0話「模擬戦」
朝起きてテレビのニュースをつければ紛争地の話題を3回は聞く。
そこで使われている武器は銃だけじゃなく、杖はもちろんの事、どうやって術式を作るのか
まったくわからないスプーン、マッチなどで戦う人もいる。
人が死ななければオリンピック並に楽しい光景かもしれない。
この世界で地球は中立な立場をとり、もう二つの星、魔界と神界とは大きな戦争をせずに済んでいる。
もともとの戦争がおきた発端は、二つの星の領地争いからだといわれている。
神界は地球と似たような気候で住みやすい環境だが、魔界はそれに対し星全体の平均温度が低く、農作物がそだちにくいので、食物はあまり豊富ではない、そのせいで魔族サイドはやっきになって領地戦争に力を入れている。なぜ魔界が地球を襲わないというと、
地球には核兵器を作る機械技術力があるからだ。いくら魔術を持ち入っても核砲弾などの広範囲兵器に対処できるほどの力はない。神界は魔術を昇華させ独自の魔術式、法術を生み出すことに成功し、戦況を有利に進めているらしい(だからって自分に何か関係あることではない、
自分はただの高校生だし。まぁ、俺が通ってる学園は「普通」でもないんだが。
「彰くーん、起きてますか?」
彰がそんな事を考えてテレビを見ていると、彰の家のリビングに入ってきたのは幼馴染の瀬戸口リアである。セミロングの髪に小さく紅いリボンを両方に付けている髪形が特徴的だ。とてとてという擬音が似合いそうな軽やかな足取りで彰の目の前までくると、
ニッコリと微笑み。
「おはようございます彰君、学校、遅刻しちゃいますよ?」
「別にいいんだぞ毎朝うちに来なくても」
いそいそとテレビを消し鞄を持ち、玄関で靴に履き替えると
玄関に出て鍵を閉める、
当然その間にもニコニコしながらリアは後ろを
細い足をとてとてさせながら付いてくる。
「だめですよぉ、私は彰くんの両親に『息子を頼みますよ』って言われてるんですから」
(そんな挨拶程度の言葉を律儀に実行しなくてもいいんだけどねぇ)
そう思いながらも彰が口に出さないのはただ単に、
リアが毎日家に来るのは申し訳ないとは思いつつも別に嫌な気はしないからである。世間話をリアとしながら通学路を歩きバス亭に付きしばらく待つ事に、バス停と言ってもロープウェイなのだが(正確にはホームなどの方が正しい。)
なぜそんな山限定の乗り物に乗るかというと、学園にいくのが
その山限定のどこか外国で見たような赤塗りに黄色で、洋テーブルのわきに描いて有りそうな模様のロープウェイに乗らなければいけない所にあるからだ。
他の生徒もそこそこ集まってきた。
「おすっ、今日も夫婦で登校か?」
後ろから背中を叩いてきたやつは加藤 凛矢
小、中、高との腐れ縁でまぁ何かと気兼ねなく話せる悪友だ、
髪は染めていないもののオールバックにしているため少し不良っぽい。
「そ、そんな私と彰くんの関係はそんなんじゃないですー」
と、わたわたして焦っているリンを眺めて加藤は楽しんでいる。
そんないつもの日常を満喫しながらロープウェイに揺られること10分、そこから桜並木が生い茂るレンガ歩道を歩いて3分、
山肌をザックリと削りとって作ったでかでかとした学園に付く。
校舎はどこぞの有名建築家が作った少しバランスの悪そうな校舎が二つ、
もう一つはごく普通のどこにでもありそうな長方形の形をした校舎である。
「下駄箱は……と確かここだよな」
確かめるように自分の出席番号が付いた下駄箱を開け上履きに履き替える、
季節は今は春、学校で春といえば入学式のシーズンである。
佐藤彰は新入生ではなく2年生なので、
ワクワクしながら新しい生活がスタートするという気分ではなく。
次のクラスは担任が優しくて不良がいなければいいな、
などと下らないことを考えながら、下駄箱すぐ脇にある掲示板に貼り付けてあった
クラス分けのでかい方眼紙に目を通した。
「2−Cか……お、リアと一緒だ」
「わぁ、また一緒のクラスでよかったですね」
ニコニコとうれしそうにしているリアに相づちを打ち、
それだけ確かめると校舎の階段を登り新しいクラスに恐る恐る入る。綺麗に整頓された席にみしった顔もいればこいつほんとに
1年前もこの学校にいたのかと思うくらい知らないやつもいた。
残念なことに腐れ縁の加藤とも一緒で、しかも加藤はさっそくナンパをはじめた。
(まぁ、100%失敗するんだろうけど)
彰はとりあえず席に付き担任が来るまで、お気に入りの魔術書を読んで暇を潰していた。
チャイムが鳴り、いきなり教室のドアを適当に足で開けてクラスの担任であろう先生が入ってきた。
「はーい、静かにしろー」
緑色に紅いラインが入って、胸元には、何か見たことあるロゴが入っている
ジャージを着た体育教師が、出席簿をとりはじめた。
「おし、全員名前覚えたなー自己紹介終わりー」何を言い出すのか、この教師には名前を呼ばれて返事をするだけで自己紹介になるらしい。
「先生の名前はいちいち紹介するまでもないでしょ、どーせ
「先生」で呼ぶだけだろうし」
「でも、やっぱりこういうのはクラス変えしたときの恒例の楽しみであって……」
加藤はこういうときだけはちゃんと発言するのだが。
「よーし、じゃあまずクラス委員から決めてくぞー」
男性教師はまったく生徒の話を聞かず、気だるそうにチョークで
クラス委員とか体育委員とか書き始め勝手にクラスの役職決めを始めた。
まぁ、誰しもこの楽しい学生生活の中で1秒でも無駄に時間を使うのはいやなのだろう、
これもクラス変え時恒例の誰も手を上げず、ただ時間が流れていき、随分と暗い雰囲気になった。
「あの、俺、生徒会委員やります」
彰は軽く手を挙げ立候補した、イケニエになった気分だが、この際気にしないでおこう。この学校の生徒会委員は、クラスに一人という珍しい形をとっている、そのため生徒会委員選挙などはなく立候補したらほぼ即決である。
「おお、そうか……ほかは?」
流れで誰かが手を上げて、彰のようにクラス委員や、人気のない体育委員などに
立候補するのを教師が促すが、誰もいないので。
「よーし、めんどくさいからクジ引きで」
こうなることを予想していたのか、あらかじめ教卓の下においてあった、
クジ引きBOXを取り出し、生徒に引かせた。
結果は散々なものだが、誰も文句をいえなかった。
放課後
と言っても平常時のように夕方なわけではなく、午前授業で終わりなので
まだ昼すぎだ、佐藤彰は瀬戸口リアと一緒に職員室に生徒会の書類を出しに行った。
リアはただ付いてきただけだが。
「生徒会室にも一回寄って、生徒会長にも挨拶しとこうかな」
次期生徒会長はかなりの生徒人気を誇り、学園一の美人とされている先輩だったので、
ここで仲良くなっておいても、別に損はないだろうとか彰は考えていた。
職員室から10分くらい歩いた所に生徒会室はある、
何故そんなに時間がかかるかというと、主人公が通う私立セントシルビア学園は
「魔術」
「法術」
「騎士」
「普通」、
と四つの科がそれぞれの校舎が合体している形で立っているので
魔術科校舎側にある生徒会室に行くのにも普通の学校より時間がかかるのである。
生徒会室の前で少し身だしなみを気にしつつノックを
すると「どうぞ」と落ち着いた声で返事が返ってきた。中に入るとそこは会議室くらいの部屋の広さがあり、部屋の隅に設置された、灰色の長ロッカーの上にダンボールが積み重なっていて、
長テーブルにずらりと並んだ椅子の一つに、ポツリと女の子が座っていた。
「何か御用ですか?」
ずいぶんと冷静に金髪ツインテールの子が鋭い眼光で彰を見る。
「あの、俺生徒会委員になることになりましたので・・・・・・生徒会長に挨拶を」
「真理亞ならただいま第二グラウンドで自主トレーニング中ですわ、それに生徒会の集まりは明日からですわよ?」
なんか聞きなれない今時めずらしいお嬢様言葉に、そうですかと相づちを打ち、
生徒会室を後にし第二グラウンドに向かった。
ほとんどの生徒が帰っており、グラウンドからは運動部の走りこみの掛け声だけが聞こえる。
「王廉真理亞……ですか」
「リア、知ってるのか?」
「ええ、私たちセントシルビア生は主に戦闘スキルをあげ軍の第一線で働く事を主に教育カリキュラムが構成されていますよね?」
「ああ、それが売りで入ったんだ」
「王廉家はそのカリキュラムを作り、この学園の創立に資金を出した名家ですよ?」
そんな事を喋っていると第2グラウンドについた。
魔術を習う魔術科のグラウンドは、でかでかと床に難しい字で
魔方陣が描かれている、ほかにはないグラウンドだ。その真ん中で剣を振る生徒が一人、
右に西洋の幅広の両手剣、左に日本刀という騎士道と剣道を混ぜ合わせたような
特殊な剣術に、彰はしばし見とれていた。
足を止めて見ていたら彼女の方から話しかけてきた。
「何か?」
深緑のポニーテールをフワリと舞わせながら彼女は振り向いた。
「王廉先輩ですか?俺、明日から生徒会所属することになりました佐藤彰です」
「……ふっ、書記を誰にしようか迷っていたところだ、調度いい君にすることにしよう」
「へ?……でも俺そんな字綺麗じゃないっすよ?」
真理亞は鞘に剣を収め彰に近寄ってくる。
「君ぐらいだよ私に挨拶をしてくるおかしなやつは」
少しはにかんだような笑顔に彰は意識を刈り取られた、その笑顔をみて学園人気ナンバーワンは伊達じゃないなと思う。
「ふむ、折角だ君もトレーニングにつきあいたまえ」
そういうと真理亜は隅にかけてあった修練刀を彰に投げ渡す。
「リア……あの……俺、いいのか?」
待たせてるのも悪いなと後ろにいるリアに気を配る。
「別にいいですよ、彰くんの好きにすれば」
笑っているが目元をひくつかせて怒っているのがわかる。
「そうか……では最初は軽く素振りでもしようか」
そう言われてまったく振ったことのない刀を、テレビで見た
剣筋を見よう見まねで振ってみる。
「な……君……」
「え……すいません形もなんにもしらないんで」
「まったく、才能無いな……まるで子供のチャンバラ遊びだ」
真理亜はため息をついて剣を奪い返す。
「まぁ、見ていろ」
真理亜は二刀の刀の柄に手を置き静かに深呼吸した、彰はとばっちりを食わないように3歩ほど下がる。
「王廉流、奥義残光刹那」
一瞬 ほんとに刀を抜いたかわからなかったくらいの一瞬に、
彼女は5つ地面に切れ込みを入れた。
切れたところから地面が元に戻っていく。(このグラウンドに描いてある魔方陣の効力は
「再生」と
「緩和」)
やってみろとまた剣を渡されたが一向に上手くならず、日が沈みはじめてきたので片付けて帰ることにした。
「付き合ってくれたお礼に何かおごってやろう」
二刀の剣を黒い布に包み、赤い帯で縛り背中にかける。
リアと相談した後にカフェテリアへ行くことになったが、
行きも帰りもあのロープウェイに乗らないといけないのでしばらく待つことになる。
「で、気になっていたのだがその隣の子は彼女か何かか?」
ふと真理亜が暇潰しに彰に質問をした。
「……ふぇ?い、いや違います私はただの幼馴染ですよ?」
顔を真っ赤にしてワタワタと慌てているリアを見るのは今日は2回目だ。
「よく、言われるんですけどね、別にそういう関係じゃなくて、もう10年も家族ぐるみで付き合ってるんで、彼女というよりは妹みたいな関係ですよ」
そうですよね……と落ち込んだ顔をしてリアはその後街に下りるまで、無言になりずっと彰の手を握っていた。
その後、男一人で入るにはかなり勇気がいる駅前の洒落たカフェテリアで、軽食を頼みこれからの生徒会活動のことを聞いた、なんでも生徒会委員が異様に多いのは、生徒会の中の風紀委員と衛生委員が軍学校なので、かなりの人数が必要なのだそうだ。
「生徒会委員は紛争地域にいくこともあるぞ?」
「え、そうなんですか」
ぎょっとおどろいて、手に持っていたコーヒーを2、3滴落とす。それもそうだ、ほんの内申点を稼ぐ気で立候補した生徒会委員で
死地に向かうことになってはたまらない。
「安心しろ、君達みたいな普通科の生徒は第一線に立つ事はないから」
@
何度も、何度も、見た、同じ夢、記憶が消える前の記憶。
繰り返される1シーン、自分の手に握られている何か、ぼやけて見えない、
だが、リアルにその場の匂いはわかる血と何かが焦げる匂い、
だんだんと酸素が薄くなり意識が殺がれていく。
だが、記憶の中の自分は歩みを止めない、殺す、殺す。
消去、消去、消去。
べちゃべちゃに汚れた靴。
泥なのか血なのかわからない。
おそらく両方だろう。わからない、今、自分が何をしていたのか、
わからない、今、自分が何をしようとしていたのか、
わからない、これから何処へ行けばいいのか。 断絶
「だいじょぶですか?」
冷たい感触が額に感じる、そこで夢は途切れた。
「ああ……悪い寝坊した……」
白いレースカーテンがひらひらゆれている、
冷たい感触は何なのか横に意識をやると
ベットのそばで心配そうにリアが手を伸ばしていた。
「いえ……今日は、早く来たい気分でしたから、まだゆっくり朝食食べれますよ?」
ニッコリと微笑むリアをみて落ち着いた彰は体を起こし、
パジャマから制服に着替えるため、ベットから転げるように起きる、
時計を一度確認するが、本当にあせる必要のない時間だ。
「ああ……腕痛い……」
昨日の素振りで筋肉痛になったのか、びしびしと体中に電気が走る、
眠気を覚ますために洗面所で顔を洗うと
「ん?」
一瞬。自分の髪の色が気のせいだろう、
光の加減だろう、と思いつつも銀色になっていた、
すぐに水に墨を溶かすようにもとの日本人らしい黒い髪に戻る。
「気のせいだ……俺は……?」
呆けた顔をした鏡に映った自分に
俺はなんだと自問自答する、自分が吐いた言葉すら不思議に感じる。
「どうしたんですか?」
タオルを抱えて心配そうに見ているリアを見て、
なんでもないと、つくり笑顔を見せてみた。
眼鏡をかけてもう一度鏡をみるが、どこもおかしいところはない、
ゆっくりと朝食を取り、
いつものように家に鍵をかけロープウェイ乗り場へ行く。
ロープウェイのホームはまだ生徒が一人もいなかったが、遠くからでも見えるよく目立つ大剣を腰に下げた先輩が待っていた。
「彰、おはよう」
「え?」
待っててくれたんですか、なんて言葉を吐きそうになったが、腕に付いた腕章に
「生徒会長」という文字を見て飲み込んだ。
すぐに、そんな下心を恥じながらもう一度、真理亞を見た、
見ればなんだかイライラしているようで、腕を組みながら、
左足の踵で地面を一定のリズムで叩いている。
「風起委員の手伝いですか?」
「ああ、もうすぐ風紀委員が来るんだがな来……たか」
ふい、と王廉は屋根の上に目線を向ける、
王廉に釣られ彰も上をみると、ロープウェイのホームの雨よけ用の屋根に
だん、と音がして屋根から騎士科の生徒が飛び降り、
彼の着地にあわせ、ふわりと風が舞う。
「いやいや、レディを待たせてしまってすまないね」
乱れた髪をかきあげ、妙なポーズを決めて立っていた。バラが舞い散るようなキザなそのポーズから振り返り、
競輪選手などがよくつけている競技用のサングラスをはずすと、
綺麗な顔立ちの美男子が現れる。
「彰、こちらは火土冬夜、騎士科の風起委員だ、今後、何度か顔をあわせることもあるだろう」
真理亞がため息をつきながら彰に紹介する、だが彰の興味は別の所にあった、
彼は今の今までどこにいたのだろうか、まさか立ち聞きしている意味もないだろうし、
それに、屋根に響いた音からしてどっかから落ちてきたと推測するのが一番だろう、
だが、屋根から下りるときの風からすると一つの答えにたどり着く。
「今の魔……術……ですか?」
「ふむ……僕は騎士科だが少し異端でね、ただ走ってきただけだよ?それにそこの王廉君も騎士科だよ?」
(この先輩が騎士科だということも驚いたが、
昨日見た真理亞の剣術もただの人間の技術だっていうのか)
魔術を使うのが魔術師で、剣をつかい剣術を使うのが騎士だと
ずっと思っていた。
「ふむ、彼は少しわかりにくい言い方をしている、それでは彰に語弊を生むだろう、
我々、王廉一族は魔術師ではなく、人間の体で魔族のそれに達してしまっているだけだ」
余計に彰の思考はこんがらかがった。
「そうそう、彼女の剣も代々伝わる術剣らしくてね、詳しいところは
僕も知らないんだけど、何でも刃を極限まで軽くする術界式が描いてあるらしい」
(それもそうか昨日みた二刀剣を、鍛えてるといえども女の人が
閃光のように五回も切れるわけがない)
そんなことを考えていた彰のかおを真理亜が一度見て。
「言い訳では無いが、昨日みせた残光は完全なものではない、昨日のはグラウンドに描かれたマジックレジストによってある程度濃度が落ちていたから、本来の力は出せてないが」
更に驚いた……つまりは昨日の、5回以上の斬激ができるらしい。
「……彰……やはり、気持ち悪いか?人間を超えた人間というのは」
真理亞は寂しそうに腰に帯刀している剣の柄を撫でた。
「いえ!!普通にかっこいいと思いますよ、今度、全力の残光を見せてくださいね」
彰は笑顔で返しながら調度駅に入ってきたロープウェイのゴンドラに乗り込んだ、王廉は窓越しに小さく微笑んでくれた、彰は照れくさくなって顔を背ける。
2分くらいは、発車しないんでなんとなく外の景色でも眺めてみる。
「はうあー、まにあったかなー?」
そういって、誰かが乗り込んできた。
まったりと入ってきた女の子は服装からしてどうやら法術科の子らしい、小柄な体系には似合わない、でかいリュックサックにぱんぱんに物をつめて、
それでも入りきらない杖や小瓶などが口から漏れていた。
「ああ、お久しぶりですリアさん」
謎の女の子は金髪に三つ網を揺らしながら肩で息をする、
ずれていためがねを直し、リアに握手を求めた。
「なんだ?知り合いか?」
「え、……ええ、部活の後輩なんです」
(そういえば、ちょくちょくリアが放課後どこかへいっていたな)
だが、どこに言っているかは聞かなかった、
話さないなら、話さないなりの事情があるだろうし、
2、3時間ですぐに家に帰っているので気にはならなかったからだ。
ちなみに、リアの家は彰の家からすぐ隣にあるので帰宅時間が解る。
「ほうほう……コレが噂の君、ですか?」
金髪を三つ網にしている少女がずずいと、彰の顔を見てきた。
「あ、あのレンさんそれは……」
「わかってます、内緒でしょ?」
まったくわけもわからずに混乱している彰と、
照れながら焦っているリアと、リアを見ながら笑っているレンと呼ばれた子を
乗せてゴンドラは学園に通じる山道をゆっくりと登っていった。
学園に着くと彰は勉強支度をし。
1〜4時間目は適当に寝ながら授業を受け
昼休み、4時間目の授業終了チャイムがなると同時に一目散に購買へダッシュを
はじめる、どこの学園にも見られる現象だがこの学園では、この購買戦争は
魔術師も加わっているので、他校より、より一層激しいものがある、杖に乗り全速力で走る生徒や、靴に浮力の魔術を描き速度を上げる生徒もいる、
彰は極一般の普通科の生徒なので、全速力で走る事しかできない、購買に付く頃にはもう他の生徒が殺気立って、パン買い競争に競技が変わっていた。
「ああ、また最後尾か」
一番後ろに並ぶがもう狙いのパンは買えないだろう、
仕方ないので、自動販売機で炭酸系の飲み物を買って、
空腹をごまかすことにした。
(食いたくないものをわざわざ買って食うよりはましだが、
少し寂しいものもあるよな。)
とぼとぼと教室に戻ろうとしていると、なにやら3人の男子に囲まれている女子に出くわした。
「あのなー後輩は先輩にゆずろうという気持ちはないのかなー?」
変に清涼頭髪剤で髪を固めそこらじゅう乱しまくった服装の
先輩が、女子では少し背の高めの子に、ドスの効いた声で睨みつけながら脅していた、よく見ると彼女は購買一番人気のコロッケパンを、
茶色い紙袋にあふれるくらいに買っていた、
ショートカットにワインレッドの髪をゆらゆらと揺らしながら
もぐもぐと子供っぽく食べている、が、無表情。
(あれ、リボンの色からして一年か?はぁ……見ちまったしなー)
彰は手に持っていた炭酸のジュースを一気飲みし、ゴミ箱に投げ入れた。
「おい、なんとかいったらどうだ?」
3年生だと思われる男子生徒が彼女の襟をつかみかかろうとした、
が、彰が横からそれを止める。
「一年の女の子にそこまでする必要ないでしょ先輩?それに、彼女はちゃんとお金を払って買ってるんだ」
「あー?テメェ翔さんに喧嘩売ろうってのか?」
横にいた取り巻きの2年の不良が眉を寄せ彰をにらみつけてくる。
「……ふせて」
風音の様な小さな声を聞き、とっさに彰は身を屈めると、
ヒュッという風切り音が聞こえたと思ったら、
3発、鈍く肉を叩く音が聞こえた、何をしたのかと驚いてとっさに
彼女の方を振り返ると、そこには水色横じまの。
「パン……ぐふっ」
彰は女性の神秘を垣間見たと同時に、
腹部に鈍い痛みが走った。
それで横に転がっている3人が、どうして激痛にもだえ転がっているのかわかった、
彼女はただの蹴りで大の男をなぎ倒したのだ、
あの細い脚でどうやれば、あんな大男を軽々と蹴り倒せるのだろう。
「はい……」
彼女は大量に抱えているパンの中から一つを彰の前に差し出した。
とりあえず彰は受け取る。
彼女は無言のまま、食べかけのパンをまた食べ始め。
何事もなかったかのように、階段を昇っていった。
「……コロッケパン……」
(自分が必死こいて走っても手に入れられなかった、コロッケパンを無償でくれるとは、たまにはいいこともしてみるものだ。が、そもそも彼女が大量に買い込んだせいで
買えなくなったのではないのかという考えはよそう、それでは今現在彰の足元で転がっている不良たちと同じ考えだ、今この手にコロッケパンがある、それだけは変わらないうれしい事実なのだから)
昼食を終え昼休みを自分の席で凛矢とだべりながら昼休みを過ごし、5、6時間目の授業は移動教室なので、時間を見計らって射撃実習室へとリアと一緒に向かった。
実習室は厚いコンクリートの壁でできており、入り口のドアは防音、防弾ガラスでできている、
「室」といっても結構広いつくりで教室の5倍くらいの大きさだ。
部屋の中では既に人が集まっていた、先にいたクラスメイトと隣のクラスの人たちは、
強化プラスチックでできたゴーグルをつけ、膝とひじにプロテクターを着けて待機していた。
「遅いぞ、加藤、佐藤」
あのやる気のない担任(名前が未だにわからない)に注意された、
注意されたのは彰だけではなく後から来た生徒達もだった。
担任からロッカーのキーを渡され、彰も戦闘着に着替える。
「移動教室はチャイム10分前にはもう整列しているように!
一人、一人の緩んだ行動が団体の結束を脆くすることを忘れるな!」
やる気のない担任はこういうときだけはやる気があるらしい。
銃撃戦をやるのは実は初めてなのである、1年で触るくらいのことはしたが実際に撃つ事はしなかった。1年は基礎体力作りがメインで更に言うと部隊編成の仕方や、
戦術教育がほとんどなのである。
「今回やる模擬戦は、まぁ、初めてだから軽くチーム対抗戦でもやるか」
出席番号が奇数ナンバーと偶数ナンバーに分かれ、どちらかのチームが
すべて倒されるまで戦うというもの、ちなみに装備はゴム弾のハンドガン一丁にマガジン3つ、スモークグレネードとショットガン一丁という装備だ。名前の順で最初という理由でリーダーに勝手に使命された藍原と和泉にはショットガンの代わりに
スナイパーライフルを渡された。
「実践では今お前らが手にしている装備以下の場合もあるがSPDF(特殊防衛部隊)
での基本装備はそれだ、それと二つルールを設ける、基本今回は銃撃戦なので、
白兵戦は禁止する、あとヒットしても戦い続けるゾンビ行為は禁止、ヒットしたら両手を上げてすぐに戦闘エリアから待機エリアに移るように」
彰を含め二つに分かれたチームが適当に散らばったガラクタ達を境にして配置についた。
ピーというコール音と共に模擬戦が始まる、
まず、和泉の命令で3つに分かれた特攻部隊をはじめとするAチームと、
戦力に今一かける補助部隊B、リーダーを守りながら遠距離カバーをするCグループ
に分かれ、彰は補助部隊のBグループに入る。
「おし、中央のガラクタが入り組んでいる部分で敵は目視できないが、
おそらく固定パターンかな、AグループがSMGでブラインドして特攻を仕掛ける、
BグループはAグループの逆側からSMGは使わないで入ってくれ、
発砲音が聞こえたらBグループがAグループをカバー、運良くあふれ出た敵は僕が始末する」
全員が沈黙を保ったままうなずき、それが合図のように行動をし始める。ゆっくりとガラクタの迷路を避けながら旋回する、Bグループが中域まで入ったとき反対側から煙があがり、
それとほぼ同時に発砲音が聞こえた、Aグループが戦い始めたのだろう、彰達4人は少し駆け足になって、
煙がでた付近へと近づく、その間にもパン、パパン、と軽快な発砲音がなり続ける。
「くっ……Aグループで全員倒せればいいが」
後ろで凛矢がめずらしく真面目な顔をしてぼやく煙のするほうへ行くともう既に戦闘は終わっていた、Aグループは3人減り2人になって。
「ちっ、やられた……倒したのは3人だあと12人どこかに隠れてるぞ」
固定と読んでいたのをさらに読まれていた、3人はほとんど合い打ち狙いで
ショットガンを乱射し、ハンドガンは持っていたもののスペアマガジンを仲間に渡したのだろう、彼らは弾丸を撃ちつくし早々に両手を挙げて待機エリアに入った。
「「早くばらけろ相手チームは今いる地点をターゲットにしてる」」
和泉の声がインカムから響く、彰は踵を返し、来た道を戻る、
一列になって走っていると、パシュ、っという着弾音と共に前にいた遠藤が倒れた。
慌てて近くの物陰に隠れる。
「加藤……今の発砲音聞こえなかったよな」
Bグループの中村が別の物陰から話しかけてくる。
「ああ、多分スナイパーライフルだ、
EX7RはSVGを改造して極限まで消音性を高めた銃だからな」
「ボルトアクションがあるから連射はできないが、ロングレンジの武器は厄介だな」
「敵さんからはこっち丸見えだろうしね、で、どうするよこのままだと他の部隊も動かせない、
俺たちの支援に来て近くに寄ったら飛んで火に入る何とやらだ」
やられた遠藤の装備品を全て受け取り遠藤を待機エリアに向かわせるが、まだヒットしてない彰と凛矢は完全に動けなくなった。
「で、だ、ここで俺らの友情パワーを確かめる時がきた」
「あ?」
突然凛矢が変なことをいいだしたので思わず彰は眉間にシワをよせた。
「おーい和泉たいちょー今、何人倒した?」
凛矢がインカムを押さえ話し始めた
「「4人だ……まぁ、こっちも一人やられたがな」」
「うちんとこは1人遠藤がやられたんだわ」
今の時点では残り人数11対8で勝っているようには見えるが、ライフルがいる以上気は抜けない。
「「あいつはうちのチームで一番脚が早いやつなのに困ったな」」
「そんでなんだけどな……」
と凛矢が作戦を持ちかける。
「「お前……それ最初から自分達が倒されるつもりでやるのか?」」
「しゃーないやん、他におもいつかなかったんやし」
彰は凛矢の背中にスモークグレネードを取り付ける。
「まぁ、とりあえずリーダーだけはうちらがしとめたる」
そういうと遠藤のショットガンから弾丸を抜き、
凛矢のショットガンと彰のショットガンに弾を込めた。
「題してロケットマン作戦」
「だっさ」
彰が軽く突っ込みを入れて作戦を開始する。彰が凛矢の背中に取り付けた3つのスモークグレネードのピンを抜き、凛矢は両手に彰のショットガンと自分のショットガンを持ち走り出した。
「うぉぉおおおおおおお!!!」
遠藤が撃たれた方へと全速力で走る。
煙を撒きながら、調度さっき戦闘があったところを通り過ぎた時に凛矢の横で、キンッ、
というガラクタに何かが当たる音が聞こえた。
「そこの裏か!」
調度ガラクタがある方向から撃たれたのでおそらくその裏に潜んでいるんだろう。
両手に持ったショットガンを器用に撃ってはポンプアクション、撃ってはポンプアクションを繰り返し。
更に近寄った時ショットガンの弾が切れ、弾が切れたとき特有の乾いたポンプ音がした。
「ふっ、自分に注目を寄せて他の部隊を動かすつもりだったのか」
そう馬鹿にするような言葉を発しながら、ライフルを構えた藍原がガラクタの裏から出てきた。
「あほ、最初から倒される気なんかないわ」そういった瞬間、凛矢の肩を使って煙の中から彰が飛びだし、空中から二丁拳銃を連射して藍原を撃った。
スナイパーライフルを構えていた藍原は逃げることもできず、二丁の銃から放たれる銃弾の雨を真っ向から食らった。
「全ては計算どおり俺たちの友情パワーのおかげやな」
受身を取りながら着地をし壁に張り付き、
空になったマガジンをリロードして、凛矢もショットガンを捨て
ハンドガンに持ち変える。
「ふぅ、絶対成功しないと思った」
凛矢が立てた作戦はこうだ、まず、煙を撒きながら走る、そうして後方にいる彰の姿を隠しながらショットガンを乱射することでおとりを装う、ちなみに大声を出したのは注目を引くことと同時に煙で前が見えない彰に、凛矢の位置確認をしてもらうため、そして最後は凛矢の肩を使い飛ぶことで、相手が伏せていようと隠れていようと撃てるようにするため、凛矢の銃を使い二丁拳銃にしたのは命中率を少しでも上げるため。
「「よくやった、加藤が囮をしてくれたおかげで隠れてたやつが一斉に動き出してね、いい的だったよ」」
どうやら今の作戦で残存勢力も倒したようだ、インカムからは笑い声と歓喜の声が入り混じって聞こえる。
「よーし、今回の勝負は和泉チームの勝利ー」
気の抜け切った声で担任が待機エリアから拡声器を使って試合終了をつげた。
そのあと個々の反省点を述べて適当に解散宣言をした担任は職員室に帰った。
「もう、帰っていいのかな?」
「俺らは一度教室戻ってSHRうけなきゃいかんが、まぁ、お前の担任はああいってるからいいんじゃないか?」
藍原は汗まみれになった額をスポーツタオルで拭きながら答える、
服を着替えあとかたづけをして、
射撃実習室から人をはけさせてからクジ引きできまった体育委員がカギをしめる。
「ああ、つかれたー」
「お疲れ様です彰くん」
パタパタと近寄ってきたのは彰の鞄を持ったリアだった。
ニコニコと真っ直ぐに笑顔を向けてくるリア、横や後ろでは彰に刺さりそうなほど痛い視線。
「今日の晩御飯何がいいですか?」
(リアは気づいてないみたいだが明らかに空間が軋んでるって、
くっそ、凛矢の野郎、ねこ顔しながらこっちみてクスクス笑ってやがる、
あいつ、後で絶対ボッコボコにしてやる。)
思っていてもやらないのが彰のいいとこであり行動力がない悪いところでもある、
仕方なくしばし痛い視線をあびながら下駄箱へ向かう。
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どこにいるのかわからない、べちゃべちゃに汚れた靴、真っ赤に染まった服、
左手には銃を持ち、リロードを繰り返す、動いてるものを全て撃つ、
歩いたところに足跡のように銀色の空薬莢が散らばっている。
歩いているところはどうやら戦場ではないらしい、機械のケーブルが樹木の根のように張り巡らされ、今まで撃ち殺してきた人たちは皆、白衣をまとっていた。
「止まりなさい、最後の砦は私よレオン」
目の前に立ちはだかったのは民族衣装と戦闘服を混ぜたような服装の、
見た感じ16歳くらいの女の子だった。
「……。」
左手の銃で彼女の頭にサイトを落とす、
右手の薬指でギリシャ数字の1を空に描き、右手の親指で漢字の一を描く、2秒のディレイタイムを終え、右手には今までどこにしまっていたのか、
銀色のロングバレルのハンドガンが握られていた。
「30番……マナコストも考えて低い数字で出してきたのね」
彼女の顔はわからない何せ民族衣装みたいな戦闘服はヴェールのように顔を隠していた、
小さな拳を彼女は力強く握り締めると、ひらりと体を翻す。
レオンと呼ばれた男は左手に握られていた銃を後ろに撃ち右手の銃を民族衣装みたいな服を着た彼女を撃つ、
クイックトリガーを使い震えるように指を動かしハンドガンをマシンガンのように連射する。
穴だらけになった民族衣装は床に落ち、後ろに撃った弾は壁にいくつもの穴を空けていた。
「フェイントも最初から見切られてたか」
「……。」
空になったマガジンを捨て右の親指でグリップを叩く、すると自動的に弾が装填されていた。
「一応、その指輪も軍の備品なんですよ?」
「……。」
無言のまま声の発声原を探す、薄暗い廊下の光源は非常灯の緑色の薄暗い光だけ、
物の輪郭をギリギリにつかめる程度の視界では音だけが敵の位置を把握する情報。
ゆっくりと進みながらあたりを見渡す、カランと左斜め前から聞こえた音に銃を構えるが
「こっちですよ!」
力いっぱい振り絞る声に気づき、右斜め後ろから聞こえた声に振り返ると銃を構える前に意識を殺された。
切断
「アウト」
いつものように血がまだ体に回りきってない体を、
ひきずるように起こす、いつもと変わらない部屋の景色だろう、
だがその日は少し違った、だが何が違うかわからない、
空気中の酸素が2%減った感じの違和感。
「…………。」
唸るように声を出したはずが何も聞こえない、ふとみるとドアの前で心配そうに見ているリアがいた、
何か喋っているのだろうか、だがリアの声は聞こえない、
テレビをミュートで観賞している感じ。
「……ですか?」
急に音が戻る、窓からはすずめの鳴き声、ベットから降りてフローリングの床に足を落とす音。
「急に耳が聞こえなくなっただけだ……」
「だ、だいじょぶですか?!」
かたかたと震えながら今にも泣きそうな表情でかけよってくる、その小さい頭を軽く撫でて、
いつものように洗面所で顔を洗う、鏡に映るのはやはり見慣れた顔。
「同じ夢、しかもどんどん続いてる」
昔こんな恐怖談を聞いたことがある、
夢の中で何かを探す夢、いくつものドアを開けていく、
一日に数個のドアをあけてある程度の道を進むとそこで夢が終わる、
そんなような夢を連続で見続け最後のドアを開けると自分の死体が転がっていたそうだ、その夢のとおり自分はその日のうちに死んでしまうという、
ドッペルゲンガーの夢版のようなどこにでもあるような恐怖都市伝説。
「夢だといいが……」
夢には二種類ある、自分が意識的にみる夢と、
無意識的にみる夢、意識的に見る夢は起きている時の記憶を呼び起こして見る夢、
無意識の夢は記憶の断片をつなぎ合わせているだけの夢、
リアルに感じるのは意識的にみる夢らしい。夢だといいがと彰がぼやいたのは10年前、彼は一度記憶を失っているから、
過去の自分が起こしたことならあんな悪夢はただの夢であって欲しいということだろう。
「彰くん?やっぱり今日は学校お休みしますか?」
顔を拭くタオルを抱きかかえながら心配そうにリアが話しかけてくる。
「いや、今日は委員会の仕事あるし、特に体に異常なさそうだ」
タオルを受け取り顔をタオルにうずめる、拭き終えるとタオルを洗濯機に投げ込み、
朝食を食べにリビングにいく。
ホテル並に綺麗に盛り付けされた朝食をゆっくり食べながら、
テレビをつけた、そこに映っているのはいつもの戦争地域の情報。
「あ……」
テレビの画面に映っている光景に驚き加えているパンをテーブルに落とす、
そこに映っていたのは、王廉真理亞だった。
彼女はその細い体に似つかわしくない大剣を鞘から抜かずに6発同時に敵軍の戦車
を叩き切っていた。
「王廉先輩……」
数日前に確かに王廉は戦闘に参加しているとは聞いたが、
テレビに映るような第一線の戦闘に出てるとは聞いていなかった。
登校してすぐに生徒会室に出向いたがそこに真理亞の姿はなかった、
変わりに副会長が黙々と書類にサインをしている。
「会長は今何処にいますか?」
彰の声に反して手を止め振り返る、
怒っているとも悲しんでいるとも取れる表情をした副会長は、
ゆっくりと息を吐いて。
「平常どおりに予定ならあと1時間ほどでご帰還なされると思いますが」
そういい捨てるとまたデスクワークに戻りさらさらと書類にサインを入れ始めた。
その態度に彰は下唇を噛み、拳を握り締める。
「自分の先輩が前線で死闘を繰り広げてるのに、どうしてそんなに平静でいられるんですか?!
僕達はまだ学生で、派遣っていっても精々武器整理とか衛生兵ぐらいでしょう!」
副会長はあきれながら生徒会長の机の引き出しからA4サイズの書類を彰に
投げるよう渡す、彰はそれに目を通す。
「それは、今まで王廉真理亞が戦ってきた戦歴です」
「初陣が……13歳?」
戦歴結果にクリップで止めてあった少し古びた写真には、まだ幼い王廉真理亞と、
それを囲むように重武装した大人達が映っていた。
「周りは皆、銃や最新兵器などを駆使している中、彼女はそこに写っている大太刀と、長剣という
時代遅れした装備で最新兵器の上を行く戦果を挙げていたのよ、それでも、まだ心配?」
副会長は彰から書類を取り上げると投げ入れるように書類を引き出しに戻した。
「そろそろ授業が始まります、戻りましょう」
生徒会室から副会長に無理やり、締め出された。
しぶしぶ自分のクラスに戻るとリアが心配そうに彰の顔を覗う。
「だいじょぶですか?何か急いでいたようですけど」
「俺が先輩にしてあげられることは無いのか……」
「えっ……」
彰は壁に寄りかかりに額に手を当て考える、
真理亜は確かにどんな敵がいても負けることはないだろうが、
それでも彼女は自分と同じくらいの年齢だ。
「肉体は強くても、心がその軋みに耐え切れるわけが無い……」
彰はその日、真理亜の事を考え続けていた。