10話「停滞日常の終わり・後」
久しぶりの投稿です、コメント下さった方ありがとうございます。
――文化祭3日目―――
3日目になると流石に見飽きてくる物だ、模擬店はすでに閉店セール並の値段になっている、あたりは二日目以上に賑わいを増し、やかましいくらいだ。
その中で一人異彩を放つ騎士科の三年生王廉真理亜は、2年生の教室を目指しすれ違う人々に指を指されたり、小声でヒソヒソ話をする人たちを横目に早足気味で歩いていた。
普通科2年C組の教室のドアを開け、一通り見回す。
「彰の姿が無い様だが、居場所を知ってるか?」
そう誰に向けるわけでもなく、むしろ全体に向かっていっているような通る声で問いかけた。
2年生の教室に3年生が来るのはめずらしく、それだけでも異様な状態なのだが、生徒会長である王廉真理亜がたった一人の男を訪ねてきたことに
加藤凛矢をはじめ2年C組の生徒達は驚く。
「あいつなら今日まだ見てないですけど、サボリじゃないですかね?」
ぎこちない丁寧口調になりつつ凛矢が答えると、それを聞いた真理亜は少し気を落としているように、眉を下げた。
「では、瀬戸口はいるか?」
「瀬戸口……ああリアちゃんね、詳しいことは知らないですけど昨日怪我で入院したらしくって、今日は休みですよ」
「兄か……いや、そんなはずは……」
真理亜は眼を閉じ頭を額を人差し指で支え、何か考えているような動作をする。
「あ、噂をすれば来ましたよ」
そういって凛矢は廊下の方へ人差し指をさした、真理亜がその長い深緑のポニーテールを振るように振り向くと、
そこに居たのは、眼鏡を外した彰と腕を組んで嬉しそうにしているリアだった、
彰の方はリアとは違い、照れくさそうにしている。
「あ、おはようございます真理亜先輩」
平然とし何も変わらない彰の言動に、真理亜は少し感情的になりそうになった、というのも二人の様子が昨日とは違う事が明らかだったからだ、
最近の自分自身の困惑を知りつつ、知られないように、悟られないように、いつもの平静を装い返事をゆっくりと返した。
「おはよう、それと瀬戸口2年、君は確か昨日医療搬送されたはずじゃないのか?」
「怪我はたいしたこと無かったので検査だけですぐに返してもらえました、今日は彰君の付き添いです」
(誰と戦ったかは言わないか……、昨日調べた第二グラウンドのマナの減り具合からして、まだ兄さまは行動していないようだな)
「すいません今日は先輩と回る約束でしたね」
「彰君先輩と何するんですか?」
リアが笑いながら彰の様子を伺う、笑っているが、どこと無く後ろに不のオーラが漂っているように見えた。
それどころか本当に魔力で出来た赤いオーラが漏れている、一般人が多い教室なので見える人間は少ないので問題ではないが。
「って聞いてますけど先輩何するんですか?」
リアは真理亜に朱色の瞳で睨みつける。
それをいつもの気高く凛とした表情で睨み返す。
「30分ほど君と話したい事がある、生徒会がらみだ、部外秘なので出来れば私たちだけで話したい」
「だ……そうだ、腕を解いてくれリア、眼鏡が無くても少しは歩けるよ」
真理亜は彰の顔を見て、何か納得したように一人で頷いた。
リアは名残惜しそうな顔をして、ゆっくりと腕を解いた、彰にはその表情はよく見えなかったが。
彰は真理亜の制服の裾をひっぱりしばらく歩き、一度昇降口で靴を履き替え、外へと出た、周りの視線が気になるが、
文化祭の雰囲気で二人の様子をあまり気にしている者はいなかった。
「ついたぞ」
そういわれ立ち止まった所を、目を凝らしてみてみると、そこは模擬店も何も配置されていない一昨日死闘を繰り広げた第二グラウンド、
そこにはレオンが作った銃痕も無く、再生術式が描かれている以外はいたって普通の学校のグラウンドだ。
「こんな所でいいんですか?」
「ああ、なるべく人目を避けたい」
人目を避けたいという言葉に、彰は少しだけ期待したが、真理亜に限ってそれは無いと一瞬で頭を切り替え、真理亜の方に振り向く。
「部外秘っていったいなんですか?」
「……あれは嘘だ」
「嘘?」
「彰、本当はこんなことのために約束をしたわけじゃないんだが、ちょっと事情が変わってね」
真理亜は腰に常に帯刀している刀の鞘を握り、地面にじりと右足を滑らせ抜刀の構えをする。
「どういう事ですか訳わからないですよ!?」
「昨日私の所に指令所が届いてね、そのターゲットが君とリアなんだよ」
真理亜がターゲットと呼ぶと言う事は殺戮や戦争や、戦闘がらみのこと、それを理解し解釈し、絶望した。
「どうして、やっぱり俺のもう片方の人格絡みですか?」
「そこまでは知らない、だが一度指令が下れば王廉家はそれを完全遂行する、だから――」
目を閉じ大きく一度息をすってゆっくりと吐いた後、綺麗でそして不気味なほど美しい瞳で彰を見つめる。
「――私と何処か遠くへ逃げよう」
(王廉家ということは、真理亜の家の人間全てと戦うという事だろう、勝率が0に近い勝負はいくらでもあったが、
今度の話では訳が違う、一人ですら戦況を一転させてしまうほどの力を持つ、王廉真理亜という存在、
それに似た力が数十、数百いるという事すらわかっている上、それが俺とリアを襲うってか、
完全にゲームオーバーじゃねーか)
真理亜は複雑そうな顔をしている、眉を寄せ、泣きそうな顔をしているのに口を一文字にして、
弱音を吐くのをとどめているかのようにも見える。
(当たり前か、たとえそれが自分の意思と反していても、自分の親や親戚を裏切る行為になりかねないのだから)
「そうだですね、じゃあリアも一緒に――」
彰は来た方向へ踵を返そうとすると、急に目の前の地面が音を立てて爆発したかのように吹き飛んだ。
「なっ……」
恐らく真理亜の技なのだろうが、剣が一度も見えなかった。
「残念ながら二人では逃げられない、今回指令を下されたのは私だけじゃない、今頃リアの方には私の兄が向かっていると思う」
「だったらなお更行きましょう先輩」
「兄は私よりも強い、行っても私たちが殺されるだけだぞ、リアが時間を稼いでくれている間に、
お前一人だけなら助けられる、お願いだ私と一緒に逃げてくれ」
彰はそれを聞いて怒りを覚える、いつもとの態度とはまったく違う彼女の態度、孤高で気高く誰にも触れられないような、
そんな近寄りがたい雰囲気さえ覚える、そんな彼女が今は悲観に満ちた目で彰に懇願しているのだ。
「俺は……俺は行きます、リアを助けに」
その言葉を聞いて、真理亜は両手で口元を押さえて、表情をみせまいと顔を下に向け、肩は小さく震えていて、
今にも泣き出しそうだった。
「そうか、やはり最後は元の鞘に納まるの……か」
真理亜は刀の柄から手を離し、体制を変え彰に突進し地面に押し倒す、馬乗りになった彼女の表情はいつも見ている憂いを帯びた瞳でもなく、先ほどの悲観した瞳でもない、
ただ、苦しそうに、悲しそうに彼女は笑っている。
「驚かないで聞いてほしい……私はお前を愛している、今までもずっと愛していた」
一番最初に向けられたのは刀では無く、真剣な告白だった。
「えっ?」
――
風は綺麗な音を立てる、周りを見渡すと変な形をした魔術科の校舎が見える、普通科校舎の屋上のようだ。
何故か記憶が飛び、さっきまで教室の前に居たはずなのにいつの間にか、屋上にあるベンチの上に横たわっていた、
頭を何度か振り、オレンジ色の髪を手櫛でとかす。
「おはよう、調子はどうだい?」
「貴方は誰?」
屋上にある落下防止用のフェンスに寄りかかっていたのは、銀髪を適当に短く切っていて、どこか懐かしささえ漂う男だった、
彼の狐目は自分を捉えては居ない、見ているのは下界、校庭にいる人影。
「ボクは誰かいって?、そうだねボクもわからないんだけど、まぁ君にとってはどうでも良いことだろう、どうでもよくなることだし」
男は足元にあった長細い黒の皮鞄をリアに適当に投げ渡すと、一度不敵に笑みを浮かべた。
「王廉霧夜、それがボクの名前だ、君の事は知っているから名乗らなくても良いよ、瀬戸口リア、いや、
第五世代のアーキタイプナンバー16番リシュアと言った方がいいのかな?」
警戒しつつもリアは恐る恐る、黒い鞄を開ける、そこに入っていたのは一本の日本刀。
「天上天剣天剣……」
「正確にはそれは天音天上天下天剣だったものだがね、王廉がかつて保管していて、その後行方不明になっていた魔剣だ、それを何故君が所持し、
あまつさえ使用しているのか、教えてくれないかね?」
皮の鞄から刀を取り出し、黒く淡い色を放つ鞘から抜く、刀身は見惚れてしまうほどの銀色、その銀色に負けないほど美しく綺麗な銀色へと、
オレンジ色の髪を染めて、侵食して、染色していく。
制服が黒い炎に焼けつぶれ、黒いスーツへと変化していく、背中には神を冒涜するかのような赤い逆十字。
「断るわ、貴方も、私達の幸せな日常を壊しに来たの?」
瞳は銀色へと変わり、その鋭い眼光で相手を殺す勢いだった。
「ボクはまだ刀を抜いてすらいないのに、せっかちだなぁ……」
どこまでも余裕、気迫に押されてすらなく、感情の温度差を気にするわけでもなく、ただ狐目で笑う。
「本当に王廉と名の付く物はは厄病神ばかりだ」
そうリアは言い捨てた
―――
頭の中がぶち壊れそうだった、いっそ壊れて真っ白になれば楽かもしれない、
ずっと憧れて、何度も欲しかった返事が、唐突に耳を通り抜けたから。
「おかしいじゃないですか、どうして、どうして、今更そんな事言うんですか、今までずっと先輩は俺の告白を断ってたのに」
悲しそうな笑顔が消え、力なく先輩の眉が内へゆがんだ、悲しそうではなく、完全に悲痛な表情。
真理亜はゆっくりと馬乗りになった体制から立ち上がりよろよろと、後ずさりするように彰と距離を置いた。
「……もう我慢できないんだ、最初からリアの思いも気づいてた、だが今朝の彰達を見て、
私は恐ろしいほど嫉妬の念を抱いていた、今までは我慢してこれたのに」
自分の震える体を、押さえつけるように自分で自分を抱え込んだ真理亜は、今までに無いほどに弱弱しく見える。
「私は、怖かったんだ、私を追えばお前は必ず傷つく事になる、それが怖かった、だから突き放した」
「俺は先輩に護られなくても自分を護れる力は手に入れました」
真理亜に匹敵するほどの異能、異端な能力、銀の指輪と銀の銃の力を。
「そうじゃない、お前はまだ私の本当の姿をみていない」
「俺はこの数ヶ月間ちゃんと先輩を見てました、等身大の一人の女の子であるところもちゃんと―――」
「そうじゃないんだ!」
裏返った声で彼女は叫んだ、その音は誰もいない第二グラウンドに響き反響し、数秒の空白の時間が産まれる。
その時間で真理亜の表情はいつもの孤高の表情に戻る、何も期待していないようなそんな瞳で彰を見つめた。
「じゃあ、今から見せる私の姿を見て、まだ私を化け物扱いしないか?」
そういうと常に腰に下げている太く長い騎士剣を鞘ごとはずしグラウンドの隅へとほうり投げた。
彼女の肉体が疼き蠢きビシビシとその形状を変えていく、彰の様な部分的な反転変化ではなく、完全な変容である、
彼女の綺麗な顔は、血の気を無くし真珠のような不自然な白へ、目の周りは歌舞伎のように赤く変色し、耳は尖り頭の半分ほどの長さになり、
制服を突き破り背中から白い羽をミシミシと音を立てて生やし、八重歯が吸血鬼のように伸び、額を突き破りひり出されたのは二本の赤い角。
どこからどうみても、誰がどう見ようが、
そこには化け物がいた。
「大丈夫ですよ、俺は何があろうと先輩を受け止める……」
頭の中にイメージするは銀、崇拝するは自己、叩きだす型は垂直にして直角のフォルム、描くにして船尾のような美しい弧、
ギリシャ数字で書かれた8番の指輪をはめた右手薬指で光輝く十字を描き、その中心から引き抜く。
銀色に染まった最強の王の牙。
「来い!88番リベラ!」
―――
最初に剣を振り落としたのはリアだった、だがそれをはなから読んでいたのか、自分の腰に帯刀している刀を柄に近い部分だけを鞘から抜き、
その部分の峰で器用に受け止める。
「見えすぎだ、そしてそれは剣術とも呼べない一撃だね」
「まぁ、初撃はただの小手調べよ、術式は完成したしいいわ」
リアはそう笑い、剣の切っ先で地面にいつの間にか描かれていた術式を完成させ、次の攻撃へと移る、描いた術式の効果は。
「加速!」
昨日自分を死のぎりぎりまで追いやった、単純だがメモリーブレイカーが使っていた彼女の最強の術式。
音速へと変わるその剣の速度に、霧夜はまだ笑っていた。
「だから、見えすぎだと言ってるんだ」
加速し突撃したはずのリアの頭を右手で掴み、さっきまでいたベンチに投げつける、
落下した衝撃に耐えられずプラスチックと鉄パイプで作られたベンチは音を立てて壊れた。
「あぐがぁ……ど……して」
打ち付けられた衝撃で肺に空気が上手く入らなくて、酷く醜い声でそんなことを口にしてしまった。
「仮にもボクは暗殺に特化した人間だ、事前に君の下調べ無しに戦いを挑む訳無いだろう、ちなみに君の弱点は剣を持っていないと術式を発動できないんだよね、
その切っ先に魔力を流していわば術式短剣の役割をさせてる」
「それがわかってて、最初に私に私の刀を返したのは何のつもり?」
「ボクは優しいから、ちゃんと全力で戦って後腐れないような殺しがしたいんだよ」
曲がった優しさ、彼にとってはそれが優しさ、
全力を出しても勝てない事を味あわせて、精神を殺してから肉体を殺す。
リアは傷を治しながら立ち上がり、何事も無かったように刀を一度鞘に納め、低く腰を落とし鞘を後ろに回し柄に手を置いて、深呼吸する、
その姿はかつて目の前で見た、一人の女騎士の必殺の一撃。
「空を断て――」
「光を放て――」
「「残光刹那!」」
爆音と共に音速の剣の衝撃波が屋上に吹き荒れた、だがほぼ同時に出した同じ技には明らかに精錬の差が出てしまう、
それゆえにリアには分が悪い、その証拠にリアの胸と腹と太股の肉を防ぎきれなかった剣が切り裂いた。
「魔術でいくら強化した所で、残光刹那どうしでは勝ち目が無いと思うけどなぁ、だってこれボクが作った剣術だし」
傷だらけになった体を引きずり起こし、回復の術式を刀の先で地面を削り組み描く、その間約10秒、短いように見えて長いこの時間の間、それでも霧夜は自分から攻撃をしようとはせず、
ただ狐目で笑って、時折ちらちらと第二グラウンドの方を向いていた。
(考えろ……弱点を!私の得意分野じゃないか、私の能力は全ての魔術を使う魔術、全ての物には完全は無く、必ずその緩みやほころびがある、
王廉の剣術のほころびはなんだ?!)
「早く本気だしてくれないと困るなぁ、それともその程度が第五世代の実力かい?それに早くしないと妹が君の恋人を殺してしまうよ?」
先ほどからちらちらとグラウンドの方を見ている理由、それをリアはようやくにして気づいた。
「彰君と……あれは何?」
眼下に移るその戦闘あまりにも戦闘といえない一方的な攻防。
その中心に居る一人は見慣れた少年だったが、もう一人はまるで見当の付かない異質な存在、
その背中から生える羽の様なものは、神でも悪魔でもないまるで別物の存在だった。
「ふふっ、フルパワーの妹は久しぶりに見るなぁ、私も一度本気で戦いあいたいものだ」
「あれが真理亜の本性?」
狐目の男は背中に背負っている日本刀を抜き出し、その紅い刃をリアに向けた。
「さて、妹もつめみたいだし、そろそろボクもフルパワーでいこうか」
―――
抜き出された新たなシルバーレイドは銃身98cmほどのアサルトライフルの形状をしていて、アンダーレイルにはレーザーポインターが付属され、
そこから緑色の光の線が真理亜を差した、そしてこの銃の特徴といえば、召喚すると同時に4つの空中浮遊型独立ロボットが組まれ、
レーザーポイントの位置に向けて照準をあわせながら、対象の周りを浮遊している所だ。
「聞け彰、私の生まれだがな、人間に遠くお前に近い存在だそうだ」
真理亜の羽が一度羽ばたき、抜け落ちた羽が地面に付く前に彰に向かい飛んでいく、それを彰の目の前で空中に浮いているロボットがその小型の金属の口をスライドさせて開き、
高エネルギーの熱レーザーで焼き落とす。
「王廉の女は万能の器とされ、15の成人の儀の後、様々な亜種と交配させられる」
「交配って、それ生物学的に不可能ですよね、いやそれ以前にそんなのおかしくないですか?」
普通、別種の動物同士の交配は遺伝子の配列と本数が違うため不可能である。
「それがな、私たち王廉の女の体はそれが出来てしまうんだ、卵細胞が勝手に変換し置き換え魔族の子だろうが神族の子だろうが産めてしまうのだ」
真理亜は背中から生えた羽で刃を作り刀の切っ先を彰に向けた、それと同時に刃の束が降り注ぐ、
マシンガンの玉をばら撒かれたように無数の穴が地面に開き、当然彰の体にも何本かは突き刺さる、いくら4つの補助があるといっても、
200、300を落としきれない、それどころか反撃しようとした弾丸ですら真理亜の直接的な刀の線で切られていた。
「私達王廉は産まれた時、女の場合どんな種と交わろうが人間の姿をして産まれる」
真理亜に向かい、できるだけ急所を外しマシンガンのセレクタをセミオートに切り替え、弾丸を放つ、だが王廉の周りに浮遊する羽の欠片たちがその弾丸の進行方向を曲げる。
「だが私が母の胎から出てきた時にこの亜種の姿をしていたそうだ」
「先輩何を言ってるんですか、俺にはさっぱり話がつかめない」
「聞け、言葉を交わすのはもしかしたらこれが最後になるかもしれない、だから今のうちに断片だけでも全てを話しておこう」
真理亜が刀を振り上げる、残光刹那ほどの派手さは無いが一閃の蒼い剣撃が音もなく地面を切断する。
もちろん避けなければ彰の肉体は綺麗に二つに分かれてしまう、だが今まで見てきた真理亜の剣筋など彰からすればトレーニングの延長でしかない、
簡単に数センチ横に体をそらすだけで避けられる、今までのトレーニングですらもはや今日のために真理亜が行っていたのかもしれない。
「俺は、またいつものように生徒会室で話をしたい、それでもっと先輩を……真理亜を知りたい、だから最後なんて言わないでください」
お互いがお互いを思い、想い、愛しているのにそれでもお互いへ殺しの一撃を断続的に叩き込む。
「ならば教えてやる、王廉家伝統の15の成人の儀の時、私は身の丈4倍はある龍との交配を迫られた、あの時は恐怖で震えたものだ、だが私はこの剣に選ばれ、拒絶し、王廉の異端者としてその龍を65個のパーツにしてやったよ」
真理亜に距離を詰められないよう後ろに後退しながら、左手でマシンガンを撃ち右手で十字を切る、引き出すのは22番のトゥートゥーと呼ばれる銃、装弾数は少な目の4発、
形状はオートマチック式の大型のハンドマグナム、弾丸の弾頭部分には麻痺薬が入っており、先は注射針のようになっている。
「こんな―――」
弾丸が放たれるが、真理亜の残光刹那の前に兵器など無意味だった、爆風と刃の衝撃で弾道が曲がり、
頼みであるレーザーすら器用に避ける。
「女の事を―――」
一度地面に刃を置き、1回転し振りぬける、すると羽がシンクロし、
回転に合わせ360度に刃化した羽があたりに散らばる、周りに生えていた木々が次々に倒れていく中、
倒れまいと羽刃を、3点バーストに切り替え、マシンガンで撃ち落とす。
「まだ知りたいと思うか!」
「苦い経験なら俺にもありますよ、つらい経験もいいじゃないですか、笑ってなかった事にしましょう、そういう物語がどこかであった事にしてしまうのでもいい」
マシンガンの残弾数が減った所でハンドガンへ変え撃ち放つ、腕輪から転送した次のマガジンを足で蹴り上げ、マシンガンのマガジンストッパーを押し使い切ったマガジンを投げ捨て、
それを真理亜に向かって蹴り上げ、真理亜が切り落とすロスを利用し、使い切ったハンドガンを空中へ捨て次のマガジンをセットし、スライドを引き初期装填をかけ、真理亜に銃口を向けなおす、この間約3秒ハーフ。
「やはり、君は楽しいな彰、もう少し、あと少しだけ戦っていたくなってしまうよ」
羽を大きく広げ刀を構え直す、残光刹那とは違い剣道の中断構え、だが剣の持ちは峰を下にした逆刃。
「一角鬼突!」
真理亜はそのままの姿勢で刀を突きを出す、残光刹那と違い乱舞する衝撃波を避けるわけではない、
突きというのは本来剣道ではほぼ使われない技である、
なぜ使われないか、その理由の一つとして命中範囲の関係だ、
点と線では線の方が当たりやすいからだ、だが、それはもちろん剣道での話だ、
彼女の剣術は騎士道派生の剣道であり、型や攻撃武装に何の意味合いも無い、
何より彼女は人間離れした力を持っている、ゆえにその一撃は地面を貫きグレネードの爆発のような衝撃で彰を簡単に上空へと吹き飛ばす。
「ダメージは少ないな、足がぶっ壊れたくらいだ、まだ―――」
体制を立て直し、下に待ち構えている真理亜に向けて視線を戻すが、そこには白い羽だけが落ちていた。
「―――いや、終わりだ彰」
翼を持った彼女には、もはや陸だろうが空だろうが意味を持たない、
自己の翼で彰に追いついた真理亜はただなんの感情も表情も浮かべず、右手を握り締め、彰の頭に振り落とした。
鈍い音と共に落下速度が加速する。
そのまま地面に叩きつけられ、落下地点の周りの土を掘り返すほどの強い衝撃が彰の全身に響き渡る。
「言葉も出ないだろ、肺に空気がいかないはずだ、内蔵も無事ではないな」
彰が落ちた地点に歩み寄る、風で土煙が払われゆっくりと視界が戻る。
「まぁ、そうだろうな、そうなってしまうよな、彰の意識レベルを低下されると緊急モードに切り替わるんだよな、レオン」
「へへぁああははははは……」
そこにはボロボロになった銀色の髪の男が不気味に微笑んでいた。
「甘えだな、まだお前は彰に救われようとしてんのか、くだらねぇ」
「何の話だ」
「手加減なんてしねぇで今ので殺せばよかったんだ、俺が出てくる前に」
「殺す気だったが?」
「嘘だな、大嘘だ、だったら何故俺を殴り落とした、切り殺せば再生なんか効かなくなる、さっきもそうだ、
あの突きあれを残光刹那のレベルの速さで放てばリーチ、威力ともに即死レベルだ、
それとも自分に対して言い訳が欲しかったか?「レオンに代わったから仕方なく殺した」っていう理由付けが」
「今回の任務は貴様の殺害だが、もう一つ、できれば生きて捕まえろと神族側から指令が出てるそれだけだ」
「そうかよ、まぁいい、どうせやる事は変わらないんだ」
彰の持っていた銃で逆十字を切る、裏切るは他者、導くは自己、開眼し全てを見透かす。
黒い鉄に熱を込め紅く染め上げる、侵食し、染色し、全て変革する。
現れたのは黒い銃、彰の銃の上から塗り上げるように形を変え、レオンはそのまま真理亜に銃を向ける。
「攻撃力増し増しって所だな。真理亜最後に聞いとくが、あの屋上から見下してる
すかした野郎もぶっ殺して構わないんだな?」
「兄様は私より強い、私にすら叶わぬお前にどうこうできる相手ではないぞ」
「そうか」
その言葉で最後だった、お互いが思いをぶつけ合い、牙を向け合った必死の決闘は、
真理亜の一撃で終幕を下ろす。
「残剣符獄!」
そう言い放ち真理亜は地面に剣を突き立てた、今まで宙に舞っていた羽が形を変え、刃となり彰を襲う、
もちろんその程度の攻撃ならばレオンも予想し、一つ残らず打ち落とせるはずだった、だが不可能だとレオンはわかってしまった、
何故なら、その全ての羽が真理亜の最高剣術である残光刹那の衝撃波を放っていたからだ。
レオンが感じる音は消え、視界も失せ、感覚は消滅した。
「やはり人間の紛い物程度では人間を超越した人間に追いつけなかったか、期待はしたんだけどね」
真理亜との戦いで地面が盛り上がり、静かになった第二グラウンドに王廉霧夜が気絶したリアを脇に抱えゆっくりと歩いてきた。
ゆっくりと、長く息を吐くと真理亜は羽をとじ投げ捨てた騎士剣を拾い上げる。
「行こうか真理亜、あんまり無茶するから人払いの結界ごと吹き飛ばしちゃったし」
「ああ……」
刀を納め別れのように少し悲しい気持ちでグラウンドを見渡す、
壊れたグラウンドは元の姿に戻ろうと光輝き、
青白い魔方陣がゆっくりと水が染込むようにじわりじわりと、再生構築式を描く。
だが、目の前の視界にはひとつ矛盾点があった。
「彰はどこにいる?」
霧夜は真理亜の声に気づきすぐさま、腰に下がっていた太刀を抜いた、
それと同時か、あるいはそれよりも早かったか、感知できない速度で圧縮された空気とともに霧夜に重い衝撃が走る。
「なんだ貴様、私の目で追いつけないだと……」
「ヴォオォオォオオオオ!! 」
体の回りは黒い渦の魔力にまみれ、手は金属の爪が生えており、腕にガトリングガンのような機械部品が組み込まれ、脚には大きな爪のような装甲と
頭には動物の頭部のようなヘルムで覆い隠され、その隙間から覗く目は銀ではなく、黄昏時の太陽のような金色。
それが一瞬のうちに霧夜に近づき、蹴りか拳を入れた、
当の霧夜にすらその攻撃がなんだったのかすらわからない、
なぜなら霧夜はすでに、ものの2秒前の姿ではなく、両腕と両足に獣のような爪あとを無数に残され、地面に叩き伏せられていたからだ、
そして真理亜は見てしまった、目を合わせてしまった、自分が普通でいられた唯一の良心、
最後の望み、それが真理亜を見て不気味に微笑んだ、
彼女の眼に映る彼は人ではなく、
―――ただの獣だった。