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対立

 抜き打ちテストと言っても、教師陣にとっては既定路線であった。

 秋姫もその事には気付いていて、対策らしきものはしていたのである。

 そのお陰で結果はもちろん良好。


「はー終わったー」

「お疲れ様、桜子」

 どうやら真冬と桜子はお互いを労っている様である。

 席が少々離れているので、自然に話に加わるには近付く必要がある。

 一緒に勉強会をした仲でもあるので、自分がその輪に加わるのは不自然ではない。

 ただ、中学になって初めて一緒のクラスになった二人だ、まだお互いの事を良く知らない。

 二人の方は一年間一緒のクラスだったらしいので、こちらとはその分の差がある。

 しかも随分仲良しの様子、自分には付け入る隙など無いように思えた。


 いやいや別に二人の仲を裂こうという訳ではないのだ。

 ただ、私達仲良しですのよという風にわざわざ近付くのはどうにも具合が悪い。

 学級委員としてクラスを平等に扱わなければと思っている秋姫にとっては尚更だ。


 下校時間にでも一声掛ければ良いかと思ったその時。

「あーら、学級委員の落合さんじゃありませんこと、ご機嫌いかが?」

 と真冬が横に仁王立ちしていた。

 その後ろでは桜子がはにかみながら手を振っている。


 今気付きましたわみたいな言い回しをしているが、ついさっきまで桜子と歓談していた真冬が自ら出向いて来たのは明白。

 変わった子だとは思っていたが、今後の付き合いが不安になってくる。

「ご機嫌はまあ、普通かな、再来週にはもう中間テストがあるから気を引き締めないとね」

 秋姫は思ったままを口にすると、真冬はやや不満のようであった。


「まあ当然ね、そんな事より今回のテストの出来はどうだったのかと聞いているのよ。

 私と一緒に勉強した仲なんですもの、無様な結果ではないでしょうね?」

 煽りを含ませた物言いに少しムっとしながらも、「結果は返ってこないと分からないけど、いつも通りちゃんと出来たと思うよ」と答えた。

 その回答に真冬は嫌な微笑を浮かべた。


「いつも通り?そんなんじゃあ困りますわねえ?

 人にモノを教えるのって自分の勉強にもなるのね、その再確認が出来たわ。

 私は今までより格段に良い出来だったと断言できますわ!

 それをあなた、『いつも通り』だなんて、ねえ?

 私達とのお勉強は無駄な時間だったのかしら。

 ねえ、桜子?」


 まくし立てられた真冬の言葉を秋姫は直ぐには理解が出来なかった。

 しかしながら徐々に「バカにされているのだ」という認識がふつふつと沸いて来る。

 そこまで言われて黙っていられる程秋姫もお人よしではない。

 桜子が何か言おうとタイミングを計っていたようだが、秋姫は語気を強めて遮った。


「私は普段から勉強だけは頑張ってるし、これ以上は点数上げるのも難しいのよ!

 なのにそんな……そんな言い方って無いじゃない!」

 桜子はビクッとして狼狽えるが、真冬は意に介さなかった。

「それで、言いたい事はそれだけ?」


「……それだけって……そっちから来たのに、せっかく仲良くなれるかもと思ったのに……

 あんなに、あんなに楽しかったのにい……」

 秋姫は泣いていた。

 涙を拭い、俯き、もう何も用は無いでしょうと言った感じでホームルームを待った。

 しかし真冬は立ち去る事は無かった。


「……良いじゃない」

 何が?と思う。

 正直言って傷付いた、もう話す事は無いだろう、仲良くするのも止めだ、せいぜいただのクラスメイトとして一定の距離を保とう。

 そう思うだけの事を言われたのだと秋姫は思った。


「私も楽しかったの。

 ……あなたも楽しかった、そうでしょう?」

 一体何を言っているのだろう、楽しかっただと?

 確かに勉強会の時は楽しそうにしていた。

 でも今の態度は何だ。


「だから、勝負よ! 落合 秋姫!

 次の中間テストでどちらが高得点を出せるかね!」


 意味が分からない。

 そのままオーッホッホッホと高笑いをしながら自分の席に戻っていく真冬を眺めながら、秋姫は初めて理解が及ばない人物を見た気がした。

 まさか自分だけなのであろうかと周りを見回したが、皆似たり寄ったりの唖然とした反応を示していた。


 そんな秋姫に桜子がこそっと耳打ちする。

「ごめんね秋姫ちゃん、あの子、あんな感じの子だからー。

 でも勉強会とっても楽しかったよ、それだけで私は十分だと思うんだけどねえ。

 ちょっとだけ付き合ってあげてー」


 と桜子は下手なウインクをして席へと戻って行った。

 こうして、真冬と秋姫による中間テストバトルが決定されたのであった!

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