町
また説明回な気がする。
あと2話で大きく物語動くから許して・・・
アリンツェ村から2時間。
馬車を降りると少し先に海が見えた。
普通の海が。
私が立つこの地面と続く水平線だ。
「レイ、下海を見るのは初めてかい?」
空の海、天海に対して下の海、下海か。
イーリャンは港町だった。
「お嬢さん目をキラキラさせて今にも飛び出しそうですねー」
「レイ、ちょっと待って。・・・御者さん、夕方でいいかい?」
「はいー、イーリャン満喫してきてくださいー」
「ありがとう」
「ありがと!早く行こう」
私は少年に手を振りかえし、逆の手で父さんの手を引っ張った。
町のメインストリートらしい場所に到着。
人はまばらだ。
いや、道がかなり広いからそう見えるだけだ。
活気に溢れている。
私はコスプレ会場のような極彩色の光景を見回した。
赤髪に青い髪、オレンジ色の髪。
碧眼、金色の目、黒い瞳。
肌の色も様々。
数は少ないが毛だらけの獣っぽい人もいる。
獣が直立歩行していると表現したくなる人。
かと思えば人間に獣の耳や尻尾が生えている人まで。
多種多様の人種。
うん。ファンタジーだね。
そんな中、赤い目の女性を見かけた。
特に隠している様子もない。
太陽の下、茶髪を揺らして歩いていた。
あれ?
私と同じ赤い目なのに良いのかな?
でも、特に差別されている様子はない。
私が凝視していたことに気がついた父さんがそっと教えてくれた。
白い髪と赤い目が揃っていなければ問題無いのだそうだ。
〈神王の色を盗みしもの〉も他の組み合わせでは逆に祝福扱いだったりするらしい。
思わず乾いた笑いが零れた。
どうしてそんなピンポイントでこの外見になったのかな?
いや、たしかにこの姿、気に入っているんだけどね?
金髪碧眼の美少女でも良かったんじゃない?
ねぇ?女神?なんで?
なんて私は差別される外見で不死はおいておいて特別な力もないのかな?
周りと違う特別な力と姿。
それは、王道で面白い物語の主人公であること多いけど。
私の場合、なんかズレてる。
転生物語ですよ?
無双させてよ。無双。
まぁ、最悪、目は見られても髪さえ見せなければ大丈夫だということでもあるのだが。
そうだ、ポジティブに考えよう、そうしよう。
それでテンションが多少下がったおかげかもしれない。
私は冷静に町を見て回ることが出来た。
武器屋に鍛冶屋、魔道具屋とゲームでよく見るお店。
八百屋にパン屋、鮮魚店ともとの世界にも普通にあったお店。
まぁ売ってるものはファンタジーなのも多いけど。
遠近感がおかしくなったのかと思うほど大きな吸盤のついた触手を見て思う。
『〈クラーケンの足〉小金貨3枚』
なんて値札がついているモノだ。
クラーケン。
たしか大きいタコ。いや、イカだっけ。
どっちにしろ元の世界の物語に登場してたモンスターだ。
「昨日、この町の近海で討伐されたクラーケンの足だよ!」
「Aランクハンター、クナータが狩ったものだよ!!」
鮮魚店のおじさんがさぁ買った買ったと叫んでいる。
「父さん、ハンターってなあに?」
気になったので父さんに聞いてみた。
「冒険者の別名だよ。
特定の仕事しか受けないと別の名前で呼ばれることが多いんだよ」
ふうん。冒険者のことなのか。
別の名前で呼ばれる冒険者は、それしかしないできないという意味とその道のプロという意味があるそうだ。
あと、二つ名をつけられることもあるらしい。
それから私は視線を走らせ、様々な声を聞き取る。
父さんは買い物をしながらも私の質問に答えてくれた。
昼食は屋台で売っていたタコスで済ませた。
異世界独特の具材も入っていて躊躇ったが食べてみると普通に美味しかった。
そして何件目かに立ち寄ったお店は薬屋。
天井から吊るされたりしている薬草が不思議な匂いを放っている。
棚に並べられたビンの中には木の実にヤモリの干物、何か動物の骨などが詰められていた。
濁っていて中が見えないビンや桐のような材質の箱も置いてある。
お店の奥からは父さんと店員さんの声が聞こえてきた。
「子供用の常備薬の更新を頼んでいいかい?」
「かシこまりましたヨ」
店員のお姉さんはちょっと異国訛りな気がした。
この世界、言語は統一じゃ無さそうだな。
「あと、リジェの実とプセルの葉と」
「全部アルヨ。あと、それを合わせるナらズグアの鱗とかも良イ」
「ズグアの鱗?」
「人には感じられなイ匂いがあって魔物が嫌ウ」
「じゃあそれも。そんなものがあったんですね」
「半年前ぐらいかラ並べるようになったんだヨ。・・・更新すべき日モ半年前だシ。ちゃんとおいでヨ」
「すみません、また通わせてもらいます」
「全く、お行儀良く待ってイル娘サンのためにも、薬はシッカリ常備すべしですヨ」
「はい」
「あとは何がイル?」
「コカトゥリスの尾の干物とイニュエの肝、クゥテフの・・・」
だいぶ時間がかかりそうだ。
「うーん」
私は待っているように言われたソファの上で唸った。
ここまで読み取ってきた情報を整理してみることにしたのだ。
まずは買い物に欠かせないお金について。
この世界の通貨は一部例外の国を覗いて統一されているそうだ。
私が見たのは4種類の材質で大きさの違う硬貨。
国によってデザインは大きく違うらしいが重さや価値は基本同じだと父さんが言っていた。
それぞれどのぐらいの価値かというと。
日本と随分物に対する価値が違うから私、の体感だけど。
銅貨は、小が10円、大が50円。
銀貨は、小が100円、中が500円、大が1000円。
金貨は、小が1万円、大が10万円。
と、なっていた。
もっと上の貨幣もあるらしいけど現状、見ることはなさそうだし放置しておく。
そして残り1つは水晶のような透き通った材質の硬貨。
魔晶貨というらしい。
魔力を貯められるものらしい。
魔道具の電池のような役割も果たすそうだ。
クレジットカードのような使い方も魔道具の電池もどきにも出来る便利なもの。
ただ、吸収・蓄積には専用の魔道具が必要なので使えない場所も多いみたいだけど。
そのへんもなんだがクレジットカードみたいで面白い。
そして、魔晶貨は魔力を込めていないと透明。
透明なものはギルドや銀行で同じサイズの銀貨と交換できるそうだ。
そして、込めた魔力量に比例して濃く色づく。
どんな魔法に向いた魔力かは色で変わるそうだ。
魔力の色で変化しやすい魔法があると初めて知った。
いわゆる、魔力属性だろう。
たしかにうんと目を凝らして見れば人によって纏っている魔力が違うように見える。
父さんは緑色。風属性らしかった。
そして国によって高値になる魔力属性が違う。
この国は風属性のモノらしい。
父さんが結構お金持ちらしい理由はそこだろうか。
どうして風がいいの?と聞くと船の運行に大量に使うからだそうだ。
そういえば、外海に浮いていた船は帆船だったな。
風の力で進む船。
納得。
ちなみに私の魔力の色はなんだろうと気になったが分からなかった。
私の魔力は体から放出されないため、色がわからないのだ。
血と強く結びついているし赤色なのだろうか?
うーん違う気がする。
魔晶貨に込めれば分かるかもしれないが父さんにダメだと言われた。
いつかやってみたいなぁ。
次に生活の質?文明?について。
基本的に電気や石油とかのエネルギーを魔法で代替した感じだ。
ただ、携帯電話的な物は無いようだし、井戸が使われている所も見たから全部が全部現代と同じ、という訳じゃなさそう。
というか魔法を使えない人も多いみたい。
魔道具と魔晶貨を使えば補えるが。
魔道具屋の値札を見る限り魔道具はかなり高価だし、普通の人の暮らしは中世あたりかな。
魔力や財力のある人は現代に近い暮らしをしているのだろう。
格差社会。
魔力や財力のある人の生活は魔法のおかげで元の世界より便利だなぁ思うところも多い。
父さんのカバンがそうだ。
いわゆるマジックバック。
見た目より多めに物が入って重さを感じないファンタジー作品によく出てくる魔道具だ。
ただ、かなり高価らしい。
結構ボロなのに使っているのはその為だろう。
聞くと冒険者の時のお師匠様に貰ったそうだ。
維持にもお金がかかるらしく1ヶ月で大金貨1枚、つまり10万円かかるそうだ。
その上、サイドポケットにセットされた魔晶貨の魔力が切れると爆発するように仕舞った物が溢れ出す。
実際、道端で溢れ出させているおっさんがいて、溢れ出した物に押しつぶされていた。
その中に女性の下着があって周りの女性に冷たい目で見られていたのを思い出す。
私も冷たい視線浴びせかけていたら父さんに目を塞がれ抱き上げられた。
足早に歩く父さんの腕の中から聞いた話では兵隊さんに連行されてったらしい。
結論。
この世界は王道ファンタジー世界。
「レイ、ごめんね。まちくたびれたかい?」
買い物が終わったのか父さんが戻ってきた。
「ううん、だいじょぶ」
私は立ち上がって父さんと手を繋ぐ。
「次はどこ行くの?」
「そうだなぁ、とりあえず必要な物は買ったし帰りの馬車まで時間があるから・・・
レイの行きたいところへ行くかい?」
「わーい!」
色々気になってるとこあるんだよね。
「ちゃんとまた来てくださいネ」
店員さんに見送られ、私は父さんの手を引いて歩き出した。
次はとある男の子との出会い。
そしてその次で・・・