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盲目の魔法使い

「嬉しそうだね、レイ」

山積みの荷物を抱えた父さんが言う。

あれからさらに買い込んだ結果、マジックバックの上限を超えてしまったのだ。


「うん!本当に買ってくれてありがと!!」

プレゼントに買ってもらったのは数冊の本。

私の行きたいところは本屋だった。

気になったもの目を向けたもの全部買おうとしてくれたのだが流石にそれは悪い気がしたので数冊に抑えた。

この世界の本、滅茶苦茶とは言わないけれど高価だった・・・

それなのに買ってくれて、ありがたい。



嬉しくてニマニマしていたら。


「うぁっ」

「きゃっ」

ぶつかった。

お互い尻もちをつく。


「ご、ごめんなさい」

「ごめんね」

って、あ。


フードがずれて前髪が出てしまった。

幸い、立ってる人からは見えないだろうが・・・。

目の前にはまっすぐとこっちに青い瞳を向ける男の子。


「っ!」

見られた。と思って焦ったが。


「・・・ん?」

どうにも様子がおかしい。

男の子は光の無い瞳をこちらに向けたままペタペタとあたりの地面を触っていた。

少し離れた地面には杖。

長めの杖だ。

魔法に杖を使うこともあるのだがこれは違う。

魔法的な要素は見つからない、ただの杖だった。



「邪魔だなぁ」

「ガキ二人が何してんだー?」

ヒソヒソと上から怖い声。

男の子はびくっと震えた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

繰り返しながら必死に地面を触るのだが。

そっちじゃない。

どんどんと杖から離れていってしまう。


「チッ」

「はやくどけよ」

そのうち怒鳴られそうだな。

仕方がない、

私は手早く、杖を拾い上げた。

そして空いている手を男の子に伸ばす。

びくっと震えたのが分かった。ごめんね。


「こっちっ」

引っ張って路地裏に入った。


ここなら往来も邪魔しないはず。



・・・って。そういえば。

「父さん?」

もしかしてはぐれた?

きょろきょろと辺りを見回してみるが。

いない。


父さんマジックバックに入り切らない荷物山積みにして持ってたからなぁ。

私も私で何をはじめに読もうか考えるので夢中だったし・・・。

中身高校生だし、不安で泣き出すということはないのだけど途方に暮れる。

どうしよ。


「あっ、あの」

戸惑った声。

あぁ、そういえば手を繋ぎっぱなしだったね。

初対面の人にぎゅっと手を握られてたら嫌だわ。


「いきなりごめんね。」

私は手を離し。

代わりに引きずるように持ってきていた杖を握らせた。


「あっ、ありがとう・・・」

「ううん、いきなり引っ張っちゃって、ごめん」

男の子は首を降る。


「ボクのほうこそぶつかってごめんなさい」

男の子はこつこつ、と調子を確かめるように地面を突いた。


改めて目の前の男の子を見る。

私(幼女)よりも年上、だいたい小学3年生ぐらいだろうか。


瞳はやっぱりまっすぐこっちを見ているが。

「・・・?」

私が左右に動いてみても微動だにしない。

やっぱり目が、見えてない?




「怪我はない?」

私が聞くと曖昧に微笑む男の子。

「一つぐらい怪我が増えても気にしないから」

よく見ると新しいのも古いのも傷が沢山。

擦り傷に打撲。

痛々しい。

「それよりも君は?」

「私は、大丈夫。」

露出がほぼ無い服のおかげか怪我はない。




「さっきお父さん、とか言ってたけど迷子?」

「・・・うん」

認めたくないけど事実だ。

おもちゃに夢中になって迷子。

普通の子供だったら微笑ましいかもしれないけど中身高校生なので。

恥ずかしい。


「だいぶその、ちっちゃいよね?」

私の手の大きさを思い出すかのように自身の手をグー、パーと動かす男の子。

「ええっと、うん、ちっちゃい、私」

実際は手を握るというより指を掴む、という感じだったもんなぁ。


「いくつ?」

「・・・4歳、か5歳」

たぶん。


「・・・君、名前は?」

「えっと、レイ」

私は素直に答えた。


「レイちゃんね」

少年が頷き、口をつぐんだ。

と、思うと気配が変わった?


「・・・こっち」

男の子は私の手をとって歩き出す。

コツコツ、と石畳と杖が音をたてる。



「どこに行くの?」

「君を呼ぶ人の所」

「え?」

私を、呼ぶ人?

・・・父さんかな?

どうしてわかるんだろう。


「レイちゃんを呼ぶ声がこっちから聞こえるんだ」

「声?」

耳をすませてみるが。


「うーん?」

喧騒しか聞こえない。

意味をなさないワイワイガヤガヤと音。


「ボクは目が見えないけど耳はいいんだよ」

男の子は少し誇らしそうに言う。

いや、耳が良いとかいうレベルじゃないと思う。

耳が良くても一つ一つの声って・・・聞き分けられるもの?


もしかして、と思い、目を凝らす。

あ、父さんほどじゃないけど緑色の魔力を纏ってる。

ゆらゆらと揺蕩う魔力。

無秩序に見えて方向性のある動き。


魔法が発動している。

魔法陣も見えないし呪文が言われた訳でもないのに。

本当に小さなかすかなものだけど。

これは集音の魔法だと理解できるものが発動している。

すごい。

意識の力だけで魔力を魔法の形にしてる?


「はっきり聞こえるの?」

「うん。聞こえるよ。」

「すごい魔法だね」

「魔法?ボクは魔法は使ってないよ?」

「え」


じゃあ・・・無意識?

無意識で魔力練り上げるなんて。

魔法に触れて数日だけれど普通じゃないことは分かる。


男の子の魔力も風属性で音の魔法と相性良かったのもありそうだが・・・すごいことだ。

それに加え、この魔法で聞こえるなら肉体的な耳もかなり良いんだろう。


「そういえばボクの名前言ってなかったね」

男の子は私を安心させるように笑う。


「ボクはルクスって言うんだ」


それは元の世界での光の単位を意味する言葉。

目の見えない光、か。

まぁこっちの言葉では全然違う意味の言葉っぽいしただの偶然なのだろうけど。


「ありがと、ルクスくふ」

噛んだ。

あぁもうこの世界の言葉、言い辛い。

「ルクスでいいよ。レイちゃん」

ルクスは優しく微笑んでくれた。




ルクスに手を引かれ進む。

大通りとは違って人通りは無い。

酷く入り組んでいて迷いそうなものだけどルクスが立ち止まることはない。

コツコツ、と石畳に杖を突く音が響く。



と、横の道からルクスと同じ年の頃の男の子が数人現れた。


「あっ!ルクスじゃねーか」

「みつけた!」

「どこ行ってたんだよー!」

ルクスの足が止まる。

見上げた横顔は強張っていた。

「先生、心配してたぞー!」

「ほら、帰るぞ!」

友達なのかな?と思ったけれど。


「っ」

乱暴に杖を引っ張った時点で違うと察した。

「おにいちゃんたちだあれ?」

声をかけてみた。

「っ?子供?」

いや、あなた達も子供でしょう。

「誰だぁお前は?」

「孤児院にこんな子、いたっけ」

孤児院。親のいない子達を育てる施設。

あぁ、先生ってそういう事か。


この世界の子供で学校へ行くのはほんの一握りだ。

裕福な家の子や特別な魔法の力を持った子だけ。


男の子たちもルクスも服装は粗末なものだし先生っておかしいなと思ったんだよね。

納得。


「まぁいいや。こいつ連れ帰らないとだから」

「うん、町にオレたちが連れ出したのバレたらやばい」

「というか、オレたちが見つけて連れてきたら先生褒めてくれるかも」

「そうだな!!ほら!!行くぞ!」

「おいチビ、手を離せ」

ぎゃあぎゃあと勝手な事を言う男の子たち。


ルクスを引っ張る力はどんどん強くなってゆく。

「やめて、やめて」

ルクスが懇願するがダメだ。

暴力が追加されそうになる。

・・・ルクスの怪我は目が見えないゆえの転倒とか衝突だけじゃなさそう。


「やめなよ」


私はまっすぐと男の子たちを見据えて言った。

凛と。

・・・別にすごいことじゃない。

私は中身、高校生だ。

それにバイトでも子供相手にすることも多かったので慣れている。


そういえば王道だな。

絡まれている子を助けるのって。

まぁ相手は筋骨隆々なおっさんとかじゃなく、

ちびっ子なので格好はつかないけど。


それにこれは別にルクスを助けようと思ってじゃないし。

こいつらにどっか行ってもらうか黙ってもらわないと、私が父さんの所に帰れない。



「なんだチビ」

「泣かされたいか?」

ガキ大将が腕を振り上げた時。


突風が吹いた。

魔法的なものではない。

普通の自然の風。


「あ、」

フードが完全に脱げてしまった。

肩で切りそろえられた白い髪があらわになる。


「ーーーーなっ」

私の赤い目に再び男の子達が映ったと思うと。


「あっ!!!悪魔!!!!」

「魔物だぁぁぁぁあ!!」

「助けてっ!!」


悲鳴だ。

ふざけてではなく本気で逃げていった。

泣かされたいか?と私に問いかけたガキ大将にいたっては泣いてた。

 

うわぁ、本当にこの見た目は化物だと浸透して差別されてるのね。




「悪魔?魔物?」

振り返るとひどく怯えた様子のルクス。

痛いほど手が強く握られている。

逃げたいけれど目が見えないから何処にいるかも分からないし、私もいるからと焦っている雰囲気。


まぁ、その男の子達が言う魔物って。

「私のこと」なんだけどね。

「え?レイちゃんが?」

「私の姿がね、人間じゃないみたいなの」

これでルクスに逃げられたらどうしよう、とも思うけど。

怯えてるせいか魔力がブレブレなのよね。

これじゃどちらにせよ私が父さんに会えない。


「レイちゃんはボクを食べるの?」

「食べないよ」

思わず苦笑を浮かべてしまう。

私は吸血鬼でも食人鬼でもない。


「・・・やっぱり私を化物だって思う?」

ルクスは首を横に振ってくれた。


「さっきの子達とか他の人のほうが化物だって感じるから」


ルクスは笑うとコツ、と杖を突いた。


私達はふたたび歩き出す。

目を凝らせば、ゆらゆらと優しい緑色の光が揺れていた。




そして。

「もうそろそろレイちゃんにも聞こえるんじゃないかな?」

ルクスが言った。

「ほんと?」

耳をすましてみると。

「ーーー!、ーイーーレイーーー!!」

本当だ。

私はパッとルクスの手を離して駆け出す。


次の角を曲がったと同時。


「っ!レイ!!」

「父さん!!」

「良かった・・・ごめんね、見失っちゃって」

父さんはぎゅっと私を抱きしめた。

必死に探してくれたらしい。

汗だくだ。


「大丈夫だったかい?」

「うん、ルクスにつれてきてもらったの!!」

「ルクス?」

「うん!」

私は父さん腕から離れ、もう一度ルクスの手を握る。


「ありがと!ルクス!」

本当にルクスがいなかったら途方に暮れるしかなかったよ。

「ううん、もともとボクがぶつかっちゃったから」

会えて良かった、と笑ってくれた。


「君がレイをつれてきてくれたのかい?ありがとう」

父さんは深くお辞儀をした。

「いっ、いえ」

ぶんぶんと手を振るルクス。

感謝され慣れてない様子だ。

耳まで赤い。




ゴーンゴーンと鐘がなる

「あ、教会の鐘だ」

教会。

神話が事実とされてる世界で統一された宗教の施設。

たしか、日が昇ってる時間とその前後2時間は1時間ごとに鐘が鳴るんだっけ。


「いけない、そろそろ馬車の時間だね。行こう」

父さんはもう一度ルクスに頭を下げて私の手を引くが。

「まって」

私は父さんのとこまで連れて帰って来てもらったのにルクスは?


「大丈夫だよ」

私が言いたいことを察したのかルクスは微笑む。

「孤児院はね、教会の隣だから」

またに微かな魔力の気配。

たぶん鐘の音を目印に帰るのだろう。

なら、きっと大丈夫かな。


「そっか。気をつけてね、本当にありがと」

「うん、もう迷子になっちゃダメだよ、またね」

お互い手を振る。






次に会うのは私が大きく成長してからになる、小さな魔法使いとの出会いだった。

実は男の子たちはそれほど悪い子ではありません。


自分がお皿を割ったら叱られるのにルクスは叱られない。

ルクスがぶつかってきたのにお前が注意してあげなさいと怒られる。

ルクスは良いのに自分たちは頭ごなしに叱られる。

という理不尽さを感じてルクスに辛くあたっている節があります。



大変長い代わり映えのしない物語も一旦区切り。


次回から物語が大きく動き出します

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