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百銃王  作者: シメオン
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6話「鍵」

残暑が厳しい夏休み最終の日、宿題をやりわすれている人はヒーヒーいいながら、山積みになった課題を何とかしようと四苦八苦しているだろう。だが、彰はそんな世間一般のある一部の層とは違った。その日の彰は朝早くから起きて、自転車で近くの駅前に来ていた、自転車は適当に駅前の駐輪所に止め。誰が作ったか、どんな作品名なのかわからない、いびつな形のオブジェの前に彰は立っていた。彰の周りには待ち合わせに使っている若者がちらほらいて、皆、時計を気にしたり携帯の待ちうけを何度も見ていた。彰も例に漏れずその一人である。まだ夏の暑さは続いていて、眩しく熱い太陽の日差しを受けた体からは微量だが汗が噴出していた。約束の時間は午前10時、彰の腕にはめた青いプラスチックバンドの安物の腕時計の針は、9時40分を刺していた、当然遅刻はしてはいないだが彰は現時刻から20分前にはすでに到着していた、自転車でふらふらと同じ場所を何度もいききし、少し落ち着かない様子で、適当に駅前にある店を出たり入ったりして、時間を潰していた。


「うん、早すぎたな」


よく待ち合わせで見られる、「ごめん待った?」「ううんそんなことないよ」

のやりとりをやりたいわけではないが、儀や礼に厳しい人との待ち合わせだ、このくらい早くても問題はないだろう。その相手というのが少し離れたところでキョロキョロと人を探しているのが見えた。そんなに俺は存在が薄いのかとショックを受けつつ、これ以上彼女の困った顔を眺めている意味も特に無いので手を振りながら。

「こっちですよ先輩」と、街の雑踏(ざっとう)に掻き消されないように、わりかし大きな声で彼女を呼んだ。


「あ、彰すまない……待たせてしまったか?」


真理亜が少し落ち着かない様子でお約束の言葉を彰にかける。

だが彰はその言葉のお約束の返しができなかった、その理由は真理亜の普段とは賭け離れた意外な服装にあった。普段結わっているポニーテールを解き、深緑の髪を下ろしている姿に衝撃を受けたのもそうだが、上はわりと現代っぽい白のキャミソールに、下は青白いミニスカートにロングジーンズを重ね着していて、靴はいつもなら騎士の履く皮のバトルブーツなのだが、真理亜が普段はかないような白いサンダルを履いていた。


「そ、その変かな……私。こういうのはわからなくて」


夏の日差しのせいなのか、すこし真理亜の頬は赤い。刀を持っていない先輩はやっぱり普通の可愛い女の子だと彰は言葉に出さずにそう思った。


「いや、ぜんぜん変じゃないです」


彰は顔を思いっきり赤面させて噛み噛みの返事で褒めると、真理亜も真っ赤になって、手を胸の前に組み、下を向いてしまった。


「大体なんなのだ、急に電話してきてデートしようなんていいだして」


照れているのか、ぷいっとそっぽを向くが、声のトーンからしてあまり怒ってはいないようだ。真理亜は振り返って駅の方に歩きはじめ、それを追いかけるようにして彰がついていく。


「いや、まぁいいじゃないですか、で、どうしますか?」


真理亜は頭の額に手を当て考える、そういう所は普通の女の子らしくないのだが、ぱっと何か思いついた時の無邪気そうな笑顔を見て、そういう所も全て彰にとっては楽しかった。


「まかせる、こういうのは誘った君が考える事だろう」


「そうですね、じゃあ3つ隣町に新しくできた水族館でも行きましょうか」



駅内に入ると、夏休み最終日だからなのか観光客も帰省客もこの時期にはホトンドおらず、人が疎らにいた。彰達は駅の一角に設置されている自動券売機で切符を買い、真理亜に切符を渡すと、改札機を何故か真理亜はおどおどしなから通っていた。


(まさか先輩って電車に乗った事がないのだろうか)


カナと同じくらい金持ちの令嬢なので有り得なくはないが、細かい事を聞くと真理亜の機嫌を損ねそうなので、何も言わずに電車に乗る。

ちなみに学園のゴンドラには券売機も改札機もない、すべて学園経費でまかなわれている。

電車の中はそれほど混んでおらず、ガラガラに空いた青い長いすに座れるほどであった。

彰は適当に座ると真理亜が両手を前で繋ぎ、太股の当たりに置きながら自然に彰の隣に静に座った。他の乗客に迷惑をかけない様に自然と彰の肩に真理亜の肩が密着する、その状況に彰は少し照れていて、電車の中では何一つ話さないで無言のまま揺られていた、真理亜は気にしていないのか、目蓋を閉じ静かに瞑想している。

その初々しい二人の姿をやや離れた所でとある人物達が探偵の尾行捜査のように見つめていた。


「うーん、情報の通り犯人(この場合ホシと読む)は学園一の人気を誇る生徒会長とデートというのは本当だったようだね」


そう得意げにパーティーグッズの鼻眼鏡をくいと上げて、得意げになってフフンと鼻を鳴らしているは、生徒会風紀委員長の火土冬夜である。その横で何かぶつぶついいながら落ち込んでいるのが、同じく風紀委員及びその他の生徒会の仕事を主に引き受けているレイニア、さらにその横にいるのが金髪ツインテールの一見ロリッ子に見えるが副生徒会長のカナ。


「なんか、物凄く腹が立ってきたんだが、書記をぶち殺しても構わないか?火土」


レイニアは震えるような声で怒りを懇々と混め、自分の腰に下がっている短く刀身が黒塗りされ反射防止してあるアサシンダガーを抜こうとして、それを火土が慌てて止める。


「待った、待った、これから面白い事が始まるのに、ここで止めたらもったいないだろう?」


「火土、貴方それでも風紀委員なの?不純異性交遊は立派な風紀の乱れだと思うのだけれども」


「うむ、これくらいは問題はないホテルに二人で入りかけたら止めればいい」


「それはそれでもう手遅れな域だと思いますけど」


カナはため息をつき、呆れ顔で金色のツインテールを指でねじりなから首を振る。


「それはそうと、この情報の出所はどこですの?やけに具体的な内容でしたけれど。日時と、待ち合わせ場所と、彰が今日行こうとしているプランと、さらには服装まで書いてありましたけれども」


それを聞くと、また火土が鼻眼鏡をクイッと人指し指であげ、にやけながら答える。


「それは何を隠そう、生徒会の名誉顧問として新しく入った瀬戸口リア嬢からだ」


「いつの間にそんな事を……ほんとに勝手な事ばかりしてくれて、屑火土が」


レイニアがアサシンダガーを抜き、火土に音も出さずに襲い掛かる。


「レイニア僕を殺しても気は晴れないぞ☆」


火土は笑いながらレイニアの腕をつかみぎりぎりと刺されないように。


「お止めなさいレイニア、火土を殺すなら人目のつかない所で」


「そこは止めてくださいよ副会長」




水族館に着き、チケットを買い園内に入る、真理亜は何を見ても驚き、物珍しそうに見ている。展示されている資料などにも興味津々に読みふけり、たまに彰が側にいるか周りを確認していた。


「こういうのって初めてなんですか?」


「うむ、産まれて初めてすいぞくかんに来た、どういう所かは人聞きに知っていたのだが、何分一般の娯楽施設はほとんど行かなくてな」


一瞬彰は「家族とかと小さい頃にいかなかったんですか?」とか聞こうとしてやめた。カナに見せられた真理亜の戦闘記録の資料の内容を思い出し、小さい頃から戦争に駆り出され、普通の女の子として生きては来れなかった真理亜の過去を想像して、彰の心がざわついた。


「……じゃあ今日はいっぱい楽しみましょうね」


「ああ、そうだな……それはそうと、さっきから気になっていたんだが」


真理亜はもじもじと手を後ろに回し、顔を赤面して次の言葉まで少し間隔を空けて。


「手、とか繋がないのか?一応デートなんだろう?」


「でも、どうします?生徒会の皆」


彰が困り顔で後ろに一瞬だけ目配せした、そこにいたのは、ばればれの変装をしてこちらをじっとりとした視線で監視している、生徒会のメンバーだった。カナは普通に私服に仁王立ちしてる状態なので豪華なお嬢様オーラが目だって仕方ないし、レイニアはさっきから視線ならぬ殺線を送り続けている、一番の決め手が火土だ鼻眼鏡とわかりやすいトレンチコートを着て変装をしていた。


「どこから情報が漏れたんだ彰?」


ひどく呆れた顔で真理亜が彰を睨む、少しひるみながら彰は焦る。


「ははは、多分リアに朝会ったんで、それだと思いますけど」


真理亜はそれを聞くと彰の手を取り急に走り出した、そのため彰はバランスを崩し転びそうになりながら真理亜に引っ張られる形で走った。

それを見て生徒会のメンバー達も二人の後を追う。人を避け、建物内部の展示施設に入ってみたり、ショップの中を駆けて店員に怒られても気にせずに、ただひたすら風を切る。そしてある程度走った所で真理亜が足を止めた、少し息が上がったのか呼吸は荒い、額にはこの炎天下の中で走ったので大粒の汗が流れている、だが表情は苦しそうでもこわばってもおらず優しく笑っていた。


「先輩もうちょっとゆっくり……」


彰は真理亜とは対照的に息を切らして肩で呼吸していた。仕方なく近くの休憩所のベンチに腰を下ろして、額の汗を拭う、空を見上げると眩しい太陽がすがすがしい青空で輝いている。

真理亜が休憩所に設置してある自動販売機で適当に飲み物を買って彰に渡してきた。彰はそれを半分くらい一気に飲んだ後、一息つく。


「すまないな彰、でも今日だけは二人で楽しみたいんだ」


その何気ない真理亜の言葉に、彰は一瞬心臓が高鳴る。自分をちゃんと意識してくれているんだという事に、さらに真理亜自身の気持ちに偽りは無い事は、彰に本当に申し訳なさそうな、困ったような顔をしている真理亜を見て感じ取れた。


「そうですね先輩、生徒会の奴らには後で何か仕返ししてやりましょうか」


冗談っぽく彰は笑い、手に持っていた飲み物を全て飲み干し立ち上がる。


「でも、また追いかけてきたらどうしようか、倒すわけにもいかないし」


「よし、ちょっと待っててください」


彰は近くにあったショップに入って、土産物の帽子を適当に買って真理亜にかぶせた。


「これくらい変装しないと先輩は目立ちすぎるんですよ」


真理亜は女性の中では長身な方でスラリとした長い脚と、美しい容姿でさらに今日は学園の時と違って凄く可愛い衣装なのだ、目立たないほうがおかしいのだが、本人はそれをまったく自覚していないようだ。一応彰も帽子を被り、眼鏡をはずした。


「コレで少しはましでしょう、二人で帽子を被っていても今日は日差しが強いから余り目立たないし」


その後周りを警戒しながらも水族館を真理亜と二人で見て回る、真理亜は意外に可愛い物好きなのが立ち止まる動物でわかった。ある程度見終わって日も浅く傾き始めてきたので、水族館を出て帰り道を歩く、水族館のマークが入った帽子を脱ぎ髪を振り払いながら真理亜は髪をかきあげる。

彰にとっては何気ないその一つ一つの真理亜の行動がとても目を引いた。駅までの道を二人手を繋ぎながらゆっくりと歩く、ここで恋人だったら今日のできごとを振り返り、見詰め合いながら楽しげに話すのかもしれないが、真理亜とはそういう関係にはなっていないので、沈黙のまま適当に町並みを眺めながら歩く。


「……それで今日は本当は何の用なんだ?そろそろ言ったらどうだ」


沈黙を破る真理亜の第一声に、彰は歩みを止めて真理亜に向き直り、少しこわばった表情になり、しまっていた眼鏡をつけ帽子をとって、さっき買ったときにショップで貰った袋に突っ込んだ。


「先日、先輩が俺から奪った指輪を返してください」


真理亜は何も言わない、表情も変えない、ただまっすぐと彰を見つめている。夏の熱い風が真理亜の髪を乱した、風がやんだ後、彰は大きく深呼吸をして言葉を続ける。


「先輩は危険だと言う事で、指輪を奪って俺についてこないようにしたんだろうけど、違いますよ先輩」


「え?」


「俺は例え指輪が無くても先輩を助けに行く、必要じゃなくても、危険でも」


彰は笑っていた、夏の青空に負けないくらいの清々しい微笑みで、真理亜はそれをみて一度微笑んで、そのあとに呆れた顔をして首に下げていた指輪の束と、自分の左手の薬指にはまっていた指輪を外し、彰にほうり投げた。それを少しバランスを崩しながら彰は受け取り指輪をポケットにしまう。


「ほんとに馬鹿だな、君は、どうせ止めてもついてくるなら、せめて自分の身を護るものは無くてはな」


「……それじゃあ、これからも先輩について行ってもいいですか?」


ぱぁっと一瞬明るい顔になり、喜ぼうと思ったときに真理亜に、ついっと人差し指で鼻を押された。


「別にいいが一つ条件がある」


彰の目の前に立ち顔を近づけた、海の底のような深い、深い緑色の瞳に見つめられ、その瞬間街のざわつきが意識から消え真理亜と彰だけが世界に取り残された感覚に襲われた。


「なんですか……先輩?」


少し前に出ればぶつかりそうな距離に彰は困惑し、心臓の音も今日一番に踊っている。


「それだ、それをやめろ」


「それって?」


「その先輩っていう呼び方だ、それじゃあ私も、レイニアも、火土も含まれる、せめてその先輩の前に名前を付けてくれないと判別がつきにくい」


少し怒っているのか声のトーンがいつもより低い。


「えと……真理亜先輩……」


照れくさそうに彰が視線を外して、小さい声で試しに一度呼んでみると真理亜は「なんだ?」と茶化すように子供っぽく笑い、踵を返して駅の方にまた歩き始める。

その後ろ姿を見て彰の胸の鼓動はまだ高鳴っていた、その時にまたふと一つの感情が心の奥で、ズット忘れようと思っていた気持ちが湧き上がった。


(やっぱりもう一度ちゃんと告白しよう、あの時みたいになし崩し的な仕方じゃなくて)


彰は一度深呼吸して真理亜を見つめる、世間的に告白に2度目があるのかは知らない、だが真理亜を慕う心は一切変わっていない、むしろ諦められないゆえに日ごとに募っていた。

広い青空は全てを飲み込みそうで、熱い日差しは脳から脊髄まで破壊しそうだ進みだした時は止まらないように、踏み出した一歩からもう止まる事はできない。


「真理亜先輩!俺は貴方の事が―――!」




「だめぇぇえええええ!!!」



彰が叫んだ以上に大きな声で、誰かが彰の告白の台詞を掻き消した。真理亜と彰が同時にその声がしたほうに視線を向ける、そこにいたのは身長の低く、この熱い日には適さない、長い民族衣装のようなローブを羽織った女の子だった、顔はローブについている深めのフードを被っていてよくわからないが、赤い髪がちらりと覗いていた。

その燃えるような赤を彰はどこかで見覚えがあるが、何処の、いつの記憶かは思い出せない。


「くっ、ボクとしたことが」


そう小さく言うと、少女は多少焦りながら両腕につけていた銀色の腕輪を外した。その後に人払いと、気配殺しの鬼道札と呼ばれる術式が書かれた紙を地面と回りの建物に投げて張り付け、術式結界を起動させた。


「彰、なんだかよくわからないが、彼女は戦闘するつもりのようだ構えろ!」


「はい先輩!」


少し残念な気持ちを抱えつつ、ポケットに突っ込んであった指輪を適当に指にはめ、番号を確認したあと、適当な番号の銃を出そうと十字を切ろうとした瞬間。指輪からバチリと火花が散る、頭の中のイメージが壊れる、十字架の中にある鍵がついた鎖が、音を立てて壊れる、身体に流れる血流に別の血が流れ、身体が異常な発熱をおこす。

彰は地面に膝をついた、吐き出すように息を荒げ、目は血走る。


「どうした彰?!」


「ぐぎっあがごあ……」


少女は何か考えているのか体制を崩さないまま、彰に攻撃しようとはせず、ただ変化を見守っているようだった。真理亜が彰に駆け寄り心配そうに身体をさする、何度も何度も彰の名前を呼びかけるが、返事は戻ってこない。


「そう、このマナの流れ、やはり殺しきれてなかったのね」


彼女がそうつぶやいた次の瞬間、ビッという小さい音がその場に鳴り、赤い髪の少女が羽織っていたローブに穴を開けた。その変化に少女は一ミリも動じず、ただ何かをたくらむような笑みを浮かべた。


「おはよう、レオン気分はどう?」


そう少女は彰に呼びかける、彰はゆっくりと立ち上がり、右手にはいつ具現化したかわからない銃が握られていた。名前はわからない、形が今までの銃と違く、歪で、古式銃に近代メカをふんだんに詰め込んだような外装は、今の彰が異常な事を表しているようだった。


「頭はぼやけてるな、一撃でテメェをぶち殺す気だったんだが、どうも勘が戻ってねぇ」


「ボクのことは覚えてるの?嬉しいわ」


真理亜の瞳に写るローブの娘と会話している彰は、明らかに普段の彰の顔つきとは違った。どこか弱々しくも優しい普段の彰の顔とまるで別人、目つきは鋭く、口元は不気味な笑みを作っている。


「本当に彰なのか?」


「あいつなら今寝てる、しばらくはおきねぇだろ」


真理亜の問いに答える声も今までとは違う、彰の声だが黒く沈んだトーンの声。


「まぁ、とりあえずそれは置いといて、死にやがれ、クソッタレ」


手に持っている銃口をローブの娘に向けトリガーを引く、フルオート式なのか、歪な銃はサイレンサーが付いているような篭った発砲音を鳴らしながら銃弾を連射する。ローブの少女は焦らず、目前に向けられた銃口を見ながら弾丸を避けた、そのスピードは人の域を超越し、ほとんど残像のような動きで、目で追いつくのが難しいほどだ。


「馬鹿ね、貴方を止めるためにいる私が、貴方に負けるわけないでしょ?」


彼女はそのまま一直線に彰の前に移動し、左手を伸ばし彰の頭をつかんで、コンクリートにひびが入るほどの力で地面に叩きつけた。


「無限銃の使い手も近距離なら最弱ね」


その様子を見ていた真理亜は、慌てて回りに武器になるものがないか探す、人払いがされた結界内は死んだように静かで人に頼れる状況ではない、先ほどの動きからみて生徒会のメンバーを招集したところで簡単に殺されてしまうだろう。今いる自分で解決しなければと真理亜は辺りを見回すが、コレといって武器に使えそうな物はなく、唯一手に入ったのが工事中と思われる敷地内にあった長さ1m弱の木材だった。


(一度なら使用できるか・・・・・・)


目の前で彰が倒れている映像を今はシャットアウトする、意識に流すのは鉄、体にあふれる鬼の血を一点に集中、集中するは自己の右手イメージするのは新月の希望、空を舞うウスバカゲロウを一匹残らずはじき落とす剣をイメージ、振り払い、なぎ払う刀身に微量の振動を。


「王廉流・新月暫翔!」


そう叫ぶと、真理亜が握っていた木材がバキバキと音を立てて割れると同時に、黒い、質量のない影がローブの娘へと襲い掛かった、それも一本ではないはじけて何本にも分かれ、全方位から彼女に殺しの一撃を入れるために襲い来る。それに気付いた彼女は転がりながら避ける、避けきれない物は全て飛び蹴りで掻き消した。


「邪魔だ、王廉の娘!」


そういうと彰から手を離し、真理亜の方へ駆け出す。真理亜もそれを見て回避しようとするが、伸ばされた彼女の右手に首をつかまれた。その瞬間何をしたのか、真理亜の体から力が抜けだらりと地面に崩れ落ちてしまった。


「テメェ!マリアに何しやがった!」


「だいじょぶ、面倒だから現時間から10分前までの記憶を全部消して、意識を殺しただけだから」


そういうと今度は左手で彼女の頬に触れ、彰の方に視線だけを向けた。


「レオン、ボクは君の味方だ、だから助言しておくけど、これ以上王廉に近づかないでくれ」


赤い髪の少女は、ごみを捨てるように真理亜の身体を地面にほおりなげた。


「へっ、オレの味方はオレが決めるんでね、俺は好きじゃないが、もう片方が好きな女にこれ以上テメェが何かすんなら、テメェをぶっ殺すだけだ」


ふらふらと彰は立ち上がり、頭から流れている血を袖で拭うと、もう一度銃を構えなおした。


「君はまだ彰とはバイパスが完全にできてないようだね、ならもうちょっと刺激を与えるべきかな」


そういい終わった同時に彼女は彰の目の前から一瞬消えた。そしてすぐに背後から現れ後頭部を左手でつかまれる。その瞬間、彰の頭の中に記憶が流れ込んでくる、見えるのはべちゃべちゃに汚れた床、白い研究室、自分は17番という札を常に服につけていた、銃を使えるように2ヶ月の間肌身離さずみにつけていた、自分のほかにも一緒に番号札がついた服をきた子供達、ニーベリングス、染み付く火薬の臭い、16番と脱走計画を立てよう、赤い髪の女、我は全てをなぎ払う百銃の王。様々な単語がガヤのように頭に鳴り響いた。大量の記憶量を叩き込まれたせいで、脳が焼け付く、平衡感覚がおかしくなり、嗚咽を漏らした。


「ぐっあ、テメェ……オレの記憶をいじったあの時の女か」


そのレオンと呼ばれた彰の問いに、赤い髪の少女はにやりと薄気味の悪い笑みだけで答えた。


「これでだいぶ彰とのバイパスができたはず、あとは待つわ」


彼女の左手から解放されたが、彰は先ほどの余韻で、地に足を着いている感覚が無く、ふらふらとよろけながら、立っていた。その彰を見て、彼女は今度は右手で彰の頭をつかむ。


「それじゃ、また会いましょうね、レオン」


断絶(アウト)

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