使用人 田伏
田伏は白鳥家の使用人である。
白鳥家では両親共働きであり、家を空ける事が多い。
そういった経緯から、真冬の世話をする者が必要であった。
両親共に社会的に重要なポジションであるから、仕事を辞めるわけにもいかなかった。
田伏は元々は父の会社の社員であったのだが、まあそれはさておく。
今日は真冬が突然、友達を連れてくるというのだ。
それも二人。
正直、真冬は友達をあまり作らない子供だと思っていた。
母譲りの美しい容姿に勉強も運動も出来る、文武両道を地で行く子であったが、何故か他人を突き放すような所があったのだ。
その理由はとうとう田伏に推し量る事はできなかったが、真冬が初めて友達を家に招待したのは去年の今頃だったろうか。
「田伏さん! クラスメイトの桜子よ!」
「どうもこんにちわ、使用人の田伏です」
「あ、どっどうも、こんにちわ、わっわたし、春野 桜子と申します! 以後お見知りおきを!」
田伏はその反応に新鮮さを覚え、声を上げて笑った。
春野 桜子という少女は酷く顔を赤らめうつむいていた。
恥ずかしかったのだ。
「いやはやこれは失礼いたしました。 真冬お嬢様がお友達を連れてくるなんて初めての事でして、どんな変わった子だろうと思っていたのですよ。」
しかしこれはなかなかどうして、随分と可愛らしい女の子が来たものだ。
と、声には出さなかったが。
「まだ友達じゃないわ! クラスメイトの桜子よ!
……まあでも、確かに変わった子ではあるわね。」
「えー」
そんな軽口を言う程度は仲良しという事なのだろうか、しかしながら桜子は不服そうであった。
「ねえ、桜子に書斎を見せたいのだけれど、良いかしら?」
「構いませんよ、でも散らかさない様にお気をつけくださいね」
「ええ、ありがとう、こっちよ桜子!」
先んじて真冬は奥へ向かった。
「あ、お邪魔します。」
緊張した面持ちで靴を脱ぐ桜子に、「真冬お嬢様も照れておいでなのですよ、仲良くしてあげて下さいね」と真冬に聞こえないように囁いた。
桜子を驚かせてしまったようだが、その頬は緩んでいた。
元気に返事をして真冬を追う。
この子なら真冬と仲良くしてくれるだろう、と田伏は安心した。
「田伏さん! クラスメイトの秋姫よ!」
田伏は既視感があったが「どうもこんにちわ、使用人の田伏です」とほほ笑んで見せた。
「はわ、はわわわ……」
どうやら秋姫と呼ばれた少女は大層驚いた様子で、どうも言葉が出て来ないようだ。
実際、どこかの公共施設のような建物が実は自宅なのだから、驚くのも無理はないのである。
「委員長、頑張ってー」
桜子がエールを送る。
「今度のお友達は委員長さんですか」
「まだ友達じゃないわ! クラスメイトの秋姫よ!
……まあでも、委員長であるのは本当よ、悔しいけどね!」
「な、何ですって!? 友達じゃないってどういう事!?」
「ふん、まだ私は認めた訳じゃないんですからね!」
「何よ、ちょっとお金持ちだからって!」
「ちょっとじゃないのよ、うちはすごーくお金持ちなの」
「ムキーー!」
人間って本当に「ムキーー」と言うのだなという新たな発見と共に、本当に「あわわわ」と言っている桜子を見付け、これはまた面白い子が来たなあと思った。
「春野さん、先に参りましょうか」
「え、でっでもー」
あたふたしている桜子を横目に、真冬の表情を確認する。
「これは大丈夫なやつですから」
「でもこれから勉強会なんです、無駄な体力使っちゃうとー」
桜子も随分と真冬を理解するようになったものである。
この子達なら真冬と仲良くしてくれるだろう、と田伏は安心した。