第二話 Free fall
大和を乗せた馬車のなかは酷い揺れだった。肩から膝までをロープでぐるぐる巻きにされた状態で床に放置され、馬車の車輪が石などを踏む度に身体中を床に打ち付けていた。
ロープできつく縛られているため、ろくに寝ることも出来ず、もちろん食べ物も貰えないままだった。どのくらいだっただろう、眠れないので常に意識は朦朧としていて、時間の感覚などは無くなっていた。
「よし・・・。お・・お前ら・・すぞ」
どうやら着いたらしい。御者と兵士が大和の方へと近づいてきて、乱雑に持ち上げ、馬車の外に投げ下ろした。
「こ・・・れまい・・・」
「ま・・・んな・・・き方す・・・だ」
何か言っているのはわかるのだが、意識がハッキリしないために、上手く聞き取ることが出来ない。
そのまま俺を足で蹴り転がしなら、目の前の崖肌に開いた洞窟へと入っていく。なかはすぐに行き止まりになっていた。兵士たちは壁の前でも止まらず大和を蹴り、勢いよく壁へと激突ーーーーーーー
ーーーーーーーしなかった。
大和は壁をすり抜け、向こう側へと来た。兵士たちもさも当たり前かのように壁をすり抜けて来る。
しばらくうす暗い通路のような場所があり、急に目の前が開けた。目の前には底が見えない崖が広がっている。・・・ここに落ちたら確実に死ぬだろう。
「じゃあ、お前とはここでお別れだ。恨むならお前のこの運命を呪うんだな。さて、最後に遺言はないか・・・?」
兵士たちはニヤニヤしながら聞いてくる。自分の最後を悟り、大和は遺言について考え始める。
「そんなもんいらねぇ・・・よッ!!」
大和の出した答えはこれだった。
「うおぁ!」
「アイツ自分から落ちやがった!!」
遺言とか定番なことしたくないから、できる限りの力を振り絞り、自分で大穴へと転がり落ちる。あまりに予想外だったようで、兵たちも驚愕の表情を浮かべている。
「(へへっ!かましてやったぜ。)」
最後の最後で抵抗できたことで、内心はとても気分がよかった。そのまま体は落ちていき壁から出ていた突起に頭を思い切り打ち付けた。初めから意識を失いかけていたので、大和はあっけなく意識を手放した。
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「ん・・・?生きてるのか・・・?」
目が覚めると見知らぬ天井、すらない薄暗い場所だった。上を見上げる、どうやら岩肌の突起にぶつかり
ながら落ちてきたのだろう。簀巻きにされているロープも大分痛んでいるようだ。それよりも体の節々が悲鳴を上げている。運がいいのやら悪いのやら・・・
無理に身体を動かそうとしたとき、自分が寝ていた地面に違和感を感じる。岩の地面にしては柔らかいような・・・
その疑問を調べるために寝返りをうち、うつ伏せになったが、そこには―――――――――――
―――――――――――こちらを見つめる二つの目が。
「うわぁぁあああ!!!」
叫びながら身体を無理やりよじりながら距離を取るが、運悪く短い坂のようになっていたようで、転げ落ちてしまう。
「いてて・・・って、そうだ!あいつは!」
転がり落ちてきた坂の方を見ると、どうやら転げ降りてくるときには坂だと思っていたそれは、山積みになったたくさんの人骨だった。
先ほど目が合ったそれも、骸骨だったのだろう。どうしてこんなにもたくさんの人骨が落ちているのか・・・まぁ、何となく想像はつく。おそらくこの大穴はノーレーン連合王国がよく使う、一種の処刑場のような場所なのだろう。大和のような人間を今までも幾度となく、ここに捨ててきたのだろう。
ひとまず落ち着いて、自分が今しなければならないことを考える。
「とりあえず現状確認だよな・・・『ステータス』」
―――――――――――
名前 霧咲 大和
種族 人間
適正職業 無職
lv1
体力 20
筋力 20
俊敏 20
魔力 20
物防 20
魔防 20
精神 20
スキル
『鑑定lv1』『奪取lv1』『自然治癒力上昇lv3』『運気上昇lv2』
状態異常
『全身骨折』
―――――――――――
「・・・こりゃあひどいな、全身骨折か・・・でも、新しいスキルも入手してるな。そういえば、スキルについて詳しくしらないな・・・」
『鑑定』を使い、試しに『奪取lv1』について調べてみる。
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『奪取lv1』
lv1~10ある中での1段階目。lv1では精々数メートル以内の物質を手元に瞬間移動させる程度の能力。
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「(・・・用途が少なすぎるだろ!非戦闘員とかのレベルじゃないぞ!これの用途と言ったら、冬にこたつから出ずに物取るくらいだぞ!!)」
ティロリン♪
『鑑定lv1』が『鑑定lv2』にlvアップしました。
どうやら『鑑定』がレベルアップしたようだ。何が変わったか、『鑑定』を使い確かめる。
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『鑑定lv2』
lv1~10の中の2段階目。lv1よりも鑑定出来るものが増えたり、より詳細を知ることができる。『偽装』を
とくためには『偽装』のレベルと同じレベル以上が必要になる。
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「へえ、意外に『鑑定』のレベル上げも重要っぽいな。『鑑定』は使えば使うほどレベルが上がっていく感じかな?それなら鑑定しまくればいいだけだから楽でいいんだけど・・・それより他のスキルはどんな感じだろう」
ほかのスキルも『鑑定』してみる。
―――――――――――
『自然治癒力上昇lv3』
身体的な傷の自然治癒力を微量だが上げる。傷を負っては放置すればいいだけで『自然治癒力上昇』の経
験値は蓄積されるが、ほかのスキルよりレベルアップに必要な経験値がとても多い。
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レベルアップに必要な経験値が多いにもかかわらず、いきなりlv3になっているということは結構寝ていたということだろうか。
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『運気上昇lv2』
所持者の運気を大幅に押し上げる。所持者の危機が大きいほど経験値が入りやすい。また連続的に危機が
訪れる程、倍率的に経験値が取得できる。他のスキルよりレベルアップに必要な経験値が多い。
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「これまた上がりにくいスキルがlv2まで・・・でも岩にあたる一回一回が危機になるのなら、ここに落ちてくるまでに相当数当たったはずだからこのくらい上がる、のか・・・?」
有用なスキルもあるがどれも現状打破には繋がらないと判断し、とりあえず、大和を拘束しているロープを何とかしないと始まらないと考えた。
「どうにか・・・っ!痛ってぇ!」
どうにかしようと骨折した体に鞭を打って転がっていたら大きめの尖った石が尻あたりに刺さる。痛みに脊髄反射で急に動いてしまったので、体の痛みが大和に追い打ちをかける。
「痛てぇ・・・けどラッキーかもしれない。この石で何とかできないか・・・?」
何とか切ろうとしても上手くいかない。手は縛られているので使えないし、体もあまり動かせないので芋虫の様に動いては休んでを繰り返していること10分ほど。とある方法を思いつく
「この石を手に持てたら・・・あ!もしかしたらいけるかも!!」
大和は思いついたことを早速実行に移そうとある行動に出た。
「そこに落ちてる石を手元に!『奪取』!」
石が視界から消えたと思った次の瞬間、手に何かを握っている感覚があることに気付く。
どうやら作戦は成功のようだ。
「よし、あとはゆっくりゆっくり・・・」
ゆっくりではあったが着実にロープを切っていく。
「一本切るだけで大丈夫だろう・・・よし切れた!」
思っていたほど時間もかからずにロープを切れた大和は、ロープを体からどけるためにグルグルと地面を転がる。しばらく転がっていると上半身のロープが完全になくなり、空いた手でさっきの石を使い下半身のロープも取り除いていく。
「ほー!何日ぶりかわからんが、体が自由なのはやっぱりいいな!」
体に気を付けながらゆっくりと立ち上がる。何気なく体を動かしてみるがやはりまだ痛みはあるらしく、あまり激しくは動けないと察すると、どこか安全そうな場所を探して歩き出す。何かに使えるかもと、一応ほどいたロープも持っていく。
「何も考えずに壁沿いに歩いて来たはいいが、これは何もないんじゃないか・・・ん?洞穴?取り敢えず入ってみるか・・・」
歩いている途中に見つけた洞穴に何の気なしに入ってみる。一応警戒はしているが。洞穴の中はかなり広く穴というより、通路といってもいいくらいには広さがあった。
「むぅ、分かれ道か・・・右か左か・・・止まっていてもしょうがないしなぁ・・・よし、決めた!戻ろう!この先は嫌な予感がする!」
選択を敢えて無視し、戻ること決意、実際その判断が正しかったと知るのはもう少し後になるのであった。