って急ピッチで進む魔法を発動させるための準備。
私はというと壁際でイアンに抱えられその様子を眺めていた。
眺めることしかできないから。
キョロ・・・と赤い一つ目を動かしただけでこちらを気にする人たちがいるのだから、作業を邪魔しないように。
耳を澄ますと城下の喧騒がここまで響いてくる。
大きくはなっているけれどキンとするような悲鳴は少なく、人間の雄叫びが聞こえる気がするのは兵にも指示を出していたからだろう。
ショウ、無事でいて。
「儀式を始めますよ」
準備が終わったらしい。
エルおじさんの合図でずらっと並んだローブの人たちが魔力を練りはじめる。
一人一人違う魔力の色。
それはステンドグラスから入ってくる光と混じり、床の紋様を浮かび上がらせる。
揺蕩う光と濃密な魔力の気配に私はまるで水中にいるかのように感じた。
「・・・我らは望む」
エルおじさんが朗々と呪文を唱えだすと魔力の流れに規則性が出てきた。
ドクドクと脈打つ。
「我らは願う」
やがて魔力が床へと染み込みだして。
私ははじめてそれが魔法陣だと認識した。
「我らを守る盾を」
この広い聖堂の床、全てが魔法陣。
とんでもない規模の魔法だ。
これならドラゴンなんて一撃で。
「我らの敵を滅する剣を」
・・・あれ?
これ、攻撃魔法じゃない。
私は光を増してゆく床に視線を走らせる。
「我らに与え給え」
付与、接続に・・・穴、?
複雑怪奇過ぎて断片的にしか理解できない。
「我らに救いを」
これは、風でも水でも火でもない。
なんというか、物質的じゃない。
なんだろう、この魔法。
もっと見て取ろうとしたその時。
私の視界の端で何かが動いた。
「我らに希望を」
それは、花弁。
私の血。
王に傷つけられた頬から零れた、赤色。
触れた発動中の魔法を増幅する私の欠片。
「あ」
思わず声が出た。
過程は理解できなかったけど、もたらそうとする結果は分かったから。
この魔法は。
「異界より強者を我らの元へ!」
召喚魔法。
極彩色の光に飲まれながら私は絶叫した。
その声は魔法の余波にかき消されて誰にも届かなかった。
魔力の光が消えた時。
相変わらず狭い視界に現れていた、人間達。
30人ぐらいの男女混合。
その人達は揃いの制服を着ていた。
女子は私の着ていたものでもないし、男子はショウのような学ランではないブレザー。
でも学生服なのは間違いないだろう。
「・・・ここは?」
「えっえっ?」
「なに?何が起きたの?」
クラス1つ分の生徒が役目を終えた床の上、混乱した様子で騒ぐ。
私は声も出さず、息も止めて彼らに目と耳を向け続ける。
だって。
「どうして いる、ここに?いたはずなのに、教室に」
聞こえて来たのが・・・日本語だったから。
そして。
選ばれし者1人を召喚する結果を変えてクラス召喚にしてしまったから。
「いきなり喚んでしまい申し訳ありません」
呼びかけるエルおじさんの声が遠く感じる。
まぁどうせ、『異世界へようこそ!魔王を倒してきてくださいませんか!』ってあるある展開だろうし聞いていなくとも問題は無いだろうけど。
それよりも問題なのは、余計な巻き込まれなくても良かった人を召喚してしまったということ。
私のせいで。
「・・・レイさん?」
震えだした私を気遣うようにイアンが声をかけてくれたけれど答える余裕は無い。
どうしよう。
どうすることも出来ない。
私は魔法の発動ができないから。
この魔法はあちらからこちらの一方通行だから。
どうすることも出来なかった。
捻じ曲げられたとしても元の場所に接続出来ないと分かったから。
元の世界の別の国・・・だったら良い方でここともその世界とも違う世界に繋がる可能性の方が高かったから。
でもそれは言い訳。
私が、私のせいでこんな世界に引きずり込んでしまった。
私がこんな力を持っていたから、私が血を流したから、私がここにいたから。
王が私を切りつけたせいもあるけれど私がここに存在してなければ、こんなことにはならなかった。
吐き気を通り越した激烈な不快感。
死んだ時に近いような苦痛。
死んでもいないのに自分がぼろぼろと崩れていくような。
・・・私は他人なんてどうでもいいはずなのにどうして罪悪感を感じている?
それは、私は私のせいで誰かに傷ついて欲しくないから。
だって、行き場の無い罪悪感に苛まれたくないから。
私は、どこまでも自分勝手だ。
イーリャンで死にかけていた人達を救ったのは、店員さんへの思惑と自分の力を試すためであって。
自分を助けてくれた人への義理と自分の好奇心。
多分、血花を試し終わっていたり自分を助けてくれた人からの願いじゃなければ、救う術を持っていたとしても助けるかどうかは気分次第だった。
見殺しにしたってそれは私ではない何かのせいだ。
私が助けなかったから死んだとかは思わない。
だからこそ、私は。
自分が、誰かの理由になってしまったのが耐えられなくて。
ショウはいい。
だって、ショウは私を支えにしてるから。
お互い様だったから。
でも、こうして別世界の人間が増えて。
私は記憶だけだけれど、目の前にいる人たちは記憶も姿も全て元の世界のもので。
私はもう必要ない・・・?
そんな思考に反応するかのように、ステンドグラスが割れる音が響いて私を引き戻す。
私の心のように砕け散ったそれの向こう。
黒い光がドラゴンを飲み込むのが見えた。
それから、
召喚された生徒たちのうち立ち直りが早かった数人とイアンと一緒にその地点に向かった私が目にしたのは。
ドラゴンの骸に刀を突き立てた、傷だらけのショウだった。
名前を叫んだけれど反応は・・・無かった。
震えが止まらなくて、動けない。
そんな私と違って。
「大丈夫!?」
召喚された生徒の中の一人がショウに駆け寄った。
そして、回復の力を使い始めた。
召喚によって与えられた力を。
次話、ショウ視点。




