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百銃王  作者: シメオン
15/16

14話「学園戦争、中」

神界はすべての物が人工物で出来ていると言っても過言ではないほど、機械が多い、木や水、土などに関しては自然の物であるが、それですら手が加えられている。

何故そのようになったのか、それは一重にこの神界と呼ばれる惑星は生物が住める星では無かったからだ、大気圏が無い星、土に微生物が住め無い星だったからこそ科学技術や魔術機械工学が発展した。

そしてその高度な技術で何故、第五世代は作られたのか、彰はそれをずっと考えていた。


「進化説か、兵器説か、どれも正解では無い気がするが」


真っ白い壁の部屋に彰は居た、部屋の広さは3畳あるかないか、そこに寝返りをうったら落ちそうなベットに、鉄格子がはめてある小さい窓、

入り口は外から丸見えの強化アクリル板のドアになっている。

彰はアクリル製のドアを3回強くノックした、

すると、看守がすっとんできた。


「おい1045号これで何度目だと思ってる」


顔はキツネで体中を金色の毛で覆われた獣亜種族の看守、地球の人が見たらぬいぐるみのように見えるが、

ここではそれが当たり前らしい、朝食を取る際、食堂で他の観察処分者を見たが亜種が8割で逆に彰のように人間型は2割程度だった。


「今何時だ?」


「さっきから5分しかたってねーよ、12時5分だ」


(おかしいな、先輩11時半頃に来るって言ったのに)


仕方なくベットに身を投げ、自分の腕を枕にして眠る。

しばらくうとうとしているといきなりアクリル製のドアが開いた。


「起きろ1045号時間だ」


そこに居たのは王廉真理亜の姿ではなく、兄の王廉霧夜だった。

銀髪の短髪はぐしゃぐしゃで、目を細めているが笑ってはいない。


「真理亜は?」


「妹はこれなくなった、代理で僕が君を神の元へ案内する」


仕方なく、両手に手錠をされ、監獄から出た。

長い長い廊下を歩く、窓も無いただ等間隔に蛍光灯があるだけの廊下を抜け、外へ出た、

監獄の門の前には兵士が二人と、装甲車が待っていた。


「あれに乗れ」


装甲車の後ろの席に兵士に挟まれる形で乗る、兵士の装備は地球の特殊兵の装備とはまるで違った、ぴっちりとした黒いボディースーツに胸部や腰には金属製の部品がついていて、

頭はガスマスクのような顔全体を覆うヘルムをかぶっていた。

彰と前の席に霧夜が乗り込むと、装甲車は静かにエンジンをかけた、電気自動車なのかエンジンの起動音が聞こえない。

装甲車にゆられ、外の景色も見えず体感で12分ほどたったくらいだっただろうか、装甲車はゆっくりと止まり、兵士に引っ張られるように車を降ろされた。

降りて真っ先に目に付いたのは銀色の城だった、そのまま兵は見送るように立ち止まり、霧夜はその城の入り口まで彰を連れて行った。

そして何故この城が銀色をしているのか、近くにきてようやく理解した、

銀色だったのはメカメカしい配電盤で、びっしりとそこに電子部品が組み込まれているのだ。


「なんじゃこりゃ」


「バビロンの城と呼ばれている、なんでも防衛と指揮と教育を一括で行っているらしい、

今の地球の政治のやり方をすべてこの機械のAIプログラムが統括してるのさ、機械は間違いを起こさないし、自分の利のためには動かないからね」


色々と発想や思想が飛びぬけている世界であるので、一々驚いていると疲れるようだ。

城の入り口で霧夜がIDカードとパスコードと、声紋、指紋、網膜の生体認証システムを起動させ、ようやく入り口が開いた、

中に入ると外観とは逆にまったくといっていいほど機械が見当たらなかった、

そこにあるのは普通のお城の様子で大きな白い柱が数本と王が座る椅子が一つあるだけだ。

そしてその椅子に30代くらいの金髪の男が座っていた、着ている服は機動兵士用のライトアーマーのようだった。


「お久しぶりです、神王エルファニア」


霧夜が左膝を地面につけながらかがみ、、頭を下げ忠意の礼をした。


「ふむ、久しぶりだね楽にしていいよ」


そうエルファニアににこやかに言われ霧夜が立ち上がる。


「それで、例の少年がこちらです」


霧夜に紹介され、彰は軽くきまずそうに一礼する。


「ほう、そちらが第五世代の子か」


男は椅子を降りて彰とは別方向の開けた空間に立ち止まる。

そして手を翳し、独り言のように神界語を喋った、当然彰には何を言ったか理解できない。

するとその直後、何も無い場所から机と椅子と棚が地面からせり上がり、そこに突如現れた高さ2m横幅6mくらいの棚から神王はコーヒーカップを取り出した、そして一度彰のほうを向く。


「紅茶は好きかい?」


「あ、はい」


「そうか、それは良かった」


神王は優しく笑うと、茶葉とティーポットを取り出し、素早く紅茶を淹れた。

せりあがった白い机を棚にあった、除菌用の布で拭くとそこにティーセットを並べた。


「さぁ、お茶にしよう」


霧夜につれられ椅子に座り、彰は手錠をつけたまま紅茶を両手で器用に一口飲む。


「美味しいです」


「落ち着いたところで、話を聞こうか」


「え、神様が俺に話しがあるんじゃ無いんですか?」


「うーん、特に無いねぇ、私は話をするよりも聞く立場の人間だからねぇ」


考えてしまう、聞きたい事はあるはず、今までの事や第五世代の事、聖ソフィア教会の事だって、神王なら分かるはずだ。


「このお城なんで貴方しか人が居ないのですか?」


「おや、ずいぶん浅いところから質問するんだね、まぁいい答えよう、ずばり私が他人嫌いだからだよ」


「他人嫌い?」


「執事やメイドなんかを先代の神王達は雇っていたみたいだけどね、王の暗殺を企てるものがあまりにも多くてね、だから私の代でやめた」


(さっきからにこやかに喋っている所から悪い人では無いようだが、王になると何かと恨みを買うのかな)


霧夜が紅茶に一口もつけずに、ティーカップの口を指でなでて遊んでいた。


「それよりも王よ、この者の処分は結局どうなさるおつもりで?」


「処分かぁ、まぁ私としては別にこのまま解放してもいい」


「本当ですか?!」


彰は勢いのあまりがたりとテーブルを揺らした。


「ただその前に一つ手伝って欲しい事がある」


「……なんですか?」


「君に傭兵任務を頼みたい」


(やっぱりただって訳にはいかないか)


彰は神王の言葉の返事を迷っていると、神王は棚からお菓子を取り出し、食べ始めた。


「返事は今日中にしてほしい、でなければ手遅れになる」


「そうか、だから真理亜先輩をこの場に呼ばなかったんですね」


そういって霧夜を睨みつけると、霧夜はキツネ目で笑った。

傭兵任務など彰が戦場に投下される事を真理亜は一番に嫌う、

時間に来なかった理由や、約束の時間が30分もオーバーした理由が空想だが脳裏によぎる。

おそらく彼女は今回の内容を聞いて、謁見の話を最後まで断ったのだろう。


(安心してください先輩、佐藤彰はもうただの人間です、戦闘参加なんてもう出来ない)


目を瞑りここにはいない、真理亜にそう語る。

戦闘をして、次にまた第三番目の人格が出ないとは限らない、なので彰はもう二度と指輪を使う気などなくなっていた。


「すまない話が急すぎたね、それで後は何か聞きたい事はあるかい?」


「第5世代が作られた本当の目的は何なんですか?」


「うーん、ちょっと話が長くなるけどいいかい?」


神王は困った顔をはぐらかすかのような笑いをした。


「構いません」


そう聞くと、エルファニアは静かに紅茶を一口飲み、一息ゆっくりと呼吸し彰を見る。

その男女の境目が分からなくなるような均衡な美しい顔立ちと、金色の髪に、

貴族の服をまとった全身を見ていると、一枚の絵画のように思えた。


「第五世代というものを説明するにはまず、なぜ第五世代が必要になったかを説明しないといけないね、

えーと君はエンブレンスマナというのを知っているかい?」


「エンブレンスマナ、世界を取り巻く大きなマナの事ですか、一説にはそれが人や星を生み出した物と考えられてるで合ってますか?」


「そうだ、魔術を使うときにマナ回路を形成する段階で自然界のマナの流れを組み込む式は必ず必要だ」


「それが第五世代とどう繋がるんですか?」


「まぁ、落ち着きたまえ、話はそれからだ、そのマナの流れが2000年もの間止まっている星が今の地球だ、マナの流れが止まるとやがて星は死に、地球自体を動かすエネルギーさえ尽きる、そうなるとどうなると思う?」


「そんなことになったら、惑星がその軌道を外れ大気圏や重力なんてものもも壊れ、地球に住むすべての物が滅びる……」


「そうだ、それどころか今までこの周期で回っていたからこそ平気だった我々の星も色々と予測不可能な変化があるだろうね」


「まだ第五世代のワードが出てきてませんが」


「察してくれると思ったんだけどなぁ、そこで第五世代だよ」


霧夜はお菓子をひとつつまみ口に挟んだ、すぐに食べずに少しなめているようだ。


「霧夜君大丈夫だ、毒など盛ってはいない」


「癖なのでお気になさらず」


いつものキツネ顔の胡散臭い笑顔で神王の笑顔を返した。


「話を戻そう、第五世代が地球に多く広まってくれれば世界は安定し、エンブレンスマナも循環する」


(レンのレポートとは少しずれている、世界のバランスを保つという名目は同じだがその中身がかなり違うな)


「実はここに来る前に謎の事情通の女の子に会ってまして、その子が言うには俺達は各星同士の戦争のバランサーになると言っていました」


鎌をかけるつもりであえてレンの名前は伏せる。


「それはレンの考えだろう、彼女にはまた別の思惑があると思うよ」


あっさりとレンという事を神は察した。


(レンの事を知ってる、じゃあこの人の話を信用していいのか?)


「ちなみに、レンという人をどうして知っているんですか?」


「ん、ああ彼女は第五世代プロジェクトの一人だ、しかも重要役員の一人で、役職は第五世代の観察指導員だったかな」


「計算がおかしい、レンの年齢があまりにも若すぎる」


それを聞いて霧夜がクスクスと笑った。

神王は少し困ったような顔をしている。

ひとり彰が間違った発言をした雰囲気になり、気まずくなる。


「そもそも人間の物差しで私たちを考えないでくれ、目の前にいる私だって2900年ほど生きている」


2900年、途方もない数値で彰は唖然として、ついつい紅茶をこぼしかけた。


「貴方の言葉は信用していいんですね?」


「それは、わからないよ、真実の証明は誰にもできない、君が信じたものを真実だと思えばいい」


「もう一つ聞いていいですか?」


「ああ、私が答えられることなら何でも」


「これは王廉……霧夜さんにも聞ききたい」


「僕は答えるとは限らないよ」


「それでもいいです、真理亜先輩は一体どうしてああいう風になったんですか?」


霧夜はその言葉に首を傾げた。


「見ての通りだよ、元より私達はただの化け物だ、それ以外でもそれ以上でも無い」


「そうだね、王廉一族はそういう物だ」


真理亜の完全体モードの事を話しているようだが、彰の欲しい回答はそれではなかった。


「そうじゃねぇよ、なんで俺とほとんど歳も変わらない女の子が戦場を飛び回っているんだ」


兄なのに妹を簡単に化け物といった霧夜に酷く腹を立てて、彰の声は震えていた、それに同調した神にも怒りを覚える。


「森羅万象、生きとし生けるもの全てには役割がある、王廉真理亜は産まれた時からそういう役割だっただけだ、私に怒りを向けるのも、彼女に同情するのもおかしいと思うが」


「僕には何がいけないのかわからないけど、君はまだ子供だから仕方ないよ、世界はそういう風に回っていることをまだ理解していない」


その言葉で隣に座っている二人のどちらかを殴り飛ばそうと思ったが、両腕に手錠と、指には何もはまっていないことに気づき、彰は力なく椅子に座った。


「他に質問は?」


「……もう無いです」


ティーカップも空になり、城を後にしようと椅子から立ち上がる。


(一秒でもこんな者達の中に居たくない)


「さて、では先ほどの答えを聞かせて貰おうか、傭兵任務を受けてくれるかい?」


「正直行きたくは無いです、何故僕なんですか?神界側には聖騎士団がいるはずですが」


聖騎士団とは、王を護るため神界を護るために結成された精鋭部隊である。


「あれを動かすと惑星条約違反になるからねぇ、政治的につらいな、今回いってもらう場所も場所だし」


「何処なんですか?」


神王は彰に近寄り耳元で静かにささやいた。


「!」


それを聞いた瞬間彰の顔は強張り、この一件優しそうな神王が命を狙われる理由ができた。


「君の大事なリアの観察処分も私達がしていることを忘れないでいただきたい」


神はそう付け加える、拒否権は最初から死んでいた。








学園はありとあらゆる場所で爆発や、雷撃の音が飛び交っている。

その中を加藤凛矢は走っていた、カナは現在魔術校舎の3階あたりで戦っているらしい、相手は特殊な剣を持つ男と魔術をはじく男二人組みだそうだ。

脱出路を戻り、ディール担任の所に行ったが結局少し荒れている様子があるだけで、他に何もなかった、仕方なくカナと合流することを優先することを選び、今は魔術校舎への連絡通路へ向かって走っている。


「畜生、間に合え!」


途中に戦闘訓練室により、ゴム弾が入った非殺傷用のショットガンを持ってきた、他にも銃はあったが、どれも非殺傷用のみでめんどうなので使いまわしやすいショットガンを選んだ。

鉛が入ったちゃんとした銃もこの学園にはあるが、管理が厳重ですべて鍵がかかっているので仕方なく非殺傷平気で我慢することにした。


(心もとないが手ぶらよりましだよな)


携帯についているGPS情報を頼りに、目立つ金髪ツインテールの少女を魔術教室の片隅で見つけた。

傷は無いが、酷く疲れているようで、力なくだらりと壁に寄りかかっていた。


「大丈夫か!?」


「ええ、逃げるのに手間取ってしまって」


「侵入者は何人くらいいるんだ?」


「わからない、ただわかるのは先生達が総動員してやっと足止めができてる程度ですわ」


魔術科と法術科に騎士科の先生まで戦っているのに、それで互角。

明らかにこの事態は異常であることをさらに生々しくさせる、そしてその事を聞き、凛矢は自分が肩からスリングベルトで下げているショットガンを見た、こんなものでは戦いに出すらならないだろう。


「カナ早く学園から逃げよう」


「嫌ですわ」


即答だった、逃げるのに相当の体力と魔力を消費したはずなのに、カナはいつもの凛とした態度を変えない。


「彰だったらこんなとき絶対に逃げたりなんかしない」


カナは強い口調でそういう、少し怒っているようにも見える。


「また、彰か」


彰だったら、その言葉を最近カナはよく口にする、何故そんなことを言うのか、加藤凛矢はわかっていた。

文化祭での件をカナはまだ引きずっているのだ。

癒えもしない傷を抱えながら、戦闘に出るのは危うい、死への恐怖を曖昧にさせる、だから加藤凛矢はカナのそんな姿をみてすぐに逃げることを考えたのだが。


「ったくあの馬鹿野郎は何処にいるんだかね」


「さて、少しだけならマナも回復しましたし、私は戦線に復帰します」


カナは立ち上がり、ずるずると脚を引きずりながらゆっくりと歩きはじめた。

その横に加藤凛矢がゆっくりと歩きはじめた。


「俺も行く」


「民間人は逃げなさい、これは魔術師の戦いですわよ」


「彰だったら、民間人でもカナを助けてたんだろ?」


カナに肩を貸しながら教室をでる、肩を貸すといっても加藤凛矢とカナの身長差のせいで組むことは出来ず、左手を肩に乗せているだけだ。


「おやおやまだこんな所に残っていたかめんどうね」


教室の廊下をでてすぐに、例の侵入者の一人に出会ってしまった。

そこに立っているのは20代くらいの若い女性だった、長いスリットの入ったドレスを着ていて、

スリットからスラリと伸びた細長い足が露になっていた。

黒い髪をかんざしのような物で纏めていて、黒い瞳の色から、日本人に見えた。


「あんたらは誰なんだ」


凛矢がショットガンを向けそう問いかけた。


「めんどくさいわね一々説明する必要は無いでしょう」


「そうだな、出会っちまった以上どうせただでは返してくれないんだろう?」


「話すのもめんどくさい、抵抗しないで降伏しなさい」


横のカナを一度見る、強い眼差しは変わらず、寄りかかっていた体制から少し凛矢から体を離した。


「カナ戦えるか?」


「あら、貴方こそ私の足をひっぱらないようにがんばりなさい」


ショットガンはポンプアクション式の8連装タイプで、それを一度引き相手に銃口を向け撃ち放つ。

ばら撒かれた弾丸を、黒い髪の彼女は目の前に氷を作り目の前でガードした。

それをカナがチョークで空中に術式を描き、火球を召喚して焼き溶かす。


「ほう魔術師か面倒ね、ということは一応名乗るべきかしら、聖ソフィア教会の折裏椿よ」


「有栖川カナですわ」


「加藤凛矢だ」


「貴方は聞いて無いわ凡人」


すぐさまカナがスカートを横からまくり、脚についたチョーク入れから新しいチョークを二本抜き出し、雷と氷の術式を描いた。

その術式から禍々しい暴風と剛雷がすさまじい爆音と地響きを起こしながら噴出す。


「食いつぶせ!法定万理」


そう叫び椿は分厚い本を開き暴風と剛雷をその本が飲み込んだ、

まるで排水路に流れていく水のように小さな本に収束して飲み込まれていく。


「魔術を吸収する能力?」


「原理説明は面どうくさいわねー、ただ吸収するだけではないのよ?」


本をバラバラとめくりそれと同時に、彼女、折裏椿の髪の色が銀色へと変化した。

そしてその本の1ページを破り取り、右手に持ち、その破れたページが突如燃え始めた。


「面白い術式ね、基礎簡略式からオリジナルを少し加えてるのか、いいわぁ」


加藤凛矢は続けてショットガンのケージを再装填し今度は壁に向かって撃つ。


「がぁっ、何故だ」


椿がゴムの弾をわき腹に食らい思わず苦痛の声を漏らした。


「余裕出しすぎだぜアンタ」


通常なら椿は目の前に飛んでくる瞬間に目の前に氷の壁を出すだけで防ぐことは出来たのだが、

一つ見落としていたことがあった、いや知ることが出来ないことがあった、それは凛矢の使った弾丸だ、一度目は氷で止めたため弾丸の種類までは理解できていなかった、

凛矢が使った弾丸は非殺傷性のスラッグ弾式のゴム弾なのだ、

ゴムの特性である弾力性を利用し壁を兆弾させ、当てられるなど思っていなかったはずだ。


「兆弾で当てるなんてめんどくさいわね」


一度食らうだけで大の男でも吹っ飛ぶ弾丸を受けてもまだ彼女は余裕だった。


(兆弾で当てたから威力が半減したのか?いやそれでもあれをまともに食らったら一撃で落ちるはず)


「次は私の番よ」


先ほどの火が付いた右手をそのまま、前に出し手のひらを広げる。

標的は凛矢ではない。


「カナ避けろ狙いはお前だ!」


「遅い、法則を曲げよ!暴風と剛雷の渦!」


カナが放ったはずの雷と暴風の渦がさらに威力を増し、衝撃で廊下の窓ガラスを全て割った。

その暴風はカナに直撃するコースを取った、凛矢は目の前から襲いくる風を避けられる場所を一瞬で探す。

だがここは開けた廊下だ、先ほどの教室のドアまで走っていっても、おそらく間に合わず二人とも巻き込まれる。

―――二人なら巻き込まれる。

爆音とともに暴風があたりの物を破壊した、砂煙が薄れてそこには無傷の二人がいた。

そして間髪いれず、凛矢がショットガンを兆弾させるため右横と上に撃つ。


「二度も同じ手が食うか!」


全方面を氷でまとい防御した、ゴムの弾丸は氷の壁にはじかれ的外れの方向へ転がっていった。


「じゃあ三度目はどうだ!」


氷を蹴り飛ばしヒビを入れる、さすがに人間の足ではヒビ程度が限界がある。


「147番目吸収した第七の法定を」


氷のなかからかすかに聞こえたその言葉を聞き、凛矢はバックステップを踏みそのばから距離をとった。

直後に長い剣が姿を露にし氷を引き裂いた。


「めんどくさいめんどくさい、2分で終わらす気だったのにさぁ」


長い剣の柄はなく、本来柄となる部分は彼女の腕だった。


「それよりさぁ、そこの人間、あんたさっきの雷撃、直撃コースをわざと当たったように見えたけど、何をやったんだい?」


「教えるか馬鹿野郎」


加藤凛矢は椿に負けないくらいの余裕ぶった顔をした、だが彼は無傷ではなかったのだ、

後ろにいるカナだけがそれを知っていた、彼の背中がガラスや石などありとあらゆる破片で血だらけだったのを。

カナは当たる瞬間にガード系の術式を描いたが間に合わなかった、だが発現しない術にあの暴風を止められるわけが無い。

何をしたのか、加藤凛矢が自分をかばいあの風をはじき返したように見えたが、細かい仕組みはわからなかった。


(凛矢あなたはもしかして魔術師なの?)


「カナ、やつの魔術は吸収系と反射系の併合みたいなのだ、魔術で戦うのは歩が悪い、補助系とガード系の術式で援護しろ」


状況だけを述べ、何一つ自分を語らないその血だらけの背中を見てカナは思わず手が止まりそうになった。


「私に命令とはいいご身分ですわね」


「おう、あいつよりは強く無いかもしれないが、それでもお前くらいなら護ってやる」


力強く凛矢は笑った。


「……馬鹿、それだけで十分ですわ」


カナはさらにチョークを四本抜き力強く握り締める。



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