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百銃王  作者: シメオン
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5話「自覚する思い」

青い海、白い砂浜、潮風の香りが鼻を撫で、空には燦々と輝く太陽、爽やかな夏に彰達は海水浴に来ていた、目の前には、両脇に小さい赤いストライプのリボンをつけている白いビキニで浜辺の浅いところではしゃいでいる女の子と、そのすぐそばで、黒いセパレードタイプの水着を着た、金髪を三つ網にしている女の子を砂浜で彰は眺めていた。彰達以外に泳いでいる客は誰一人も居ない。その光景を目の前でのんびりと眺めていられる事自体が、最高の幸せと言う人間もいるかもしれないが、彰には家族旅行の拡大版としか思えなかった。


「おーうやっぱりこのメンバーはめっちゃレベル高いな!わて感激やで!」


同じクラスの悪友加藤凛矢が卑猥な妄想をしながら、ニヤニヤとリアとレンの様子を見ている。


(というかなんだそのエセ関西人喋りは。妹を変な目で見られると思うと内心怒りがこみ上げてくるのだが)


これでも根は悪い奴ではないので、安心して放置する彰なのだが。


「彰君も一緒に遊びましょう?」


リアは白いビキニの太股の付け根の食い込みを、人差し指で引っ掛けるように直しながら彰を半ば誘惑のように誘うが。


「悪い、ちょっと今日は調子悪いんだ」


先日の戦いで新しい銃を使ったときのマナ回路的疲労と、まだ脳裏に焼きついている血と火薬の

臭い、さらになれない場所での長距離走で、彰のいたるところがぼろぼろだった。

そもそも何故、今、彰達が海水浴に来ているかという話なのだが、それは数日前の戦闘地域であった魔界から地球へ帰還する宇宙船の中での話にさかのぼる。



「私の家の別荘に遊びに来ないか?」



きっかけはその真理亜の一言だった、真理亜はわざわざ帰りは自家用船を使わないで、彰と同じ部屋同じ船のチケットを取っていた。

もちろん、リアとレンが居たので二人きりというわけでは無いが。疲れて眠っている二人を部屋に残し、船の中に設置されている休憩室のような場所で、星屑の海を見つめながらそう誘われた、もちろん断る理由はなかったが。


「急に、どうしてですか?」


彰は疑問に思い、焦ったような表情で、そう真理亜に疑問をぶつける。真理亜から遊びに誘われる事は普段は滅多に無いので疑問が沸いた、真理亜と何処かに行くとなると、大抵学校の後でリアと三人で何時ものカフェテラスでお茶。オフの日は戦地に赴いているか、家の用事で電話もでない、それに最近は文化祭が近い事もあってか、生徒会の仕事が多忙でオフらしいオフはない。


「王廉家から今回の戦闘での怪我の具合を報告したら、しばらくの傭兵活動の休暇を強制的にしかれてしまったのだ」


「そうなんですか、しばらくは危険な地域にいかないで済むなら、良い事です」


「…そうか…そうだな」


憂いをおびた眼で真理亜は自分の深緑の長い髪を撫でている姿を見て、彰は複雑な気持ちになっていた。真理亜がこの手の表情をするときは何かに対して悲しんでいるのだが、今回はよくわからなかった。


そんな事があって学生の夏休みらしい行事をしている今に至るわけだ。

特に輪に入ろうとせず、その後加わったレイニアと、火土冬夜の人間離れした泳ぎ方を見ながら呆けていると、砂にビーチパラソルを突き立てている真理亜を発見した、刺し方が上手くいかず試行錯誤を繰り返している姿を見ると以外に女の子っぽいのだが、それを左足を庇いながら松葉杖を左手に持ち、あいている右手一本で軽々とパラソルを立てている姿を見ると、普通の女の子ではないということがわかる、それでも片手ではつらいのか、中々立てられないので表情は少し険しくなっていた、見かねた彰がそっと手を貸し、ちょちょいと簡単に立ててあげた。


「おう、彰か……すまないな」


少し驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの気高い表情に戻る。


「いえ、それより先輩無理しないで下さい、左足の怪我に響きます」


「心配するなこんなの医者が大げさなだけだ」


照れるように真理亜が微笑んだ、足の包帯にはしっかりとした固定具が付いているのをみて、彰は胸が痛んだ。


「先輩は水着持ってこなかったんですか?」


真理亜の姿は、深緑の髪をポニーテールにしサンバイザーを頭につけ、服装は白い清楚なキャミソールにタイトなカットジーンズという姿だった。


「なんだ?私の水着姿に期待でもしたのか?」


真理亜は茶化すようにこつこつと人差し指で彰の額をつついた。


「はは……まぁ、してなかったわけじゃないですよ」


その言葉に茶化してた真理亜の頬が少し赤くなり急にあたふたしだした、最近の真理亜は彰と接する事が増えたので以前に比べだいぶ表情がよくなってきた、彰が生徒会に入る前の真理亜の印象は鋼鉄の戦乙女のように、無表情でいつも無口なのだと感じられたが、最近は剣の修練も真理亜のほうから誘ってくるくらいだ。


「彰は泳がないのか?」


「ちょっと、泳げるほど元気じゃないんですよ」


真理亜はそれを聞いて、少し離れた所にいる他のメンバーと彰に視線を右往左往させながら、一回小声でごにょごにょと何か独り言をつぶやいた後。大きく深呼吸をして。


「それじゃあ……少し二人で抜け出さないか?」


「いいですね、って言ってもここプライベートビーチで他に何も無いですけど、どうするんですか?」


「君に見せたいものがある、付いてきてくれ」


そういうと、真理亜が松葉杖をつきながら近くにある王廉の別荘である2階建て木造の高級コテージに、彰のことをついてきているか何回か後ろちらちらと振り向きながら、ゆっくりと二人で歩いていった、木製の軋む両開きのドアを開け、長い事使われてなかったのか埃っぽいロッジの中に入った、来たときに置いた人数分の大きい荷物を避けながら歩き真理亜につれられるまま2階へとあがっていく2階も埃っぽくはあるが1階よりかは埃が少ないので多少は綺麗だ、2階はホトンドの部屋が寝室で一番角の部屋に真理亜は入った、それを追いかけるように彰もその部屋に入る、中は狭く大体5畳半といったところか、そこにシングルベットがでかでかと置かれていて、横には木製の小さな引き出し付きのテーブルが置いてあり、その上には小さな木製縁の写真たてが置いてあった、そこに写っているのはどこにでもある、とある家族の集合写真だった、写っているのは十人幼い真理亜とその横に二人、兄か姉であろうか真理亜と手を繋いで凄く幸せそうだ、残る二人は両親として、後の五人の接点がわからない、白い白衣を着ていてタバコをふかしている若い女性と赤い髪の少女、後の人間は顔の部分が切り取られていてわからない、真理亜はその写真立てには特に興味を持つ様子ではなくベットに腰掛けた、ぽふっと腰を下ろすと数年間たまった埃が舞い上がる。


「で、なんです?見せたいものって」


「……そういう風に言わないと警戒されると思ったから」


彰は、真理亜が返した返事の意味を考える、パターン1としては、二人っきりになりたい口実という何とも嬉しいハッピールート、パターン2としては、人目のつかないところで××××したい(略)パターン3としては、人目のつかない場所で貴様をKILL!だが、彰が考えていた、どのパターンでもなかった。




@


瀬戸口リアは先ほどから少し気になっていたことを加藤凛矢に真剣な表情で聞く。


「彰君知りませんか?さっきから浜辺の方に居ないようですけど」


「さぁ?携帯にかけてみれば?」


リアは水辺から急いで砂浜に上がり、ビーチパラソルの下においてあるたくさんの荷物の中から

自分のバックを引っ張り出し、その中から薄ピンクの自分の携帯を取り出し、震える手でアドレス帳の一番上の相手に電話をかける、発信音の後にコール音が続く、そこでリアは気づいた、彰の鞄からマナーモードのバイブレーター音がさっきから鳴っていた。


「嘘……彰君、携帯置いてきっぱなし?」


リアは何も考えずただ駆け出した、ビーチサンダルでは走りにくいがそれでも走る、ここは王廉が所有している小さい離島だ、走れば1時間くらいで全てのそれらしい場所を探せる、当ては無いが、とりあえず動いていないとリアは不安で仕方がなかった。


(彰君……)




@


真理亜は表情を変えずまっすぐな眼で彰を見つめ、大きく深呼吸して落ち着いた後。


「彰、その指輪を私に預けてくれ」


指をさしたのは彰の左手の中指にはまっている銀の指輪、レンに貰った全ての指輪をつけていると、体力とマナが大量に奪われ続けるので、通常は1つしかつけていない。


「どうしてですか?」


ただ本当に彰は純粋にそう思った、真理亜は日本刀一振りで戦車を叩き壊すほどの力を持っている、なのにさらに銀の指輪で武装する必要もないだろう。


「君がもうこれ以上無茶な真似をしないためだ」


「!」


彰に吐いたその言葉はつまり、遠まわしに先輩に足を引っ張るから関わらないで欲しいという事であり、先の真理亜の発言と全てが結びついた、指輪という力が無くなれば彰はただの人間だ、魔術も使えない、剣術も最低なただの一、士官志望学生だ。

その真意を知り彰は胸の奥で沸々と憤りの感情がこみあげる。

自分は先輩には必要とされていない、むしろ邪魔だと思われている、周りに人がいない所を選んだのは彰を傷つけないための真理亜なりの配慮だったのだろうが、それが余計に彰のプライドを引き裂く。


「嫌です!折角先輩と同じ場所に立てて、折角先輩を護る力を手に入れたのに」


真理亜はその言葉を聞き先ほどまでとは違う鬼のような形相で、彰の左腕を引っ張りベットの上に彰を押さえつけ、馬乗りになる、彰はうつ伏せに状態にさせられ、左腕は背中に周り、ギチギチと音を立てるような激痛を生み出していた。


「同じ場所に立つだと?!少しばかり力を手にいれたからと自惚れるな!私は頼んでいないし、誰かに護られるほど私は弱くは無い!」


真理亜は彰の指から無理やりに指輪を引き抜く、それと同時に彰を締め付けていた、腕を開放し彰から降りてその反動で大きく体がのけぞり、背中を壁に打ち付けた。

急に動いたので、真理亜の息が少し上がる。


「嘘です……先輩あんなに辛そうじゃないですか、いつもいつも気高い眼差しをしてるなかに時折、刀を見つめながら凄く物悲しそうな顔してるの、俺は知ってるんです」


真理亜はその言葉に、自分の心の奥に秘めていた物があふれ出しそうになり両手で胸を押さえた、キリキリと胸が軋んだ、眼の奥もチリチリと熱くなってきて、油断すれば全てをぶちまけたくなってしまう、そんな物を止めるために真理亜は胸を押さえ自分の手の甲に爪を立てる。

さっきはあんなに酸素を欲しがっていた肺が一瞬止まる。


「……俺は確かに弱い、でも、先輩が俺を頼ってくれて少しでも先輩が悲しい表情を浮かべないように、その辛さをいつか俺に話してくれるまで、頼ってくれるまで、俺がもっと強くなるまで、もう少しその指輪を取り上げるのは待ってくれませんか?」


今、自分の中に強くはっきり流れている気持ちをゆっくりと、しかしはっきりと、目の前にいる、真理亜に茶化さずに、隠さずに、言葉にして彰はぶつけた。


「……やめてくれ、お前がそこまでして私に干渉する必要はない、バックアップとしてなら充分今のままでもありがたく思ってる、何故そこまでするんだ」


彰はその言葉で考えた、自分が何故そこまでして、力を手にして、真理亜を護ろうとするのかを、バックアップなら生徒会にいればいつでもできる、だけど保身も考えず正義のためとか大それた事でもなく、真理亜の横に立ちたい護りたいと思ったのは何故かと自問自答を繰り返し、

たどり着いた一つの単純な答えは。


「決まってます、先輩が好きだからですよ、好きだから、俺は護りたいと思うし、好きだから力になりたいし、だから自分の身の保身なんて考えないでなりふりかまわず行動しちまうんです」


彰は今できるかぎりの優しい笑顔で、自分が思う言葉の全てを、気持ちの全てを伝える。


「……ごめん、私は彰の事を知人程度にしか思えない、だからその言葉も気持ちも悪いが受け取れん」


彰の思考は停止する、告白するタイミングも間違えたわけじゃない、運が悪かったわけじゃない、拒絶、拒否、否定、自分のしてきた事を全てかき消された、意識が遠のきそうだ、夏の暑さのせいで出たわけではない汗が全身から吹き出る、心臓の鼓動は一気に高鳴るが、呼吸はできない、その場にいるのがつらい、彰は、そのまま一度も真理亜を見ずに、ドアを適当に開け部屋を逃げるように走って出て行った。


「これで……よかったんだ」


彰が消えて静まり返った部屋で一人つぶやく、真理亜は壁に預けていた自分の身体を力なく崩れ落とし誰も居なくなった部屋の片隅で、彰から奪った銀の指輪を大事そうに握り締め、しばらく身体を小さくしてうつむいていた。




@


何時間歩いただろうか、あたりは同じような景色ばかりでどこにいるかわからなくなりそうだ、一応GPSで位置確認をしているので迷いはしないがあてもなく対象を探しているのだ、とぼとぼと歩いていると、どこからか歌が聞こえる、懐かしく暖かい歌。


「誰?」


歌がするほうへ、リアは歩みを進める、音がどんどん近づくすると海岸を見渡せる崖に着いた、そこにある出っ張った岩の上に、座りながら歌を歌うのは、紅い燃える様に紅い髪の少女。


『我は〜全てを超越する百獣の王♪我が気高き爪は百の武器を生み〜我が雄叫びは百の者をすくみあがらせる〜♪』


「趣味が悪いですよ、また、勝手に人の記憶を盗んだんですか?ゼル」


「そういう貴方も、ボクと同じじゃないか」


紅い髪の少女がクスクスと笑う、だがその微笑みに温度はない。


「何か用?こんな所にいるって事は用なんだろうけど」


「魔王様が、君に伝言だ、「近々成果品の様子を見に行くから、それなりに覚悟しておけ」だって」


「嘘でしょ?だって、まだ、早いよ」


彼女の言葉にリアは焦りの表情を浮かべた、彰と接するときの笑顔はこの少女の前ではする必要は無い。


「あの事故からもう7年だ、私達は充分時間を与えたはずだよ?それに早く完成させないと聖ソフィア教会にまた邪魔される」


リアは一度首を小さく縦に振った、その様子をみて紅い髪の少女は冷ややかな微笑を浮かべながら一度踵で地面を蹴りテレポートを使って、その場から砂のように消えた、リアは何かを思いつめた表情のままロッジに戻る。


「おーいリアちゃーん」


ロッジに行く途中の道で加藤凛矢が150ccのモーターバイクに乗ってリアを迎えに来た。


「彰見つかったぞ、なんと驚き、ずっとロッジの中にいたんだってさ、灯台下暗しってこのことをいうやなー」


妙な関西弁混じりにケラケラと笑っていた凛矢を無視し、リアは歩き続ける。


「おう、どないしたリアちゃん?このバイクの後ろ乗れるで?」


「少し潮風に当たりたいんです、どうせ10分くらいでつきますから、気にしないで先に行っててください」


加藤はその言葉を確に聞いていたはずたが。

バイクのエンジンを切り、リアの速度に合わすようにバイクを押してゆっくりと歩いた。





夕飯時になり皆で海辺でバーベキューをすることになった、材料は火土が沖の方まで能力を使って歩いてとりにいった魚と、備蓄してあった肉と野菜を適当に並べた、セッティングはレイニアが全てしていたので後は焼くだけなのだが。


「妙に場の空気が悪いなどうしたんだ?」


火土が網の下で赤く燃える瓶長炭を金属の細長い棒でつつきながら、全員の顔をうかがう。

真理亜は少し離れた場所で机に松葉杖を立てかけ、いつ着替えたのか深めのフードがついたゆったりとしたローブを着ていた、そして彰はレンの隣に座っていたが、先ほどから魂が抜けたように一点を虚ろな眼で見ていた、いつも彰の事ばかり心配しているはずのリアもまた、帰ってきてから普段の笑顔が消え、人形のように無表情で無言のまま座っている。

3人から少し離れて、小声でレイニアが残りのメンバーを集め、相談を持ちかけた。


「火土、なんとかこの状況を一刻も早く改善するため、私は少し真理亜と話しをてくる、お前はリアを、カナは彰に話を聞け」


「はいはーい、おれっちはなにすればよか?」


すごく存在を忘れられていた黒髪オールバックの加藤凛矢が手を上げるが、一度皆がそちらを向き、無言で向きなおす。


「じゃあ、上手く3人ともばらばらに事情を聞いてみよう」


「おう」


「わかりました」


「わかりましたわ」


「おし、俺は綺麗にシカトか」


3人が暗い雰囲気の中に戻っていきそれぞれとペアを作るように移動した、やることが無くなった凛矢は一人で不気味に笑いながら仕方なくバーベキューを始める。



〜火土×リア


火土はほとんど初対面に近いリアと会話する事に少し戸惑っていた、彼女に会った事はある、何度か生徒会に来ていたし、会話も少しだけならしたことがあるが、彼女が何が好きで何が嫌いかもわからないし、そもそも、どういう言葉をかければ元気付けられるかわからない。

火土冬夜という人間は、ギザっぽい性格であるが、それは女性が苦手だというのを隠すためにそうなっているだけであって、実はそこまで女慣れしてはいない、とりあえずこの場で最高の一言を考え彼女に声をかける。


「やぁ素敵な夜だね!」


「はぁ?」


失敗。

リアは物凄く警戒した目をして少し身を引いた。


「いやぁ元気が無いからどうしてかなぁってさ」


さらに失敗、明らかに不自然な聞き方だ、だが、あたふたする火土を元にリアの返事は意外な物だった。


「私は元気です、ただ考え事をしてたんですよ。彰君がこの前戦地へ行った時すごく心配だったんです、でも彰君はすごく嬉しそうで、それがすごく複雑だったんです、今回は衛生兵のお仕事という名目で行きましたが、今後、この前みたいに彰君に戦闘要請がでたらまた彰君は……」


そこで一度会話が途切れる、リアはまた考え込んで意識を停止させてしまう、火土はそれを見て額に手をあてて打開策を考え一度、パンと手を合わせ。


「よし、そういうことならできるだけ生徒会メンバー全員で行こう、剣鬼の王廉と、神槍のレイニア、それに空気の火土がそろえばなんとかなります」


「最後の微妙に二つ名というか悪口なんじゃ……」


「それで君も衛生兵見習いということでついていけば問題ないんじゃないか?」


「いいんでしょうか?」


リアが少し明るくなり目線をあげた彼女の目が一瞬銀色に光るが、火土の気のせいだったのか、それとも光の加減で見えたのか一瞬でブラウンの目に戻る。

そこで火土は気づく、彰の目は日本人らしい真っ黒な目をしているし、髪も黒い、だがリアはというと、目の色はブラウンで、髪も光の加減で淡く赤茶色に見える。


「ん、衝撃の事実なんだが君もしかして彰君の本当の妹じゃないのか?」


「はい、幼馴染ですけど……」


「(うらやま…)めずらしいねぇ」


その後は普通に会話でき、彼女が普段している事や、気になってる事から、好きなことと、割と普通の世間話をしていると、表情も落ち着いてきていつのまにか普段の彼女に戻っていた。





〜レイニア×王廉


レイニアはいつに無く興奮していた、それは落ち込んでいる真理亜を慰めて、真理亜に自分の印象をよくしようという、どす黒い下心から生まれる興奮である。そのために邪魔な人間を他にとっぱらって自分は真理亜にいくということを提案したのだが、その状況が真理亜の一言で変わった。


「何だレイニアか」


レイニアの額に軽く青筋が入る、普段より冷たい声で、近づいてきたレイニアにかけた真理亜の第一声の事を、レイニアは何とか忘れ。ひくついた笑顔を作る。


「真理亜、今日は一段と暗いようだけれど、昼間書記と居なくなった時に何かあったのかしら?」


めげずに会話と意思疎通を図るため、真理亜に必死になって話しかける。


「何でもない、お前が気にする事じゃない」


この会長の秘密主義は入学当初から知っているので、今更気にはしていないレイニアだがさっきから、ちらちらと視界に入って気になっていた事が一つあった。


「ひとつ聞いていい?その指輪、書記の魔術道具じゃなかったっけ?」


それを聞いて真理亜は驚いて左手の薬指を隠す、それをみてレイニアはさらにいらだつ、別に隠さなくてもいいのに、それが見つかると恥ずかしいという意識をしてしまうなんて、よっぽど彼に興味があるのだろうと、レイニアは頭の中で2秒で答えを出した。


「これは……彰から預かったんだ」


「その指輪、書記から本当に預かったのですが?」


レイニアはじっとりとした目をして、含みのある言い方で「本当に」を強く強調した。


「ああ、特に隠す事でもないが彰から奪った、これ以上私のそばに居て危険な目にあわせないために……」


真理亜はその指輪を優しい目で見つめていた、無限の銃を生み出す指輪なのだがそちらに意識が向くより、レイニアはつけている左手の薬指という部分がとても気がかりだった。


「真理亜、貴方は良かれと思ってやっているようですが、それは書記に対して物凄く精神的ダメージを与えたのではないかしら、書記はあれでも弱くは無いですよ、ここのところの模擬戦闘の成績も銃を持った時のみ優秀だし」


そこで真理亜が初めてレイニアに視線を向けた、潮風になびく深緑の長い髪を押さえながら、酷く疑問そうな顔をしている。


「どうしてそんな事を知っているんだレイニア、まさかとは思うが、お前もしかして彰の事を……」


「そんなことは絶対ありません!!私が好きなのはあなたひとりです」


真理亜の疑いの言葉をレイニアは顔を赤くし、声を荒げながら早口で否定する。


「それは私としてもどうかと、前々から思っていたのだが」




〜カナ×彰


カナには彰が何故落ち込んでいるのかは大体予想がついていた、さっきまで皆と別行動をしていた事、その時に真理亜が一緒にいたことは知っていた、落ち込むきっかけはそこにあるはずだと考える、その時の真理亜との会話は恐らく戦地での事であろう。あの後、彰は満足した顔をしていたが真理亜は思いつめていた。最近は何故か彰の事ばかり視界に入れてしまうカナは、気づけば彰を見ているので、彰の小さい行動も結構覚えていたりする。



今までしてきた事が全て音を立てて壊れていった、失った物は自分の指の違和感でわかる、常にそこからマナが放出されていたためか以前は重りをつけているようだったが、今では逆に軽くなったようだ、頭の中は澄み切っている、耳に入るのは波の音、一番近く視界に入ったのは金髪をツインテールにしている副会長だった、折れた指は大丈夫だろうか、自分がもう少し強ければカナに迷惑をかけなかっただろうか、自分がもう少し強ければ真理亜に足手まといだと言われなかったろうか、カナが隣に座っているが何も問いかけてこない、何故だろう、わからない、自分にできることは何も無い、気さくに笑えばいいだろうか、泣いて見せれば満足だろうか。


「私は、やはり何もできないようですわね、今の貴方に何を言ってもきっと反応がないでしょうから、私は少し自分の身の上話でもしたいと思います、不愉快だと思ったならここから消えろと一言いってくれればいいですわ」


カナは何を話しているのか何故そんなことを話すのか彰にはわからない。

彰の目は水を失った魚の様な濁った目でカナのほうを首だけを動かし視線を向ける、カナはこちらが視線を合わせてくれることを待っていたかのように、優しい目で見つめていた。


「私の家計は王廉とはまた違う名家の財閥です、名を有栖川と言いまして、私はそこで産まれたんです、有栖川の家には私の姉が居まして、姉は大魔導士で自ら魔典や聖典を作るほどの人間でした、ですが、神様はどういう悪戯か妹の私には何の才能も与えなかったんです、両親に姉といつも比べられて家にいるのが息苦しいときもありましたわ」


カナが泣きそうな瞳で途切れ途切れで言葉をつむぐ、だがその言葉は力強く、その瞳は彰をまっすぐと見つめている。


「姉は天才でした学校へはいかず、基礎教養を自己勉学と家庭教師で見につけ、わずか5歳にして大魔術と呼ばれるクラスの魔術ナンバーを起動、生まれたときからリングの構築式ができていたんでしょうね、でも私はできませんでした。初めて起動式が組めたのは12歳、一般の門下生からすれば早い方ですがそれでも私は納得できませんでしたわ、努力して、それでも足りなくて、いっぱい、いっぱい、努力してそれで私は何とか一つの系統を極められましたし、自己術解式「天使殺し」というのも手に入れられましたが、それでも姉はさらに先に走っていっていて、姉はいつのまにか魔法を使えるようにまで成長していました」


魔術には術解式というものがあり一通りの段階がある、それを一貫してリングと名称し、魔術ナンバーは威力計算に使われる式の一つで、ナンバーが高ければ高いほど威力と消費マナが増える、そして魔法と魔術では似ているようで実は天と地ほどの差がある。

魔術は人間が機械技術でできる程度の事、例えば物を切る、物を凍らす、燃やすなどの単純な物だが、魔法は別物である、人間ができない体感時間の停止、空間の掌握、重力変化、物理法則を湾曲、無から有を生み出すなど、魔法は人が到達できない物にまで成長した一部の解式だけである。


「何が言いたい?」


彰はカナの手を見る、手は治ってるみたいだ恐らくレンが治してくれたんだろう。

その後、カナはその手で彰の顔をずいと自分の方に向け。


「あなたはまだ努力をしていないのです、それだけが未だに私が貴方を好きになれない、理由ですわ、力がないと思うなら努力しなさい、負けると思うなら勝つまで何をしたらいいのかのり論を構築しなさい」


赤くなってそっぽを向いてしまった、カナは腕を組みえらそうに彰の前に立つ、身の丈が小さいので子供が、がんばって威張っているみたいでその姿はかっこいいというより可愛い。


「俺は、ただの人間だから魔術も使えないし、法術もできない、だからカナとも先輩とも違う」


それを聞いたカナは目くじらを立てる。


「彰、少し立ってくださいまし、できれば中腰で目をつぶって」


カナの言われたとおりカナの目線に合うように立ち目をつぶる、淡い期待など、この副会長には求めてはいないが、だが、一利の期待をしていたのだが、それを裏切るようにバチンと、乾いた音と共に彰に何かがぶつかった、じんじんと左頬が痛み、それで、カナに平手打ちされたことを理解した。


「っ……何すんだよ副会長!」


「今の貴方はイライラしますわ!」


そういうとツンとそっぽを向いて、やることが無くてピーマンを炭化させて、楽しんでいた加藤の所に走って行ってしまった。


「……ったく慰めるんだったらもうちょっと上手くやってくれよ、だけど……ありがとな、カナ」


聞こえてはいないだろうが、彰はカナの背中に独り言に近い礼の言葉をかけた。





しばらくして、また普段の賑わいを取り戻していた、そんなこんなであっという間にバーベキューも終わり、各自くじ引きで振り分けられた部屋に落ち着いていたのだが。

豪華な別荘といっても、人数分部屋があるわけじゃないので、当然誰かが相部屋になることに、部屋の数は3つ、その中で一人部屋が一つ、そこは一人じゃないと落ち着かない真理亜の部屋にするとして、あとはレイニアとカナのペアで寝て、そうすると余るのは加藤、火土、彰、リアになる、リビングに二人寝るという提案をしたら、「女の子を床で寝かせるわけにはいかない」と妙な結束でリアは確定したのだが残るそのダブルになる相手は誰なのかという話が始まって。


「うーむ、どうするべきかみゃー」


凛矢本人は名古屋弁のつもりなのだろうか、変に語尾をなまらす、くじ引きで決めようと火土が提案するが、それでは加藤とのペアになったら困るとの彰の提案で却下、そんなこんなで皆でやいやいと相談していると。


「普通にリアに決めてもらえばよかろう」


その真理亜の一言で一瞬でかたがついて、今こうして彰はリアと背中合わせ、一つのベットで寝ているわけだが、やはり普段から妹扱いしていても実際一緒に寝てみるとかすかな吐息の音とか、布がすれる音、時折ぶつかる柔らかい肉質に、シャンプーの臭い、どれをとっても彰にとっては脳をとろかす劇薬だった。


「……こうして一緒に寝るのは久しぶりだな」


「一緒に暮らしてた時だから5年ぶりくらいでしょうか、私が怖い夢を見て眠れなくなって、よく彰君のベットに潜り込んでました」


過去の思い出に浸り、くすりとリアが笑う、背中合わせなので彰には表情は見えない。

実は今の半同棲生活を始める前に、リアと一緒に暮らしていた時期があった、まだ彰の両親が居る頃はよくリアの両親が家を空ける事もあり、彰の住んでる家に預けられていたのだ。


「まぁ、大抵はすぐに泣きつかれて寝ちまってたけどな」


頭の中に走馬灯のように蘇るのは幼い頃の風景、彰の記憶の抜け落ちて少し立った頃くらいだろうか、記憶している中では最古の思い出はそれだ、次に思い出される記憶は、なんだろう、そこだけ何か大事なんだろうけど抜け落ちて思い出せない。


「あのときの約束を思い出してくれましたか?」


そう呟いたリアの声のトーンが普段より弱い、思い出せる記憶を手繰っても彰の中にはそれはない、彰は自分の黒い髪をいじり少し考えるが、やはりでてこない、恐らく前に学校帰りのロープウェイのゴンドラの中で話していた内容だろう。


「ごめん風化して思い出せないや」


「じゃあ」


と短く言葉を切るとリアが、ずいと上半身だけを起こし彰の上に被さるようにリアの顔が急に近づくと、彰の唇と重なった、唇に感じる柔らかい感触が彰の頭の中の思考を全て吹き飛ばした、幸い理性はまだ生きているようだ、熱っぽい吐息と共にリアの顔がゆっくり離れる、リアの表情は変わらない、いつもと変わらない笑顔だが頬がすこし赤く染まっていることだろう、月明かりではそこまで窺い知れない。


「ショック療法です、記憶が戻るほど刺激的でしたか?」


「……ぇ?ぁ?」


その後、リアは何事も無かったように眠りについた、それで彰は一つ思い出したことがある、リアが悪夢を見たその夜には必ずといっていいほどリアがベットに潜り込んできて、そして必ず痛いほどに抱きついてきて、その日は眠れなくなることを。


「ああ、今夜はもうだめだ眠れそうに無い……」


と思った彰だったが案外昼間の出来事で脳はよっぽど休みを取りたかったのだろう、そのまま疲れてまどろみの縁に落ちた。




@

頭の中はぼやけている、視界は悪い、頭の中の檄鉄は落ちない、トリガーにセーフティーがかかったよう、全ての魔術意識の回路が消えている感覚。

目の前に燃えるように紅い髪が白いライトの逆光で怪しく光っている。


「起きているわね貴方は誰?」


「俺は……」


(おかしいな自分の名前なのに出てこない、一番簡単に拾い出せる記憶、自分を定義する記号が出てこない。)


「貴方の名前は佐藤彰、おはよう彰」


「僕は…そうか彰だ」


簡単じゃないか、何故思い出せなかったのかのに疑問が沸くくらいだ。

周りに見えるのは大きな機械の群れとそのケーブルの束、そこの中心に自分が居るベットに縛り付けられているのか両手両足は動かない、視界がぼやけているのではっきりとはわからない。


「あら、貴方目が悪いのね、おかしいわね実験段階でこんなに誤差無かったんだけどもしかして後遺症かしら、まぁいいわ貴方に会う眼鏡はボクが作ってあげるから、もうちょっと寝てなさい」


断絶(アウト)




彰の視界はぼやけている、視界のわきで人影がかすかに動いたのが見えた。


「おはようございます彰君」


そういうとリアが眼鏡をかけてくれた、視界が元に戻る、嬉しそうな顔をしてリアは微笑む、この表情を見てるだけで今朝の夢の内容なんてどうでもよくなりそうだったが、一応記憶にとどめておく。


「おはようリア」


「眠そうですね、キスすれば目が覚めますか?」


「ん、それはちょっと遠慮する(てか、なんなんだ昨日から)」


これ以上、妹といちゃつくとなんか危ない線を越えそうな気がするんだが、まぁ実際妹ではないので越えても問題はないのだが、これは自己の感性の問題だ、ざわつく思いを留め、昨日の事を思い出して少し鬱になったが、うじうじして今日何もしないのは嫌なので、とりあえず服を着替えないで部屋を出る事にした、これ以上リアの側にいるとまた変なことをされそうだからだが。


「あら起きてましたの?」


ドアを開けるとそこには160cmギリギリあるかないかの、金髪ツインテールの副会長が少し怒った顔で仁王立ちしていた。


(よかった数分前に来なくて)


あの状況を見られれば恐らく、付き合い始めのカップルの朝チュン状態だという、勝手な妄想をされるだろう。


「もう10時過ぎていますわよ、何をしていたらこんな時間になりますの?」


犯罪者を見るような冷ややかな視線で、あらぬ妄想はもうされていた、これは下に下りたら恐らく皆に何か言われるんだろう、ってかさっきから副会長は何故部屋の中にちらちら視線を送ってるんだ。


「リアさん、確かさっき起きてましたよね?」


「何のことですか?」


そういえばリアの服装はちゃんと整っている、白いワンピースに赤いロザリオを首からかけていて、髪にはいつもとは少し違うフリルのリボンを両脇につけている、うん可愛い。


「このダメ書記を起こしに行ってどうして貴方が寝ていますのかを、説明をしてほしいのですが?」


「つい、うっかりです」


リアは副会長のあの吊り上った目にも負けず、いつもの100%スマイルをかましている、彰はピリピリとしたこの場から脱出すべく、着替えをもってそそくさとトイレに逃げ込む。




1回のリビングに行くともう全ての生徒会メンバーが揃っており、加藤凛矢が暇つぶしに目玉焼を焦がしていた、真理亜も普段と変わらず、まるで昨日のことは無かったかのように静かに紅茶を飲んでいる、レイニアがそれを眺めているのだが、その目はいつも以上に怪しい(性的に)、火土はダンベルトレーニングをしながら本を読んでいて、彰はゆっくりと適当な席に座ると凛矢がそれに気づいたのか焦がした目玉焼きと、耳を切り落としたトーストとマーガリンを彰の目の前のテーブルに置いた。


「おう、揃ったか、じゃあ迎えの船を呼ぶので、来るまでしばらくまっていてくれ」


真理亜は無線機を出し、外に連絡をつけに行った。


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