第六話 出会い
「うーん、どうしようか、この髪」
アルグレイが作ったとされる野営地(?)を拠点にし始めて早数週間、木製の魔物から薪を採取したり、近くに湧いていた湧き水で喉を潤しながら探索を続けていた。
「取り敢えず、あったロープを細く切って....三本つくって...それを編んで、よし、髪留めの完成!」
急激な成長により伸びきっていた髪をポニーテールにする。
「今日も探索と狩りに行くか」
裂け目を通りいつもと同じようにダンジョンの奥に歩を進める。
暫く歩いてから気づく。大和にしては気付くのが遅かったかもしれない。
「モンスターが全くいない...」
当たりを静寂が支配しており、手に入れた『気配察知』を使用しても何も引っかからない。
「はぁ...このままじゃ、今日の飯抜きじゃん。朝から何も食べてないから「お腹空いた」」
「「え?」」
大和が呟いたと思ったら、何かの声と重なった。両者の視線が交わった途端に二人とも後方に飛び距離を取る。見れば165cm位の真っ赤な髪をした美少女が臨戦態勢をとっていた。歳は見た感じで大体14歳くらいだろうか。
なにより驚いたことは『気配察知』に引っかからなかったことだ。つまり『気配遮断』を持っているのか、『気配探知』は人間には適応されないのか・・・
「貴方は...」
「腹が減っているのか?」
「え?...えぇ、そうだけど」
「俺も腹が減っているんだ」
「協力しようと言いたいのね...?」
「共食いをしよう」
「貴方が信用にたる....へ?」
唐突な意味不明な大和の言葉に変な声を出す。
「冗談だ。それじゃあ、俺はこれで」
大和はファイティングポーズを止めくるりと振り返り帰ろうとする。
「えっ!?それも冗談だよね?協力してここから脱出するんじゃ」
「悪いけど興味無いな、俺は独りで十分だ」
「な、興味無いって...ここはノーレーン連合王国で現在発見されている中で最大級のダンジョンだよ!?」
「ああ、なんかそんなこと言ってたな女王」
「だったらなんで...!」
正直に言おう、ひねくれた大和は年中無休で99割気まぐれで生きている。そんな大和がめんどくさいと思ってしまった、というのと急にダンジョンに現れた人間を信用できるほど今の大和に余裕はない。
「だって、1人の方が動きやすいし」
確かに本心だったが、これはこじつけであった。
「絶対邪魔しないから!ていうか、脱出の方法を知っているの?私は知っているけど」
「いや、知らんな」
「ほら、協力しましょう」
「自分で調べる」
「なっ!?」
そうやって無駄なやり取りをしばらくして。
「家事も全部やるから!」
家事全部、床寝、いざとなった時の囮という条件でようやく大和も折れかかっていた。実は大和は料理が大の苦手で飯が不味すぎて困っていた。
「(うーん、怪しいけど警戒しながら話を聞いて判断しよう)チッ、わかった協力しよう」
「なっ、舌打ち...取り敢えず場所を変えましょう。...あんな口きいたこと後悔させてやる...」
最後になんか呟いていたが、聞こえなかったし、そもそも興味もないので無視。
場所は変わって拠点。
「まぁ、まずは自己紹介をしようか」
「そうね、貴方名前はなんていうの?」
「ハァ?いや、そういうときは自分からだろぅ??」
「こ、コイツゥ・・・!」
大和の煽りに額に青筋を浮かべる少女。そこで大和は、ある重大な事実に気づく。今まで幾多もの修羅場を潜り抜けてきた大和の本能が察したのだ。
「(コイツ・・・いじりがいがあるタイプだ・・・!!)」
内心そんなことを考え、思わずニヤけてしまう。
「なににやけているの・・・いいから早く名乗りなさい!」
「しょうがねぇな・・・俺は」
名乗ろうとするものの、本名を教えてしまっては何かと不都合があるかもしれない。何と言ったって別世界から召喚された身なのだ、名前を知られて狙われることがあるかもしれない。
「俺は・・・アルグレイ・レッドルークだ」
「なに冗談言ってるの?くだらないこと言ってないで早く教えて」
軽薄な嘘をついて一瞬でバレる。
「(!?一瞬にして俺の嘘がバレた・・・何か読心術的なスキルでも持っているのか?だがそんな様子でもなさそうだし・・・)どうしてそう思うんだ?」
「は?まさか本気で言ってるの?貴方知らないの『アルグレイ・レッドルーク』を」
「有名なのか・・・」
「有名も何も、レミスト王国の先々代の王様よ?」
「そうだったのか・・・しょうがない、俺の名前はダイスケ。シマ・ダイスケ」
今度こそ実名を名乗るべきか悩んだが、やはりリスクとリターンが見合っていないと判断し、再度名前を偽るが。今度の偽名はバレてなさそうだ。やはりスキルなどを所持しているわけではないと確信する。
「ダイスケ・・・?珍しい名前ね。それより私の名前は・・・」
なにやらにやけながら自己紹介しようとしてくる。なんだコイツ。
「『アルグレイ・レッドルーク』の曾孫であり、レミスト王国の現国王の娘。レミスト王国第4王女、ニーナ・レッドルークよ!!」
「ふぅん、ニーナっていうのか、よろしくな」
「え、それだけ?わたし王女よ?」
ポカンとした顔で尋ねてくる。実は大和も内心ビックリはしていたが、表に出すとナメられてしまうかもしれない。それは大和のプライドが許さない。
「敬いなさいよ!!」
「あーはいはい。それで王女様は何でこんなとこに?」
「なっ!バカにしてるでしょ!!・・・まぁ、いいわ」
そこまで言ったニーナはそこで一瞬言葉を詰まらせてから
「曾祖父を―――――――――『アルグレイ・レッドルーク』を捜索しに来たのよ」
・・・怪しい。言葉を詰まらせたのもそうだが、明らかに大和から目を逸らした。
「本当の理由は言えないのか?場合によってはお前を信用することはできない」
「―――――――――!?」
大和はニーナの目をまっすぐに捉え、ハッキリと言い放つ。ニーナの目は大きく見開くと、もう一度目を逸らした。
「ごめんなさい・・・こればかりは・・・」
目を伏せたまま申し訳なさそうに呟く。
「分かった、今のところは信用しよう」
「えっ!?本当・・・?」
「今のところは、な」
「ありがとう!」
自分が悪いと思ったらしっかりと謝れる、何かしてもらったらお礼も言える。簡単なことではあるが、とても大事なことだ。やはり日本人の性とでもいうのだろうか。大和は礼を重んじることができる人間が大好きだが、逆にそういったことをしようとしない人間はとことん嫌いだった。
というのは建前半分、本音半分だが、どうやら嘘をついているのは国関連で、『アルグレイ・レッドルーク』について何か言えないことがあるということだろう。大和に直接的に害がないのなら何も問題ない。と考えたからだ。
「細かいことは追々話せればいい。別に詮索はしない。・・・それよりお腹すいた~飯作って~」
「いきなり緊張感なくなったな、オイ。いまから準備するわ、キッチン?借りるわね」
「あいよ~」
ま、もとはといえばお前の曾祖父の物だけどな。と内心黒いことを考える。
ニーナは世話しなくキッチンを動き回っている。その後ろ姿に一瞬だけ、あの人の面影を感じる。
「(そういえば、誰かに飯を作ってもらうなんて、いつ以来だろう・・・?)」
そんなことを考えながら、ご飯ができるまで世話しなく動く後姿をただ、眺めているのだった。