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?章・栞の挟まれたページ

これは少し未来のお話。

誰かの栞が挟まったページ

(読まなくてもいつか再び本編で書かれるお話です。読んだら読んだで、読まなかったら読まなかったで楽しめるようにしていきたいと思います)


ここは水晶のような結晶に覆われた神殿。


「おはよう、大丈夫?」


日本語で問いかけると少年の表情が驚きに染まった。

顔を上げた少年の黒い瞳に映ったのは。小さな女の子。

まぁ私なのだけど。


「え、え?」

ずいぶんと混乱している様子の少年。

「君は一体・・・というかこんな所に小さい子がいちゃダメだ!」

自分の心配より私の心配するのね。

「大丈夫よ。私、見た目ほど幼くないし。」

私はあたりに乱立する水晶の一つを指差す。

「敵はもうみんな眠っているから」

そこには巫女と呼ばれていた少女が封じられていた。

「っ!?」

絶句しているようだ。まぁ無理もないか。


「私はレイ。元々はこことは別の世界で生きてた記憶があるの。」


私はゆっくりと告げる。


「元の名前は栞葉 零華。」


あぁ、この名を口にするのは久しぶりだ。

「え、日本人・・・」

「だから日本語で喋れるの」

「あ、本当だ、日本語だ・・・」

気がつくのが遅い。

まぁ無理もないか。封印されていたんだし。


「寝ぼけてるんだね。仕方ない」

「あぁ、すまない」

少年はフラフラと立ち上がって私を見下ろした。

「本当に日本人なんだな?」

「うん。いわゆる転生ってやつみたい」


私は自分の姿を思い出す。

白い髪に隻眼の赤い目。日本人離れした姿。

その上、幼女。多分、4歳〜5歳。

目の前の少年のような日本人らしい黒髪黒目はあまりにかけ離れたその容姿。


「通り魔に殺されて気がついたらこうなってました」

「それはなんというか・・・大変だったな」

「うん、ほんと何度死んだのやら。」


何度死ぬかと思ったか、ではなく何度死んだのやら。


私の言葉に違和感を感じる余裕も無いのか少年は頭を抑えた。

「無理しなくていいよ。しばらくじっとしてて。」

少年はしばらく顔を歪めていたが徐々に顔色が戻ってきた。

「すまない、もう大丈夫だ。」

「良かった、良かった。で、貴方は?」

「おれは・・・ショウ。」

「うん、やっぱり合ってたか」

「まさか、おれたち元の世界で」

「いや、こっちの世界で貴方の伝説読んだ」

「・・・え?」

「えっと、自分がどうしてここにいるか分かる?」

「あ、あぁ。たしか」


沈黙。そしてせっかく良くなっていた顔色が青ざめる。


「おれは・・・%$#"=(おれは)


ショウの口から溢れる言葉が日本語からこの世界の言語に切り替わったけれど私は問題なく理解する。


「そうだ、おれは召喚されて・・・」


自分はただの高校生だったのに。

勇者として召喚されて活躍して。

そして邪魔になったら封印された。

そう、ショウは自分に言い聞かせるように呟いた。

うん。私が読んだ絵本とほぼ内容変わらない。

というか貴方も高校生でこっち来たのね


「えと、レイ、ちゃん?さん?」

「ちゃん付、しないで」

「レイ、さん?」

「さん付けもいらない。そのかわり、私も呼び捨てにしてもいい?」

慣れて来たとはいえ、舌ったらずな幼女なので喋るの少し不便なところがあるのだ。

「ああ。いいよ。」

よかった。こっちの言葉でショウくんとかさんって敬称を呼ぶの難しいのよね。


「それで何?ショウ?」

私も本格的にこちらの世界の言葉を口にする。

今となっては日本語のほうが意識して喋らないといけないのだ。

異世界の言語のほうが話しやすい。


「レイが助けてくれたのか?」

「うん、まぁ結果論だけど。自分でもちょっと予想外なこと起こってだけど・・・助けたよ」

「どういうことだ?」

「えっとね、いろいろあって勇者復活の生贄にされちゃったら勇者がショウでした」

「え?」

困惑するのは仕方ないと思うけど無視して続ける。


「で、その復活目論んでた人たちロクデナシだったので、ショウの封印解除ついでに封印しました」

それがこちらになります、と両手で示した先には。

さっきの巫女を含め数人、水晶の中に封じ込められていた。


「ちょっと無理矢理やったから不安だったんだけど上手く出来て良かったよ。」

少年は絶句はしたが先程のように青ざめることなく凍りついた人々を見回した。

先程の自分のように封印された人々を。


「・・・どうやって」

「えっとね」


私は足元に落ちていた水晶の欠片を拾った。


「こうやって」

言葉と同時、鋭く尖ったそれを強く左手で握り締める。


「っ」


痛い。

じわり、と血が滲んだのが感覚的にわかる。

そしてその血に力を籠め、手を開く。

「芽吹き」

しゅるしゅると伸びるのは赤い蔦。

まるで水晶が種子か球根のように成長してゆく。

「縛りて」

やがて蔦は近くに飛んでいた綺麗な蝶を絡め取る。

「咲き誇れ」

赤い蔦の先端が膨らんだ。

それはつぼみ。


「血花!」


咲き誇るのは1輪の彼岸花。

赤い紅い彼岸花。


その中心からポロリと落ちそうになったものを空いている右手で掴み取った。


それは蝶の封じられた水晶。


「こうして、ね」


「それがレイの力?」

「そうだよ」


答えながら蔦でもう一度水晶に入れた蝶を絡め取る。


「私の血は魔法を捻じ曲げたり増幅したりできるの」


2輪目の花が咲く。

そこから蝶はてふてふと飛び出し逃れた。

ごめんね。実演に突き合わせちゃって、と心の中で謝罪しておく。


「すごいな。さすが異世界転生」

チートとでも言いたいのだろうか。

「多分ショウのほうが、ずっとすごいよ」


ショウについての伝説を思い出す。

あれこそまさに英雄譚と言うべきものだった。

巫女姫と共に魔王を倒すお話。

刀1本で魔物を切り伏せてゆく絶大な力。

それに比べて・・・


「私の力はね。」


力を抜く。花は萎れ、ボタボタと零れた。


「捻じ曲げられるのは込められた意思の薄い魔法だけなの。」


今回はかなり前に構築された他人の意思が薄れた魔法だったからこそ出来たことだと思う。


「基本的に増幅しか出来ないの」


それにこの力は血に依存なのだ。

私の血さえあれば増幅出来てしまう。

この血がなければあんな目に合わなくたって済んだろう。


「それに、ほら、私ちっちゃいでしょ?」

中身は大人に近くても子供は子供なのだ。

「私一人じゃほんとに、何もできなくて」

魔法はもちろん元の世界でも当たり前に出来てたことが出来ない。

「だから・・・」

「そうだな」

目を伏せた私をショウはガシッと持った。

「レイ幼いもんな。ほら、簡単に持ち上がる」

うわぁ!たかいたかーい!

って。

「子供扱いしないで」

私はショウの腕から逃れた。

「だって子供じゃないか」

「中身はショウと同じ高校生だよ」

「じゃあロリバ」

「うるさい300歳おーばーじじい」

「なっ・・・封印期間はノーカウントだ」

「じゃあ私だってババアじゃないよ。」

というか5+17でも23歳。ババア言われる年ではない。

「子供扱いか老人扱いか極端すぎるんだよ」

ぎゃいぎゃいと言い合いが続き。

「ふふっ」

「あはは」

気がつけばお互い笑っていた。

あぁ、馬鹿らしくて阿呆らしくて・・・

他愛もない話。

本当に、本当に久しぶりだ。

「なぁ、レイ」

ひとしきり笑ったあとショウが提案してきた。

「良かったら一緒に旅しないか」

その目には今度こそ異世界を楽しみたいという意志が宿っていた。

「うん、いいよ」

それは保護者役がいないとダメな私にはとても好都合で・・・何より楽しそうだった。

これならきっと、面白い。


「改めて、これからよろしくな、レイ」

伸ばされた大きな手。

「よろしくね、ショウ」

その手に私は自分の小さな手を伸ばした。

そして小さな1歩を踏み出す。

ギュッと手はつないだまま。

その後ろ姿は親子のようであった。



二つの月に照らされ輝いていた神殿。

それは今宵水晶を纒い一層輝くようになった。

後に神の逆鱗に触れた聖地として語られることになる。




私達はそんなことを知るわけもなく神殿を背に進む。

「行こう」

「ああ。まずはどこかの町を目指そう」

「そうしよう、何をするにも人がいるとこ行かないとダメ。絶対。」

「すごく実感こもってるけどどうしたんだ?」

「私転生したら森の中だったの、一人で」

「それは・・・本当に大変だったんだな」

「それはもう、とっても」

「歩きながら話してくれないか?レイの転生話」

「いいよ。してあげる。私の転生物語」

面白くもなんともないと思うけれど。

私は語りだす。


これは零章の始まりの始まり。

0にすら至らない物語。

あまりにもダブル主人公の片割れさんがお寝坊(序章長くなりそう)なのでタイトル詐欺にならぬよう、世界観が多少感じていただけるよう書かせていただきました。

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