無い居ない
「う・・・ん」
私は小さくうめくように伸びた。
いつの間にか眠っていたらしい。
ぼんやりと目を開くと緑色が大半を占めていた。焦点が合うと美しい森だと理解出来た。
木漏れ日が暖かくて二度寝したくなる・・・けど。
「ん?」
違和感を感じて眠れない。
起き上がり首をかしげる。
この違和感はなんだろう。
夢の名残かな。変な夢だったもの。
魔法がない世界で生きて死んだ夢・・・って。
「あれ?」
魔法がないのがおかしい?
魔法があるのが普通?当たり前でしょ?
私は・・・そう感じてる。
違和感が大きくなってゆく。
私は誰?栞葉 零華?それは夢の中での?
ここはどこ?
こんな虹色の林檎みたいな形の果物なんて知らない。
あれは原初の実でしょ。私の大好物の。逆に林檎って何?赤くて丸み帯びた果実だ。
自問自答、矛盾していく思考。まるで自分が二人いるような感覚。
「なにが・・・どうらっているの」
思わずつぶやいたその言葉は舌足らずな幼い女の子の声となって聞こえた。
しかも日本語じゃない。英語でもなさそうだし、中国、韓国、フランス、ドイツ・・・どれも違うと感じる。
聞いたことのない響きの音の羅列。というか私が理解出来るのは基本、日本語だけだ。
英語の成績は下から数えたほうが早かった。
それなのに。
「なんでらの?」
初めて聞く言語が自分の口から出てくる。
理解できる。
おかしいことにニホンゴ?なにそれ?と感じていたりする。
自分で自分がよくわからない。思考がまとまらない。
記憶も曖昧。矛盾。違和感。孤独。
彷徨う。
空を見上げると太陽が2つ、海に・・・沈むって表現していいのか水面の向こうで揺らいでいた。
太陽が2つって時点でアレだけど空を水の青が覆ってるってところでもう・・・
絶対異世界だよね。
栞葉零華として生きてきた私はそう結論付けた。
分裂していた思考がスッとまとまってゆく。
栞葉 零華に統合されて、今の私が構築された。
ループしかけていた思考と共に歩みを止める。
そこは同じ森の中、小さな池のほとり。
すぐ近くの水面を覗き込むと一人の小さな女の子が映り込んだ。
当たり前だけど私だ。
歳は幼稚園児ぐらいだろうか。
肩ぐらいの長さの白銀の髪。瞳はルビーのような赤。いわゆるアルビノと呼ばれるような外見だ。なかなか可愛い。神秘的な感じがする。
元の私の要素は見当たらない。
そういえばアルビノは色素が少ないせいで太陽に弱いことがあるんだっけ。
本かネットか何かで読んだことがある。
不安になったけれど今のところ肌も目も痛くない。
今は目や肌よりも足が痛かった。
傷だらけの小さな足に視線を移す。
裸足で歩き回ったせい。
血が滲んで砂が刷り込まれてしまっている。
靴ぐらい履かせてほしかった。
「これからどうしよう」
この状況に納得出来る異世界転生という考えにたどりつきはした。
そう考えれば幼女になっているのもこの世界の言葉が理解できることも辻褄は合う。
まあ異世界転生なんてなんでもありの代名詞みたいなものだけど。
神様っぽい少女との邂逅などを総合的に判断するとやっぱり異世界転生としか思えないんだよね。
女神(?)は私の人生に散々ケチつけてくれたけど、悲しいことに自分もそう思うことが多かったけど・・・私も文句を言いたいわ。
山に囲まれた森の中に何も持たせないどころかポケットもないワンピース一着でポイとかひどい。
せめて孤児院とかスラムとかそこらへんに捨てられていればまだなんとかなったかもしれないのに。人がいない。
あれもこれもそれもない。
なんでここにいるのか、この世界の私は何なのかもわからない。思い出や記憶が無い。この体の思い出は栞葉零華としての思い出に塗りつぶされたか魔法で消されたかなにかしたのだろう。
って、分からないことを何のヒントもないのに考えても仕方がないんだってば。
またループしそうになったので首を降る。
とりあえず今は出来ることを。
どうしてこうなった、じゃなくて。どうすればいいのか。考えなくちゃ。
幸い元の世界の思い出と知識はある。
この世界でこの体が学んだらしい知識と魔法に対する知識や感覚は残って・・・いそうかな?
だいぶ雑な認識というかふわっとしたものだけど。
まぁ私、子供だもんね。仕方がない。
それだけ分かっていれば十分。多分きっと何とかなる。本たくさん読んできたし空想ファンタジー知識なら人一倍あるはずだもん。
言い聞かせて不安を押し込める。
知識を実践してみることにした。
魔法だ万歳。
この体ぐらいの年齢の時、シリーズ化した魔法少女(物理で殴る初代)にハマってたじゃないか。
それが現実になるかもしれないんだよ、わくわくしよう。
余りにも絶望的な現実から目をそらそう。
本筋は変わりませんがいろいろ模索中のためちょいちょい編集しそうな予感がします。
ご了承ください。