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RE:collection of Justice RE:vERse  作者: カザハラ
chapter5 流浪の砂漠ロカーム
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chapter5-1

 ザク、ザク、ザク。

 砂ばかりの世界に、二人分の足音だけが響く。

 スヴェートを出てから早三日。ハヤテが察知した記憶の欠片の気配を頼りに、レオとニシキはひたすら砂漠を彷徨っていた。

 どれだけ歩いても、周りは砂だらけ。最初は遠くに見えていたスヴェートも、もうすっかり地平線の向こうで見えなくなった。


「おい、おいハヤテ。前も言ったけどよぉ、やっぱり同じとこグルグル回ってるだけじゃねえか?」


 レオがだるそうに自分の頭の上に向かって文句を言うと、やかましい!と上に乗るハヤテが一喝した。


「だから言っておろう!気配は近い!もうすぐ見つかるはずだ!」


「おいおーい、それ昨日も聞いたぜ?」


 レオはわざとらしく肩をすくめる。だがその通り、ハヤテのこのセリフは昨日も聞いていた。

 昨日からずっとそうだっだ。ハヤテは「近くに欠片がある」としか言わなかった。ハヤテが言うには本当に近くにあるらしい。のだが。


「うーん、これは完全に同じところを何度も来てるね」


「姫様まで……!ですが!」


「残念だけど、石があったんだよ」


 ニシキが足元からひょいと拳ほどの石を拾う。砂しかない砂漠に不釣り合いなその石は、ニシキが砂漠に入る前にスヴェートで拾ったもの。道しるべにと歩きながら一つずつ置いていたらしいが、それがあったということは、ここに来たことがあるという意味だ。


「やっぱり同じところじゃねえか!なんだよお前は壊れたコンパスか!」


 レオの言葉に、ハヤテは嘴をギュッと固く結んで唸るしかなかった。その通り過ぎて何も言い返せない。


「だが、気配は確かにこの辺りからするのだ……」


 首を振りながらぼやくハヤテは、そのままレオの頭にうずまる。

 しかしレオもニシキも、ハヤテが嘘をついているようには見えなかった。

 本当に気配が近くにあるのだとしたら、同じ場所を何度も来てしまうのは何故なのか。

 レオは壊れたコンパスだと言ったが、コンパスは常に北を指し示すもの。それがぐるぐる回るのなら、今いる場所こそが北極点ということになる。

 つまり、今の状況も──


「まさか、砂の下にあるなんて言わないよな?」


 レオの言葉に、ニシキは目を丸くする。


「そんな……砂を掘っていかないと駄目ってことなの?」


 頭がクラクラする。

 ロカームは砂しかない地域。逆を返せば、砂が大量にある地域だ。砂漠なのだから当然のことだが、そんな大量の砂を掘って掘って掘って欠片を探さないといけないのは、考えただけでもフワッと意識が一瞬ログアウトする。


「そこまではわかりませぬ。だが、地上にないとなれば、そういうことになりますな」


「地上にない、で思ったんだけどよ、そういや魔物もいねえなここ」


 レオの言う通り、スヴェートを出発してからというもの、この砂漠で魔物を見かけたことがなかった。

 まだレオがヴァルクォーレにいた頃、旅行く商人のキャラバン隊からロカーム砂漠の話は聞いていた。しかし、聞いた話と実際の状況は正反対のものだった。


 スヴェートから南に、花の都フィオーレ近くまでいっぱいに広がるロカーム砂漠。砂以外になにもない広大な砂漠は、昼間は虫型の魔物達の楽園だった。

 とは言え彼らは目が悪く、獲物が近くに来ない限りは気づけない。なので砂漠を渡るときは、先人達の残した地図を頼りに、魔物の生息範囲を避けて渡るとのことだった。

 だが、レオ達は当然そんな地図など持っていない。どこが安全で、どこが危険かもわからないまま進んできたため、よほどの強運でなければ魔物に遭遇しないとおかしいのだ。

 いるはずの魔物達に全く出会わない。スヴェートの時と同じだ。

 スヴェートでは、いるはずの光魔道士もルノマ族もいなくなっていた。片方は集団失踪、もう片方はアンデッド化という結末だったが、今回もその類の現象なのではないか。


「魔物がいないのは助かるからいいんだけど、そんなにいっぱいいるって話なら、全く見かけないのは確かにおかしいね」


 ニシキは顎に手を当てながら首をかしげる。しかしレオは、何となく魔物達の行方にも目星がついていた。


「……きっと魔物も砂の下だ。砂の中に潜ってるって意味じゃない。砂の、下だ」


「レオ、何が言いたいの?」


 ニシキの問いかけにレオは答えず、辺りの地面を確認しながらうろうろする。

 あくまでもただの勘だ。だが、もしそうならすべての辻褄が合うわけで、きっと()()もあるはずだ。

 ザリ、ザリ、ザリ、といつもより多めに地面を踏みしめてみる。砂に足が少し沈むが、それだけ。それ以上は砂の弾力で足が沈まない。


 とある場所以外は。


「うぉあッ!?」


 ズボオと勢いよく踏み込んだ右足が沈む。そのままズズズとレオは砂に飲み込まれていった。


「これ、流砂かッ!」


 あっという間に下半身は流砂に飲み込まれる。レオの頭をハヤテが足で掴み、バサバサと持ち上げようと踏ん張るが、人より体の大きいレオのその体重を鷲一羽で持ち上げようなど無理な話だ。止めることはできなかった。

 更に、レオがハヤテを左手で頭の上に押さえ込んだ。


「小僧!何を──」


「じっとしてろ」


 そのまま肩まで流砂に吸い込まれたレオは、駆け寄ってくるニシキを確認すると、手を伸ばした。ニシキはすかさずレオの手を掴み引っ張りあげようとする。


「レオ!早く上に──」


「ニシキ」


 レオが腕に力を入れる。


「一緒に来い」


 そしてニシキを流砂に引きずり込んだ。



 *



「うわああああああああっ!?」


 一人分の絶叫と共に、暗い空から青年と少女と一羽が降ってくる。

 青年は少女を守るように抱き寄せ、抱え込むと、くるりと体勢を変えて背中から地面に落ちた。

 着地点には同じく空から落ちてきたのであろう砂の山。

 そこに青年達が落ちるとぶわっと砂が舞い上がり、辺りを煙らせる。


「いてて……大丈夫かニシキ」


 大量の砂が緩衝材となり衝撃を和らげてくれたようだ。レオは打撲を背中に受けながらも、それだけで済んだことに安堵しつつ抱きかかえるニシキの無事を確認する。


「な、なんとか……ありがとうレオ」


 レオの体についた砂をはたきながら、ニシキは顔をあげる。

 無事なのを確認すると、レオはそっとニシキを地面におろし立たせた。


「小僧!!貴様いくらなんでも無謀すぎるぞ!!姫様に何かあったらどうする気だ!!」


 と、いつのまにか離れたのか、上からバサバサとハヤテがゆっくり旋回をしながら舞い降りてくる。

 そしてそのままレオの頭の上に着地すると腰を落ち着けた。


「お前本当に好きだよな俺の頭の上」


 はあ、とため息をつきつつ、レオは辺りを改めて確認する。周りは暗く、今自分達がいる砂の山付近だけがかろうじて明るいぐらいだ。

 上を見上げると、空はまず見えなかった。あるのは、暗い天井。その一ヶ所から砂がキラキラと煌めきながら流れ落ちている。あれが自分達の飲み込まれた流砂の先だろう。


「ここ、洞窟?」


 ニシキの言う通り、どこからどう見ても洞窟だ。

 まさか砂漠の下に洞窟があるとは。しかし、ハヤテの気配といい、魔物達の行方といい、砂漠の下に何かがあるのは間違いなかった。レオの勘は見事に当たった訳だ。


「よし、ハヤテ!この状態でもう一度気配をたどってくれ!」


 レオは再び頭の上に座るハヤテに声をかける。

「指図するでない!」と喚きながらも、ハヤテはもう一度気配をたどってみた。


「……!近い、近いぞ!いや、これは近い……というよりだな」


 ゴニョゴニョ口ごもるハヤテに、レオは舌打ちする。


「なんだよ、ハッキリ言えよ」


「う、む……では言うが、()()()()()()()()()()()()


「は?」


「ッ!レオ!危ない!」


 ニシキが叫ぶと同時にレオの背後に踏み出すと素早く刀に化けたハヤテを振る。

 カキンと金属音がし、はらりと矢が落ちた。どうやら、ボウガンの矢のようだ。


「なっ、なんだこれ……」


「レオ、構えて。残念だけど、欠片は無事じゃなかったみたい」


 ニシキがそう言い終わると、ゆらりと辺りの暗影から無数の人影が表れる。全員揃いの茶色いローブを身につけ、顔はフードを深く被っているせいでよく見えない。その中に、ボウガンを構える者もいた。先ほどの攻撃は彼らだろう。

 レオは背中からゆっくり大剣を抜き、ニシキと背中合わせになるように構える。

 長い沈黙が訪れる。両者がじりじりと出方を伺っていると、向こうが再びボウガンを撃ってきた。

 それを合図に、ニシキが横に跳びボウガンを避けると人影達へ切り込んでいく。

 レオも同じく、そのまま大剣を構え人影に突っ込む。


 が、


「おやめなさい!!ストップ!!ストップだってば!!」


 女性のキンキンとした鋭い声に、両者ともピタリと動きを止めた。

 そして声のした方を見る。そこには茶色の長い髪を、端で緩く結んだ太眉の褐色肌の女性。そして同じような顔つきのやはり長い茶髪を一つに結び羽飾りをつけた青年。


「もう!突然攻撃するだなんてマナーがなってないわよ!よく見なさい、その人達は人間じゃないの!」


 人影達に怒鳴る女性。どうやら、魔物と勘違いされていたようだ。人影達は申し訳なさそうにレオとニシキに頭を下げると、おずおずと下がる。

 それと入れ替わりに、女性と青年が近づいてきた。


「旅の方、同胞が申し訳なかったわ。でも、一つだけ確認をさせて。何しにここへ来たの?」


 女性は声こそは優しい語り口だったが、目は鋭くレオ達を睨むように見つめていた。


「我らは砂の民。はっきり聞くわ。あなた達は、私たちの敵かしら」


 女性の目が、更に鋭く光った。

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