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転章・人生ノ書架

気がつけば一人広い空間に立っていた。

見渡す限りの本、本、本。壁は所々に空いた窓以外全て本。天井は見えないほど高い。


ここは・・・図書館?でもこんな規模の大きい所知らない。少なくとも私が一時期入り浸っていた公立図書館ではない。

塔のような建物なのだろうか。壁をつたって螺旋状の階段が上へ下へと伸びている。

そして私が立つ踊り場のようなところはガラス張りの床。その下にも本が。


本だらけだ。


本好きな私にとっては天国なはずなのになぜかそうは思えなかった。知らない場所に知らないうちにいたからなのだろうか?

違う気がする。別に不安は感じていないし。何ならどこか懐かしいような気もする。


「私はどうしてここに来たんだっけ、って、ん?」何かがひらりと舞い落ちてきた。

それを拾い上げてみる。

「葉っぱ?」

桜の若葉によく似た葉だ。まさに若葉色って感じの透明感のある緑。


どこから飛んで来たんだろう?見上げるが枝葉は見当たらない。窓の外から吹き込んできたのかな?


葉に視線を戻すとそれは白く変色した。

「え」

思わず声を上げた私の目の前で今度は白い葉が紙片に変わった。見間違いじゃない。

「どうなってるの」

触った感じもサイズも変わっている。

コピー用紙のようななめらかな紙。葉脈も言葉もなにも書かれていない白紙。


白紙の上に紅い葉が落ちた。つまむとそれも真っ白な紙片と化した。

さっきから訳が分からないことばかり。

なんなの?なにが起こってるの?

「っ!?」

今度は手にしていた紙片に文字が走った。ペンが宙に浮いてとかではなく、滲み出てきたわけでもなく、パソコンかスマホに文字が打ち込まれて液晶画面に反映されていくような。


これは・・・なにか、本のページ?


小説かな、若葉の葉だったものにはかくれんぼをする幼い主人公と友人のシーン。紅い葉だったものには、カフェでの他愛もない会話の場面。


「これ、どこかで・・・」

読んだような、気がするような。

違う、読んではいない?思い出そうと唸ってる間にそれは強い風に浚われてしまった。


顔を上げた私の目に飛び込んできたのは数えきれない上に色も形も様々な葉が舞い散る光景。

ページはすぐ、それに紛れて見失ってしまった。風はどんどん強くなり渦を巻き始める。

ビュウビュウゴウゴウと何だか怖くて私は後ずさった。


私が見ている先で葉吹雪はやがて紙吹雪へと変わる。そしてそれは一点へと収束し・・・一冊の本が現れた。


その本の題名は『栞葉 零華』。私の名前。


「これを読めってこと?」

返事は無い。けどきっとそういうことだよね。たぶん。

おそるおそる宙に浮く本手にとってみた。ノートのように薄っぺらい。私は意を決して開いた。


「あぁ」

自分の嘆息で本の世界から現実へと引き戻された。まあ私にとってはこの物語のほうが現実だったのだけれど。


・・・そう、この本に書かれていたのは私の物語だった。私の人生。私しか知らない話から忘れていた覚えている訳がない幼い頃の話まであった。

そして最後に書かれた『死んだ』というのがここにいる答えだった。


「私死んだんだ」


そう理解したがなぜかクラスで飼っていたハムスターが死んだ時程度のショックしか感じなかった。悲しいことには悲しいが仕方がないと諦めてしまえるような。

自分じゃどうしようもない死だと思って・・・


そうだ。私は殺された。


最後の記憶は痛み。熱いと感じるほどの激痛。そして自分の女子高生にしては薄い胸に突き立てられたナイフと血。赤と銀と赫と朱と灰と紅と緋と虹。

「死んじゃった。まあ仕方がないか」

通り魔に襲われるなんて想像できないもの。私に落ち度はない、はず。殺されるほど恨まれることはしていない。少なくとも自覚していない。だから予想の仕様がないし防ぎようがない。

「あれは無理よ」

ゲームで失敗してゲームオーバーになったときのようにつぶやいた


のは、私じゃない。


驚いて本から顔を上げると色彩の異なる2つの瞳と目があった。いつのまにか美しい少女が私と同じように本を開き私を見ていた。

誰、と聞こうとして気がつく。

声が出ない。というか体が動かない。少女から視線をそらせない。感覚が無い。

「こんな結末、つまんない」

不満げな少女の声が頭の中に響く。

左のラピスラズリのような濃青と右のガーネットのような深紅の瞳が不満げに細められた。


「こんな展開になるなんて」

少女は金にも銀にも見える長い髪をいじる。

「せっかく面白くなりそうだったのに!死んじゃうなんて!」

文句やめてよ。私だって死にたくなかったよ。

「どうしようもなかったけどさぁ」

ただの一般女子高生に不意打ち防げと言うのも無理な話でしょう?

「短編すぎるんだよ!!」

少女はしばらく私の人生にダメ出しを続けた。図星をかなり刺された。知り合いは多いけど恋人どころか親友がいないとか、諦めが良すぎるとか。


そして最後にため息をつき「また転生か」とつぶやいた。


そしてハッとしたように固まった。

「・・・転生?」

何か考え込む少女。ゾクッとした。


「転生・・・異世界、ありがち?・・・何でもあり・・・不死・・・チート、すぎるのはつまんない。」あっ、あの?

「そうだ!」

パチンと手を叩き、いいこと思いつーいた!と言わんばかりの笑みを浮かべる。

「死なないようにすればいいじゃない!」

ふわりと髪が女神の羽のように広がる。

・・ように、じゃないか。神なのか。

「他の神だってやってるし!私がやったっていいよね!」

神々しくも無邪気な笑み。少女が私に手を伸ばす。私は何かに操られるようにその手に自分の手を重ねた。

「これなら終わらないでずっと楽しめる!」

次の瞬間。少女が光り輝き・・・そして砕けた。ガラスのような破片があたりに散らばる。

いつの間にか床も砕け、私はたくさんの本と共に悲鳴を上げることもできずに落ちてゆく。

「今度は飽きずに楽しめるといいな」

砕け散ったはずの少女の声が響いた。


ぎゅっと縋るように抱きしめた本の題名が

『少女〜栞葉零華の章〜』

と書き換わった。


そして、私は落ちて墜ちて堕ちてゆく。


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