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百銃王  作者: シメオン
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15話「学園戦争、後」

バビロンの城の真ん中で電話のベルが鳴り響いた、神王エルファニアは城の玉座から立ち上がると、少し歩き中央付近で立ち止まり、かかとを鳴らす、すると目の前の床がせりあがり、高さ1m30cm幅30cm方形の四角い塊が現れ、それと同時に電話の音が止まった。


「どなたかな?」


「聖ソフィア教会です、あなたの事ですから私が電話をかけた理由はわかりますね」


四角い塊は電話にスピーカーとマイクになっており、その電話越しに冷たい女性の声がする。


「分かっている、そして君達の要求も全て理解している、人質の解放は早めに頼むよ」


平坦な声でエルファニアが答える。


「どういうことだ?我々の目的を知っていて止めに入らないのか!」


「じゃあね、用件は以上だろう?僕は顔が見えないで喋るのは嫌いなんだ」


そういって神王は電話を切った、その瞬間、受話器ごと床にぴったりと戻っていき、ただの一枚の床になった。




 セントシルビア学園は本来の姿ではなく、校舎からは所々が形を変え、火事や水漏れも起きていた。

その壊れた普通科の校舎の屋上に聖ソフィア教会のリーダー片桐雪は立っていた。

上半身はゴスロリのようなフリルが付いた黒い服で、下はジーパンを履いている。

その片耳から携帯電話をはずし、通話終了のボタンを押しジーパンのポケットにいれた。


「どう雪ねぇ、神は要求に応じてくれたかい?」


テレポートの術式で急に飛んできた、三十一がたずねる。


「応じてくれるどころか、こっちの解放待ちだったわ、だけど来るとは限らない、それより他のメンツはどうなの?」


「全員順調だよ、あー、でも赤羽だけ重症っていう情報が入った」


「あらそう」


そう彼女は小さく笑う。


「おそらくこれだけ早く情報が神側に流れてるってことは、内通者がいる可能性が高いけど」


「わからないわ、神がやることよ?貴方達第五世代すべてに気付かれないように体内へ発信機ついてたりなんてのも考えられるし」


「向こうの手は見えないのにこちらは丸見えなんて、そんなの冗談でもきつすぎるね」


そんな事を話しているときだった、学園から東の空から大型のヘリがこちらへ向かってきた。

プロペラを2機つけた貨物を運ぶ用のヘリは学園の上空で止まった。


「さて、神のいう事が本当なら出迎えなければね」


壊れたフェンスを飛び越え、そのままヘリの真下へと駆け出した。







砕けたガラスをばりばりと踏みしめ、凛矢は目の前にいる椿へと距離をつめる、

その後ろから絶えず術式を連続でカナは使用し続けた。

火球や氷、雷といったものが凛矢の後ろをスレスレで通りぬける、

それを椿は左手に持った経典で受け止め吸収する。


「距離を詰められた所で私の法定万理には」


ページを一枚破り焼こうとする、その瞬間加藤凛矢はショットガンで左手を狙い撃つ。

弾丸は椿の左手に激痛を与え、痛みに耐えられず、経典を落とした。


「あんまり人間の力をなめるなよ」


そういうと、加藤凛矢は椿の腹へ右足を蹴り入れた。

椿は蹴りの衝撃で後方へ3mほど吹き飛ぶ。


「やっぱり防御と攻撃は両方同時にはできないんだな」


「くそっ、めんどくさいめんどぐぎがぁ!」


そう先ほどの余裕が微塵もなくなり、顔は鬼のようにゆがみ、叫びながら言葉を発する。

凛矢に吹き飛ばされ地面に這い蹲りながら、椿はなおも立ち上がる。


「凛矢よけて、彼女の魔力が跳ね上がったわ!」


カナの叫び声の直後、光の矢が凛矢の前方から無数に放たれた。

3mしか凛矢と椿の差は無い、その間に時速60kmほどの無数の光の矢が凛矢へと一転集中した。

それを身を翻し、凛矢は背中を向けた。

光の矢が爆発を起こし、煙を上げる、


「あまりなめるなよ人間!」


そう椿は裏返った声で叫ぶ、彼女の髪は銀髪になっており、目は紅く光を放っていた。

が、そう勝利を確信した瞬間、煙を貫き無数の光の矢が椿を貫いた。

自分の技が帰ってきた事に驚き、ほとんどをまともに食らい、体中から鮮血が噴出す。


「なんだと……」


そこには誰も立っておらず、崩れ落ち床にうつぶせの形で倒れている加藤凛矢がいた。


「凛矢!」


カナが駆け寄る、背中の傷は先ほどよりも酷さが増していて、皮膚は焼け焦げ、さらに酷い箇所になると筋肉が見えていた。


「早く……逃げろカナ」


凛矢は立ち上がろうとする、出血の量と傷の痛みでもう指一本動かす事すらつらいはずだが、

ぐちゃぐちゃにガラスの破片と瓦礫だらけになった床に手を付き、震えながら、歯を食いしばり、そうやって立ち上がろうとする。


「やっと、正体がつかめたぞ、お前もただの人間じゃないじゃないか」


椿もダメージが蓄積しておりふらつくが、凛矢よりは浅かった。

壁に手を付き立ち上がり、目の前に落ちている経典を拾おうとする、

それを見逃さず、カナは泣きながら即式の小さい火球術式で、経典を焼き払う。


「ちっ、せっかく40個ほどストックしたのにパーじゃないか」


そういって椿は何処からか、似た様な今度は聖典を取り出した。

もう一度カナは魔術をはなとうとして手が止まる。


「やめときな、私は魔術師の天敵だ、物理と魔術のペアだから遅れを取ったが、あんたみたいな魔術師200人いようが相手に出来る」


カナは自慢の金髪ツインテールの片方のリボンを解き右手の拳に巻いた。

目の前の凛矢の惨状を見ての悲しみと、目の前の椿へ対する、憎しみでカナの表情はぐしゃぐしゃに乱れていた。


「だったら殴るだけですわ!」


「それもやめとけ、そんな骨と皮しか無いような細腕じゃあ私の再生力に追いつけるわけが無い」


カナに反するように椿は出会ったときのような落ち着きと、冷静さを取り戻していて、

髪も元の色に戻っていた。


「再生力か……どうりでアンタはダメージ食らわないわけだ」


凛矢が地面に突っ伏しながら、力無くそう笑った。


「そこの小娘、悪いことは言わない拘束されろ、別に私たちは無駄に死体を増やしたいわけじゃない」


「まだ終わってませんわ、左手で魔術を使いながら右手で貴方を殴れば少しずつですがダメージは入れられます、同時に防ぐのは無理なんでしょう?」


それを聞いて椿はため息をついた。


「あのさぁ、わかってないようだから言うけど、王手をかけてるのはこっちなんだ、それにあまり勝負を長引かせたら、そこにいるそいつも救えないぞ」


「カナ、逃げろ、そいつの言葉に構うことはねぇ、そいつはおそらくもう魔術を打てない、じゃなきゃ、落とした経典をわざわざ拾おうとしたり、こんな会話をする意味なんて無い」


「あら、かっこいいわねめんどくさい、これだけ至る所に血をぶちまけておいて、すぐに手当てしないと失血死するかもしれないのに」


カナはそれでも怒りをぶつけるかのように左手に魔術で力をこめ、右手とともに椿に突き出した、

それを聖典を開かないで、その聖典だけを盾にして椿は防御し、間髪いれずにもう一度殴りかかろうとしたとき、椿に腕をつかまれ、カナの小さな体は宙を舞いそのまま地面へと投げ落とされた。

だが、すぐに立ち上がり、攻撃の構えを取る。


「あーもうめんどうだなぁ、じゃあ取引しよう、実は私の今持っている聖典には回復系の術式がストックされてるの、大人しく捕まるなら、そこの彼を治すわ」


カナの魔術は主に攻撃主体なので凛矢の傷を治すような魔術は使えない、そもそも魔術は攻撃メインの術しかないので、法術師でないカナにはどうやったところで、凛矢を救う術はなかった。


「……わかったわ、早く凛矢に手当てをしてあげて」


自分の感情を押しつぶすようにカナはリボンとともに右の拳を握り締めた。









第二グラウンド上空の貨物ヘリから二つの影が落下してくる、その二つの影はごてごてのパワードスーツを着ており、パラシュート無しの自然落下で上空20m上から落ちたせいで、周りの地面の土を衝撃で掘り返していた。


「思ったより衝撃は無いが、結構怖いですね」


そうパワードスーツの中の人間が喋る、声は大きなヘルメットのようなもので篭っていた。

腕や脚は常人の2倍くらいに膨れ上がるような分厚い装甲になっていて、全身迷彩色をしている。


「そうは言うな、自然落下でダメージ零にできる最新鋭のスーツだぞ」


そうもう一人のパワードスーツを着た人間が喋った、声は女性のようだ。


「あら二人だけ?てっきり鎮圧部隊を投下してくるとおもったのだけれど」


いつのまにか現れていた片桐雪と、三十一がグラウンドの隅から歩いてきた。

それを見てパワードスーツを着た二人はヘルメットを脱ぎ捨てる。

そこに現れたのは、長い深緑の髪の女性と、銀髪と黒が入り混じった髪の男だった。


「久しぶりだな、聖ソフィア教会」


「お前、佐藤彰か……いやレオンなのか?」


顔立ちは佐藤彰のままだが、髪の色がどちらか見分けが付きにくい。

彰は少し微笑んで、すぐに右手で十字を切り光輝く十字から、銀色の銃を抜き出す。


「そんなことはどうでもいい、俺達の学園をとっとと返してもらうぞ」


そういって新しく新調した細いフアンダーフレームのメガネをかけ、片桐雪に銀色の銃を向けた。


「後ろの女は王廉か」


王廉真理亜はその綺麗な髪をリボンで結び、いつものポニーテールにした。


「彰、神王が言うには人質がいるらしい、そちらの解放をしなければうかつにそいつらを殺せんぞ」


「少しはこちらの話も聞いて欲しいんだけど、私達の交換条件を飲んでくれるのかしら?」


「テロリストには屈しない、人質を殺される前にお前ら全てを倒せば済むことだ」


そういって彰は右手にもっているハンドガンを撃った、それを三十一が片桐雪の前に立ち光の盾を召喚し食い止めた。


「雪ねぇ僕たちじゃあの二人を止められないよ、どうする?」


片桐雪は右手を前に出し、目の前に氷の壁を生み出す。


「防御に徹してイリアと残蔵に援護支援連絡を、あと闇野は引き続き残党狩りを」


そう三十一に片桐雪が視線をむけず指示を出した。


「残光刹那叫月!」


真理亜の声とともに、氷の壁を真空の刃で一瞬で吹き飛ばした、貫通した刃を三十一がぎりぎりの所で防御するが、光の盾を破壊しやっと威力が消えた。


「連絡などさせてたまるものか」


「たとえ相手が殺すために特化した人間でも、僕の盾を貫けぬものは無い!」


三十一が次に召喚したのは7つの盾、それぞれ色の違う大きな騎士のような盾を空中に浮遊させる形で召喚した。


「こい!66番黙示録!」


彰はもう一つの銃を十字から抜き出す、さっきまで持っていたハンドガンを捨て、スナイパーライフルの形をした黙示録という銃に持ち変える。

黙示録はボルトアクション式ライフルで、弾丸と銃身に魔術破壊の術式を装填し、魔術的な物を全て破壊する力がある。

その銃を七層に重なった盾の中心に撃ち込んだ。

金属音とともに3層の盾を貫通した。


「僕のイージスは貫けない!」


彰は構わず銃を再装填し、もう一度同じ部分を狙う。

次は2層壊れ、残りは2層だけになった。


「魔術や物理を絶対防御する盾らしいな、だが後2発だ」


そういってもう一度再装填し、同じ穴を狙う、1mmもずれずに撃つ。

最強の盾はあっけなく貫通した。


「嘘だ、僕の盾が、最強のはずの僕の盾がぁ」


「はじめ、もういいわよもうすぐ来るわ」


そういった瞬間に無数の糸が彰にからみついた。


「また貴様か」


絡みついた糸を真理亜は何のことも無く引きちぎった。


「同じ手は二度もくらわんぞ」


「問い1、何故この糸の弱点を知っている」


そう上空から紅いマントを羽織った小柄の少女、デリエス・イリアが落ちてきた。


「貴様らの生産者元に弱点を聞いただけだ、片桐雪以外は色々と弱点があるようだな、例えば貴様デリエス・イリアの無限の光の糸は物理的には切りにくいが、マナを通した瞬間あっさり切れるんだよな」


次に来たのは一人の男黒い影を背負った男。


「遅れたな」


そう野太い声で男が近寄る、身の丈2mはあろうくらいの巨体の背中から黒い煙のようなものが出ている。


「ドッペルゲンガーか」


「ほう、私の能力をご存知か、だが、知っていると戦った事があるでは戦場では雲泥の差だぞ」


真理亜が刀を構える。


「ちょっと待って」


片桐雪がいきなり二人の間に割って入った。


「どうした、お嬢」


片桐は彰に視線を送る、彰は三十一に銃を向けていたが、それを片桐に向けなおす。


「佐藤彰、もう一度話をしない?」


彰は銃を構えたまま、表情を歪めた。


「お前達の仲間になれってか、前も言ったがあんたらみたいな奴の仲間にはならない」


「そう、でも貴方も知りたくはないの?第五世代の秘密を」


その言葉からしばらく、戦闘が止まった、あれだけ鳴り響いてた爆音も今はやんでおり、むしろ普段の学園より静かなぐらいだった。


「……第五世代の何を知っている」


「知らないわ」


片桐雪の足元の土が吹き飛んだ。

すぐに彰はボルトを引き銃弾を再装填。


「だけど、知っているといえば知っている」


「答えろ、次は腕を狙う」


「学園の人質はいまだに私達の手の中って事忘れていない?」


真理亜は刀を納めた。


「彰すこし落ち着こう、パワードスーツを着ているとはいえ、流石に4人相手は不利だ」


それを聞いて彰は銃口を下に落とす。


「いい判断だわ、さてじゃあ長話になるだろうしどこか別の所で話しましょう」


そういって三十一を抱え、校舎の中に入ろうと歩き出した。


「待て、いまいち信用にかけるんだが、せめてその知っている部分だけ教えろ」


「簡単に説明すると、神の頭脳と呼ばれる場所に第五世代の研究データがあるのよ」


「神の頭脳?」


「ええ、神の頭脳バビロンの城のデータバンクよ」

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