4話「戦地へ」
夏はまだ来ることを忘れているのか、その日はとても涼しい日であった、だが涼しいといっても25度くらいか、正確な気温はわからない、その日、朝から真理亜の姿は見てはいないが、彰は真理亜が何処に居るのかを知っていた。
先日話していた、戦地へと赴いているのだ。
本当はこれ以上真理亜に人を殺すことで、精神への負担をさせたくはないと思っていたが、真理亜を止めてどうするのか、その理由も、答えもないので彰はあの後、真理亜に特に何もしてあげられず、気が付けば真理亜はまた一人で戦地へいってしまった、無事夏休みを向かえクーラーの効いた部屋でただ一人だれている自分は本当にだめなんだろうなと、彰は一人、部屋で腐っていた、テレビから流れてくるニュースではレポーターが潮干狩りに来ている親子連れにインタビューをしている映像が流れている、別にみているわけではないただのBGM程度のものだ、2時間くらい床でごろごろしていたので、酷く喉が渇いた、とりあえず飲み物を取りに行こうと立ち上がった時に丁度、机にほうっておいた携帯が振動してがたがたと机を鳴らす、真理亜から来た連絡かと一利の期待を胸に、あわてて彰は携帯電話を手に取り画面を見るとそこに表示されているのはカナの名前だった。
「はい、もしもし副会長なんですか?」
苔ほどの微塵の期待が吹っ飛ばされたのはカナのせいではないが、期待を裏切られ少し声のトーンが下がる、するとずいぶんと深刻そうな声で。
「彼方、今何か予定はありまして?」
「いえ、特には無いですけど、どうかしたんですか副会長」
「先日、会長である真理亜が戦地に出向いた事を知っていますわよね?」
真理亜の名前が出た瞬間、彰は背筋を伸ばして、待ってましたと言わんばかりに顔色を変えた。
「先輩がどうしたんですか?」
「今、戦っている戦地がどうにも人手不足らしいの、特に衛生兵が足りないようで、彼方一応士官の免許を持っているんだから、衛生兵の資格はありますよね?」
「ええ、まぁ、最近はそっちはほったらかしにしてますから、だいぶ忘れていますけど」
学園のカリキュラムの中で、衛生兵の戦争医師免許という短期で取れる物があり、戦地で衛生兵をすることのみできるという1年と数ヶ月で取れる免許だ。
「衛生兵で行くのは建前ですけどね、本当の理由は先日の私の婚約騒動の件で使っていた魔術がどうやら外側の人間にばれてしまったみたいでしてね、私の家を通じて彼方にじきじきに傭兵任務を下さなければいけないようですわ」
「な、なんですかそれ、まぁ、先輩が困っているなら是非助太刀しに行きたいと思いますが」
そう彰がいうと突然、副会長から電話を切った。
「??」
彰は頭に疑問不を浮かべ携帯を睨む、すると間をおかずして彰の家の玄関のチャイムが鳴った。
「はーい、待ってくださいね、と…」
彰は廊下をわりと早足で駆けて玄関に行き、適当に並べてある靴の中から、大雑把に靴を履いて
玄関のドアを開けると、そこで待っていたのは長い高級車を背景に仁王立ちする、金髪ツインテールの副会長の姿だった。
「えーと……今からですか?」
「ええ、事は急を要しますの」
彰はとりあえず自分の部屋から、鉄鎖と南京錠をがちがちにかけて厳重に保存してあった鉄製の箱の中から指輪を急いで取り、適当に上着を羽織って、今度はかなり急ぎで玄関に戻り、副会長に言われるがまま車に乗り込んだ。
「このままスペースポートに向かいますわ、書記は宇宙経験はありまして?」
「疑似体験なら何度か、って地球外いくんですか?!」
今の彰の格好はスーパーへ買い物に行く程度の普段着で、靴は学生指定のローファーだ、宇宙に良くとは微塵も思わなかったので旅行用のバックなども一切持ってきていない、彰は安請け合いしたのは失敗だったかと今更後悔したが、仕方なく宇宙についての簡単な妄想を膨らましながら楽しんだ。
「彼方って基本能天気なのね」
カナはあきれた声と表情で頬杖をつきながら彰を見つめる。
「うん、あまりに突然すぎることがあると、脳が現実逃避してショックから免れようとするんだ」
車に乗って数十分たつと、いつも見ている風景とだいぶ景色が変わってきて国際宇宙ステーションポートに到着した。
あたりはまるで機械都市のように金属色と鋼の景色が広がっている、実はココ事態が海上の上にパネルを張り合わせて作られた人口島らしいのだが、なぜそんなことをしてまで海上に作ったかは彰には理解できなかったが、そんなことは今の彰には関係ないことなので、この際気にしない事にしておいた。
車を降りて、これまた灰色の天高く突き上げた塔のような建物が4つある建物にカナにつれられて入った。
「いい?宇宙航空機内では絶対にはしゃがない事、田舎者だと思われたら私が恥ずかしいから!」
「そんなこといわれなくてもわかってるよ副会長」
カナは執事がいなくなるとお嬢様言葉を使わなくなる、それにつられてか表情もさっきよりは柔らかくなって彰は少し安心した、小さい体で宇宙航空のチケット売り場に乗り出しカナが、フロントの女性に話しかけている、人ごみにあふれているこの中でカナを探すのは大変だと思うので、ある程度目に付くところにあった少し大きめのイスが並べてあった場所の一番はじに座った、流石に世界と世界をつなぐ橋と呼ばれる事だけあって亜人や魔族なども多くみられる、異形な生物もいるがほんとにあれは生きているのだろうか。
そんなことをしばらく考えながら待っているとカナがむくれっつらで帰ってきた。
「まったく夏休みで人が多いといえ私がビジネスクラスに乗る事になるなんて」
こう言っているが、実はかなり宇宙旅行は値段が高いんだがカナはわかってるのだろうか。
ビジネスクラスでも飛行機と違って一席200万だぞ、とつっこみをいれたい彰だったが
金持ちにそんな金の気遣いは無いんだろうなと、とりあえず何もいわない事にした。
「で、出発はあと何時間くらいだ?」
「8時間後くらいですわね」
「へ、あぁそんなになの?」
「あらこれでも早いほうです、私が前お父様と神界に行ったときは58時間待ちでしたわ」
そもそもなぜこんなに長い時間待ってなければいけないかというと、飛行機と違い、人工衛星の場所や太陽の角度の計算、宇宙船の点検などをしなければいけないからだそれに個人船を除きスペースシップは6隻しかないので日に2本程度しかでていない。彰はどうしようかと考える、急ぎで来たのであまり遊べるほどのお金も持ってないし、暇をつぶす事ができるものも持ってきていない。
「この宇宙航空はね待ち時間が長いからホテルとかカフェとか結構色々充実してるの、だから……あのー私と少し遊ばない?」
厳しく突っかかってくる普段のカナのどっから出てきたかわからない甘い声で言われ、さらに少し意味ありげに照れた様子の副会長の姿も可愛い。
「願っても無い言葉だ8時間なんてボーっとしてるだけで潰せるレベルじゃないからな」
時間をつぶすつもりだったのだがやはり歩きなれないところを歩くと疲れる、確かにきらびやかな装飾が施されたポート内は楽しいといえば楽しいが、カナが先っきから色々なところにふらついているので一々止まって待っていなければいけない。
「あまり意識した事はなかったが、女の子と歩くのって結構疲れるんだな」
「冗談でもレディーの前では疲れたなんていわないでください、私との時間が面倒なんだと感じてしまいます、その、かなり不愉快です」
「やっぱ俺一人でどっかぶらついてるわ、人が多いところ苦手だし」
カナを怒らせるくらいなら、どっかで時間まで寝ていたほうがいいと思い、きびすを返して人塵にまぎれようと歩き始めると、後ろからぱたぱたと足音を立てカナに捕まえられた、小さな両手で痛いくらいに彰の腕をつかんでいたので、仕方なく振り払わないでまたゆっくり歩いていく、結局元いた場所に戻り、ベンチ近くにあった長いすに適当に腰を下ろした。
「やっぱり私とではつまらないですか?」
目に涙を溜めて訴えかけてくる、カナに対して彰はさっき貰った地図を顔に被せだらんと体の力を抜いた。
「……寝よう、とりあえず寝て時間をつぶす」
何時間立っただろうか、ゆっくりと目を覚ますと隣にはなぜかリアが座っていた。
「うわぁぁ!」
「ほわぁ?どうしたんですか彰君」
リアが彰の声に驚き少しのけぞる。
「それはこっちの台詞だなんでリアがここにいるんだ」
カナの姿は見えず、リアだけが長いベンチの先っぽにちょこんと座っていた、なぜか大きなキャリーバックを横において、服装は目深く被った茶色いハンチング帽をかぶり、クリーム色のワンピースの上に厚手の紅いケープを羽織っていた、大きな瞳をぱちぱちしながら少し黙って。
「えーとですね、実はさっきカナさんに呼ばれまして、彰君の替えの服を持ってきて欲しいという事で来たんですよ」
「ああ、そうか……ってそれなら荷物置いていってくれればいいのに」
「何言ってるんですか!彰君が行くなら私も行きます」
少し怒った表情で言われたのでそのあとは何も追求せずにとりあえず、どこかにいってしまったカナを無言で待つ事にした。
「さて行きますわよ」
そういうと、どこからか戻ってきたカナに手を引かれて搭乗口の入り口まで連れて行かれた。
途中マナ探知機と金属探知機につっかかって指輪を荷物の方に移す事になったが、それ以外特になんてことなく飛行機に搭乗するくらいの気軽さで乗れた。
宇宙船の中は広い空間になっており少し清浄すぎる空気の匂いがした、ずらりと椅子が並べられている飛行機とは違い3畳ほどの小さい個室が並んでいる、夜行寝台電車のような設計である、これといって何をすることもやはり無く、リアが持ってきてくれた自分の私物を確認していた。
銀河の海を音も無く飛びつづける船は、魔界へとゆっくりと近づいていた、全体的にみると青い地球と違い魔界と呼ばれている惑星は赤黒く海も黒い、大気の成分が地球と若干異なり海の成分も少し違う、何より大地に含有されている鉱石物質が大幅に違うためにこのような色になるらしい。
魔界のポートにつくとまず荷物を探す事からはじまった、搭乗口を降りると真正面にすぐに積み荷受け渡し口があった黒く長いベルトコンベアから、一つ一つ間隔を置いて流れてくる積荷を見ながら、彰はいろいろな形があるなぁとか思いつつ、1m半は超える長い荷物が目立った、中身は恐らくマジックロッドや剣、銃火器などだろう、そんなことを考えながら半ば旅行者の気分で荷物が流れてくるのを待った。
「お、流れてきた流れてきた」
バックを受け取るとリアは無言のまますたすたと搭乗口を後にする、その不思議な様子に気になって追いかけ後についていき、ポートの外にでた瞬間に振り向いてリアが彰を見上げた。
「こっからは私が彰君を護りますんで付いてきてください」
いやに張り切っているその言葉の意味が、彰にはがまったくわからなかった、むしろリアを護るのは自分の役目だろうしここに来てまで世話になるつもりもない、いざとなれば銃を具現化して戦えるのだし、男の自分が女の子であるリアの後ろに隠れるのも変な話だ。
「リア、なんか宇宙船の中でもそうだったけど怒ってる?」
「当然です、魔族の世界に行くなんて正気ですか?」
いつもの口調と変わらない感覚で言われるのがまた怖い、顔はにこやかだが若干眉毛が引くついている。
「まぁ、今回はそれほど激戦地でもないですし、危険性は低いですわ」
カナが追いついてきて金髪ツインテールの髪をふぁさりと撫で、またいつもの偉そうな立ち方で彰を見た、一瞬何か気になったような顔をして顔を背けるが、彰にはその意味が理解できなかった。
「あ、所で先輩の戦闘地までどうやって行くんですか?」
「少し遠いですが以前来た時にマーキングしてありますので、魔術で飛んでいきますわよ」
そういうとカナはずいぶんと暖かそうな毛皮のコートの内ポケットから、リングでまとめた単語帳らしき物を取り出し、パラパラとめくって途中で指をはさんで止めた、そのままどこからだしたかわからない白いチョークを出して床に魔方陣を描き靴のかかとで地面を蹴る。
目の前の景色が、カメラのアングルを変えたときのように、ぐるぐると落ちているのか飛んでいるのかわからない状態が10秒ほど続いたかと思うと、元に戻った世界では先ほどの景色とはまるで違っていた、回りに見えるのはコテージがいくつかと、茶色い麻のような生地の布で作られた簡易テントに大きく赤十字が描かれている、少し遠くから爆音と悲鳴が鳴り響き、土埃の香りと火薬のにおいが立ち込めていた。
「衛生兵のテントにはいっていれば国際条約にもとづき、まぁ、死にはしないと思いますけど」
「先輩はどこにいるんですか?!」
カナはまた彰の顔をみて少しひくついた、どうもある一定のワードに反応するようにできているらしく、彰が喋るたびにひくひくと眉を動かし、お気に入りのツーテールの髪も若干震えているようだった。
「会長の部隊は2部防衛ラインだと思いますわ、最前線ではないもののそれでも危険な場所にいます」
「彼方のその銃、もしかしたら戦況を覆すかもしれません、私はそれに期待しているのです、例え戦果があがらなくても未知の能力に向こう側が驚いてくれさえすればいい、それで陣形が崩れればコチラもやりやすいですわ」
「彰君がいくなら私も行きますけど、どうします?」
リアがにっこりといつもと変わらない微笑で顔を傾けて、彰に指示を請う。
彰にしてはこれが初陣になるかもしれない、カナはこれでもあまり激戦区ではないと言っていたが実際の戦場なんてどこもかわらない、怒号と悲鳴が飛び交い、耳が痛いほどの爆音はさっきから止む事を知らない、だが彰はなぜか歓喜に震えていた、初めて先輩の役に立てる、初めて正しいことに力を使える、一度彰は自分の気持ちを抑えるように、拳を握り、息を落ち着けてからしっかりとリアを見る。
「リアはここに残って衛生兵の手伝いをしてくれ、俺は2部防衛ラインに向かって先輩を援護する、カナはそこまで俺を連れて行ってくれないか?」
「会長はどこにいるかわかりませんわ、だから会長のところに行くまで全力で彼方の盾になります、嬉しく思いなさい」
カナはどこか嬉しげに彰の横に誇らしげに立つ。
「あ、久しぶりですね彰先輩」
行く気満々だった二人の気持ちに水を刺した、声に彰が振り向くと、そこには長い金髪を三つ網にしている、広く長いクリーム色のローブを着た女の子が手を振っていた。
「レンさんもどうしたんですか、こんなところで」
リアはレンがココに居る事にかなり動揺してるのか、わたわたしながら手をぶんぶん振っていた。
「これでも私はリヴァイバーの能力持ちの神族ですよ?」
えっへん、と両腰に手を置いて胸を張る、リヴァイバーとは神族側の呼び方で、人間側からは転生術士、反魂士とよばれていて、具体的な、能力内容は他者へのマナ回路の移植。
人間、魔族、神族に共通して、マナ回路というものを生きる物全てに生まれたときから保持している、血管のようなもので魔術を使うときはここにリンクしたり、開放したりして発言行為を行う、鬼道術ではこれを氣口、氣管と呼び、法術ではバイパスやサーキットとも呼ばれる。
「え、でもマナ回路の移植って法的には禁止されてるのでは?」
そう彰が聞くとレンが、
「それは一般論です、確かに移植をしたドナーは最悪死ぬ危険性があるので、一般治療では使いませんが、戦場ではもう息をほとんどしていないドナーになれる方がたくさんいますから、それをまだ戦える人に移植しない手は無いでしょう?」
ゆっくりといつものテンポでレンをそういうが、内容は血なまぐさい話だ、要は兵器と一緒だ、壊れた兵器から少しでも使える部品を、まだ壊れてないが調子が悪くなった兵器に乗せ変える、言葉にしてみればそんな簡単な事だがそれが生きた人間なら話は別だ。
「くっ、人間を何だと思ってやがる、これが戦場のやり方か……?」
彰は目くじらを立て拳を握り締め唇を噛んだ、その様子をレンが見ていたのか、ローブの内ポケットに手を突っ込み、握りこぶしを彰の目の前に差し出した。
「受け取ってください」
彰が手を差し出すとレンが握りこぶしを解いて、持っていたものを彰に渡す。
「またコレですか……」
手渡されたのは1、2、3、4とギリシャ文字で描かれた銀色の指輪、彰が以前レンにもらったあの指輪だった、その指輪をそれぞれ右から順にはめてみる、すると体全体の力が一瞬全て抜け、彰はその場にひざまずいた。
「あ、彰君!!」
リアが心配そうに駆け寄るが頭の中に何かわけのわからない術式が永遠と回っている、視界もそれにあわせてなのか、ぐるぐると回っている、心臓は狂ったようになり始めた、全身から汗が吹き出ている、そんな事構うものかと、吐きそうな気分を気合で食い止め目の前にいるレンをにらみつけると、さっきとは打って変わって、凍りついた目でこちらを見ていた。
「あんた一体何者なんだ?どうしてこんな事を……」
「くだらないですよ、彰……大衆を救うため、政治のためには私達兵士は兵器になるしかないのです、その程度のリアルを垣間見た程度で感情を高ぶらせてはこの先が思いやられます」
「副会長は知ってたんですかこのこと……。」
カナは答えないだが、無言で目をそらして震えている肩を見る限り答えは明らかだった。
「いつもどおりその指輪はあげます、どう使うか、使わないかは彼方次第です、それでは私は衛生兵の仕事があるので戻らせていただきます」
レンは去り際にいつものにっこりとしたやわらかい笑顔を振りまきながら、金髪の長い三つ網を揺らしながら簡易テントに戻っていった。
「どうしますか?やめますか?」
カナが心配そうな声で聞いてくる顔は見えない、彰はひざまずいていた足をゆっくりとおこし立ち上がる、銀の指輪を見つめ視界が戻った事を確認する。
「行こう……先輩はもっとつらいはずだ、この程度のリアル、先輩に比べればどってことない」
真理亜はこの状態でも、戦っているはずだ、幾千の血を浴び幾千の人を切ってきたはずだ、普通の人間なら遠距離系の武器で戦うが、近距離戦闘専門の真理亜なら、そのストレスは想像しただけでも恐怖で体が震える。
「シールドを作りながら進んでいきます、といっても私は全方向見えてるわけじゃないので彼方が前を気にして私が後ろを護ります、いいですね?」
カナが3本の赤、白、青のチョークを左手の指で挟んだ。
「任せてください副会長」
レンが一瞬振り向き、彰の表情が変わったのを見て、何かを決心したのかテント行く足を止め踵を返し彰の前にすたすたと近寄る。
「行く気があるようなら銃の説明をしておきます、銃を出すときにあの十字を描く行為はコードナンバーの指定です、一文字を最初に描くのはコードナンバーの一の位、タテにギリシャの1を指で描くのは十の位の数字を表しています、十の位は武器種類の指定、一の位はコストの指定です、だだし、ゾロ目ナンバーだけはオリジナルシリーズといって少し変わった物が出てきます、
11はボルト、22はトゥートゥー、33はクィーン、44はデスブリンガー、55はベロニカ、66は黙示録、77はギャンブラーダイス、88はリベラ99は九十九神、00は零式となります、今の段階ではボルト、トゥートゥー、クィーン、デスブリンガー、ギャンブラーダイスが使えますよ」
「ちょっと早口で何言ってるかわからないんだが」
よくもまぁカンペも何も無い状態で喋れるなと関心している彰をみて、少しレンは困った様子で自分の頬に手を置いた。
「うーんじゃあ、今の戦闘する状況をみるとボルト一本とギャンブラーダイスがオススメです、ああ、それと銃は最高2本までそれ以上は具現化するのに20分くらい待って具現化した銃が消えなければいけない。」
「そりゃ不便だな」
「今の彰さんの魔力じゃあせいぜい一つ5分くらいが限界なんで、使う時に出してくださいねーじゃないと手ぶらで戦地を駆ける事になりますから」
彰はそれを聞いて一度武器倉庫にいそいそと戻り、短機関銃を手に帰ってきた。
「さぁ!行くぞカナ」
「何か今物凄く不安に駆られましたわ、私はこの戦場で死ぬのではないのかという不安に」
カナは金髪ツインテールの頭をため息をつきながら抱えながらも、2部防衛ラインまで二人で走り出した、始めに彰は使い慣れた7の指輪をはめた指で十字を切り、77番の銃ギャンブラーダイスを取り出す、六連装のリボルバータイプの銃の、サイトを覗きながらあたりに注意を払う、第3部ラインはあまり戦闘行為は行われておらず、味方側の兵士はロングレンジで攻撃可能な、全体が120cmもあるライフルをうつぶせになりながら構えている狙撃兵が多く見られた、そのほとんどの人間は茶色や緑の迷彩がらの服装に身を包み顔には同じようなボディペイントをしている。
彰はその部隊の人間を無視し走っていく、魔族側からの攻撃はほとんど無いが、たまに魔法の槍や矢が飛んできてそれは、横に並んでいたカナが青と白のチョークで空中に陣を描き障壁で相殺した、彰は時折でてくる第3ラインでも、なお生き残った手負いの異形の魔物に必死に弾丸を叩き込んだ、100分の1の確立で自分に大ダメージという、ランダム属性能力がついたこの銃は多少の危険性があるものの何回中何回というのではなく、撃ったときに100分の1という計算なのでまだ確率論的には低いのが唯一の救いだろうか。
「はぁ…がっはぁ……」
「どうしたの?もうばてたのかしら」
今どこまで進んだのかわからないし、そもそも第2防衛ラインって、どのくらい先だかわからないのに走るペース配分を間違えた、と彰は大きく肩で息をしながら思った。
「副会長、今どこら辺にいるかわかりますか?」
「もうすぐ第2防衛ラインの入り口あたりです、あとは会長の剣のマナ起動の余波を察知できれば、探し当てられますわ」
砂利と肉片と障害物多数の戦場は非常に疲れる、肉体的にも精神的にも良くは無い、鼻から息を吸うと火薬の匂いと生臭い異臭がまとわりつく、学校の模擬戦とはわけが違う、本当の戦場、彰は知らなかったこの異臭を何故か先ほどから気にはならない、思い出すのはあの夢、血と何かが焦げる匂い、それと自分からする薬莢特有のにおい。
「……知らない、俺はこんな記憶知らないはずなのに!」
「どうかしましたか?顔色が優れないようですが、疲れたのなら一旦身を潜められる所に隠れて体力を回復しますが?」
カナはこちらに顔を向けずにまた一つ流れ弾を魔術障壁で相殺した。
「大丈夫です、ほら簡易防壁が見えましたあそこが恐らく第2防衛ラインでしょう?」
先に見えたのは木と何か有刺鉄線で作られた簡易砦だった、そこは簡易テントがありさらに見張り台まで設けられていた、普通の戦争と違うのはその木製の砦に大きく魔術緩和の魔方陣が描かれていることくらいか。
とりあえず近くのテントに入り、水を飲み、砦関門長に通行許可を貰い、もう一度走り始める、日ごろ戦闘訓練で鍛えられてるとはいえ、スタート地点からはもう4kmは走り抜けただろか、あたりを警戒し、時々止まりながら走るのは予想以上につらいものがある、通常の訓練では20kmコースを難なく走れる彰でもやわらかい土と、でこぼことした整地されてない場所を移動するのは4倍ほど体力を奪うのが早い。
「もうすぐですわ、がんばって」
と、カナが時折コチラを気にして励ましの言葉をかけるが、彼女は息一つ切らしていない、それどころか汗もかいておらず、涼しい顔で魔術詠唱をしながら走っている。
「副会長はなんで体力減らないんですか?」
「愚問ですわ、私これでも魔術師ですわよ?」
カナはフフンと得意げに鼻を鳴らした、彰がカナに視線を向けたその時、長く異質な形をした黒い物体が横から飛んでくるのが見え、彰があわててカナにそちらの方向を向くように指示し、カナはそれに答えるかのように、一瞬で青と白のチョークで先ほどのように魔法陣をくみ上げ、盾にしたが。
「くっ、重い?!」
バチッと電撃が走るような音がして、彰の視界からカナが消える、あわてて彰は足を止め、真横に吹き飛ばされたカナに駆け寄る、カナは仰向けに倒れていた、彰はその土に汚れている身体をゆっくりと、壊れないようにそっと優しく抱える。
「副会長!だいじょぶですか?!」
「うっ……意識はあります、でも指を何本か折られました」
見ると、さっきまでチョークを持っていた指の何本かがありえない方向に曲がり間接はみるみるうちに青く変色していっていた。
「う……あ……」
「そんな顔をしないで下さいまし……まだ私の手はチョークを握れます」
折れていない方の手で、彰の肩を支えにふらふらとカナは立ち上がった。
「それよりもこの異形の物体で攻撃してきた持ち主が近くに居る可能性があります、注意してください」
「そうだよ少年、戦場はゲームじゃないんだ、常に警戒しなきゃー」
あわてて声がするほうに視線を向けるといつのまにかそこに、一人の男が座っていた、黒い髪を適当に短く切っている感じのヘアースタイルで、顔立ちからして年齢は20代そこらだろうか、服装は黒いコートに所々赤いワンポイントの刺繍が施された、ずいぶんと戦場では見慣れない服装をしていた、肩幅からしてその男のコートに隠しているその肉体の強さはゆうに想像できる。彰はその気迫に押されまいと強い眼差しで男を睨みつけた。
「あんたいったい誰だ」
彰が手に持っていた銃のサイトを目の前の男に落とす、サイトのドットはカナを傷つけた男への恨みで少し震えていた。
「君はジャパニーズサムライかなー、殺しあうのにーお互いの名前を知る必要はーないだろー?」
いちいち語尾を延ばすのが癖なのだろうか、男は少し眠そうな顔をながら彰を無視して自分が投げた異形の形の物質を拾い上げる。
「さてー、じゃあ、聞かれたからには一応ー名前でも名乗っとくかな」
男はがしゃがしゃと黒い異形の物体を折りたたみ、見た目を大剣の形にした、その大剣を肩にかけると頭をかいて。
「僕は聖ソフィア教会の、闇野恭司だ」
「その髪その顔立ち地球の日本人か?」
彰がそう聞いたのには一つの理由がある、彰達の世界ではエクスペリエンス語の議論に渡り3世界での共通言語を作ろうという話で、各世界が合意し共通言語として一番派生や感情表現が表しやすい日本語が起用されたので、言語での人種区別は付けづらいのである。
「すこし違うねー、僕の所属する国はどこでもないー、ノープレイスーのーほえあー」
闇野と名乗った男は歌いながら異形の剣を構えた。
「さてー、君達はー、僕の九種九死の形態をいくつ見れるかなー?」
彼はにやりと不気味な笑みを浮かべ、彰に切りかかってきた、避ける時間はない、条件反射的に銃で頭をかばう、組み合ってなんとかなる威力では無い、闇野が振り下ろした特質武器は赤い土を巻き上げ空振りする、彰が避けたわけではない。
「何が起きた」
冷たい風に吹かれ土煙が消える、そこで始めて何が剣筋を曲げたかがわかった。
そこに刺さっていたのは刃が全て黒く沈んだ色をした、一振りの日本刀だった、機械と魔術がありふれた世界で、そんな古風な武器を使う人間を彰は一人しか知らない。
「先輩……?」
「まったく、何故君がここにいるんだ?」
幅広の両手剣を左手に持ち、右手は今投げた刀の鞘を持っている、気高い彼女の様子は以前と変わらず、服は一切汚れていない事からほとんど全ての敵を瞬殺してきたのだろう。
「この日本刀……お前、王廉かー?」
闇野は腰に手を置き顔をしかめた、真理亜は腰に下げていたもう一刀の鞘を抜刀し軽く左足で地面の砂を蹴る、その瞬間凄いスピードで走りぬけ黒いコートの男を無視し彰の前に立った。
「君は私が護る、少し下がっていろ」
彰はそれでも引かず王廉の横に並んで銀色の銃を構える、カナはそんな二人の様子を見たあと、自分の醜く曲がって折れた指を見て、自己の不甲斐無さで泣きそうになり、唇を噛んだ。
「そんな先輩!俺は先輩の力になるために来たんです、このまま黙ってみてる訳にはいきません!」
「ならなお更だ、下がっていろ、足手まといだ」
体の姿勢を下げ、足と足の感覚を広げ剣激をいつでもできる体制にし、真理亜は刀の柄に手を置き彰の方は一切向かず闇野と名乗る黒いコートの男を眼で殺す勢いでにらみつけていた。
「おいおい、俺を倒す相談かー?別にいいんだぜー俺はー、二人まとめてでもー」
闇野と名乗る男は右腕とともに大きく変幻自在の剣を振る、はじめから読んでいたのか真理亜はなんの事はなくその剣を払いのけ、音速の速さで剣を振るう、音速で動き剣の残像で一瞬空気が振動し、衝撃波を爆音と共に生み出した、だが何故か闇野の前で衝撃波は止まり、闇野は涼しい顔をして口笛を吹いて余裕を見せる。
「無理無理、僕はねソフィアの加護で護られてるんだー、君のその細い剣じゃー傷一つ与えられないよ!」
闇野は言葉を発すると同時に剣を垂直になぎ払い真理亜を狙う、だが残像となり真理亜は消える、消えた後さらに闇野は真理亜を追いかけ、剣の形を変え大鎌にし切り付ける、この間わずかに4秒。
彰は次元の違う戦いを目の前で見せ付けられ、銃のサイトで追うのに必死だった。
何度かトリガーも引いたが全てが外れる、真理亜にあてないように撃つ頃には判断が遅れ、
銃弾は空しく地面に穴を空けるだけだった。
「そうだ……77番が使えないなら、他の兵器をだせば」
さっきレンに貰った指輪を見つめ、彰はさっきレンに言われた言葉を思い出していた。
「20分で2丁が限界……もうすぐ77を出してから12分か、使う時に発現式の段階ですでに魔力消費がされてるなら、具現化安定にはさして魔力は使われていないはず」
彰は真理亜が目の前で戦っているのを一時的に視界から外し、ゆっくりと目蓋を閉じる。
想像するのは銀色の銃のイメージ、流し込むのは溶かした鉄、意識を指先に集中し、1番の指輪がはめられている人差し指で十字を切る。
空を切った指先は光輝く残映を残し、その中心その、切れ目から、自分のイメージする、最強の銃を引き出す。
重く、冷たく、誰かを倒すためにのみ存在するフォルムを書き上げる、バラバラに頭の中に散っているノイズのパズルが当てはまり、形となっていくそれを引き出す。
「来い!ボルト!」
引き出されたのは長くライフルのようなフォルムだが、太く長い鉄の棒が2連に重なっていて、かなり重量のある銃だった。
「ぐわっ、なんだこれ」
「やっぱり、いつみても原理がわからないですわ」
カナ少し怪訝そうな顔をしては折れていない方の手で、チョークを使ってさっきから地面に何かを描いている、彰の行動を少し見てからまた描きはじめた、とりあえず今は気にせず彰はさっきから火花を散らしながら、切りあっている二人の超人に視線を戻す、丁度二人はつばぜり合いをしていて動きが止まっていた、新兵器を試す時は本当は一度性能や仕組みを理解しないと危険なのだが、初弾でしとめるほうがもっとも勝てる確立が高い。
「避けてください先輩!」
そう叫ぶと同じくして、黒い男にボルトのバレルを向け撃ちはなった、瞬間真理亜はバックステップを踏んで避けるが闇野は反応が少し遅れて、いつの間にか斧になっていた武器でとっさに受身の構えを取るが、ボルトのバレルから青白い雷と爆音が走り闇野は5mほど吹き飛ばされた。
「くっ……なんだーテメェのその銃は、それに具現化魔術だと?」
攻撃が100%命中したわけではないが、相当に堪えたのだろう、闇野の表情はさっきまでの余裕が消え眉を寄せ彰をにらみつけていた。
「彰…君はまた新しい力を……」
真理亜は心配そうに彰を見つめていたが、当の本人は銃の反動で地面に転がっていた、彰は次の行動を取るためにすぐに起き上がりボルトを構える。
「できましたわ」
カナが魔術式を地面に書き上げ、チョークを指で折ってその粉を雑に地面に放り投げた、靴の踵で地面を叩く、すると魔術式が異様な光に包まれ、地面に転がったチョークが変形し、増大し、粘土のようにぐにゃぐにゃと形を変えた後、女性の騎士の人型に姿を変えた。
「土の魔術ナンバー23、ゴーレムの想像と操作か、くっ、未知の具現化魔術といい、王廉といい、ここは撤退したほうがー、よさ気かなー。まぁ、いい当初の予定は達成できた」
闇野はコートの内ポケットから術式の描かれた札を取り出し、それをちぎって足元に捨てると、彼の体が一瞬のうちに消えた。
「逃げられたか……」
彰は緊張が解けボルトの発射口を地面に下げた、真理亜は鞘に収めた刀を杖のようにして右足を庇うように彰に近寄る。
「先輩!まさかさっきの戦いで怪我したんじゃ?」
「組み合ったときに物凄い力で押しつぶされそうになった、もしかしたらどこか折れてるかもしれん」
ひくひくと口元が震えて、いつもの冷静な顔を保てなくなっているところを見ると、よほどのダメージだということを、彰はゆうに想像できた。
彰はすぐに真理亜に肩を貸し支える。
「さっきの捨て台詞気になりますわね、いったい彼らの目的とは何でしょう?」
疑問は残るが真理亜の怪我の具合を見るために来た道を戻り始める。
しばらく歩いていると真理亜のポケットに入っていた無線機にコール音が鳴った、彰が真理亜の代わりに無線機をとりスイッチをいれ真理亜に持たせた。
「私だ、何があった?」
「「大変です隊長、各部隊長から謎の3人組に攻撃されて次々に被害にあってます、どうやら敵側の増援のようです」」
「そんな馬鹿な、敵がこんな価値の無い地域でエース級の人間を出してくるはずが無い」
「「それが襲った3人組は王廉の者を探していたようで被害にあった全ての部隊に聞いていたそうです」」
「先輩それって、もしかしたら敵の狙いははなからこの地域ではなく先輩じゃないんでか?!」
(どういうことだ?私が狙われてる?だとしたらさっきの闇野とかいう奴は、何故私を倒さずに
逃げた?)
真理亜は無線のスイッチを切り、静かに考えた。
「もしかしたら罠がこの近くに張ってあるかもしれません、警戒して歩きましょう」
カナは少し考えて慌てて、急に何かにとりつかれたように、足元に赤と青と白のチョークで魔術式を組むための陣を書き始めた。
「どうしたんですか、副会長?」
「ランダムでどこでもいいので長距離ジャンプします、このままでは私達を含めこの戦場の大半が吹き飛びますね」
冗談を言う顔ではなく、カナは真剣な表情でチョークの線を地面に刻む。
「どういうことだ、カナ?」
陣を書き終えカナが腰に下げていた小さいポーチから、銀色の懐中時計のような物を取り出し、彰の目の前に突き出して見せた。
「環境マナの流れが下がっています、この近辺一帯で大魔法でも唱えるんでしょう」
「止める方法は無いのか!?」
せがむように彰はカナに問いかける。
「あることはありますが簡単ではないです、一つは、術式を組んでいる術者を止める、もう一つは、同じくらいのデ・スペル、ブレイカー系の術式をここらへん一帯にかけるかです」
「規模からいって集団詠唱で加速に加え、安定化をしてると考えられるから、敵の本拠地へ乗り込めれば場所はすぐに見つかるだろう、だが、探している間に発動してしまえば意味は無い」
どうしようかと3人で悩んでいると、何故か彰は少し妙な事に気づいた、
「先輩?さっきから銃声やら爆音やらが止んでいませんか?」
真理亜はそれを聞いて急いで無線機のスイッチを入れてコールをした。
「デルタ1、2ストーム1、2、応答せよ、応答できるなら現状報告と被害報告を述べよ」
ザザザとノイズ音が数秒続いた後に一つの部隊が反応する。
「「こちらデルタ2……何が起こったのかわからないが、聖ソフィアという団体が引き上げた後すぐ、我々は陣形を立て直すため集合した後。再度攻め入ると、敵が全滅していた、しかも全部が同士討ちか、もしくは自殺による死亡と見れる」」
「どこか別の中立部隊の救援かもしれないな、とりあえず敵側が大魔法の準備をしているという事だから隊を撤退させてくれ」
真理亜はそういって通信を切り大きく息を吐き額に手を置いて目をつぶった。
「何か嫌な感覚だ、私達の知らないどこかで何かが確実に動いている」
「とりあえずこれ以上ここに居ても無意味ということでよろしいのですわね?」
そういうとカナはゆっくりと魔術陣を書き直し始め、彰達は帰還した。
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闇夜に赤い炎の柱を立て、そこらじゅうで料理を撒き散らし、浮かれた兵士達が宴の歌を歌いビールが入ったジョッキを振りながら踊りはしゃぐ、その中で二人の人影が月明かりに照らされる。
「アナタは手を出さないのではなかったの?、私はこちら側の人間ですからいいですが」
「観察対象に死なれては困るのだ、そうしたら第5世代のプランが台無しなんでな、こんな価値の無い土地などボク一人で叩き落してもまぁ、文句は言われないだろう」
紅い、燃えるような紅い髪の女が月明かりに照らされその綺麗な輪郭を映し出す。
「神側が最近になって活発化し始めている、そろそろそちらのプランも発動するのかな」
「そんなこと知りません、私はあの人の未来とあの人の今日を護っていければ幸せですから」
もう一つの影は、宴の輪の中に戻っていった。