第四話 反撃開始
誤字脱字や不適切な表現など、ご指摘がございましたら、よろしくお願いいたします。
先ほどの夕暮れの風景が嘘だったかのように崩れ去り、残ったのはただ、どこまでも広がる暗闇のみだった。そんな中で・・・
――――――大和、お前は“誰かの書いたシナリオ通りになるのが嫌だ”と思っているだろうが、『世界線』というものはどんなに抗おうとしても、一ヵ所に収束していく。お前もいずれ気づくだろう、演者がどれほどシナリオに背く行いをしても、それも結局シナリオの上でしかないということを。
――――――だが、今はそれでいい、『世界線』から外れることはただの人間には不可能だろう、しかし、お前のその能力があればあるいは・・・
――――――さて、私もそろそろ行くかな。お前がこちら側に来るというなら、私はいつでも歓迎しよう・・・
少年の姿の大和は、誰に聞かせるでもなく一人呟くと暗闇の奥へと歩いていく。終わりが見えない暗闇の奥の奥へと。
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ゆっくりと瞼を開けていく。完全に開ききった視界に入ってきたのは、鋭く尖った爪をこちらに向けたまま空中で静止している狼の姿だった。
正確に言えば静止しているように見えて、僅かずつだが大和に近づいてきている。数瞬のはずの出来事が何倍にも何十倍にも引き延ばされて。本来ならば、大和の抵抗の意思など割り込む隙間もなく、狼の爪によって無残に蹂躙されていただろう。だが今の大和はその、命の瀬戸際というにはあまりにも短いすぎる時間に無理やり入り込む力がある。
大和は迫ってくる爪を遮るように左手の甲を前に出し、防御するような形をとった。狼からすればこんなものは、お世辞にも防御と呼べるものではなく、左手ごと身体を切り裂くことなど造作もないことだった。
――――――――――――――はずだった。
大和の左手と狼の爪が接触した途端、洞窟内にはとてつもない衝撃が走る。当の本人たちはというと、大和は茫然と尻もちをついており、狼は訳が分からないといった様子で地面に倒れていて、起き上がろうと必死にもがいている。
「なにが・・・!?―――――――――!!」
狼の攻撃を防いだ大和も何が起こったのかわからなかったが、このチャンスを逃してはいけないと本能的に感じ取る。
立ち上がろうと地につけた手に力を入れようとしたとき、何かが手に当たる。
「!!・・・行けるッ!」
今にも立ち上がりそうな狼に急接近し、先ほど我慢比べでへし折った牙を手に握りしめ、狼の目に力の限り突き刺した。
「ガァァァァァァァァァァ!!」
いきなり目を刺された狼はいてもたってもいられず、喚きながら必死にもがいている。
「あんまり動くなよッ!!」
大和も負けじと牙を刺す手に力をこめる。
「ガァァァ・・・アァァ・・・」
遂に、突き立てた牙が狼の脳まで達し、抵抗していた力も失せ、狼は完全に絶命した。それを確認すると、二三歩後ずさり壁に寄りかかって座り込む。
「ハァ・・・ハァ・・・終わった・・・?」
狼にとどめをさせたことを確認し、大和は息も絶え絶えといった様子で、ただ茫然と、自ら命を奪った亡骸を眺める。生まれて初めて生き物から直接命を奪ったのである。自分の手のひらを見つめ、今も頭の中をグルグルとまわる複雑な感情を整理する。
「(初めて生き物を殺した・・・でも、おばさんを殺したときほどつらくはない)」
“なぜ自分は生まれてきてしまったのか”と嘆いた日々を思い出し、確信する。
「(俺は、この世界で生きていける)」
そう確信し、深呼吸をした後、まずは攻撃されて減ってしまった体力を薬草を食べて回復する。
ひとまず、体力が回復したのを感じると腰を下ろし、次に何をすべきか考える。
「(とりあえず、ころした狼を『鑑定』しよう)」
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『ワイルド・ウルフ』
lv35
体力 300
筋力 300
俊敏 400
魔力 100
物防 420
魔防 120
精神 120
スキル
『瞬歩lv3』『気配遮断lv5』『気配探知lv2』『空脚lv8』『夜目lv4』
ダンジョンに生息する。『ブラック キャット』の上位種。心臓部にある魔石は有用でとても価値があるとされている。
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大和が倒した敵は大分レベルが高かったらしい。先ほど自身のレベルも上がっていたことを思い出し、確認してみる。
「『ステータス』」
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名前 霧咲 大和
種族 人間
適正職業 無職
Lv17
体力 180
筋力 180
俊敏 180
魔力 180
物防 180
魔防 180
精神 180
スキル
『鑑定lv2』『自然治癒力上昇lv3』『運気上昇lv2』
超越スキル
『拒絶lv1』『奪取lv-』
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「急にレベルが上がったな・・・やっぱり敵は強ければ強いほどレベルアップは速そうだな・・・あと、なんだこのスキル。“超越スキル”?」
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『超越スキル』
人智を超越したスキル。通常のスキルが何らかの影響で歪んだ形。またスキルの所持者が世界の法則すらも捻じ曲げるほど強く望んだ結果生じるもの。超越スキルを持つものは必ず峻険な道のりを進むとされる。
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『拒絶』
発動すると、一瞬だが敵のありとあらゆる攻撃を弾くことができる。遠距離攻撃なら弾き返し、近接攻撃なら無効化し、相手に致命的な隙を作ることができる。
攻撃受付時間はlvによって伸びていく。相手の硬直時間もlvによって伸びる。
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『奪取lv-』
通常スキル『奪取』が強い思念によって歪んで出来たもの。半径20メートル以内の物を瞬時に手元に引き寄せることができる。
また死体に手を触れることでステータスやスキルを奪うことができる。ただし、スキルの所持者が殺害した死体に限る。
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「これまたご都合主義なスキルが手に入ったな・・・まぁ、生き残るために使えるものは何でも使うけどな。よし、さっそく『奪取』で能力を奪ってみるか」
一通りスキルについて理解したので早速『ワイルド・ウルフ』からステータスを奪ってみるため、地面に静かに横たわっている『ワイルド・ウルフ』に手を触れる。
「『奪取』」
スキルを唱えると死体から力が通ってくるのがわかる。しばらくすると、すべて奪い終わったようなので手を放し、改めて自分のステータスを確認する。
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名前 霧咲 大和
種族 人間
適正職業 無職
Lv17
体力 460
筋力 460
俊敏 560
魔力 260
物防 580
魔防 280
精神 280
スキル
『鑑定lv2』『自然治癒力上昇lv3』『運気上昇lv2』『瞬歩lv3』『気配遮断lv5』『気配探知lv2』『空脚lv8』『夜目lv4』『胃酸強化lv4』
超越スキル
『拒絶lv1』『奪取lv-』
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「よし、スキルもステータスも無事増えてるな。そういえば確か、魔石がどうこうって書いてあったな。色々調べてみるか」
そういって大和は『鑑定』で色々と調べてみる。
そうこうして数十分後。以下のことが分かった。
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モンスターには心臓とは別に“魔石”と呼ばれるコアのようなものが存在し、普通は一個で心臓の近くに存在しているが、特殊なモンスターだと複数存在したり、心臓から遠い位置にあったりもすること。
マジックアイテムを使ったり、魔力の補充にも使える。大きければ大きいほど、純度が高ければ高いほど高値で取引されること。
魔力は魔性というものがあり、無、赤、青、緑、黄色、光、闇、の7種類に分かれていること。
色はそれぞれ、無属性、火属性、水属性、木属性、雷属性、光属性、闇属性となっている。魔法やマジックアイテムを使うときはそれぞれ色のあった魔力を使わなければならないこと。
価値の高さは、無<赤=青=緑<黄色<光=闇属性となっていること。
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一通りやることは終え、一難が去ったことを改めて実感する。
自分の手をじっと見つめる。
「皮肉なもんだ・・・テンプレが大っ嫌いな俺が、テンプレな方法で力を手に入れたんだから・・・」
ふと、親やら、学校の先生やら、王国の人達らが脳裏によぎる。
自分たちが強いと勝手に思い込んで、無能とわかったらすぐに捨てる。そうやって何度も、何度も返されてきた掌。
「今に見てろよ・・・その掌、もう一回返させてやる・・・」
誰に伝えるでもないその独り言は冷たい地の底で響いて消えた。
こうして大和の初めての生死を懸けた戦いは幕を下ろしたのだった。