表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百銃王  作者: シメオン
4/16

3話「日常から」

季節は夏になりはじめ、じめついた暑さが最近は続いていて、神凪町のアスファルトはじりじりと焼け付き、淡い蜃気楼を放っている、そんな中、油蝉がじりじりと鳴く、青々とした木々が生えるセントシルビア学園前の並木道を歩きながら、その日、彰はある一つの悩み事を抱えていた。


「追試テストかー」


そんな事を言いながら学校で配られたプリント用紙を眺めながら彰はなんとなく空を仰いでみた。思えば、委員会の仕事が忙しくて最近は昼間の授業も居眠りが多くなっていた気がする、さらに先日の学園での召喚獣の始末の事件でレンという法術科の召喚術師と、それにかかわった彰も停学処分を食らってしまった。


「彰、今帰るところか?」


肩を叩かれ彰は後ろを振り向くと、夏風に深緑の髪をなびかせていた王廉真理亜がいた、肩には布につつまれた大きさ約1m60cmはある日本刀を背負っている。

騎士科に属している彼女は学園都市においては武器類の所持は学園から許可されていて、学園では余り不自然ではない光景だ。


「ああ、こんにちわ先輩、先輩も今から帰るんですか?」


もう一度向きなおして彰は歩く、横に同じペースで真理亜が肩を並べ歩き始めた、はたから見れば学生カップルが帰っている光景にとられるかもしれない、むしろそういう風に見られてみたいと彰はひそかに思うが、そんな光景を見られたらまたリアに怒られそうだ、そもそもなんで最近リアは怒っているのかは理解できない彰なのだが。


「生徒会の仕事も最近はほとんどないしな、夏休みは文化祭の事でまた、何日か学園に登校してもらうことになるが」


「はぁ、そうですね」


はぁー、と彰は感傷にふけった目をして深くため息をつき肩を落とす、それに真理亜が気づいたのか、くるりと身を翻して彰の目の前に立ち、


「どうした?最近元気が無いぞ?」


と悪戯をする子どものような顔をして彰を見つめながら聞いてきた。


「えっ?」


急に顔を覗き込まれたので、彰は驚いて後ろに2、3歩のけぞる、そのときに持っていたプリントを奪われまじまじとそれを真理亜は読んで。


「追試試験か・・・そんなに彰は成績が悪いのか?」


「いや今まではそんな事無かったんですけど、やっぱり生徒会の仕事が予想以上に堪えたのもありますし」


むすっ、と怒っているような真理亜の顔を見てつい生徒会のせいにしてしまった自分を呪う、真理亜はプリントと彰の顔に視点を何度か行き交わし、小首をかしげて、目を瞑って少し考え。


「じゃあこれから生徒会室で勉強しよう、それでいいか?」


「なんでそうなるんですか先輩?」


彰は戸惑った生徒会室はいま恐らく副会長が事務をこなしている、その中で生徒会長と勉強を教えてもらうという、学生限定のイチャイチャイベントをこなすのは、かなり危険すぎる、というか真理亜に(恐らく)好意を抱いているレイニアがいたら、叩き切られそうなのだが。


「生徒会委員から成績不良者など出したらそれは生徒会、会長の私の責任だそのためには、私が勉強を教えるのは間違っていないと思うが」


「はぁ、先輩が教えてくれるならよろこんでですけど……」


真理亜はまっすぐな性格なので一度決めた事は基本的に曲げない、拒否しても無駄だとわかっているので仕方なく真理亜についていく、廊下で真理亜と二人で歩いている所を誰にも見られなかったのが救いだろうか、監獄にいれられる囚人の気分は変わらないが。

生徒会室は先にカナが来ていた、他のメンバーは居らず、カタカタとパソコンに文化祭の予算会計を組んでいるのがちらりと見えた、茶色い長机には模擬店やその他小道具などの値段が書かれた商品カタログが無作為に置かれている。


「冷房はつけなくていいのか?カナ」


何気なく室温が気になったのか真理亜が問いかけると、カナはくるりと回転する椅子ごと身体をこちらに向けて。


「私、一応魔術師ですから」


ならいい、と短く返事をして真理亜はいつもの席についた、カナと真理亜の間に交わされた今の短いやり取りは彰には理解できてないがそんな事は気にしていない。


「で、彰キミが苦手な教科はどれなんだい?」


今は勉強することが最優先、カナの微妙に感じる負のオーラを無視し、彰は自分の鞄からノートと教科書を出して真理亜の隣に座った。


「現代社会と魔術鬼道学です」


そうかと短く返事をすると、真理亜は鞄から筆入れと可愛いらしい小さなポーチを出した、彰も現代社会と魔術鬼道学の教科書を広げる。


「現代社会の方は、ほとんどポイントを丸々頭に入れればいいのだが」


「俺、記憶力悪いんで関連した事柄とかで覚えておかないとすぐ忘れちゃうんですよ、それで記憶するようなテストはいつも赤点すれすれで」


照れくさそうに彰は頭をかいた、そのとき会計整理をしていたカナがいきなりコチラに視線を向けて、


「もしかして、書記は答えから数式を導き出すような人間なんじゃないですか?」


と、会計整理をするのをいったん止め、パイプ椅子を持ってきて彰の隣にカナが座る、真理亜の横に彰が座り、彰の隣にカナが座っているが、生徒会室の長机のカド側の狭い面積でなぜか集まるように座っているので当然彰は板ばさみの状態で勉強しなければいけない。


(ちょっ、カナさん少ない胸が当たっていますよワザとですか)


逆に非効率だと思ったが彰はとりあえず欲情を抑えながら勉強をすることにした。


「記憶は主に脳の海馬をいかに刺激できるかによって覚える事ができるのです、ゆえにその海馬を刺激してあげる方法をとれば記憶できます、海馬を刺激するのに一番手っ取りばやいのが何かに関連付けて記憶する……」


「よし、彰やはり魔術鬼道学を先にやろう」


真理亜は魔術の本を開き社会の教科書の上に置き、カナが自信満々に横で語っている、長ったらしい経のような言葉を無視した。


「彰は魔術を使えるんじゃないのか?この前銃を具現化しただろう」


「あ、いやそれなんですけどね、レンって子に貰った指輪でやったから順当な魔術じゃないですよ」


少しおどけた様子で彰は言った、それを聞いたカナがいきなり血相を変えてパイプ椅子をはじき倒し勢よく立ち上がった。


「あ、彼方は馬鹿ですか!他人から貰った魔術道具を使うなんて危険極まりない行為です!」


あーカナって時々お嬢様言葉じゃなくなるよな、とかそんなことを彰は瞬時に考えてしまった、素晴らしく暢気な脳は恐らく混乱を避けたのだろう。


「それよりなにより驚いたのはそれを起動できる彰だ」


真理亜はゆっくりと彰に視線を向けた、表情が変わらないのはいつもと同じだがその視線は疑いにまみれていた


「そんな凄い事なんですか?」


二人に圧迫され彰は縮こまる、今はあの指輪ははずしているが家に帰ったら厳重に保存しようかとか考えていた、いや、おそらく混乱してそんな庶民的なことを考えるしかなかった。


「だって今は魔族側の一部も人間界に友好的になってきて、日常生活にも魔術を使った製品がたくさんあるじゃないですか」


必死に弁解の言葉を述べるが、その答え方にカナが珍しく大きくため息を付き呆れ顔になった。


「ほんとに何も教えられてないのね普通科って」


「私も鬼道派なので魔術の事はよくわからんが、元来起動式を必要としない魔術は無い、人間でも使える魔術というのはそもそも起動した状態で店頭に並べられる、マナコンロやライトの類にはそれぞれ使用可能年数が決まっているだろう?それは起動式が切れる時間なんだよ」


「マナ回路を持たない人間は起動式が常に開いたままになった状態で使ってるの、普通の人間が魔術道具を手に入れても起動式の組み方を根本から理解していないと大怪我をするわ」


そんな話をすらすらと喋っている二人の間にいる彰は、ああこの二人は自分とはまったく違う世界に立っているんだなと改めて思い知らされた。


「それにもう一つの疑問は具現化したことよ、錬金とも呼ぶけど、この魔術式はかなり難しくて具現化したい物体の質量計算や硬度計算もしないと上手く組めない式なの、それなのにその上級のさらに上の魔術を彼方は術式詠唱も、媒介も、簡易神殿も無しにあんな難しい形のものを完璧に作りあげたことがまず人間としても、魔術師としても異常なのよ」


長ったらしいセリフをほぼ一息で言ったカナに押されてしまい、彰は黙る事しかできなかった、真理亜も何かを考えたのか沈黙している、それからしばらく生徒会室は外で鳴いてる油蝉のやかましい声だけになった。


「具現化なんて難しい事をできるって、少しは貴方に憧れを抱いていたのに、幻滅したわ……」


張り詰めた空気に耐え切れなくなったのか、カナは生徒会室を出て行ってしまった、彰は落ち込んだ、何か自分がわからない事ですごく悪い事をした気分になった、その様子を見ていた真理亜が彰の肩に手を置いた。


「彰、気にするな異常なのは私もだ、私も起動式と魔術式を無しで音速を超える剣を抜ける。少しくらい普通とかけ離れてても気にする事は無い」


彰は真理亜の苦笑いを見て「ああ、またやってしまった」とその場で頭を抱えた。

自分の能力を少し甘く見ていた、確かに簡単に魔術が使えるなら人間界で人間が魔術を使って犯罪を犯したり周りの人間が一人でも魔術を使えてもいいはずだ、なのに自分は力を手に入れたことによって少し舞い上がっていた、自分が手に入れた力の恐ろしさを今までなんとも思わなかった。そんな幼稚な自分に悔しくて腹が立ち、彰はその場で歯を食いしばって涙をこらえ小さく震えていた。


(くそったれ、俺は結局まだはじめの一歩も踏み出してないのかよ)



真理亜になだめられ少し落ち着いてから、真理亜との勉強会はそのままお開きになり、真理亜は彰を気遣ってか家の前まで送ってくれた。


「私は、たとえお前が異常者にでもお前の存在を認めてやるからな彰」


そう別れ際に優しく微笑んで告げた言葉が彰の胸の奥にズシリと落ちた、真理亜に触れられたらきっと泣いてしまうだろうと思い逃げるように背を向け家に入った。

頭の中がぼんやりとして玄関に靴を脱ぎ散らかした後そのまま腐るようにリビングのソファに倒れた。


(しばらく、あの指輪は使用を控えよう……何か危険な気がする)


全てが嫌になって思考を停止するとすぐに眠りに落ちれた。


@


いったいどのくらい時間がたっただろうか、窓の外はすっかり暗くなっている。

胸ポケットにしまった携帯がさっきから振動し変にうなっている、適当にだらりと起き上がり携帯を取りだしディスプレイを見ると、そこに表示されている名前はなじみのある名だった、とりあえず通話ボタンを押してみる。


「あ、やっとつながった……彰君もう夕飯できてますよ、今夜は夕飯作りに行けなかったのでこっちに来てください」


「……(何を話したら、それとも話さないほうがいいのか)」


リアは気づいてない、知っていない、教えてしまえば優しいリアの性格だ、また心配するだろう、リアだけは巻き込みたくはない、自分が実はとんでもない異常者だった事を知られたくない。


「……彰君?」


受話器越しの無言の時間に心配したリアがまた彰の名を心配そうな声のトーンで呼ぶ、彰はその声を聞いてリアの心配そうな顔を思い浮かべた、変わらない日常と変わってしまった自分に少し悲しくて涙が出そうになる。


「いや、なんでもない今行くよ」


心配されないよう、空元気で返事をして電話を切り、とりあえず制服から着替える誰もいない家に鍵をかけて、隣のリアの家に行く、家の門に手をかけたとき丁度家からリアが出てきた。


「あ、彰君」


ずいぶんと心配そうな顔をしながら彰にゆっくりと駆け寄り、そのままゆっくりと左手で彰の頬を優しく撫でた。


「ん、どうした?」


何だか照れ臭い光景だがリアの目をみてうわついた気持が吹き飛ぶ、怒っているような悲しんでいるような、そんな複雑な黒く沈んだ瞳に一瞬恐怖すら覚える。


「彰君最近おかしいです……先輩に……いえ」


そこでリアが言葉を止めて玄関へと小走りしていった、とりあえずこのままでは空腹は満たされないのでリアの家で晩御飯をご馳走になろうと彰はリアの家に入った。




次の日。あの例の通学路上必ず通らなければいけないゴンドラのホームで王廉真理亜に会った、偶然かどうかはしらないが今回は腕章もつけておらず、ほんとにただ偶然に会っただけだった、ほんとにそれだけ会話もしないでゴンドラに二人は乗り込む、今日の朝は早くに家をでたためかゴンドラに他に乗車している人はいない。

真理亜と話すチャンスなのだが、昨日の今日ではどういう顔でどういう台詞をはいたらいいのか

言葉がでないままゆっくりと窓の景色は流れていく。


「…あきら……」


細い声で真理亜は彰を呼ぶ当然無視するわけにもいかないので彼女の方を向いた、顔を向けるだけで返事はしない、彼女の方向を向いてああ今日も学校指定の紺のセーラー服可愛いなとか思っていたのだが、いつもの現実逃避のための脳の緊急回避行動だ。


「カナの家は代々、魔術を一子相伝で継承する家柄でな、簡単に魔術を使えてしまうお前にあれだけ感情的になってしまったのはそういう理由があるからなんだ」


「そうですか……」


王廉は昨日彰が失言したことを悩んでいるのかと考えているようだが、実際はそんな事はないカナの気持ちは、悪いがどうでもいい、彰が気にしていたのは王廉があの時した表情の事だ。

生徒会に入ってからは真理亜のそういう悲しい表情を少しでも減らしたいと思っていたのに、自分のせいでさせてしまったあの表情ははっきりと焼きついて離れない。


「俺は……魔術師ではないですし、カナの気持ちも汲み取ってあげられません、だから今度そんな事無いように、もっと勉強教えてくださいね先輩」


そういって彼女に満面の笑みを彰は送った、その後はいつものような会話に戻れた、生徒会での態度の注意から、今度のテストの山などの話をしながらゴンドラは学校へと昇っていく。

ゴンドラのホームを下りて並木道を歩いていると校門に見慣れない男が仁王立ちしていた、男の身の丈はおおよそ180cmもうすぐ夏本番なのに暑そうな白のロングコートを着て、紫色のサングラスをつけていた、燃えるような赤い髪はきっちりとオールバックになっていて、それらの情報だけで学校の生徒ではない変質者だということは容易に理解できた。


「お、お前が王廉真理亜だな」


男は自分の胸ポケットから取り出した写真と真理亜を交互に見ている。


「なんだ貴様、あいにく私は貴様のような変人と知り合った覚えは無いぞ」


真理亜が背中に背負っていた自分の身の丈ほどの日本刀の布を解き柄に手を置いた。


「おう、聞いて驚くな!俺がかの有名な魔界最強の殺し屋神殺しさまだ!」


(な……なんだこの脇役臭たっぷりの三文台詞は)


「よし彰、視線を合わすなよ、指も指すな無視しよう」


真理亜はスタスタ早足で神殺しと名乗った男を通り過ぎようとすると、神殺しは真理亜の前にすかさず移動した。


「ふん、これをみてそんなこといえるかな!」


と白のロングコートの腰に下げていた黒い銃のようなものを取り出し、取り出した瞬間にその黒い銃のようなものが真っ二つになった。


「それがどうした?」


「お、……今何しましたか?」


微妙にカタコトになっている神殺しを真理亜は冷たい視線で見つめる、刀の柄に手を置いたままで。


「王廉桐谷が作り出した最速剣……瞬月華だ、リーチは最高14m、次に貴様が変な武器を出そうとするならばその首をこの場で叩き落すまでだが」


「ちっ……エモノを壊されちゃ戦いにならないな!仕方ないまた会おう王廉の娘!」


そういって神殺しは煙球を投げて走って逃げていった、白い煙幕は山風で一瞬で吹き飛び必死に走って逃げる様子がなんとも滑稽だ。


「やることなすことが全て三流ですね、なんだったんでしょうか、彼」


「ふむ、世の中には面白い暗殺者もいるのだな」


こういう暗殺者なんてそれこそ何千と見てきたのだろう、同様も混乱もせずに普通にしている、真理亜は戦闘に関しては強すぎる彰が護る必要が無いくらいに。


「じゃあな、騎士科はこっちの校舎だからここでお別れだ」


「あ、はい」


彰は真理亜と別れて少しの間その場でうつむいて考えていた。自分がしている事は本当に意味があるのだろうかと。



いつものくだらない授業も追試前対策として自習にしている。

先生は教室の前の方でパイプ椅子に座って教科書を読んでいて、教室は休み時間ほどでわないがざわついていた、彰はリアと席をくっつけて必死にノートや教科書と戦っていた、リアは時々間違えているところを指摘してくるだけで余り喋らない、だがふとリアの方を向くと目が合い、リアはふいと視線をそらして顔を赤らめていた、彰はたまに感じる事があるリアって別の人とつきあえているのかと、リアが他の生徒と帰っているのを見たことが無いのは普段は彰と帰っているからだとして、クラスの中で他の人と仲良く話しているのを見たことが無い。


「リアって好きな人いるの?」


ふと口から出た言葉を自分で改めて考え直して彰はこれじゃあ別の意味にとらえかねないと、思い必死に次に発するフォローの言葉を考えてみた。


「い、いやっなんかリアって誰かと話してるところみたことないから、ちゃんとうまくやっているかなーって事であのだから別に変な意味じゃないんだ」


ああ自分はとことんこういう場面に弱いんだなと彰は実感する明らかに不審っぽい発言に。


「うーん……そうですね彰君です」


ニコニコとしながらそんなことを平気で言う、両親の次に長く一緒にいるんだから当然といえば当然の答えなのだがやはり真っ正直にそんなことを言われると恥ずかしい、結局肝心の質問はうやむやになってしまい授業時間が終わる。




その事が後々のフラグメントだったのかもしれない、放課後になると生徒会室に行く前にリアに家庭科部の文化祭にだす、新しい料理の味見をしてくれないかと誘われた、以前にもこういうことは何度かあったし、わりかし疑う事も無く、放課後に少しすいた自分の腹の虫を抑えるためにいそいそと教室を後にした。

家庭科室に入るとリアともう一人、知っているが名前が出てこない人がいた、

彰に指輪をくれた人だ、レンとかいったか?金髪を三つ網にしていてぱっちりと大きな目をしている可愛い子だ、かといって友人の加藤みたいにすぐにナンパに走る彰ではないのだが。


「あ、そうだこの前の指輪返してなかったね、今日持ってきてないけど今度返すよ」


彰は申し訳程度に頭を軽く下げた。


「え、いいですよあれ私には必要ないものですし、差し上げます」


(物凄くやばいものだと思ったんだがいいのかそんな簡単に譲渡して)


カナが危険だとか異常とか言っていた物は彼女にとってはシャープペンの伸くらいの気安い物なのかなと、それ以上深くは考えない事にしてとりあえず彰はリアに声をかける。


「うーんと、俺はどうすればいいのかな?」


少し忙しそうに料理をしているリアに声をかけるとくるりと振り返り、


「適当に座って待っていてください」


いつもの優しい表情でそういわれるまま適当においてあった椅子に座る、ここで彰が何か手伝う事は多分ないだろうし、適当に携帯でもいじって待っていた。


「あ、いけないおととい試作の時にソース切らしてた」


レンが冷蔵庫とにらめっこしながら言う、


「俺が買ってくるよ」


と席を立つと慌ててレンに止められた。


「こらこら、君はお客様なんだからゆっくりしていってね、私が今から買ってくるから」


そういうとレンはエプロンを取り薄いベージュのマントを羽織ってぱたぱたと調理室を出て行った。これ以上は調理を続けることはできないのか、リアが彰の隣に椅子を出し座る、外では夕日が沈みかけ、蜩が鳴いていてどこか寂しげな気持ちになる赤オレンジ色の静寂に、最初に言葉を落としたのはリアだった。


「……彰君……最近何かあったんですか?」


弱々しく、だけど言葉の歯切れは良くリアがうつ向いた表情で、つくりかけの料理に視線を落とした、彰はその質問をどうとらえればいいのか彰は少し迷う、指輪の事、カナとの事、真理亜の事、どれもリアには話していない。


「……答えなくてもいいですけど、最近彰君の様子が薄々おかしい事は感じてましたそれって全部、真理亜先輩の事なんじゃないですか?」


半分は正解。確かにリアの言う通りだ、なぜかあの人のあの境遇を知ってしまって、何かいいようも無い気持ちには時々なっていた、正義感が元々強いせいでもあるが、それを刺し引いても王廉真理亜には特別な感情を抱いていた。


「その……俺もしかしたら王廉先輩の事、憧れてるのかもしれない」


自然に感情が口に出た瞬間、何故かしまったと思う気持ちでとっさにリアの表情を伺う、リアは彰をしっかりと見つめ、目を見開き口をあけて驚き動揺していた。


「あ…え……?」


リアは自分の表情に気付き慌てていつもの笑顔に戻る、だがどことなく表情がぎこちない、それに会話を始めた時からずっと胸を引っかくように自分の制服のリボンを震えながら握り締めていた。


「ごめん、なんか俺悪い事言ったか?」


「なんで謝るんですか?」


リアの見開かれた瞳が夕焼けの空色に染まっている、そこにある表情は完全な怒りだ、今まで見た事もないリアの表情に体中の毛が恐怖して逆立っている。


「…私だって、こんなに…」


はっと我に変えるとリアは言葉を途中で切り、ゆっくりと下に俯いたしばらくの沈黙を続けていると静寂を断ち切るように勢いよくドアを開いてレンが帰ってきた。


「どうしたんですか二人とも暗いですよ?」


「ううん、なんでもないの続き作りましょ?」


彰と視線を合わさずいそいそと料理を再会し、そのあとはいつものリアに戻っていた、とりあえず創作料理試作品一号を試食した後適当に感想を述べて食器を片付け、生徒会室に向かった。

壊れかけのドアノブを回して中に入ると、長机になにやら、ご大層な資料を枕に、机で伏せて寝ている一人の女性にあった。


「えー……ていうか先輩ですか?」


普段後ろでまとめている深緑の長い髪を下ろしているので一瞬誰だか理解ができなかった、生徒会の仕事やら、騎士の仕事やらで疲れているのだろう、起こすのも可哀想なのでゆっくりと椅子を出し座る。


「なんだ、起こしてくれてもよかったのだぞ?」


ゆっくりと身体を起こすと先輩は目をこすりながら資料をかき集めて、集めた資料をバックにしまう。


「急な依頼でな、近いうちに2週間ほど地球から離れるかもしれないのだ」


彰が質問したわけではないが、ちらちらと真理亜の資料を覗きみようとしてたのが気づかれたのだろうか。


「急にどうしたんですか?」


「私が付いている神側の傭兵部隊長から伝言があってね、近いうちにまた戦争地域に出向かなければいけないらしい」


真理亜はさぞ当たり前かのようにたんたんと話ているが、そこに彰はすごく距離を感じてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ