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百銃王  作者: シメオン
13/16

12話「彰不在の日」

私が目覚めたのは夜の21時過ぎの頃だった。

心臓が痛み、おきるのに少しかかる、肉体に血がいきわたった頃にようやく寝ていたベットから体を起こした。

近くに携帯電話が置いてあった、任務で使ったり仲間と連絡を取るために常日頃から枕元に置くようにしている。

それで日付を確かめる、あの日から3日たっていた。


「戻ってこれるまでにかかった時間としては新記録だな」


誰もいない病室でひっそりと笑う。

お気に入りの大きな紅いリボンの髪留めで私の長い深緑の髪を結びポニーテールを作る、戦闘の時によく邪魔にならないかと兄に言われるが、

長い髪を気に入っているので切らない、少しは年相応の女の子らしい事をしてもいいだろう、女の子らしく失恋したら切るかもしれないが、まだ失恋はしていないはずだ、まだ。


「刀は何処だろう」


病室を出ようとスライド式のドアに手をかける。

すると、同時に外側からドアが開けられた。

そこに立っていたのは兄である王廉霧夜だ、短い銀髪の髪はいつもぐしゃぐしゃで、猫みたいなのだが、

目はキツネ目で、いつも優しく微笑んでいる、たとえどんな状況でも微笑んでいる。


「心電図が0になったからびっくりして飛んできてしまったよ」


よほど急いでいたのだろう、服そうが少し乱れている、いつも来ている着物の帯とか適当に結んでるし。


「え」


おそらくベットに心電図用の計測器が付いていたのだろう、それはいいのだが、ベットから起き上がってまだ10秒もたっていない、

病院内は走らないように、兄様。


「体の調子はどうだい?完全変化から人間の体に戻るまで以前より大分早いようだけれど」


「大丈夫です、それより私の刀は?」


「ああ、ちゃんと持ってきたよ」


兄は腰に下がっている4本の日本刀のうち一本を抜いて、私に差し出した、

というか普通に銃刀法違反です、兄様。

おそらく軍用の病院なので問題は無いが。

受け取った刀を腰に納めた、肉体に染み付いた重みが私を元に戻してくれる、気高き騎士としての私を。

もう一方の大剣は今は必要ない。


「彰はまだ目覚めていないのですか?」


「ああ、彼は目覚めてないね」


「「は」…と言うとリアの方はもう意識が戻ったんですね」


「話すかい?一応妹の頼みならすぐにでも面会の用意をするけど」


「お願いします」


兄様は常に微笑んだ表情を変えないので、いったい何を考えているか不気味ではあるが、基本は極度のシスコンなので、

私の願いなら大抵聞いてくれる。


「では、先に彰に会いたい、病室は何処ですか?」


「行っても何の反応も無いと思うけど、この隣の病室だよ」


そういって、IDカードを私に投げた、すぐに部屋を出て隣の病室へと向かい、

渡されたカードを通して部屋のカギを空けた、

そこにいたのは栄養点滴の管と、補助呼吸器マスクをつけた彰が横たわっていた、

心電図には、心拍数と脈拍の計測グラフとマナの震度期がリズム良く跳ねている。


「あきら…」


彼の顔を見て、心臓が大きく高鳴る、色々な感情が一気に押し寄せ泣きそうになった、

彼はいったい何を考えているのだろう、可愛らしい寝顔をしているので少し悪戯してみたい。

横にある背もたれの無い適当なイスに腰をかけて、彼の手を握ってみる、握り返してくれたら嬉しいが、力ない人形のようだ。


「ひさしぶりに、手つないじゃったな」


前にデートをした時以来だろうか、すごく幸せな気持ちになったけど、すごく変態臭いので手を離して彼を見つめる、

今ならマスクをはずしてキスをしても、気づかれそうにも無いくらい、深い眠りについているみたいだ、

実際それをやったらドアの付近に立っている兄様が発狂しそうだが、今も気配消しが上手く出来ないほど動揺している。



―――そんな事をしてたりして翌日、面会が決まった。

面会室は薄暗く、部屋も面会側と相手側のスペースを含め7畳ほどしかない、

それなので当然置かれているものも少ない、脚を螺子で固定してある椅子がひとつあるだけだ、鋼鉄の枠に小さな強化アクリル板の窓、大きさは40cm四方ぐらいだろうか、

その窓の前に座る、そして4日ぶりにリアの姿を見て驚いた。


「本当にリアなのか?」


目の前に座っていた女の子は以前の雰囲気とはまるで別物だった、以前の彼女は明るく、おっとりとした印象を受ける、男受けしそうな……撤回しよう、

普通に可愛らしい女の子だったはずだ、だが何をそうさせたのか、今の彼女にはまるで生気が無い。


「先輩……こんにちわ」


弱弱しい声が窓に設置されたマイクを通してこちらのスピーカーに響く。


「どうした?!拷問でもされたか?」


「いえ、特に此処での生活は不自由していませんよ」


「本当なのですが兄様」


後ろに立っていた兄様に問いかけると、首を縦にふった。


「それよりも」


「ん?」


「彰君は……今どうしていますか?」


その言葉で、彼女の生気が無い理由が一瞬でわかった、そういえば目元が腫れている、ここに来る前にたくさんの涙を流したんだろう、

それもそうだ、あの戦闘以来彼女は彰が生きているか、死んでいるか、どんな状態なのか一切教えられていない、それがどれだけ不安だったのか、

手に取るようにわかった、同じ人を愛した人だからこそ、その痛みをわかってしまった。


「生きてはいる…」


そういった瞬間目に光が灯り、リアは笑った、それほどまでに彼女は彼を思っているのだ。

そう思うと、胸が痛む、数週間前から持っている嫉妬心だ、それまではこのような気持ちを持っていても勘違いだと思っていた、

兵器として育てられたのだから、人間らしい思いなど持つはずが無いと思っていた。


「それだけ、聞ければいいです」


また、嬉しそうな顔をする。


「……今度は私から質問したい」


「何ですか?」


「お前達第五世代は、何のために作られた」


「唐突ですね、先輩もおそらく事前に情報は見たはずだから知っているとは思いますが」


「ああ、人類の進歩のための新人類の製造か」


「そういう考えもあります」


「どういう事だ?」


リアは今度は優しい笑いではないふくむような笑いで、私を見た。


「此処では言えません、私の観測者はいなくなりましたが、ここでの会話は全て録音されていますから、今言えば、私は処分されてしまう」


「観測者とか良く理解できないが、それは世界の暗部に関わることなのか?」


「恐らくは……この件に関して一番詳しい事を知っている人がいます、それは」


リアはそこでいきなり言葉を止めて、大きく口だけで言葉の続きを声にせず喋った、

ゆっくり一文字一文字刻むようにレティ・ベネッタ、そう彼女は声に出さずに伝えた、その名前は覚えがある、生徒会で一度保護した紅い髪が特徴的な子である。

確かに聖ソフィア教会に狙われていた彼女が、その件に関わっている可能性は極めて高い。


「それと聞きたいんだが、今、リアは彰と付き合っているんだよな?」


リアは突然真面目な話しから、そんな話に切り替えられたので、面食らったような顔をしていた。


「文化祭の2日目に彰君に告白を受け入れてもらいました、それで……彰君から好きだって、言ってくれて、キスもしてくれました」


その時を思い出しているのか、嬉しそうな顔をしている、いつものような偽者臭い笑いではない。


「そうか……」


ああ、聞かなければよかった、嫉妬の炎が胸を焦がす、文化祭最後の日にあった雰囲気の意味が確信へと変わってしまった。


「だから、これ以上手を出さないで下さい、私は7年前から彰君を愛していたんです、これ以上私達の間を踏み荒らさないで」


リアが向けてきたのは怒り、殺意に満ちた目、体中に突き刺さりそうなほどに篭った声。

この私が、竜をも薙ぎ払い戦車をも叩き切るこの私が、たった一人の女の思いに一瞬恐怖という感情を感じた。

無言で席を立ち、私は逃げるように面会室を出た。




―――面会から一週間後、私は何度かレティ・ベネッタの所在を火土に頼み探したが、11日前から出席していないらしい、行き止ってしまった。

今日は洋ナシを買って彰のいる病室に入る、8日前私が目覚めてすぐ見た時と変わらない姿で寝ている、前より少し顔が白くなったかな。

彰が起きたら誰かそばにいたほうが良いだろう、それが私だったら、――ん?


「そうか、彰がこのまま起きなければ監視者の私は……」


ずっとそばにいられる、リアよりも、―――駄目だ、今の私はすごく嫌な女だ。

今のこの状況は偶然と少しの事故で起きた事なんだ、長続きはしない、してはいけない。


「彰、今どんな夢を見てるんだい?」


返事は無い、心電図の音だけがただ無情に返ってくる。


「付き合っているのは本当なのかい彰?」


彼はリアの事を好意を持っているのは知っていた、だから一度目の告白の時に私は断った、もちろんそれだけの理由では無い、

元々私が人間を愛するという事はしてはいけないのだ、私の本来の姿を見れば大抵の人間は避けていく、

だけど、彼はそんな私を受け入れてくれた、あの姿を見ても真っ直ぐに私を見ていてくれた。


「本当はリアに押されたんだろう、彰はそういう事に関しては弱いからな」


ああ、そうであってほしい、起きたらちゃんと聞いてみよう、リアの言葉を疑うわけでは無いが、

私だって告白したんだ、返事を聞くくらいの権利は持っていいはずだ。


「昨日はりんごだったからな、今日は梨を持ってきた、今剥いてやろう」


ナイフは横に添えつけられてある棚においてある、昨日はりんごを剥いたし、おとといはオレンジを剥いてみた、

コツを掴むと以外に楽しいもので、今度飾り切りにも挑戦してみようかと思う。


「早く答えて欲しいな、あんまり女を待たせるものじゃないぞ」


無言だった、何も答えてくれなかった、聞きたいのに。


「頼む……お前の声が聞きたいんだ……」


気が付くと涙を流していた、ここ最近不意に力を抜くとすぐに泣いてしまう、以前に比べ弱くなったのだろうか。

いや、人らしくなってきたのだろう、ただの兵器である私が彼と出会い感情を持ったんだ、

弱弱しくてもがんばっている彼をみて、いつも前向きな彼を見て、暖かで力強い言葉を聞いて。


「ごめんね、今日はもう帰る」


立ち上がって、切りかけの梨を皿に置いた、上着を羽織、病室を出ようとベットに背を向けた時だった。


「―――ぁ」


小さくだけど確かに彼の声が聞こえた、急いで駆け寄り彼の顔を見る。


「……りあ」


意識があるのかどうかは分からない、心電図に出ている脈拍もマナ回路の動向もまったく変わっていない、

否、そんな事はどうでもいい、

頭がぐちゃぐちゃになった、沸きあがるのは不と嫉妬の心、今確かに×××の名前を呼んだ。

ナイフがそばにあった、

ワタシなら一撃で音も無く痛みも無く、

明日はどんな果物を持ってこようか、

このまま目が覚めなければ、

暗殺は王廉一族の得意分野だ、

私だけのもの。


「……まりあ」


―――何を考えているんだ、私は。

というか卑怯じゃないか、あれだけ、私だけ先輩、先輩と呼んでたくせに、こういうときだけ名前で呼ぶのは卑怯だ。

顔が真っ赤になって少し熱っぽいので、もう帰ろう。





―――

暗い廃墟の中で一人考え事をしていた、あたりは荒れ果てていて、今座っているパイプ椅子は所々さび付いている。

建物の大きさは4階建てで、4階部分は壁と天井が無い、元ホテルだったのだろうかフロアは個室わけされていて、

一つ一つに仲間が勝手に住んでいる、電気もガスも水道も無い、大きな町から離れた忘れられたリゾート地だ。


「ゆき姉」


そう私を呼んだのは三十一だった、31と読めるがみとうはじめという名前だ、管理ナンバーは12、なので31にも13にも関わってはいない、

管理ナンバーとは、私の指揮している聖ソフィア教会を始めた時のの名前だ。

彼らには名前が無い、理由は第五世代というホムンクルス製造の実験体だからだそうだ。


「なぁに、私、今ちょっと考え事してるんだけど」


不機嫌そうに睨むとはじめはちょっとてれながら笑う、見た目美青年で笑うとカッコイイというか可愛い系の男の子だ、

金髪のクセっ毛を手ぐしで直しながら私を見る、年齢は佐藤彰と同じだが童顔のせいでかなり幼く見える。


「ごめんなさい、もしかして明日の強襲計画でも考えてた?」


「ええ、佐藤彰はなんとしてもこちらに引き入れないと」


「そこまで彼は計画に必要なのか?」


はじめとは違う声で疑問を投げかけられる、その声の主は赤羽士記というこれまた聖ソフィア教会所属の男だ。

特徴的なのが地面に足が付いていないところだ、言葉で言う浮世離れしてるとか、そういう意味ではなく、常に浮遊している。

原理は知らない、本人すら詳しいことは知らないらしい。

私はこの男が嫌いだ、銀髪の長い髪を男の癖に掻きなでたり、表情からもう自尊心が半端無いのだ。


「彰は覚醒すればお前達第五世代メンバーの全ての威力を持っても倒せない、つまり覚醒していない今、説得して仲間にすることで神を倒せる鍵になる」


「そもそもその第五世代の侵略兵器説は本当に正しいのか僕は疑っているんだけど」


「私の思想についていけないなら聖ソフィアをやめれば良いわ、他に貴方に行くところがあるならね」


「隊長殿、我々は貴殿に感謝はしているが、先日のビヨンド・ゼルガンディアを殺し損ねた件以来、我も少し疑っているのだが」


そういってまた暗い廃墟の影から現れたのは、身長150cmほどの金髪ショートカットの女の子、デリエス・イリアだ、赤いマントと羽付き帽子がチャーミングな女の子で、

この子が一番仲がいい、喋り方は独特だが、のんびり屋なのであまり細かい事を気にしない事が好感を持てる。


「イリア、この戦争に勝てれば貴方達第五世代は普通の人間として生きていける」


「わかっている、だからこそ我々は今まで貴殿についてきた」


イリアが鍵状の剣を抜く、私もそれに対して腕に氷の術式を刻んだ腕を前に出す。


「なら迷うことは無いでしょう?」


その間にはじめが両手を広げとめに入る。


「ほらほら皆もう寝よう、明日の相手は魔術師と法術師と騎士だ」


はじめが皆を部屋の奥に押し込む。

佐藤彰という駒さえ手に入れば、この聖ソフィアすら不必要になる、彼が持つシルバーレイドリック博士の技術を使えば。


夜が明けて、山を登る、こんな場所に作ったのは防衛のためだろう、登るだけでかなりの労力を消費し、さっきから所々に隠してある魔術トラップを壊して回っている、

そうやって2時間ほど登山を終えると、拓けた場所に出た、目に映るのは大きな学園校舎が3つ。


「さて、それでは皆、始めましょうか世界を平和にする戦争を」







―――いつまで続ければいいのだろうか、

お見舞いのフルーツも一周して梨に戻ってきたじゃないか、切り方も色々できるようになってしまった、

あの日から17日目だ、いつまで待っていればいのだろうか。


「ばーか、ばーか」


ほっぺたをつついてみるが、反応無し。

安らかに眠っている、ここ最近はここの病院と学園を行ったりきたりで意外と忙しかったりする、さぼって彰と一日中お喋り(喋ってるのは私だけだけど)

していたいのだが、生徒会の会長と書記が長期休みでは、学園の者達に示しが付かない、ただでさえ私は別件の戦場投下で休みかちなのに、

しかも最近は副会長のカナも休みがちらしい。


「流石に……疲れたな」


うとうとして、彰の寝ているベットに突っ伏して眠る。


「せん……ぱい……」


「んっ……?」


聞き覚えのある声で目が覚める。

そのまま起きると彰が目を開けて喋っていた、今度こそ寝言ではなく本当に。


「おはようございます」


いつもどおりの声で、優しい声で、いつもどおりの弱気な笑顔で。

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