表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/57

路線馬車

ベンチに腰掛けた私は足をばたつかせた。

足が痛い。

本当にこの幼女の体は疲れやすいなぁ。

まぁ回復も速いのだけど。

そんなことを思いながらあたりを見回す。 


ここはアリンツェ村の外れにある馬車停留所。

田舎のバス停のような屋根付きのベンチだ。


「レイ。ザクはデリカシーがない代わりに差別意識もないから良かったけど、他の人には隠さなくてはいけないよ?」

「わかった」

私はぐっとフードを引っ張ってみせた。


「寒くないかい?もう春とはいえ風が冷たいし」

「だいじょぶ」

父さんが気遣ってくれるが私は問題ないと言う。

この服装は温かい。

興奮しているからか寒さは感じない。


はやく町へ行きたいな。

はやく来ないかな。


「バS」

「Bas?」

おっと、違う違う。


「・・・ば、しゃ、まだかなぁ?」

「きっともう少しだよ」

いつも通り私が噛んだのだと思ったのが気にせずにいてくれた。


「ここ見て」

父さんが指さしたのはベンチの端。

何かマークがついている。

その近くには屋根に開いた穴から差し込んだ光の点。


「この印に光が重なる頃にだいたい来るよ」

「そうなんだ!」

だいぶアナログというかなんというか。

太陽時計みたい。

というかこれ、季節で変わらない?

太陽はもとの世界と変わらず季節で位置変わるみたいだけど・・・。


まぁ、いいや。

とにかく時刻表は無いけれど大雑把に分かるみたいだ。

私は足をぶらぶらさせてバス・・・じゃなかった、馬車を待った。



しばらくそうしていると腰の曲がった人がこちらに向かってきているのに気がついた。

おばあさんだ。


「レイ、目と髪、見せないように」

父さんの張り詰めた声。

私は再びぐいーっと口元までフードをひっぱった。


「おやおや・・久しぶりだねぇ、イヴくんや」

優しそうなおばあさんはベンチに座るとニコニコと話しかけてきた。

私はひっそりと様子を伺う。

「お久しぶりです」

父さんはさっきの様子が嘘のように微笑んでいた。

でも、どこか仮面のような笑みだった。


「元気にになったようだの」

「はい、お陰様で」

「いつも魔物を退治してくれてありがとねぇ」

「いえ。僕にはそれしか出来ませんから」

素っ気ない父さんの返答。


「おや?」

おばあさんは私に目を向けた。

「っ!」

フードを引っ張る手に力が入る。

「おやおや、その子は?」

「・・・僕の養女です。つい最近、拾って」

抱き上げられた。

「捨てられた経験からか、人見知りが激しくて。」

そっと頭を押さえられた。

顔・・・いや、髪と目が見えないようにだ。

ドクドク、と聞こえるのは父さんの心臓の鼓動。


「そうかそうか・・・あんな魔物を育てるよりも良いのう」


その言葉に父さんが強張ったのが分かった。

「血のような目をして、あんな子供なのにワシらのように髪が白い不吉な子より」

子供の皮を被った異形だとおばあさんは言った。


「良かったのぅ。悪魔と浮気するような女も居なくなって。今、こうして人の子を育てられているのは。」

「そう、ですね」

ヒュウ、と呼吸音。


「皆、お前を案じていたよ。魔物に魅了されていたからのう。

だが今は正気に戻って・・・本当に良かったの、」


おばあさんの言葉に裏は感じられなかった。

本当に父さんを心配していてほっとしている。


「お前さんも良かったのう。イヴくんにお父さんになってもらえて。」

おばあさんの視線が私に移ったのを感じた。

「この村は小さいが皆、優しい。怯えずとも良い」

覗き込まれそうになって今まで以上に父さんにしがみつく。


「おやおや、嫌われてしまったかねぇ?まぁゆっくり寝るといいさね、寝る子は育つ」

フガフガとおばあさんの笑い声。

優しいのに、恐ろしい。


・・・これは思った以上かもしれない。


魔物に悪魔、か。

迷信を信じての差別がここまで酷いだなんて。

あ、この世界だと魔物も悪魔も実在するんだった。

だからこんな優しそうなおばあちゃんまで信じて、イザベラさんとレイラちゃんを悪く言うのだろうか。


父さんは心の底から2人を大切に思っているのに。

正気じゃない。

魅了、洗脳されていると言われてしまうのは。

辛いだろう。


「おや、馬車が来たのう」

カポカポガシャガシャという音が聞こえてきた。


注意して視界を広げる。

2頭の馬が引く馬車を。


幌つきの、まさに馬車!といった感じの馬車がこの馬車停に到着した。


「この馬車はイーリャン行きでーす、乗りますかー?」

ひょこ、と御者台からこちらを覗き込むのは少年。


「わしはソズ行き待ちじゃ」

「そちらのお父さんとお嬢ちゃんは?」

父さんは私を抱えたまま立ち上がる。

さっきから父さん、無言だ。

大丈夫かな?


「乗るのですね、二人で中銀貨、1枚でーす」

父さんが百円玉に似た硬貨を青年に渡す。

初めて見るこの世界の貨幣。

触って見たい気持ちが湧き上がるが抑える。


「はーい、ぴったりいただきましたー」

少年は御者台に戻っていった。


私達は幌の中に入る。

他に人はいない。私達だけだ。

・・・木製だけれどバスに似た造りだ。

つり革もある。


「じゃ、発車しまーす」

ガタゴトと動き出す。

うおお、結構揺れる。

椅子に座った父さんの膝の上、私は初めての馬車にはしゃいだ。

面には出さなかったけれど。


「気をつけての、いってらっしゃい」

おばあさんの優しげな声が聞こえた。






幌に開いた窓代わりの穴を見れば流れる景色。

数軒の家の前を通った、なんか一つだけ大きなレンガの家があった。

と思ったらすぐ木々の景色になった。

結構速い。

一応気休め程度に道は舗装されているようだが振動がすごい。

かなり揺れる。

「父さん、だいじょぶ?」

私、重くない?

舌を噛みそうになりながら声をかけるが。

・・・返答はない。

顔色悪いけど大丈夫かな。

酔った訳じゃなさそうだよなぁやっぱり。

おばあさんに言われた事を気にしているのかな。


「お父さんの事、心配するなんていい子ですねー」

揺れをものともしない少年の声。

「体調、やばくなったら言ってくださいねー」

手綱を握り、前を見たまま喋る少年。

父さんは返事する余裕も無さそうだ。


「はぁい」

仕方がないし、顔を見られる心配も無いので私が返事をした。

「本当にいい子ですねー、ウチの妹もお嬢ちゃんぐらいいい子だったら良いのにー」


少年はおしゃべり好きの人だった。

舌を噛みそうになりながらも相槌を打った。


少年は隣村、サジェン村の人だそう。

ぎっくり腰で動けない父の代わりに路線馬車の御者をしているそうだ。

サジェン村とアリンツェ村、そしてイーリャンを繋ぐのはこれしか無いらしく。

休業する訳にはいかなかったそうだ。

妹もいるそうでワガママを叶えるのにお金も必要だわ、母はさらに下の子を妊娠しているわで

働けるのが自分だけ。

父が復帰するまで頑張る、と話してくれた。


少年こそいい子じゃないか。

中学生ぐらいなのに偉い。

と、中身高校生の幼女は感動する。


「お兄さんすごいね!」

「いやーもう15歳、成人ですからー」


15歳で成人なのか。

私は自分の数年前を思い出そうとしてやめた。

あんなバカ共思い出しても意味ないわ。うん。





「・・・レイ」

「っ、父さん」

1時間ぶりぐらいに父さんが私を呼んだ。


大丈夫になったのかな。

見上げると少しまだ影はあったが優しい笑みを浮かべる父さんと目があった。


「ごめんね。構ってやれなくて」

首を降る。

少年とお話してたし暇じゃなかったよ。


「お父さん、元気になりましたかー」

「はい、レイの相手をしてくれてありがとうございます」

「いえいえー、お嬢ちゃんとのおしゃべり楽しかったですよー」

「お兄さん、ありがと」

「ふふ、本当にいい子ですねー。

・・・あ、少し揺れますよー」

言葉通りにガクン、と揺れた。

道を曲がったみたいだ。

ここからは道が複雑なのか少年は馬車を操るのに集中しているようだった。

もう、話しかけるのはやめておこう。



「レイ、気遣ってくれていたのかい?」

こくん、と頷く。

「いい子には後でプレゼントを買ってあげようか」

「あり、がと」

私は父さんと他愛もない話をしながらあと少しの馬車を楽しむ。


町。

イーリャン。

どんな物があるのだろう。

どんな事が知れるのだろう。

どんな人がいるのだろう。

楽しみだ。


髪と目を見られないように気をつけて楽しもう。


窓の外は森から草原へ代わり町が見え始めていた。

やっと次回、町です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ