劣等感
レイ目線に戻りまして。
うわぁ、武器だされたよどうしよう。
私は囲まれて動くこともできず、振りかざされた武器を凝視するしかなかった。
走馬灯としてか、思い出されるのは数分前の事。
私はショウの試験が終わるのを待ちながら1人椅子に腰かけていた。
チラチラ、ヒソヒソと私への敵意や悪意を感じたけれど、実害はないからと気にせずにいた。
いつもならお昼寝してる時間。
赤い一つ目を向けるとざわめきが酷くなることもあって目を閉じ、微睡み・・・
「なんだこのガキィ?」
殴られたか蹴っ飛ばされたか何かされて。
床に叩きつけられ目覚めた。
痛い、のを無視して転がされた床に手をつく。
見上げれば男が私を見下ろしていた。
さっきはいなかった人だ。
ピンクのモヒカンとかいたら覚えているはず。
「だあれ?貴方は」
「なっ・・・テメェは」
私の凪いだ赤目を見たモヒカン男。
一瞬狼狽えたものの愉悦を浮かべる。
弱いものいじめが楽しくて堪らない、といった表情。
「今のうちだ」
「あの黒髪がいない間に」
なんてざわめきが聞こえる。
私が何もしてこない・・・いや、出来ないと分かったのか。
見ているだけ、話すだけだった人も武器を構えだした。
魔物だとか成果だとか言われた私を守ろうと殺気を放ったショウが居ないから。
守る人がいない。
私だけなら殺れるだろうと。
明確な害意と殺意に晒されて私は死を覚悟した。
そして。
残された1つ目の視界が途切れ・・・なかった。
「っ?」
銀色の光が割り込んできたのだ。
キンッと金属音。
ハンマーが弾かれて止まる。
覚悟した痛みが無い。
「レイっ」
名を呼ばれると同時にぎゅっと庇われ、抱きしめられた。
「何を、している?」
低い声で冒険者達に問うのは。
「ショウ」
唯一の仲間。
「遅くなってすまない」
謝らないでよ。
感謝を告げようとして、
「ふぇ・・・」
情けない声が出た。
「少し待っててくれ。」
椅子の上に降ろされ、頬を撫でられる。
その手が濡れた。
・・・私、泣いてる?
「おれがなんとかするから」
優しい声。
その声の主が背を向け、刀を構える。
私に向けられた殺意を遮断する。
「なんだてめぇは!!」
私からショウに標的を変えたモヒカン男が叫ぶ。
ショウが試験に行ってからやって来た、この騒動の発端。
ハンマーを構え直し、薄く細い刃を折ろうと振り下ろして。
「ぐあっ!!」
刹那、ショウの一閃ですっとんでテーブルを破壊した。
気を失っているが出血は無い。
刀での攻撃なのに?
峰打ちかと思ったがあんな速度で振るっていれば刃の鋭さだとかは関係が無いように思う。
じっと刀を見ると黒い魔力を纏っているのが見えた。
なるほど、魔力をクッションにしてるのか。
私と違って殺すことのない、加減された攻撃だ。
「っ!続け続け!」
怯みながらも他の冒険者も攻撃を仕掛けてくるが。
「止まれ」
一筋、黒い軌跡を残す刀を振るっただけで軽くふっ飛ばしてしまう。
魔法さえ斬り刻み、霧散させる。
暴力に晒されても何も出来なかった私と違う。
「レイに手を出すのは許さない」
格好いい、流石勇者!
と、思うと同時に羨んでしまう。
私は、何も出来ない。
床のささくれで傷ついた手に視線が落ちる。
赤い花が咲いている手。
この花を舞わせれば・・・。
でも、攻撃を向けられているのがショウなのだ。
意思が強く込められた魔法を捻じ曲げることは出来ない。
ショウを傷つけてしまう。
花を握りつぶし、顔を上げる。
私はその示し合わせたような、殺陣やコントかと思うほどの戦いとも言えぬ一方的な制圧を見ていることしか出来ない。
「おっ、お前何なんだよっ!」
腰の抜けかけた冒険者が叫ぶ。
滅茶苦茶な攻撃を放ち。
「それはこっちの台詞だ」
苛つきを強くしていくショウに返り討ちにされた。
・・・あれ、だんだん魔力が薄くなってきているような。
「くっそがぁぁぁあ!!」
と、ここで私に殴りかかって来たのがいた。
がむしゃらに拳を振り回す冒険者。
魔法も何も込められていないチンピラパンチ。
それでも当たったら私は。
・・・また死を覚悟したが杞憂だった。
「がっは!!!」
そいつは次の瞬間には天井に叩きつけられていた。
仲良く、ショウに攻撃していたパーティメンバーらしい人と並んで。
べしゃ、と落ちてきたのを見ると、腕が原型を留めないほど青黒く膨れ上がっていた。
完全に骨折れてる。
「クッソォ・・・」
やっと起き上がってきたモヒカン男の首に真っ直ぐ向けられた刃。
穢れなき、銀。
血も魔力もまとわりついていない、刀。
「黙れ」
「っ」
決着。
うめき声に混じって、外から水の流れる音がする。
「・・・大丈夫か?」
ショウは刀を納め、私を抱きあげた。
「だいじょぶ」
残った涙をぐしぐしと拭って笑ってみせる。
「助けてくれて、ありがと」
私だったら水の音しか残せなかっただろう。
「何があったんだ?」
「何も」
私は肩を竦めた。
実際、本当に何も無かった。
私は何もしていない。
寝てただけ。
ただ、ショウが・・・先程私を魔物扱いされて怒り、殺気を放った人が居なくなった結果。
今のうちだと殺しに来た。
それだけ。
「な、ん、なんだ、お前は」
気絶から復帰したらしい冒険者の一人が再びショウに問う。
「レイ・・・この子の仲間だ。」
「そんな〈白影魔〉と一緒に旅するなんて異常者だろ!」
目覚めた冒険者達が喚く。
戦意は喪失したらしいが気分を害する意思はあるらしい。
その中の一人が言った。
「お前・・ロリコンか!?」
不意打ちで飛び出したその単語に。
「ろっ、ろり・・・ロリコン・・・っ」
限界だった。
「あははははははっ!!」
「レッ、レイ!笑ってないで否定してくれ・・・」
「ごめん、もうちょっと笑わせてあははは!」
笑いすぎて脇腹が痛い。
「レーイー!!」
笑い転げる私となんとか宥めようとするショウ。
そして唖然と私達を見るボロボロの冒険者たち。
「あー、笑った笑った」
「やっと落ち着いたか・・・」
「ごめん、ろめんて、」
頬を引っ張るのやめて?
それじゃ釈明もしてあげられないから。ね?
「えっとね、コホン」
咳払い一つ、順を追って偏見や誤解を解くため話し出す。
「私は確かに〈白紅種〉だよ。〈白影種〉なんて呼ばれたりもする者。」
私は微笑む。
大人っぽく見えるように。
「ただね、私は前世の記憶ってのがあるの」
「っレイ!?」
ショウが驚いた声を上げる。
心配しないで。
納得させるのにそれを言うのが手っ取り早いだけだから。
「人間として生きた記憶がね」
その記憶がこの世界のモノじゃない事は言わない。
それ以外、言わない。
私はこの世界で昔々に生きていた。
ショウと同じように。
そう、勘違いさせる。
「だから。見かけ通りの幼い女の子、あなた達から見れば魔物じゃないんだよ。」
驚くほど多く伝説や逸話があり、様々な呼び名があるこの姿。
「〈白紅種〉っていろんな伝承あるじゃない?多分そういう不思議なことのあるヒトなんだよ」
魔法的に特殊になりやすい者。
そう、薬屋の店員さんが言っていた。
矛盾があったら魔法で片付けてしまえ。
「・・・まぁ、確かにこの体は悪魔だったり化物かもしれないけど」
実際、化物に片足突っ込んではいるとは思うのだけど。
それでも。
「心は人間だよ」
私は人間だ。
「普通の人間と同じように私達に何もしなければ何もしないよ?」
改めて伝える。
自分たちに手を出さなきゃ何もしないと。
正確には私自身は魔法で何かされなければ何も出来ない、だけどね。
「普通の人間でも友達が虐められてたら助けることはあるでしょう?」
人間らしい、情というモノ。
「ショウは私が貴方達に攻撃されてたから助けてくれただけ」
私達は人間。
化物に成り果てた人間の少女と、勇者になった人間の少年。
「・・・私にとってみれば貴方達のほうが化物でおかしい思考を持った人達だよ?」
言い伝えで幼い子供を殺そうとするなんて。
時に、想像力を持った人間は、本能に従う魔物より恐ろしい。
「攻撃しないでほしいな?」
ね?化物さんたち?
私は笑みを深くする。
あぁ、あとそうだ。
なんでこんな話をしたのか忘れるところだった。
「・・・こんな感じで私の中身はこうだから、ショウはロリコンじゃないよ!」
幼女らしい可愛げなんて無い。
化物でも聖人でも悪人でも善人でもない、
どこにでも転がっているような。
思うだけ、考えるだけ、行動して来なかった、
女子高生だったヒト。
もう、何度目か分からない思考。
私はわらって話を締めくくる。
「これでいい?ショウ」
「・・・ああ」
よしよし、と頭を撫でてくる。
「レイ、すごいな」
褒められてもね。
「私だけなら話聞いてもらえなかったと思うよ?」
虎の威を借る狐。
私は自嘲する。
「話を聞いてくれたのはショウがいたから」
ショウったら、話を遮ろうと口開いた奴に殺気飛ばしてたもの。
まさかとは思うけど無意識にやってるのかな?
王道の鈍感主人公のように。
「そういえば試験どうなった?」
「あー、えっと。」
気まずげに中庭へのドア・・・の残骸を見た。
更にその先には壁にめり込んだ試験官らしいおっさん。
「ちょっえっ・・・あっ、ザニさん!?」
尻もちをついて震えていただけだった受付嬢が叫ぶ。
と、同時ガラガラと壁が崩れだす。
どうやら動いてもがいてる、つまり生きているようだ。
良かった。
「・・・流石だね」
王道展開。
これで文句無しの合格・・・いや、飛び級とかギルマスとか辺りからの呼び出しありそう。
瓦礫の山から飛び出した、親指が天に向けられた拳を見て思う。
修繕費請求されないといいな。
借金背負ってスタートは辛い。
「レイへの怒号が聞こえてきたから力加減を間違えたんだ」
「私のせいなの?助けてくれたのはありがとだけど」
「レイのせいじゃない。助けられて良かった」
二人して苦笑する。
「ほんと、目を離すとダメだな」
心なしか過保護さがパワーアップした予感。
当然だとは思うけれど少し、不貞腐れてしまう。
「・・・あとは、逆恨みで襲撃されました!が、起きないといいね」
「そうだな」
私達はニコ、と笑って辺りを見回す。
その場にいた人たちはひぃ、と縮こまった。




