別の本のページ・父さんの親友
ザクセンさん視点。
過去のお話です
元気になったみたいで良かった。
と、
オレ、ザクセンはほっと息を吐いた。
さっき数週間ぶりに会ったのは親友のイヴ。
20年前、イヴが冒険者としてこの村を訪ねてからの仲だ。
初めて会ったときのことはよく覚えている。
たしか俺が10歳、イヴが8歳だったときだ。
筋肉達磨に連れられた小さな少年。
それがイヴの第一印象だった。
魔物の返り血塗れで凄まじく臭かった。
思わずくさい!!と指さして言ってしまうほど。
その結果、すっ飛んできたのは。
小さな身体から繰り出されたとは思えない鋭い拳だった。
そしてオレを見下ろしてこう言ったのだ。
鼻が潰れて匂いなんて感じなくなっただろ?と。
カッとして殴り返してやろうかと思ったが。
その前にイヴは筋肉達磨に沈められていた。
筋肉達磨はイヴのお師匠さんだと、後に知った。
その時はもう合うこともなく、数日でイヴはお師匠さんと村を離れた。
次に会ったのは3年後。
村外れで野営しているのを見つけて話しかけたのだ。
イヴは村の外、広い広い世界の事を教えてくれた。
冒険者という仕事がどれほど自由で楽しいのか、面白いのかを。
対抗するようにオレはこの村の良いところ、楽しいところを教えてやった。
お師匠さんが作ってくれた魔物のシチュー食べながら沢山話した。
とても美味しかった。
明日には旅立つ、というときに3年前オレを殴ったのがイヴだと判明して・・・お互い笑い転げてから頭を下げた。
殴ってごめん、と。
村を守ってくれたのに臭いと言って悪かったな、と。
そして再会を約束して見送った。
それからイヴは1年だったり数カ月だったり、バラバラだったがこの村をよく訪ねてくれるようになった。
そのたびにオレたちは他愛もない話をした。
いつからだったか隣には村長の娘、イザベラがいた。
キラキラとした目でイヴの話を聞いていた。
そして6年前。
イヴが酷い怪我をして村長の家に担ぎ込まれた。
隣にはお師匠さんの腕だけがあったことを覚えている。
ワイヴァーンとかいう化物と戦った結果だった。
この村を守るために。
イヴの話していた冒険者というものがどれほど大変だったのかを知った。
オレは毎日、見舞いへ行った。
薬草をとってこいと頼まれれば森中駆け回って集めた。
イザベラは付きっきりで看病していた。
首都への留学から帰ってきたばかりで学んできた知識を全力で奮っていた。
その甲斐あってイヴは回復してくれた。
前ほど無理は出来なくなったと言っていたが。
訓練の様子を見る限りどこか衰えたのか分からなかった。
それからしばらくして。
イヴはイザベラと結婚した。
オレはひどくびっくりした。
村のみんなは知っていたらしくそれにもびっくりした。
村を救った英雄と村長の娘の結婚式は盛大に行われた。
オレはその時、隣の村の娘と意気投合して、今はその娘が女房だったりする。
それからもうイヴは旅することなく冒険者も引退した。
この村に住むことになったのだ。
村長は村を救ってくれたイヴと愛娘のために村の中心地に立派な家を建てようと提案したのだがイヴは首を降った。
森の中心地どころか離れた森の入り口に家を建てると言い出したのだ。
増え始めた魔物がこの村を襲わないようにと。
村長と村人は酷く感激して丈夫な家を建てた。
それから数年後。
イザベラが妊娠した。
村長も嬉しそうで初孫にはしゃいでいた。
イヴもイザベラもとても幸せそうだった。
そして。
レイラちゃんが生まれて。
一変した。
レイラちゃんが〈白紅種〉だったから。
村長はショックのあまり数カ月寝込んだ。
そして、みんな。
イザベラを魔物と浮気した女と糾弾した。
レイラちゃんを悪魔の娘だと蔑んだ。
イヴを、嫁に裏切られた可愛そうな人だと慰めた。
イヴが2人を庇うと悪魔に魅了されてしまったとますます憐れんだ。
そんなはずなかったのに。
レイラちゃんの目元はイヴそっくりだったし。
イザベラとイヴは見てるこっちが恥ずかしくなるほどラブラブだったのだから。
2人の子供に決まっているのになぁ。
レイラちゃんの可愛さは魔性だったけどな。
ザクおじちゃん!っていっつもニコニコ。
自分の息子すら怖がって泣くオレを見て笑うのだから。
きっとこの子は将来、周りの悪意なんて負けない子になると思っていたのに。
レイラちゃんが森へ連れて行かれて。
レイラちゃんを探しに行ったイザベラさんと一緒に。
魔物に殺された。
本性を暴くと称して。
魔物退治と称して。
村人に、魔物の巣へと連れて行かれた。
その時イヴは街へ、壊れた武器を修理しに行っていていなかった。
愛妻と愛娘を亡くした。
いや、殺されたことを知ったイヴは。
何も言わなかった。
愛娘を魔の森へ連れて行った村人を一発殴っただけだった。
死に急ぐように魔物を狩るようになっていた。
今まで弓矢や剣で綺麗に討伐していたのに。
斧でグチャグチャに。
オレにはどうする事もできなくて。
今日見知らぬ娘と一緒にいたイヴは。
笑っていた。
半年ぶりの優しい笑みだった。
いつもいつも瞳に渦巻いていたドロドロとした激情が薄らいで見えた。
イヴの深い深い・・・傷を癒やそうとしているのは。
レイラちゃんと同じ〈白紅種〉の女の子。
レイラちゃんとは違った雰囲気を纏う子。
レイちゃん。
どうかイヴをよろしく頼む。
そして。
イザベラ。レイラちゃん。
どうかイヴを見守ってやってくれ。
オレは愛する女房と息子が待つ家へ走りながら願った。
だいぶ突っ走って書いている気がする。