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RE:collection of Justice RE:vERse  作者: カザハラ
chapter3 荒廃魔道都市スヴェート 1
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chapter3-2

 カンマの家を後にしたレオ達は、改めてスヴェート魔道国を見て回ることにした。

 スヴェート魔道国は名前にこそ国とはついているが、小さな都市国家であるため首都とその回りの小さな草原地帯が国の全領土であった。


「カンマ君が言ってたことは本当なんだね…」


 ニシキが辺りを見回しながら、うーんと唸る。

 大通りだけでなく、学院の方も覗いてみたが、光魔道士が消えたために人が足りなくなったようで、閉鎖されていた。


「つーか、なんか全体的に人が少ねー気がすんな」


「当たり前だろうが。国の全てと言っても過言ではない光魔法を操るものがいなくなったのだぞ。

 皆、国を見限って別の地へ行ったのだろう」


 ハヤテが答える。

 単純に考えればその通りだろう。


「まー、異変も気になるけどよ…。それよりも記憶の欠片はこの国にあんのか?」


 レオはもちろんこの集団失踪も気にはなっていたが、本来の目的である記憶の欠片の存在の方が気になっていた。


「力は感じんのか?」


「…ああ、かすかにだが、2つ感じる」


 ハヤテがゆっくり目を閉じ、意識を感じる力に集中させる。


「1つは…神殿の方角だな。もう1つは…この街から感じる」


 そう言うとハヤテは、視線をある方角へと移す。

 きっとその先に記憶の欠片の力を感じたんだろうと、レオとニシキも視線を動かす。

 すると、まさにその方向から突然怒号が聞こえてきた。



「なんや、払えん言うんかワレェ!」



 鈍い音が響く。


「そんな!この前払ったばかりじゃないですか!」


「うるさいわ!こっちは払え言うとんのや!払わんかい!」


 再び鈍い音が響く。

 レオはこのやり取りを聞きながら、カンマが言っていたことを思い出した。


『スヴェートきっての横暴地主さ。』


『最近は光魔法で金が取れないからって法外な土地金を住民に請求し回っててさあ。

 払えないとあいつが雇ってる喧嘩師にボコボコにされるらしいし?』


 レオは怒号がした方向へ思わず走り出した。



 *



「もう…勘弁してください…!」


「何が勘弁や。勘弁してほしいんはこっちや!ええ加減腹くくってもらわんとなあ?」


 怒号を発した人物は、フンッと鼻を鳴らすと、いかにも高級そうな杖を高く掲げる。

 それを合図に、周りにいたチンピラ風の男達が、責め立てられ涙目になっている男に殴りかかった。


「ヒイッ!」


 男は思わず目を瞑る。

 しかし、しばらくたっても殴られるどころか何も反応が返ってこない。

 おそるおそる目を開けてみると、目の前には緑のハチマキに紺色の短髪、背中には大剣を背負った青年が立っていた。


「おうおう、こんな往来でカツアゲたァ、いい趣味してんじゃねーの?」


 青年の足元には、先程殴りかかってきた男達が倒れていた。


「なんや兄ちゃん、ワシの邪魔するんか?お?」


 怒号の主は、臆することなくいきなり割り込んできた青年を睨み付ける。


「自分、ワシが誰かわかって喧嘩売っとるんか?グレゴイルっつうたら、ここらじゃ知らんやつおらんで?」


 怒号の主—グレゴイルは、持っていた杖を勢いよく地面に突く。カン!と乾いた音が響く。


「まあええわ。自分、よそ者みたいやし、今回は見逃したるわ。でも次は無い思た方がええで」


 グレゴイルはそう捨て台詞を吐くと、起き上がった喧嘩師達と共に踵を返し、去っていった。

 グレゴイルとすれ違いで、ニシキとハヤテがやってくる。


「…!」


 グレゴイルとすれ違った瞬間、ハヤテは何かを感じ、思わず立ち止まってしまった。

 そんなハヤテに気づかず、ニシキはレオ達のもとに駆けつけてきた。


「突然走り出したと思ったら…。びっくりしたよ、もう!」


「悪ィ、カンマの話思い出したら体が勝手に動いちまって…」


 レオは頭をかきながらニシキに謝る。


「それよりアンタ、大丈夫か?怪我ねぇか?」


 レオは自分が庇った男に声をかける。

 男は突然声をかけられビクッと体を跳ねらせはしたが、すぐにレオ達に敵意がないことを感じ取ると言葉を絞り出すかのように答えた。


「あ…、私は大丈夫です…!その、ありがとうございました…!」


「いいっていいって」


 軽く手を振りながら、ヘラヘラとレオは答える。


「しかし…心配です」


「お?何がだよ?」


「グレゴイルに喧嘩を売ったと言うことは、これからあなた達はグレゴイルに何かされるかもしれません…」


 男が心配そうにレオとニシキを見る。


「グレゴイルは最近妙な力を得たと聞きます。どうかお気を付けください…!」


「妙な力、ねえー」


 レオは何か心当たりがあるような気がして、少し考えてみる。

 ニシキはハヤテなら何かわかるのではないかと尋ねようと振り返る。するとハヤテは先程グレゴイルとすれ違った場所で止まっていた。


「ハヤテ?どうしたの?」


「……りましたぞ」


 ハヤテが小さな声で呟いたため、よく聞こえなかった。

 ニシキは思わず聞き返す。


「え?」


「記憶の欠片、ありましたぞ」


「ええ!?」


 ハヤテの発言に、ニシキは驚きの声をあげた。

 レオも思わずハヤテを凝視する。

 そして次のハヤテの発言は、事態が最悪の方向にあることを知らされるものだった。


「この街の中にある記憶の欠片は、グレゴイルが持っている…!」



 *



 スヴェート首都で一番の豪邸に、チンピラ風の男達を連れた、

 鷲鼻に歪んだ口、茶色のデザインスーツとハンチングを被り、高級そうな杖をついた少し小太り気味な初老の男が帰ってきた。


「さっきの兄ちゃん、えらい生意気やったなあ」


 男は、先程出会った青年—レオを思い出し、ケッと唾を吐く。


「ま、あんな小わっぱ、コレとアレさえあれば一発や」


 そう呟くと、男は懐から桃色に淡く輝く水晶のような欠片を取りだし、うっとりと眺める。

 しばらく眺めた後、男は欠片をしまい、連れているチンピラ風の男達に話しかける。


「そういや、カンマの奴が新しい発明品作ったっちゅー話やないか。

 もしかすると新しいビジネスになるかもしれへん。……奪ってこい」


 男の命令に「へい」と答えると、チンピラ風の男達はカンマの家の方へ向かっていった。



 *



「おいおい、どうすんだよ!グレゴイルのやつが記憶の欠片持ってるってやばくねーか!?」


 ハヤテがグレゴイルから記憶の欠片の力を感じたと聞き、レオは頭をかきむしる。

 グレゴイル自身にはたいした力は無さそうだったが、きっと金に物を言わせ何かを仕掛けてくるに違いない。

 下手に兵器などに力を使われてしまえば、取り返しのつかないことになるかもしれない。


「でも取り返さないと倭ノ国は取り戻せないんだよ?どうにかしなきゃ…」


「どうにかっつってもなあー、どうしたらいいんだっつーの…」


 そんなことをうだうだと考えていると、レオ達はいつの間にかカンマの家がある場所に戻ってきていた。

 しょうがねえ、もう一度カンマになんか聞いてみるか。とレオが考えたその時、先程見かけたチンピラ風の男達がカンマの家から飛び出してきた。

 レオ達がびっくりして思わず立ち止まっていると、続けて中からカンマが叫びながら出てくる。


「待って!返してよ!ボクの大切な発明品を返せよ!」


 カンマは必死に追いかけるが、男達には追い付けず、途中で地べたに座り込んでしまった。


「返せよ…!ボクの…!ボクの…っ!」


「カンマ!何があった!」


 レオとニシキはカンマの元へ駆け寄る。


「…あんたら、見てたの…?」


 カンマがゆっくりとレオに顔を向ける。

 そして勢いよくレオの腕をつかみ、必死に訴えかける。


「どうしよう!ボクの、ボクの大事な発明品がグレゴイルに盗まれたんだ!あれは悪用されたら困るものなんだよ!」


 どうしよう、どうしようとカンマは少し取り乱し気味になりながらレオを揺さぶる。


「取り返さなきゃ…!取り返さなきゃ!」


 カンマはそう声を荒げると、レオから腕を離し立ち上がる。

 レオとニシキが止める間もなく、カンマはグレゴイルの豪邸の方へ走り出していった。


「お、おい、あいつ一人じゃ絶対無理だぜ…?どうするよ」


「放っておけないよ…!追いかけよう!」


 ニシキの言葉にレオは頷くと、カンマを急いで追いかけた。



 *



 レオとニシキはカンマの後を追いかけ、スヴェート首都郊外にある豪邸の前にたどり着いた。

 豪華な作りの門の前には、いかにもガラの悪そうな男達が立っており、こちらを威嚇するかのように睨み付けている。

 カンマの言葉と男達の様子から、ここがグレゴイル邸であることはすぐにわかった。


 辺りにカンマの姿が見当たらないことから、

 カンマはどうやら屋敷の中へ侵入、もしくは連れていかれたかしたようだ。

 どちらにせよ、カンマ一人でチンピラ達に立ち向かえる訳がない。

 それにグレゴイルから助けた男が言っていた「妙な力」と言うのも気になる。

 はやくカンマに合流しようと思い、二人は門前の男達に近づく。


「あの…」


 そうニシキが話しかけた瞬間、男の一人が後ろに隠し持っていた木製の棒きれをニシキに振りかざした。


「あぶねえ!」


 すんでのところでレオが大剣を抜き、男が振り下ろした棒を受け止める。

 そのまま力強く大剣を押し上げ、その反動で男の手から獲物をはね飛ばす。

 そして獲物を弾かれ、体勢を崩した男の鳩尾に、レオは思いっきり蹴りを入れてやった。


「うぐあぁっ!?」


 男は今にも吐き出しそうな声をあげると、そのままズルズルと門の前に沈んでいった。


「一人だけでも仕留めてやらァ!」


 その声にレオが振り向くと、

 男が崩れ落ちるのを眺めていたニシキの背後に別の男が回り込んでいた。

 男はニシキの首に手を回すと、首筋にナイフを突き付けた。


「動くなよ、デカブツ…。こいつが死ぬぜぇ?」


 男が汚い笑みを浮かべながら、ニシキの顔を見る。


「よく見たら結構可愛い顔してんじゃねえか姉ちゃん。胸がねえのが残念だが、たっぷり遊んでやるよ…」


 ゲヘヘ…と下品な笑いを携えながら、男がニシキの顔に頬を刷り寄せる。

 その行動に、ニシキは顔をひきつらせる。体中にゾゾーっと鳥肌が立ったのがわかった。

 そして男の腕をつかみ、思いっきり引き上げる。


「こンの変態野郎がああああああああ!!」


 今まで聞いたことの無いような大声を出しながら、ニシキは力任せに男をぶん投げる。

 いきなりのことで抵抗することが出来なかった男は、そのまま勢いに身を任せ、宙を舞う。

 バァン!という轟音とともに男が地面に叩きつけられる。


「お、おおう…!」


 情けない表情を浮かべながら白目を向いている男を見下しながら、

 手をパンパンと払うニシキを見て、レオは目を輝かせた。


「なんだ今の!?すげえ!どうやったんだ!?」


「今のは背負い投げ。倭ノ国に伝わる武道の技の一つだよ」


「セオイナゲ?すげー!今度教えてくれよ!」


 レオはまるで憧れの勇者に会った少年のように、目をキラキラさせながらニシキを見つめる。

 そんなレオの視線にニシキは少し戸惑う。

 まさかここまで食いつかれるとは思っておらず、むしろドン引きされると思っていたからだ。


「うん、いいけど…それよりも」


 と、ニシキは本来の目的をレオに思い出させる。


「私たちもどうやら目をつけられちゃってたみたいだし、もう中に入ってカンマ君を助けるしかないよね!」


「そうだ、カンマ…!ニシキ、早く行くぞ!」


 レオはそう言うと、門を蹴り飛ばし強引に敷地内に入っていった。


「ハヤテ、私たちも行くよ!」


 ニシキがレオの後に続こうと、ハヤテに声をかける。

 しかし返事がない。ニシキは振り返ってみる。

 そこにハヤテの姿はなかった。


「ハヤテ……?」



 *



 カンマが目を覚ますと、そこは暗い地下室だった。

 びっくりして飛び上がると、そのままバランスを崩しベチャッと前に倒れる。

 自分の体を見ると、縄で拘束され、身動きが取れなくなっていた。

 とりあえず辺りを見回してみる。

 すると、見慣れない鳥が自分の隣で倒れていた。


「……あの二人の、魔獣…?」


 倒れていたのは、ハヤテだった。

 なぜあの二人にくっついていた魔獣が自分と同じ部屋に…?と、カンマは思考を巡らせる。

 そもそも自分はなぜこんなところにいるのだろうか。

 確か、グレゴイルの屋敷に押し入って、男達に取り押さえられて、そして…


「よぉ、やっと起きたんか自分」


 低くドスの聞いた声が思考を途切れさせた。

 顔をあげると、醜い笑みを浮かべたグレゴイルがカンマを見下ろしていた。


「っ!お前!ボクの発明をどこにやった!」


 カンマはグレゴイルに飛びかかろうとした。

 が、体を自由に動かせず、また前のめりに倒れる。


「坊主の発明なら、ここにちゃーんとあるで?」


 グレゴイルは倒れながらも睨み付けてくるカンマに見せつけるかのように、

 カンマのもとから奪い去った白と緑のプレートを懐から取り出した。

 ニタア、といやらしい笑みを浮かべ、取り出したカンマの発明品をプラプラと揺らす。


「それをどうするつもり!?」


「どうする?決まっとるわ。こいつに使わせるんや」


 グレゴイルはカンマの吠えに鼻をフンと鳴らすと、ステッキをカン!と地面に突きつける。

 その乾いた音を合図に、グレゴイルの背後の壁がゆっくりと開く。


「…っ!こいつは…!」


 開いた壁の奥から静に出てきた"それ"に、カンマは絶句する。


「驚いたやろ?それにこれを組み合わせれば、忌々しい光魔法の国からワシの国や!」


 グレゴイルは高らかにそう叫ぶと、懐から今度は桃色に淡く輝く水晶の欠片のような結晶を取り出す。

 カンマはその結晶から何か大きな力を感じた。


「やはり…貴様が記憶の欠片を持っていたのか…!」


 急に聞こえてきた声に、カンマは思わず振り向く。

 そこにはゆっくり起き上がる鷲型魔獣—ハヤテがいた。


「鳥さんも目ェ覚めたんか。でも目覚めたところでなんもできひんやろけどな」


 グレゴイルは勝ち誇った目でカンマとハヤテを見下す。

 カンマは歯をきつく結びながらグレゴイルを睨み付ける。


「…電波小僧、よく聞け」


 ハヤテがグレゴイルに聞こえないように、カンマに話しかける。


「電波小ぞ…って何その呼び方…?」


「それは置いておけ。とにかく今はここから逃げなければならん」


「どうやってすんのさ?」


 ハヤテの発言に、カンマは訝しげに尋ねる。

 ハヤテはグレゴイルの様子をチラッと横目で見ると、カンマの質問に別の質問を返した。


「…小僧、刀は使えるか?」

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