第五話 寝言の確保
ひとまず情報整理と、『ワイルド・ウルフ』の魔石を剥ぎ取り終えた大和は、次にすることを考えていた。
「とりあえず安心して寝られる場所を探さなきゃ「グルルゥ」ん?」
そんな低く唸るような音が洞窟内に響く。警戒しながら辺りを見渡しながら音の発生源を見つけ出す。
「お腹すいたな~」
そういって音の正体だったお腹をさする。
「薬草で誤魔化してたけど腹はすいてるからな~なんとかし―――――――――!?」
そこまで考えを巡らせた途端、急に体に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちる。それまで抑えていた空腹の限界が一気に押し寄せてくる。体を動かそうとするが全く動かない。
「ああぁ・・・せっかく生き残ったのに・・・こんなことで・・・」
今にも意識が途切れてしまいそうな大和の視界に『ワイルド・ウルフ』の死体が。
「(うぅ・・・魔物って食べられるのか?だけど、何も食わなかったら死ぬし・・・でももし、人体に害があっても『胃酸強化』もあるし、最悪薬草でなんとか・・・)」
動かない体に鞭を打ち、なんとか死体に手を向け、スキルを唱える。
「『奪取』・・・!!」
死体が瞬く間に手元に瞬間移動してくる。それに思い切り齧り付く。一度食べ始めたら最後、我を忘れたように生の肉を口に放り込む。
―――――――――ドクン
突然、不自然に心臓が拍動する。
ドクンドクンドクン、とどんどん心拍数は上がっていく。呼吸は乱れ始め、体の節々が痛み、脳が焼けるように視界には火花が散る。
「がぁぁぁあああああああ!!」
絶叫。激痛が体中に走る。見れば腕の皮がベロンと剥がれ落ちていて、内臓にもダメージが行っているのだろう、口から大量の血を吹き出す。
「あぁ・・・あ・・・まずいまずいまずいぃ・・・!!早く薬草を・・・!」
ふらふらとよろつきながら、なんとか薬草まで辿り着き、バクバクと食べる。それから少しした後、ようやく体が落ち着き始め、10分後には完全に元通りになっていた。
「ふぅ~ほんとに死ぬかと思った・・・」
そういって立ち上がると違和感がある。
「なんか視点が・・・高い?」
明らかに身長は伸びている。それから体をまさぐってみると・・・髪が肩ほどまで伸び、髭はふさふさしている。しかも毛が細くなっているのか髪の毛が何本か抜けていて、色も脱色されて白くなっていた。
「なんじゃこりゃ―――――――――!!!」
―――――――――
それからしばらくした後、ようやく落ち着きを取り戻した。
「しっかし、魔物の肉でこんなことになるなんてな。まぁ、色々疲れたし取り敢えず、安置探しにこの先でも進むか」
そういうとコケが生えた道の奥へと進んでいく。
どれだけ歩いただろう。1時間?2時間?もしかしたらまだ30分も歩いてないかもしれない。しかし、独りで何が起こるかわからない洞窟を歩くというのは案外精神的に堪える。
そうやって心細く感じながらも、歩いていくと壁沿いに人一人分やっと通れるような割れ目を見つける。
「お、ここなら人間以外は入れないかも。警戒しながら入ってみるか」
そういって割れ目に入っていく。中には人一人が生活するのに十分なスペースと生活用品、テントや机に日記などがあった。
「この机どうやって入れたんだよ・・・」
大和の一番の突っ込みどころはそこだった。なんとなく机の上にある日記を読んでみる。
―――――――――――――
私はアルグレイ・レッドルーク。これを君が読んでいるということは、私はもう死んでしまったということだろう。君がどのような経緯でここにたどり着いたか分からないが、ここでは力が絶対だ。だからこそ君に力を授けよ―――――――――
パタン。遺書?を閉じる。これ以上は読むとまた『シナリオ』にいいように踊らされるのではと思ったからだ。
考えてみたら、死の瀬戸際で力を手に入れるのも『シナリオ』の思うつぼなきがして何となく癪に障る。
「(でもこのテントとかは使わせていただこう。見れば暖炉もあるじゃないか、これで生肉とはおさらばだな!)」
大和という男はとことん都合のいい男だった。
―――――――――――――
それから数日後、隠れ家を拠点に徐々に活動範囲を広げていったが、脱出の手掛かりになりそうなものはなかった。あれから色々と危ない戦闘もあったが、なんとか切り抜け、レベルもステータスも結構上がっていた。
「まずいな、このままだとあの日記を読むことになりそうだし・・・それは意地でもしたくないからなぁ・・・しょうがない、今日は隠れ家でいろいろ試してみるか」
大和はこの数日で色々と考えることがあり、試してみたいこともあった。それの実験をする時が来たというわけだ。
「まずは、魔力のコントロールについてだな」
そもそもの発端は、大和はスキルを口に出す、つまり詠唱することでスキルを発動しているが、魔物はもちろんそんなことしていない。それは魔物が詠唱を必要としていないのか、詠唱以外の方法でスキルを発動しているのかということを疑問に思ったことだ。
そしてそのことを意識しながらスキル『魔装』を使ってみる。これは手持ちの武器に自信の魔力を纏い、強化するというものである。すると今まで気にはしていなかったが、自分の魔力が手を伝って武器に纏われる感覚があることに気が付いた。
それならば自分で魔力を動かすことができるのではないか?という実験だ。
大和は目を閉じ、『魔装』を使ったときのあの感覚を思い出す。それを、自ら起こす。
ちょっとずつだが魔力が動いているのがわかる。そうして練習すること数十分。
「よし・・・!やっと詠唱したときくらいの『魔装』ができた!」
やっとの思いで詠唱することなく『魔装』を完成させることができた。しかし集中しないと魔力が武器に集まらないため、実践投入はもう少し慣れてからだろう。
次に魔法についてだ。ここ数日で戦った魔物の中に炎の魔法を使ってくる奴がいたが、殺した際スキルの欄にそれらしきものはなかった。とするとやはり、魔力コントロールを使って魔法を起こすということだろう。そこまで仮説がたったなら、あとは実験あるのみだ。
魔力を制御し、手に魔力を纏わせていく。
「あとは、炎を・・・出ろ!!」
しかし何も起こらなかった。どうやらやり方が違うらしい。ならば炎のイメージを変えてみる。
大和は目を閉じ・・・
「俺の手には今、ガスライターがある。火打石とガスの代わりは魔力で」
手に集まる魔力をどんどん増やしていく。そして―――――――――
「着火!」
―――――――――ボゥ!!
手から勢いよく炎が飛び出す。だいぶ魔力と魔法について詳しくわかってきた。
「なるほどなるほど・・・これめちゃくちゃ楽しいな!!」
未知のことを探求し、発見、改良していく。これを楽しいと思える大和にはやはり才能があるのだろう。
一旦はまるとなかなかやめられない大和はその後、徹夜で魔法の研究を続けるのだった。