春野 桜子と桜と酒
久しぶり更新、やっていきます
真冬は桜が好きである。
特に桜だからという訳でもなく、桜子の名前に入っているからという訳でもない。
令嬢というモノは花を愛でるものだと何の疑いもなく信じていたし、綺麗なもの、可愛いものは好きだ。
故に、桜は好き、という事になる。
すぐに散ってしまうのも儚げで良い。
「桜満開だねー」
下校中、桜子が桜並木を通りながら言う。
「うん、綺麗ね、ピンク色の花、好きよ」
真冬が何気に返すと、自分の事を言われたようで、桜子は何だかむずかゆくなった。
「お父さんがお花見だーって喜んでるよー、ただお酒飲みたいだけみたい」
「お酒か、私の家ではあまり飲んでないみたい」
「そうなんだー、羨ましいー、ウチは本当酷いんだよー」
「あら、それを言うなら私の家も酷い事くらいあるわ」
桜の話から、親の愚痴大会になり、そのまましばしの別れとなる。
二人とも悪口を言ったすぐ後に家に帰るものだから、何だか気まずい思いだった。
「ただいまー」
「あーおかえり桜子、ちょっといい?」
桜子が帰宅するなり、母が緊迫した様子で訴えかけてくる。
「聞いてよ、お父さんったらお酒隠してたの!」
と、言う事らしい。
どうやらお花見でハメを外し箍が外れたのか、ちょっと高いお酒を隠し持って、少しずつ飲んでいたようだ。
禁酒よ禁酒! 桜子も協力してね! と母は必至だ。
桜子は仕方なくこれを了承した。
父に頼まれて桜子の部屋に隠してある酒瓶も、しばしの間寝かせる事になりそうだ。
「ただいま」
返事はないので、靴を脱いでキッチンへ向かう。
「あ、お帰りなさいお嬢様」
手を拭いていると、聞きなれた声が届く。
「ただいま田伏さん、お父様は仕事?」
田伏は真冬の世話係兼、家事全般をやってくれているお手伝いさんだ。
真冬が小さい頃から家にいて、年頃な真冬の良き相談相手でもある。
年齢不詳だが、三十代後半だと思う。
その田伏によれば、父は今仕事に集中していて、週末には家族で花見に行きたいという事らしい。
お父様もお酒が飲みたいのかしらと言うと、田伏には変な顔をされ、その後笑われた。
作中では春です、次回、花見に行くらしいです。