chapter3-3
「カンマ!」
「カンマ君!どこにいるの!」
グレゴイルの屋敷内を走り回りながら、レオとニシキはカンマを探す。
途中、グレゴイルに雇われているのであろうゴロツキの男達がレオ達に襲いかかって来たが、その度にレオ達が体術で男達を蹴散らす。
「しつけーな、こいつら!」
ナイフを突き出してきた男の攻撃を軽くあしらい、相手の顔面に肘打ちを決める。
「ごめんねレオ、ハヤテがいれば私が道を作るんだけど…!」
そう言いながらニシキは鉄パイプを振り回す男の攻撃を避け、その勢いのまま男の脇腹に回し蹴りを食らわせ、ふき飛ばす。
「仕方ねーよ。俺もこんな狭いところじゃ大剣は振り回せねえし、とにかくカンマを見つけんのが先だ!」
男達を一通り片付けると、レオとニシキはさらに屋敷の奥へと進んでいった。
*
カンマは走っていた。
ここはおそらくグレゴイル邸の地下だ。
しかし地下室と呼ぶには広すぎて、シェルターのような場所だった。
「待ちやがれガキィ!」
グレゴイルにくっついているゴロツキ達がカンマを捕まえようと襲いかかる。
カンマは無我夢中に右手に持っている刀を振り回す。
するとゴロツキ達は一瞬怯み、少し退く。その隙にまたカンマは走り出した。
「ハァ…、ハァ…。まさか鳥が武器になっちゃうなんて…ね…」
あの後、グレゴイルが後ろの壁から出てきた"それ"に目を向けた隙にハヤテは刀に変身し、カンマに自分を使って縄を切るように指示を出した。
カンマは指示通り縄を切り、逃げ出し、今に至るわけである。
「ここから逃げて、みんなに伝えないと…」
刀を右手で握り締め、出口を探して走る。
発明品は取り返せなかったが、それよりも街のみんなにグレゴイルの野望を伝える方が先だ。
そんな思考を頭に巡らせながらしばらく走ると、重い鉄の扉を見つけた。
「きっとここから上の階に…!」
そう思い、カンマは扉に体当たりする。
しかし、扉はびくともしなかった。
慌てて今度は扉を引いてみる。やはり動かなかった。
「残念やなァ、その扉は開かへんで」
低い声に、カンマは思わず振り返る。
いつの間にかグレゴイルと"それ"がゆっくりとカンマに近づいてきていた。
「坊主、その刀もワシに寄越しィや。それもお前の発明品やろ?」
グレゴイルはカンマが握り締める刀を指差し、こっちへ渡すように催促する。
しかしカンマはグレゴイルを睨み付け、刀を自分の胸元に深く抱える。
「…渡す気はあらへんようやな」
グレゴイルはやれやれと肩をすくめると、後ろにいる、カンマの発明品をつけた"それ"に、記憶の欠片をかざす。
「なら坊主、お前がこいつの最初の餌や!光栄に思ったらええ!」
記憶の欠片がすさまじい光を放ち、"それ"を包み込む。
光をまとった"それ"は大きく咆哮をあげると、カンマに飛びかかる。
カンマは思わず目を瞑ってしまった。しかしその時だった。
「カンマ!ここか!」
びくともしなかった扉から、大剣が飛び出る。
そのまま勢いよく扉がぶち破られ、"それ"を大剣が貫く。
ゴオンという轟音と共に、扉が倒れる。
「レオ!?ニシキも…!」
倒れた扉の先から現れたレオとニシキに、カンマは驚きを隠せなかった。
「どうして…!」
「君を助けに来たんだよ!」
ニシキがカンマに駆け寄る。そこでカンマが見覚えのある刀を抱えていることに気づいた。
「それは…!」
「ニシキ達の魔獣…だよね?ボクを助けてくれたんだ」
カンマは刀をニシキに渡す。
ニシキは刀を受けとると、"それ"の方へ刀を構える。
"それ"は、レオの大剣に貫かれながらも倒れることなく、威嚇していた。
「…ケルベロス!?しかもレオの大剣を食らっても倒れないなんて…!」
レオの力を込めた大剣の一撃は、どんなに大きな魔物でも沈める程の威力だという話だった。
しかし、"それ"…危険度A級に指定されている、体は黒く、目は真っ赤に染め上がった、大きな犬のような姿の大型魔物「ケルベロス」は沈むことなく、そのままレオに噛みつこうとした。
レオは咄嗟に大剣をケルベロスから引き抜くと、噛みつきを大剣で受け止めた。
「っ!こいつ…!」
ケルベロスは低く唸りながら、ゴリゴリとレオの大剣に歯を食い込ませる。
グレゴイルにつけられたカンマの発明品の先端が、ギラギラと黄緑に輝き、その輝きとともにケルベロスが電流を纏う。
「い゛っ…!」
バチィッと電流を受け、レオは思わず飛び退く。
大剣をくわえていたケルベロスの牙が、くわえていたものを無くしてガチンと閉じる。
レオは思わず大剣を見た。とても硬い素材を用い、今まで壊れたことのなかった大剣にはヒビが入っていた。
「どんだけ馬鹿力だよこいつ…!つーか、電撃って…」
「当たり前だよ、こいつはグレゴイルが持ってるピンクの結晶で強化されてる」
カンマはレオに、半ば諦めながら吐き捨てる。
「それに、電撃を纏ってるのは…ボクの発明品のせいだ」
カンマは俯きながら、泣きそうな声で言葉を溢す。
「ボクのせいで…、ボクのせいで…!」
自分を攻め続けるカンマを嘲るかのように見下ろしながら、グレゴイルはハンと鼻を鳴らす。
「そうや坊主。お前のお陰でワシのかわいいケルベロスちゃんはパワーアップしたんや。おおきにな」
グレゴイルが汚くニタアと笑う。
「くそっ、これじゃ近づけねえぞ…!」
「…でもあのプレートを外せば、電撃は消えるってことだよね?」
ニシキの言葉に、レオはそうか…と思ったが、近づく方法が思い浮かばない。
「…私がやってみる」
ニシキはそう言うと、刀をゆっくりとケルベロスへ向け、体勢を整える。
レオは、今までのニシキの戦い方を思い出していた。
自分が力任せに剣を振り回すのに対して、ニシキは素早く相手の懐に飛び込み刀を振るっていた。
ニシキの速さがあれば、電撃に長く触れることなくプレートをはたき落とすことが出来るかもしれない。
「なんかしようとしても無駄や!ケルベロス、こいつらを噛みちぎったれや!」
グレゴイルの一声にケルベロスは唸るように吠えながら、ニシキに噛みつこうと突進する。
刹那、ニシキは右足にグッと力を溜め、一気に飛び出す。
ケルベロスに当たる瞬間、くるんと体を捻らせ噛みつきを避ける。
「ハアアアア!!」
そしてその勢いのまま、肩につけられたプレートに刀の峰を当て、プレートを弾き飛ばす。
「ガアアァ…!?」
プレートを外され、ケルベロスが一瞬怯む。
その隙に反対側のプレートをレオが掴む。
「そ・い・つ・を・外しやがれェェ!!」
ケルベロスが纏う電撃を両手でモロに食らう。
焼けるような痛みになんとか耐えつつ、プレートを一気に引き剥がす。
するとケルベロスが纏っていた電撃は弾けるように消え去り、プレートから光が消えていった。
「ボクの発明品っ…!」
カンマがレオとニシキがケルベロスから剥がしたプレートを拾い上げる。
「これでもう電撃は纏えねーな!」
レオは不適に笑う。
グレゴイルはギッと歯軋りしたが、すぐにまた汚い笑みを浮かべる。
「確かに電撃は使えん。でもそんなガラクタ無くても、結晶で強化されたケルベロスには勝てんわ!」
その言葉にケルベロスは体勢を建て直すとレオに襲いかかる。
レオは素早く大剣でケルベロスの攻撃を受け止める。
大剣がメキメキと軋み、悲鳴をあげる。さらにその振動で先程の電撃の痛みが、また両手に走る。
「つっ…!このままじゃやべえ…!」
「レオ!!」
ケルベロスがレオに気を取られている隙に、ニシキが素早くケルベロスの後ろに回り込み、刀で背中を貫く。
しかし、ケルベロスは貫かれながらも怯むことなく、長く重い尻尾でニシキを弾き飛ばす。
弾き飛ばされたニシキは壁に背中から叩きつけられる
「うがっ…!」
「ニシキ!!」
壁づたいにゆっくり沈むニシキを見て、思わず意識がそちらに向き、大剣に込める力が抜ける。
その瞬間、ケルベロスがさらに腕に力を込める。
「しまった!」
そのまま大剣ごとケルベロスの腕にレオは押さえつけられる。
なんとか逃れようとレオはもがくが、ケルベロスの拘束する力が強く、身動きが取れない。
「くっそ…!」
「グァハハハハ!!そのままケルベロスの餌になりィや!」
グレゴイルは必死にもがくレオを蔑みながら高らかに笑う。
「これはええで!これでワシの国が手に入るんや!」
「……させない!」
グレゴイルの不快な笑い声を、鋭く通った声が貫く。
グレゴイルは少し呆れ気味に声の主へ顔を向ける。
「なんや坊主、お前に何が出来るっちゅうんや」
ハンっと蔑んだ笑みを浮かべ、グレゴイルは得意気に肩をすくめる。
「ケルベロスはもう無敵や!あの小娘も、この小僧も、ケルベロスに勝つことは出来へん!」
さらにグレゴイルは続ける。
「しかしあれやなぁ、坊主の発明品、ちぃっとも役に立たんかったわ!何が電波や!電撃放っただけやないか!」
「それはあんたの使い方が間違ってるからさ!」
カンマはプレートを自分の前に置くと、キッとグレゴイルを睨みつける。
「あんたはプレートさえつければ起動すると思ったみたいだけど、それだけじゃボクの発明品は動かないね!
その結晶の力を使っても無駄さ。電撃が流れたのは予想外だったけど」
カンマはゆっくりと両手を広げる。
「知ってるかい?どこかの世界ではある魔法がエネルギーの源として注目されてるらしいよ。
それは光魔導と同じくらい便利な属性魔法でね、それを使えないとこれは起動できないのさ」
カンマの瞳が鋭く光る。
「そう、ボクみたいにね!!」
カンマが勢いよく両手をパンっと胸元で合わせると、両手から凄まじい電撃が発生する。
その両手をプレートにかざし、カンマは叫ぶ。
「code name:PLUTO!
battle mode:ON!
ウィザードネーム:バトラー
オペレートオン!!」
バチィ!と激しい閃光がプレートを包み込む。
するとプレートから薄紫の太い腕が伸び、そこからゆっくりと体のような物が錬成されていく。
プレートについた勾玉のようなパーツがあざやかな黄緑色に光輝く。
「な、なんやこれは…うおあ!?」
驚くグレゴイルの懐から、カンマから奪った残りの発明品が飛び出す。
飛び出した発明品は薄紫の物体に吸い寄せられ、体の一部になっていく。
最後に薄黄色のパーツが嘴のように装着されると、鳥のような形になった物体に瞳が宿った。
「な、なんやこいつ…!」
「バトラー、"電波"を駆使したボクの最高傑作のからくり…いや、ウィザードだ!!」
カンマはそう言うと、レオを押さえつけるケルベロスを指差す。
「バトラー!ケルベロスを倒せ!」
バトラーと呼ばれた薄紫色の、鳥のようなウィザードは、ケルベロスを視界に捕らえると右腕を大きく振り上げ、ケルベロスを殴り飛ばした。
「ギャブゥ!?」
ケルベロスが大きく吹き飛ぶ。押さえつけていた魔物がいなくなり、体の自由を取り戻したレオはニシキの元へ駆け寄る。
「ニシキ!ニシキ!」
ぐったりと倒れ込むニシキを抱き起こすと、揺すりながら呼び掛ける。
「うっ…、レオ…あの鳥は…!」
「あれは味方だ。カンマの発明品はあいつだったんだ」
「あれが…!?」
レオとニシキは体勢を立て直したケルベロスと戦うウィザード、バトラーを見つめる。
「グアアアアア!」
ケルベロスが唸りながらバトラーを引き裂こうと爪をたて、腕を振る。
「残念だな、犬っころ」
バトラーが不適に笑いながら静かに呟く。
その瞬間、ケルベロスの腕がバトラーを引き裂いた…ように見えた。
が、腕はむなしくバトラーの体をすり抜ける。
「俺は"電波体"だ。実体はねえんだよ!!」
バトラーは攻撃の勢いのまま体勢を崩しつんのめるケルベロスに鋭く変形させた両腕を突き刺す。
そしてその両腕から激しい電撃を発生させる。
「ギャアアアアウ!!」
「そのまま丸焦げになっちまえ!!」
バトラーはさらに電撃を強める。
強烈な電撃を浴びてケルベロスは苦し気な叫びをあげる。
「な、なんやケルベロス!そないな鳥やっちまえ!」
「無駄だよ、バトラーは電波体だから電波を集中させた部分にしか実体がない」
慌てるグレゴイルにカンマが得意気に言う。
「それに、バトラーの電撃はそう簡単には耐えられないよ!」
そうカンマが言い放った瞬間、ケルベロスはバトラーの最大出力の電撃を浴びた。
バシッと激しい閃光が弾けケルベロスがビクンと跳ね、そのまま動かなくなった。
「ふん、なんだこんなもんか」
バトラーはフンとケルベロスから両手を引き抜く。
するとケルベロスはサラサラと砂のように崩れ去り、跡形もなく消えた。
「すげえ!カンマの発明品、ケルベロスを倒したぞ!」
「発明品じゃねえ!俺はバトラーだ!」
レオの発言に、バトラーは食い気味に反論する。
「こいつ意志があるぞ…!?魔獣か!?」
「魔獣じゃない!ウィザード!」
今度はカンマが反論し、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
そんなやり取りの横で、グレゴイルはこっそりその場から逃げ出そうと扉があった場所へ向かう。
しかし、あと一歩というところで首筋に刀を突きつけられ、動きを止められた。
「どこに行くのかな?」
思わず立ちすくむグレゴイルの背後から、ニシキが囁く。
「まだ終わってないよね?」
グレゴイルが文句を言おうと振り返ると、ニシキは満面の笑みを浮かべていたが目は笑っていなかった。
*
「あーあ、見事に亀裂が入っちゃってるね」
グレゴイル邸から引き上げ、カンマの家に戻ったレオ達は、武器の手入れをしていた。
とはいってもニシキの武器はハヤテ次第な訳で、きちんと手入れをしていたのはレオだけだった。
レオが改めて大剣を確認すると、先程の戦いで大きな亀裂が走っていた。
「こいつ、結構丈夫なはずなんだけどなァ…」
修繕は高くつきそうだなあ、とレオはため息をつく。
すると一緒に大剣の様子を確認していたカンマが口を開く。
「それなら、ボクが直してあげてもいいけど?」
フン、と小生意気な笑みを浮かべながらレオにそう告げた。
「ほ、本当か!?」
「いいよ、助けてもらったからね。ついでに改造もしちゃおうかなー」
「いや、直すだけでいいから」
レオは食いぎみにカンマに釘を指すと、大剣をカンマに渡す。
大剣を受け取ったカンマはそのまま鍛冶場スペースへ大剣を運び、レオもそのあとに続いていった。
ニシキはそんな二人の様子を見届けると、自身の肩にとまり翼を休めるハヤテを、労いの意を込めて優しく撫でる。
「にしても、あともう一個は神殿にあるのか…」
ニシキはグレゴイルから取り戻した記憶の欠片を取りだし、見つめる。
あのあと、逃げ出そうとしたグレゴイルを捕まえた一行は、グレゴイルから記憶の欠片を取り返すと、少しの間気絶してもらうことにした。
うろたえるグレゴイルにレオが思いっきり振りかぶって頭突きをお見舞いしてやると、グレゴイルは糸が切れたように白目を向いて倒れた。
その間に、カンマたちを縛った余りのロープで今度はグレゴイル自身を縛り上げ、大通り近くの公園の木上から、見せしめに逆さ吊りにしておいた。
今ごろグレゴイルは目を覚ましているだろう。一体どんな反応をしているのだろうか。
もちろん落ちても大したことはない高さであるため、すぐに脱出はできるはずだが。
そんなことよりももう一個の記憶の欠片の方だ。
ハヤテの話では神殿にあるだろうとのことだが、ヴァルクオーレの時のように、また祭壇と一体化しているのだろうか。
もしそうであって、また祭壇を壊したとしても、どうやら祭壇は復活するみたいだ。なら心配は要らないはず。
しかし、なぜ祭壇の中に記憶の欠片が入るのだろうか。もしや、誰かが故意で一体化させているのでは…?
「オイオイねーちゃん、まさかそれ使ってお前さんもパワーアップするつもりかィ?」
「うぁあひゃい!?」
突然背後から、バトラーがぬっと顔を出してきた。
びっくりして思わず変な声をあげる。
「びっ、びっ、びっくりしたぁ…!いきなり出てこないでよ!」
「悪ィねィ。俺ァ電波体なもんでね」
バトラーはケラケラと腹を抱えて笑う。
「で、何真剣な顔してその結晶睨んでたんでィ」
バトラーの問いに、ニシキは正直に答えようか迷った。
下手なことを言ってバトラーやカンマを巻き込んでしまうのは、申し訳ないと思ったからだった。
なのでニシキは適当に誤魔化すことにした。
「いや、綺麗だなーと思って眺めてただけだよ」
「ふーん?」
バトラーは納得がいかないようだったが、それ以上は質問をしてこなかった。
ニシキはハハハ、と作り笑いを浮かべながら記憶の欠片を腰のポーチにしまい、鍛冶場の方の様子を伺った。
カンカンと金属を叩く音がしたと思えば、なにやら機械を動かす音、ギュイイイという耳障りな音が聞こえてくる。
その中に小さくレオの嘆きも聞こえるのはおそらく気のせいだろう。
しばらくして、カンマとレオが戻ってきた。
「ニシキ!大剣直ったぞ!」
レオは嬉しそうに目を輝かせながら、すっかり綺麗に直った大剣を得意気に掲げて見せる。
「ボクにかかればこんなもんさ」
カンマも得意気に胸を張って見せる。
そんなカンマを横目で見ながら、レオはカンマに聞こえないような小声でボソッと呟く。
「一回バラバラにされたけどな…」
大剣を下ろし、改めて修繕具合を確認する。
ケルベロスに噛みつかれ、激しくひび割れていた表面は、まるで削り出したばかりかのように鋭く光っていた。
これなら相当切れ味もよさげだなと剣を回し見る。
すると、柄の部分に丸で拳銃の引き金のようなパーツが付け足されているのに気がついた。
「おいカンマ、なんだこの引き金?」
レオは引き金をカチャカチャと引きながら、カンマに質問する。
「ああそれね、今のあんたじゃ使えないよ」
「は?」
カンマの答えにレオは思わず変な声を出し、ニシキを見た。
しかしニシキにも意味がわかるはずもなく、肩をすくめられてしまった。
「それはあんたの能力が目を覚ました時に使える」
カンマが生意気そうに笑いながら続ける。
レオは正直、何言ってんだコイツと思った。しかし生意気そうではあったが、ふざけているようには見えなかった。
「ま、あんたが自分に気がついた時にでも思い出してくれればいいよ」
カンマはやれやれと言わんばかりに首を振る。
本当にコイツは何を言っているんだろうか。俺が俺に気づく?
確かに俺は記憶があやふやだ。それが全てわかった時に使えるってことか?
駄目だ、頭が痛くなってきた。やっぱり俺、脳筋なのかもしれない。
「大剣も直ったことだし、もう行こうレオ」
ニシキの発言を、カンマは少し寂しそうに聞く。
「…もう、行くんだね」
「うん、流石にいつまでもカンマ君のお世話になる訳にはいかないし」
ニシキに同調するようにレオも頷く。
そしてカンマの方に顔を向けると、別れの言葉を贈った。
「じゃあな、カンマ。剣、ありがとな」
「こっちこそ、ありがとう」
レオの言葉に返したカンマの笑顔は、今まで見せた生意気な笑顔ではなく、
年相応の子供っぽく元気いっぱいの笑顔だった。